ガルヴォルスForce 第22話「絆」

 

 

 渚を倒そうとする時雨と、渚を助けようとする亮平。業を煮やした時雨が、亮平に牙を向く。

「オレの邪魔をするなら、たとえ君でも容赦しない・・・!」

「待ってって、時雨さん!そんなことをしてる場合じゃないし、オレはあなたと戦いたくない!」

 鋭く言い放つ時雨に亮平が呼びかける。だが時雨はそれを聞き入れない。

「オレのやるべきことは、魔女を倒すこと・・邪魔をしなければ、オレは君に危害を加えるつもりはない・・」

「だから、渚ちゃんを傷つけないでくれ!渚ちゃんは、まだ人の心を失っていない!」

「心を失っていなければ、汐ちゃんにあんなことはしない・・彼女はもう、完全な魔女に成り果てたんだ!」

 亮平の呼びかけを跳ね除け、時雨が飛びかかる。亮平はとっさに横に飛んで、時雨が突き出した剣をかわす。

「早くしないと、渚ちゃんに追いつけなくなる・・・!」

 焦りを覚える亮平の前に、時雨が立ちはだかる。鋭く重みのある一閃が、亮平に襲い掛かる。

「いい加減に、魔女を守ろうとするのはやめるんだ、亮平くん・・・!」

 時雨が攻撃を続けながら、亮平に呼びかける。

「邪魔をするな・・死ぬことになるぞ・・・!」

「オレは死なない!・・渚ちゃんを連れて帰るまでは、オレはここで死ぬわけにいかないんだ!」

 時雨の忠告を振り払い、亮平が体色を青から金色に変える。速度を上げた亮平は、時雨をかいくぐって渚を追いかける。

「まずい!魔女のところに!」

 毒づいた時雨が、亮平を追って駆け出す。だが加速した亮平に追いつけるだけの速さを、時雨は持っていなかった。

「たとえ追いつけなくても、魔女を追い詰めないと・・でなければ、汐ちゃんを助けられない・・・!」

 汐を助けるため、時雨も渚を追って駆け出していった。

 

 亮平に助けられる形で、時雨から逃げてきた渚。だが渚は心苦しさを感じていた。

(何だというのだ、この痛みは・・・私がアイツに対して、倒すことを躊躇させられるとは・・・!)

 心の中で疑念を募らせる渚。だが考えを巡らせても、彼女は迷いを振り切ることができない。

(たとえ離れていても、私を脅かす・・・こうなっては逃げることに何の意味もない・・・)

 苛立った渚が右手を強く握り締める。

(自分自身の生のため、私はあの男を、東亮平を始末する・・・!)

 亮平への敵意と殺意を胸に宿した渚。魔女の存在を見せ付けるかのように、彼女は自分に迫る脅威を叩き潰す衝動を強めていくのだった。

 

 渚を追って必死に駆け回る亮平。だが渚の姿を発見することができなかった。

「ハァ・・ハァ・・・渚ちゃん、どこに行っちゃったんだ・・・!?

 息を荒げながらも、必死の捜索を続ける亮平。いつしか彼は自分の家に戻ってきていた。

「姉さん・・・」

 汐のことを思い返していた亮平。もしかしたら渚が戻っているかもしれない。そう思った亮平は、ゆっくりと家に向かった。

 玄関のドアを開けて家の中に入る。だが家の中に、いつもの賑わいに満ちた日常はなかった。

 渚はいない。汐も物言わぬ石像へと変わり果て、微動だにしない。

 家の中で歩いているのは自分だけ。今まで過ごしてきた和やかな日々も、今は幻のように霞んでしまっている。

(何なんだ、この辛い気分は・・・ひとりぼっちっていうのは、こんなに辛いものだったのか・・・)

 辛さを覚えた亮平が、リビングのテーブルに両手を付く。体を震わせる彼が、眼から涙をあふれさせる。

(このままひとりぼっちでいていいわけがない・・絶対に渚ちゃんを見つけて、一緒に帰らないと・・・)

