ガルヴォルスForce 第23話「力と牙」
時雨の強烈な攻撃で爆発が巻き起こり、周囲は煙に包まれていた。その中心に時雨は佇んでいた。
「ゴメン、汐ちゃん・・・こうするしか、亮平くんを止めることしかできなかった・・・」
亮平を手にかけたことを、汐に向けて詫びる時雨。やがて煙が消えて、視界が開けてくる。
その眼下の光景に時雨は驚愕する。亮平の姿も血肉の跡も見当たらないのだ。
「いない!?・・・相手は亮平くんだ・・跡形もないなんて、ありえない・・・!」
時雨が周囲を見回して、亮平の行方を追う。だが亮平の姿は見当たらず、気配も感じられなかった。
「攻撃を受ける直前にスピードを上げて、何とか逃げ切ったのか・・・!」
毒づく時雨が無造作に歩き出す。だが力を消費しすぎた彼は、その場でひざを付く。
「こんなときに、動くことができないなんて・・・!」
体が言うことを聞かず、歯がゆさを募らせる時雨。力を維持することができず、彼の姿が人間に戻る。
「汐ちゃん・・・汐ちゃん・・・」
汐を想いながら、時雨は体力の回復を余儀なくされた。
驚異的な力を発揮した時雨から、何とか逃げ切った亮平。だが彼も体力を著しく消耗しており、立っているのがやっとの状態だった。
「時雨さん・・・まさかあんな力を出してくるなんて・・・」
時雨の力に毒づく亮平。彼は体を駆け巡る痛みに、必死に耐えていた。
「今は休むしかない・・こんなんじゃ、何をするにしてもどうにもなんない・・・!」
亮平はそばに壁にもたれかかり、体力の回復を待つ。その間、彼は渚への想いを膨らませていた。
「渚ちゃん・・・もう少しだけ待ってて・・回復したらすぐに行くから・・・」
焦る気持ちを抑えながら、亮平は体力の回復に専念していった。
いつしか眠りについていた亮平。彼は夢の中で、渚との思い出を思い返していた。
家での夕食の風景。リビングのテーブルには、普段の渚と汐の姿があった。
「汐ちゃん、料理すごくうまくなったよー♪ホントにおいしい♪」
「そんなことないですよ・・これも汐さんや亮平さんのおかげですよ・・」
喜びを見せる汐に、渚が照れ笑いを見せて弁解する。
「姉さんも渚ちゃんを見習わないと、時雨さんを困らせることになるよ。」
「ちょっとー。それってどういう意味よ、亮平・・・」
からかってくる亮平に、汐が不満を口にする。そのやり取りを見て、渚が笑みをこぼす。
「ダメですよ、亮平さん。あまり汐さんをいじめては・・」
「そうだよ、亮平。少しは姉をいたわりなさいよね。」
渚が亮平に注意を促すと、汐がそれに乗っかって反論する。しかし亮平は汐に呆れていた。
「あんまり姉さんを甘やかさないほうがいいよ。でないとホントに将来が危なくなるんだから・・・」
「・・・こ、今度、私と一緒に料理しましょう、汐さん。そして亮平さんを見返してやりましょう。」
「それってフォローになってない・・・」
亮平の呼びかけと渚の弁解に、汐はひどく落ち込んでしまう。その反応に亮平と渚が笑みをこぼす。
どこにでもあるような屈託のないひと時。それこそがかけがえのない大切なものだった。
亮平はいつしか、その時間が大切なものであると思うようになっていた。
(こういう気分も、歩くないのかもしれない・・・)
渚や汐たちのいるこの時間がいつまで続いてほしい。それが亮平の願いとなっていた。
渚たちとの時間を思い返していた亮平。眼を覚ましたときには、彼の体は回復していた。
(渚ちゃん・・姉さん・・・この時間を、もう1度過ごしたいよね・・・)
心の中の願いを募らせる亮平。彼は改めて渚の捜索を開始したのだった。
(待っていて、渚ちゃん・・僕が、すぐに行くから・・・!)
