ガルヴォルスForce 第25話「力の行く先」

 

 

 憎しみが込められた渚の閃光を、持てる力の全てで弾き飛ばした亮平。同時に渚の心に優しさが戻っていった。

「やった・・オレは、渚ちゃんの憎しみを・・受け止め・・・」

 安堵を浮かべた瞬間、力を使い果たした亮平が前のめりに倒れていく。彼の姿が人間へと戻っていく。

「亮平さん・・・亮平さん!」

 渚が慌てて駆け出し、亮平の体を受け止める。魔女としての自我の赴くままに動いていた彼女だが、亮平や汐たちに見せていた優しさを取り戻していた。

「亮平さん、しっかりして!亮平さん!」

「渚、ちゃん・・・元に、戻ったの・・・?」

 呼びかける渚に当惑を覚える亮平。弱々しく声をかけると、渚が涙ながらに微笑みかける。

「本当だ・・・みんなの言ってた魔女じゃない・・僕たちの知ってる渚ちゃんだ・・・」

「亮平さん・・・大丈夫なんですか・・・?」

「うん・・僕は大丈夫・・ただちょっとムチャしたかな・・・」

 心配の声をかける渚に、亮平が微笑みかける。

「よかった・・・私、亮平さんや汐さん、時雨さんにたくさん迷惑をかけてしまって・・・」

「気にしなくていいよ・・渚ちゃんがかける迷惑も、僕たちはしっかりと受け止めていくから・・」

 謝る渚に弁解して抱きしめる亮平。その抱擁に渚が戸惑いを覚える。

「ありがとうございます、亮平さん・・・私を、助けてくれて・・・」

「僕がそうしたかっただけだよ・・ホントに気にしなくていいよ・・・」

 改めて感謝の言葉をかける渚に、亮平が優しく答える。だがすぐに渚の表情が曇る。

「ですが、私の中の魔女は、まだ消えたわけではありません・・それも、いつまた覚醒してしまうか・・・」

「渚ちゃん・・・」

 不安を口にする渚に、亮平が困惑する。

「亮平さん、お願いです・・・私を殺してください・・・」

「えっ・・・!?