その頃、渚は亮平を求めて歩いていた。押し寄せる頭痛の根源である亮平を、渚は葬り去ろうとしていた。
「アイツは・・・アイツはどこにいる・・・!?」
頭の激痛と亮平への憎悪を抑えきれず、渚が顔を歪める。
「ただでは殺さない・・・私の憎悪を叩き込んでから殺してやる・・・!」
その憎悪がついにあふれ出し、周囲に閃光を解き放つ。壁も建物の光を受けて破壊されていく。
「待っていろ・・必ず見つけ出して、この手で・・・ぐっ!」
亮平の敵意を向ける度に、頭痛が押し寄せてくる。この激痛を跳ね除けることができず、渚が打ちひしがれていた。
「殺してやる・・・私に苦しみを与えるお前を、絶対殺してやる!」
激痛を払いのけようと絶叫を上げる渚。彼女は既に冷静さを失っていた。
渚を求めて街外れの広場に足を踏み入れた亮平。そこで彼はふと足を止めた。
亮平は眼前をじっと見つめていた。そこにいたのは渚ではなく、時雨だった。
「時雨さん・・・」
呟きかける亮平に、時雨は鋭い視線を向けていた。しかし亮平は動じてはいなかった。
「どいてくれ、時雨さん・・僕は渚ちゃんのところに行くんだ・・・」
「君が魔女の味方をするつもりなら、僕は君を行かせるわけにいかない・・力ずくでも止める・・・」
呼びかける亮平だが、時雨は退こうとしない。説得ができないと痛感し、亮平はため息をつく。
「渚ちゃんと会う前に、あなたと決着を着けないといけないみたいだ・・・」
「僕と君がこういう考えに至った時点で、遅かれ早かれこうなるとは思っていた・・・」
前進して互いの距離を詰める亮平と時雨。間近になったところで、2人は足を止める。
「君はどうしてそこまで魔女を信じる!?・・君としても、姉さんを手にかけられ、君自身も信頼を裏切られた・・・それなのに、君はまだ魔女を信じるつもりなのか・・・!?」
「信じるよ・・だってまだ、渚ちゃんを魔女から解放する希望が残ってるから・・・」
懸念を向ける時雨に対し、亮平は真剣な面持ちで答える。
「渚ちゃんを助けるためなら、僕は時雨さん、あなたと戦うこともためらわない・・・」
「もう誰にも負ける気がしない・・たとえ魔女にも、お前にも・・・!」
互いに鋭く言い放つ亮平と時雨。2人の頬に紋様が走り、その姿を異形へと変貌させる。
2人は互いを見据えたまま動こうとしない。出方を伺うあまり、迂闊に動けなかったのだ。
しばしの沈黙の後、2人は同時に攻撃を繰り出した。拳がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
「そこをどけ・・・渚ちゃんは、オレを待っているんだ!」
力を振り絞った亮平が時雨を押し切る。突き飛ばされる時雨だが、体勢を整えて着地する。
「汐ちゃんを助ける・・この勝負、お前に勝ちを譲るわけにいかない!」
言い放つ時雨の体が変化する。全身から稲妻がほとばしり、彼の力を向上させていた。
「きた!・・あれを破らないことには、時雨さんに勝つことはできない・・・!」
脅威を感じながらも、亮平は時雨に挑むことを諦めない。彼は時雨に打ち勝つ術を模索していた。
そんな亮平に向けて、時雨が右手をかざして衝撃波を放つ。その直撃で亮平が突き飛ばされる。
(まずい!早く何とかしないと・・やっぱりあれしかないのか・・・!)
思い立った亮平が、体色を金色に変える。速さを一気に上げて、亮平は時雨との距離を詰める。
時雨の懐に飛び込んだ瞬間、亮平は体色を赤に変えて、攻撃力を上げる。スピードとパワーを兼ねた一連の攻撃である。
「その攻撃のパターンはもう読んでいる・・・!」
だが時雨が上に向けての衝撃波で、亮平を上に跳ね上げて攻撃を阻んだ。時雨は亮平のこの攻撃を予測していたのだ。
(ぐっ!・・攻撃が、当てられない・・・!)