 渚が口にした言葉に、亮平が驚愕を覚える。

「もしまた魔女の人格が目覚めてしまったら、また抑え込めるかどうか分かりません・・その前に私ごと・・・」

「ダメだよ!帰るんだよ、渚ちゃん!姉さんも時雨さんも待ってるんだから!」

 呼びかける渚に、亮平がたまらず声を張り上げる。その声に渚が戸惑いを覚える。

「たとえまた魔女が目覚めても、今度は僕が渚ちゃんから追い出してやる・・だから渚ちゃん・・死ぬなんて考えないで・・・」

「亮平さん・・・亮平さんにそこまで心配されている私は、本当に幸せなのかもしれません・・・」

 必死に呼びかける亮平に、渚が物悲しい笑みを浮かべる。

「ですがダメなんです・・私はもう、亮平さんたちの居場所に戻ることはできないのです・・たとえ私が、どんなに願ったとしても・・・」

「そんな・・・そんなことは・・・」

 悲しい運命を受け入れている渚に困惑し、亮平は言葉を詰まらせる。だが渚への想いを抑えることもできなかった。

「僕もダメなんだ・・渚ちゃんなしに、僕はこれからを楽しく生きていけない・・・」

「亮平さん・・・」

「そんな退屈な時間を過ごすくらいなら・・僕も一緒に死を受け入れる・・・」

「いけません、亮平さん・・私は、亮平さんに生きていてほしいのです・・亮平さんまで、私の苦しみを抱え込む必要はないのです・・」

「言ったはずだ・・僕は渚ちゃんの悲しみも辛さも全部受け止めるって・・渚ちゃんが受け入れようとしている死だって・・・」

 自分の気持ちを貫こうとする亮平に、今度は渚が言葉をかけられなくなる。

「僕はどこまでもついていくよ・・渚ちゃん・・・」

「それでいいのですか?・・・後悔してしまうのでは・・・」

「後悔は絶対にしない・・僕が心から願って決めたことだから・・・」

 決意を揺るがすことのない亮平に、渚は喜びを膨らませていた。

「私自身の体を固化しようとしていました・・そうすることで私の力はシャットアウトされて、汐さんたちを元に戻せるからです・・」

「そうか・・僕も一緒に連れてって・・渚ちゃんが望んでいる、眠りの中に・・・」

 言葉を交わして、渚と亮平が抱擁を交わす。彼女の体から淡い光があふれ出してきた。

「本当にありがとうございます、亮平さん・・私のために・・・」

 感謝の言葉を口にした渚が、あふれている光を放出した。光は彼女自身と亮平を包み込み、生を遮断した。

 

 力を失っていく亮平と渚。亮平は自分の気持ちを思い返していた。

(こんなこと、誰が望んでいたのだろう・・・こんなきれいで優しい人と仲良くなれるなんて・・まるで恋愛ゲームの主人公になったような気分だった・・・)

 これまでの渚との思い出が、まるで夢のようなものだと思う亮平。

(でも現実はそんなに甘いものじゃなかった・・僕たちに敵と呼べる連中が次々に襲いかかってきた・・そして渚ちゃんも・・・どうしたら分からなくなってた・・こんなのが夢であってほしかったらって、何度も思った・・・)

 悲劇を嘆く亮平の目から涙があふれてくる。

(でももう、これは悲劇なんかじゃない・・・これ以上ない幸せだったんだ・・・)

 安らぎを感じた亮平が微笑みかける。

(この運命だったら僕は受け入れる・・・渚ちゃんと一緒なら、どこへだって・・・)

「私も、亮平さんと一緒なら、どこへでも行けます・・・」

 そのとき、亮平に向けて渚の声が発せられた。彼女が微笑みかけて、亮平を見つめていた。

「ありがとう、渚ちゃん・・・僕は、嬉しいよ・・・」

 亮平は渚を改めて抱きしめていた。込み上げてくる安らぎの中、2人は瞳を閉じた。

 

 渚の手にかかり、石化されてしまった汐。だがその石化が解除され、彼女は解放された。

「汐ちゃん・・・!」

 そばにいた時雨が、力なく倒れかかる汐を受け止める。

「・・・し・・時雨・・・」

「汐ちゃん・・・元に・・戻ったんだね・・・」

 弱々しく声をかける汐に、時雨が喜びを覚える。彼はたまらず彼女を抱きしめる。

「えっ!?・・ちょっと時雨・・・!?

「よかった・・・汐ちゃんが戻ってきてくれて・・本当によかった・・・」

 動揺を覚えて頬を赤らめる汐に、時雨が喜びをあらわにする。だが時雨はすぐに当惑を浮かべてきた。

「でも汐ちゃんが元に戻ったってことは・・渚さんは・・・」

「えっ?な、何を言ってるの、時雨?・・・まさか、渚ちゃんに何かあったって・・・!?

 時雨が口にした言葉に、汐が不安を浮かべる。

「確信があるわけじゃない・・でもそうでないとつじつまが合わない・・・」

「・・行かなくちゃ・・・渚ちゃんが、あたしたちを待ってる・・・!」

 渚の安否を気にかけた汐が飛び出そうとする。

「ちょっと待って、汐ちゃん!何か着るものを!」

「えっ!?

 時雨に呼び止められて、汐がようやく自分が裸であることに気付き、動揺をあらわにした。

 

 服を着て改めて外に飛び出す汐。彼女を追って時雨も追いかける。

「渚さんがどこにいるのか分かってるの・・!?

「分かんない・・でも渚ちゃんが呼んでる気がするから・・・!」

 時雨が呼びかけるが、汐は足を止めようとしない。時雨も渚と亮平の気配を感じ取ることができなくなっていた。

 やがて2人は草原にたどり着いた。走りすぎたために汐は息が荒くなっていた。

 彼女を追ってきた時雨が、その場の光景に眼を疑った。

 そこには亮平と渚がいた。だが2人は互いを抱きしめあったまま、一糸まとわぬ石像となって立ち尽くしていた。

「亮平・・・渚ちゃん・・・!?