虚を突かれた亮平に、時雨が飛び上がって追い討ちをかける。具現化させた剣を、時雨が亮平に向けて振りかざす。
(まずい!)
亮平は即座に体色を緑に変えて、耐久力を上げる。だが時雨の一閃は、強度の上がっている亮平の体に食い込んだ。
「ぐっ!」
体に傷を付けられた亮平が、体勢を崩して落下する。鮮血をあふれさせながら、彼は地上に叩きつけられる。
押し寄せてくる激痛に耐えて立ち上がろうとする亮平だが、降りてきた時雨に体を踏みつけられる。
「ぐあっ!・・が、があぁぁぁ・・・!」
傷ついている体に追い討ちをかけられ、亮平がたまらず絶叫を上げる。
「とどめだ・・こうなる前に、思いとどまってほしかった・・・」
時雨が剣を構えて、亮平にとどめを刺そうとする。これ以外に術がなかったことに、時雨は歯がゆさを感じていた。
(このままじゃやられる・・・オレに力を・・もっと力を・・・!)
力への渇望に駆り立てられる亮平。だが傷ついた体は時雨が踏みつけている足を振りほどくには至らない。
「終わりだ、東亮平!」
「オレはまだ負けるわけにはいかないんだ!」
言い放つ時雨が振り下ろしてきた剣を、亮平が手でつかむ。
「何っ!?」
攻撃を阻まれたことに驚愕する時雨。剣を押しても引いても動かすことができず、亮平に完全に止められていた。
「邪魔をするな・・オレは渚ちゃんのところに行くんだ・・・」
「魔女のところに行くのはオレだ!オレが魔女を倒す!」
声を振り絞る亮平に、時雨が声を荒げる。だが亮平の力は強まる一方で、剣を放そうとしない。
「くそっ!」
毒づいた時雨が、左の拳で殴りかかろうとする。その打撃を頭に受けたにもかかわらず、それでも亮平は剣を放さない。
「オレは渚ちゃんに会いに行く・・誰にも傷つけさせない・・誰にも譲らない!」
言い放つ亮平が時雨の剣を握りつぶした。亮平の血しぶきとともに、剣の破片が飛び散る。
亮平の体にも変化が起きていた。青、金、赤、緑のいずれでもない、灰色の体色となっていた。
灰色に染まった亮平は、金の速さと赤の力、緑の耐久力の全てを備わっていた。
「オレと同じように、進化したというのか・・・!?」
声を荒げる時雨に、戦闘能力を飛躍させた亮平が飛びかかる。力と速さを兼ね備えた亮平が、時雨の懐に飛び込んできた。
亮平が時雨に向けて拳を繰り出す。体に重く速い打撃を叩き込まれて、時雨が吐血する。
(力も格段に上がっている・・このままでは・・・!)
危機感を募らせる時雨が、打開の糸口を必死に探る。
(このままやられるわけにいかない・・・汐ちゃんを・・汐ちゃんを助けるんだ!)
いきり立った時雨が反撃に転じる。時雨の放つ拳が亮平の拳をぶつかり合い、激しく轟音を轟かす。
攻撃は徐々に互いに命中するようになる。それでも亮平も時雨も、怯むことなく攻撃を続けていく。
時間と体力が消耗していく。亮平と時雨の拳が相殺し、同時に突き飛ばされて横転する。
込み上げる気迫に突き動かされて、2人はすぐに立ち上がる。だが2人に余力は残されておらず、立っているのが精一杯だった。
それでも戦いをやめない亮平と時雨。2人は徐々に歩を前に進めて、距離を詰めていく。
眼前に見える距離まで詰めた亮平と時雨。だが2人は思考さえも満足にできなくなっていた。
そんな2人を突き動かしていたのは、もはや本能でしかなかった。その本能に突き動かされて、繰り出した拳が互いの体に叩き込まれた。
ついに立つ力さえ失った亮平と時雨。力尽きた2人は人間の姿に戻り、倒れたまま動かなくなる。
(急がないと・・・渚ちゃんが・・渚ちゃんが待ってる・・・)
必死に立ち上がろうとする亮平。だが気持ちとは裏腹に、体は言うことを聞かなかった。
(は・・早く体力を回復させないと・・・僕は、ここで寝ている場合じゃないんだ・・・)
「こんなところにいたのか、お前・・・」
自分の体に訴え続けていたところへ、亮平は声をかけられた。彼の前に立っていたのは、敵意をむき出しにした渚だった。
(な・・渚ちゃん・・・)
「虫の息になっているとはな・・拍子抜けもいいところだ・・」
眼を見開く亮平と、呆れてため息をつく渚。
「それでも簡単には殺さん・・気の済むまで痛めつけてやる・・・」
不気味な笑みを浮かべた渚が右手をかざし、閃光を発射する。その光に吹き飛ばされて、亮平が横転する。
「どうした?もう少し私の心を満たしてよ・・・」
渚が亮平をあざ笑い、再び閃光を放つ。無抵抗の亮平が力なく横転していく。
だが亮平はただやられているわけではなかった。この間にも、彼は立ち上がろうと必死になっていた。
(立て・・起き上がれ!・・・渚ちゃんが目の前にいるのに、のん気に寝ている場合じゃないって・・・!)
傷ついた体に鞭を入れて、亮平はようやく体を起こした。立ち上がる彼の姿に、渚が笑みをこぼした。
「いいわ・・これでようやく、私の憂さ晴らしができるというもの・・・!」
狂気に駆り立てられた渚が、三度閃光を放つ。光の直撃を受けるも、亮平は突き飛ばされずに踏みとどまった。
「ここで私に足掻くとは・・だがそうでなければ私の心は満たされないというものだ・・」
不敵な笑みを浮かべた渚が、ゆっくりと亮平に近づく。彼女の両手に集束された光が灯る。
「そんな体でよく立ち上がったものだ・・だがどこまで持つかな?」
渚がその右手を亮平に向けて振りかざす。だが亮平にその手をつかまれて止められる。
「帰ろう・・渚ちゃん・・・これからも、今までどおりに・・君を守ってあげるから・・・」
「き・・貴様、まだそんな世迷言を・・・!」
声を振り絞って呼びかける亮平に、渚が苛立ちを浮かべる。
「渚ちゃん・・姉さんも待ってるから・・もう何も怖いことなんてないから・・・」
「言うな・・・」
「また僕たちと一緒に、たくさん思い出を作っていこう・・・」
「言うな!」
微笑みかける亮平に、渚が怒号を放つ。同時に彼女から閃光が解き放たれるが、亮平はそれに押されることなく踏みとどまっていた。
「やはりお前は消し去らなければならない・・・お前がいるだけで、私には決して安らぎは訪れない・・・」
渚は冷徹に告げると、亮平の体に右手をかざす。
「2度とそんなふざけたことが言えないよう、粉々に吹き飛ばしてやる・・・!」
「汐ちゃんを返せ、魔女が!」
そこへ異形の姿になった時雨が飛び込んできた。虚を突かれた渚が、時雨の拳を体に受けて吹き飛ばされる。
「汐ちゃんを元に戻せ・・・そうしなければ、オレに未来は訪れないんだ・・・!」
「ダメだ、時雨さん・・・渚ちゃんに、手を出すな・・・!」
渚に敵意を向ける時雨の前に、亮平が立ちはだかる。
「逃げるんだ、渚ちゃん・・早く逃げるんだ!」
「邪魔するな!オレは魔女を・・魔女を!」
渚に呼びかける亮平と、強引に進行しようとする時雨。激しい頭痛に襲われた渚には、亮平の呼び声に抗うことができなかった。
「どこまで邪魔をすれば気が済むんだ・・お前は!」
逃走していく渚を眼にしながら、時雨が亮平に怒号を上げていた。
次回
「僕が渚ちゃんを連れ戻す・・それ以外に、僕が取れる選択肢はないんだ・・・」
「私はお前と一緒にいたくない・・・!」
「僕は渚ちゃんと一緒の時間を過ごしたい!」
「渚ちゃんの本当の気持ちを、僕はまだ聞いていない・・・!」