 汐が変わり果てた2人の姿に眼を疑う。

「どうしたの、2人とも・・そんなところで、そんなかっこうで突っ立ってたら風邪ひくよ・・」

「汐ちゃん・・・」

 物悲しい笑みを浮かべて亮平と渚に歩み寄る汐に、時雨が戸惑いを浮かべる。

「あたしたちと一緒に帰って、またみんなで楽しい時間を過ごそうよ・・そろそろ冬になるから、スキーなんかもいいかも・・」

「汐ちゃん・・・」

「春になったらお花見もいいかも・・ピクニックも捨てがたいね・・」

「汐ちゃん・・・!」

「帰ってきてよ、亮平、渚ちゃん・・・これからも楽しいことをしようよ・・・ねぇ!」

「汐ちゃん!」

 ひたすら亮平と渚に呼びかける汐を、時雨が呼び止める。困惑する彼女の目から涙があふれてくる。

「亮平くんと渚さんは、自分たちに石化をかけた。こうすることで自分がみんなにかけた石化の効果をなくそうとしたんだ・・結果、汐ちゃんやみんなは元に戻った・・・」

「だからって、そんなことじゃ全然嬉しくないよ・・亮平と渚ちゃんが、こんな姿になったままだなんて・・・!」

 深刻さを込めて語りかける時雨だが、汐は納得できず、ひたすら涙をこぼす。悲しみに暮れて体を震わせる彼女を、時雨は後ろから強く抱きしめる。

「2人が考えて出した答えなんだ・・僕たちが受け入れてあげないと、2人が可愛そうだ・・・」

「時雨・・・そう思おうとしても、納得できないよ・・・2人ともこんな・・・!」

 亮平と渚の気持ちを汲み取る時雨だが、汐にはどうしても受け入れることができなかった。

「もう2人とも、いつも見せていた笑顔を見せてくれない・・・あたしたち、これからどうしていけばいいの・・・!?

「信じて待てばいいと思う・・2人が帰ってきて、僕たちに笑顔を見せてくれるのを・・」

 悲観する汐に、時雨が優しく言いかける。その言葉に汐が戸惑いを覚える。

「亮平くんと渚さんは、元に戻って僕たちに笑顔を見せてくれる・・そう信じて待っていよう・・・」

「時雨・・・うん・・亮平と渚ちゃんは必ず帰ってくる・・元の姿で・・またあたしたちに笑ってくれる・・・」

 時雨の呼びかけに汐は涙ながらに頷いた。今の自分たちにできるのは、2人の気持ちを汲み取ってあげること、元に戻って無事に帰ってくること。時雨も汐もそう信じることにした。

「2人を連れて帰ろう・・このままここに置いておけないし・・・」

「うん・・・どんな姿になっていても、そばにいることに変わりはない・・・2人が元に戻ったら、すぐにでも会えるように・・・」

 時雨の言葉に汐が小さく頷く。2人は石になっている亮平と渚を抱えて、この場を後にした。

 

 魔女を基点とした壮絶な騒動も終わりを迎えた。だがそのために亮平と渚はその罪を自分の体に背負わせた。

 石化した2人は何も語ることはなく、抱き合ったまま立ち尽くしていた。

「亮平・・・渚ちゃん・・・」

 亮平の部屋にて、物言わぬ石像となっている亮平と渚を見つめて、汐が再び涙を浮かべる。

「あたし、いつまでも待ってるからね・・元に戻ったら、美味しい料理を、腕によりをかけて作るから・・・」

 笑顔を見せた汐が振り返り、部屋を出た。部屋には亮平と渚だけが取り残された。

 汐が部屋から出ると、廊下には時雨が待っていた。

「時雨・・・」

「僕も時々様子を見に来るから・・・僕も2人のことが気になってしまっているんだね・・・」

 戸惑いを見せる汐に、時雨が動揺を隠しながら言いかける。

「気になっているのは・・2人を気にする汐ちゃんのほうかもしれない・・・」

「ありがとう、時雨・・・亮平と渚ちゃんなら大丈夫だよ・・だから、時雨は時雨の気持ちを正直に伝えてきてほしいよ・・・」

「汐ちゃん・・・そういってもらえると、僕も不安が和らぐよ・・・」

 感謝の言葉をかける汐に、時雨も微笑みかける。

「これだけは覚えていて、汐ちゃん・・君のことは、僕が守っていくから・・・」

「時雨・・・私も守られてばかりじゃないよ・・あたしも時雨のために何でもやっちゃうんだから・・・」

 時雨の想いを受け止めて、汐も喜びを浮かべる。

「今夜だけ、時雨の家に泊めてもいいかな・・・?」

「構わないよ・・・汐ちゃんの心の支えになるなら、僕は遠慮なんてしない・・・」

 汐の申し出を快く受け入れる時雨。時雨が汐を優しく抱きしめる。

「汐ちゃん・・・」

「時雨・・・」

 互いの想いを真摯に受け止めていく時雨と汐。亮平と渚が無事に帰ってくることを信じながら、2人は日常に戻っていった。

 

 魔女としての力を完全に消滅させるため、自らを石化させた渚。亮平も渚の運命をともに受け入れる決意をした。

「これで・・本当にこれでよかったのですか・・亮平さん・・・?」

「これは僕が決意したことなんだ・・渚ちゃんの決意に、応えないわけにいかないよ・・・」

 心配の声をかける渚に、亮平が気さくに答える。

「きっと姉さんと時雨さんは心配している・・でなかったら怒ってるか、だな・・・」

「怒ってるってことはないと思います・・汐さんも時雨さんも、私たちのことを心から信じていましたから・・・」

「そうだね・・姉さんの信じる気持ちには、僕も頭が上がらないよ・・・」

 会話を交わすうちに、おもむろに笑みをこぼす亮平と渚。

「いつか、僕たちは元に戻れるんだろうか・・・?」

「分かりません・・・時が来れば元に戻れる可能性は否定できません・・それと、元に戻ったときに、魔女まで目を覚ましてしまうかもしれません・・・」

「もう大丈夫だって・・もう渚ちゃんは、魔女なんかに負けたりするもんか・・それに僕もそばにいる・・絶対に魔女には負けたりしないって・・」

「亮平さん・・・私・・・」

「渚ちゃんは全然強いよ・・力も、それ以上に心も・・・」

 戸惑いを浮かべる渚に、亮平が優しく語りかけていく。

「このまま、私を抱きしめてくれますか・・・?」

「もちろんだよ・・今の僕にできるのは、渚ちゃんを抱きしめること・・渚ちゃんを体を張って守ることだけだから・・・」

 亮平は渚の体を優しく抱きしめる。不自由による彼の不安が、彼女のぬくもりで和らいでいっていた。

 それは渚も同じだった。亮平に抱きしめられることによって、寂しさを和らげていた。

「あたたかい・・・渚ちゃんが、こんなにあたたかく感じられるなんて・・・」

「亮平さんのそばにいることが、こんなに嬉しく思えるなんて・・・」

 次第に互いへの想いを募らせていく亮平と渚。その想いに後押しされるかのように、2人は顔を近づけて口付けを交わした。

 

 これが僕の儚くも輝かしい恋だった。

 本当は何の変哲もない普通の恋のほうが、平穏無事に過ごせたかもしれない。

 でもそれだと多分、僕は以前と何も変わらなかったと思う。

 渚ちゃんだったからこそ、僕は真剣になれたと思う。

 魔女だったとか、恐ろしい力を持っていたとか、そういうのは関係ない。

 僕やみんなに優しさと笑顔を見せてくれたのは、紛れもない事実なのだから。

 渚ちゃんが僕を生まれ変わらせてくれた。

 渚ちゃんが、やる気のなかった僕の背中を押してくれた。

 もしもこの運命を受け入れていなかったら、力強く生きていけたかもしれない。

 でもやっぱり、渚ちゃんがそばにいなければ、僕は強くいられない。

 

 僕は渚ちゃんと同じ時間を過ごしていく。

 生きるのも死ぬのも、渚ちゃんと一緒。

 それが僕にとっての、かけがえのないものだと思うから・・・

 

 

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