 気持ちを切り替えようとする亮平が、リビングを出て汐の部屋に入る。そこでは一糸まとわぬ石像となった汐が立ち尽くしていた。

(だけど、最悪、時雨さんと命懸けで戦わなくちゃいけなくなるかもしれない・・・僕は、時雨さんとも戦いたくないのに・・・)

 込み上げてくる不安に、亮平はさらに心を揺さぶられていた。

(何かを求めれば、他のものを切り捨てないといけない・・もう、全部を抱え込むなんてできないってことか・・・)

 現実の非情さを痛感して、亮平が物悲しい笑みを浮かべる。困惑のあまり、彼は汐の石の裸身にすがり付いていた。

「姉さん、ゴメン・・・僕がもっとしっかりしてれば、渚ちゃんにも、姉さんにも辛い思いをさせることもなかったのに・・・」

“謝らなくていいよ、亮平・・・”

 涙ながらに謝る亮平の耳に、汐の声が入ってきた。耳を疑った亮平は、汐の顔を凝視する。

「姉さん・・・!?

“亮平の気持ち、渚ちゃんの次に分かってるよ・・亮平が何をしようとしているのか、あたしにも伝わってる・・”

 困惑する亮平に、汐が優しく語りかけてくる。

“あたし、分かるよ・・渚ちゃんを助けたいんだって・・”

「姉さん・・・」

“だから亮平、自分を信じて・・渚ちゃんを助けられるって、自分を信じて・・・”

「だけど・・信じきれない自分がいるんだ・・・本当に渚ちゃんを助けられるのか、心のどこかで不安になってる・・・」

“だったらあたしを信じて・・亮平を信じてるあたしを・・・”

「姉さん・・・」

 汐の励ましの言葉に、亮平が戸惑いを覚える。

“あたしも信じる・・亮平なら絶対やり遂げるって・・・”

「姉さん・・・ありがとう・・・もう少しだけ我慢してて・・渚を連れ戻して、姉さんを元に戻すから・・・」

 優しく言いかける汐に亮平が微笑みかける。彼は涙を拭うと、立ち上がって微笑みかける。

「行くよ、姉さん・・・今度帰ってくるときは、渚ちゃんと一緒だ・・・」

 亮平は言いかけると、汐に背を向ける。気持ちを落ち着けてから、彼は家を飛び出していった。

 

 亮平に敗北し、生き恥までさらす羽目になったシード。今の彼は怒りが頂点を越えていた。

「もう容赦しねぇ・・どいつもこいつも叩き潰してやる・・・!」

 込み上げてくる怒りを抑えきれず、シードが声を振り絞る。

 そのとき、シードは強大な力を感知して、一瞬緊迫を覚える。振り返った彼の前に、渚が立っていた。

「またお前か・・お前のようにしつこいヤツの相手はさすがに参る・・・」

「また会ったな・・だが、次に会うのはしばらく後になりそうだ・・・」

 肩を落としてため息をつく渚と、不敵な笑みを見せるシード。すると渚はそのシードの言葉をあざ笑う。

「そうだな・・・次にお前と会うときが来るとしたら、私が地獄に来るしばらく後のことだ・・・」

「ちげぇよ・・先に地獄に落ちんのはテメェだろうが!」

 渚の言葉に苛立ったシードが、異形の姿に変身する。シードは全身から刃を放出するが、渚は右手をかざして全ての刃を弾き飛ばす。

「弱い・・かなりの体力の消耗で、力も弱まっている・・それで私に挑もうなど、無謀を通り越して愚の骨頂だ・・」

「ふざけるな!テメェはオレに叩き潰されることは決まってんだよ!」

 渚に嘲られて、シードが怒号を放つ。彼は両手に刃を手にして、真正面から渚に飛びかかる。

 だがシードが突き出した2本の刃を、渚は光の障壁で軽々と受け止めてしまう。

「ぐっ!・・テメェなんかに・・テメェなんかに、オレが負けるか!」

 シードが叫びながら強引に押し切ろうとする。だが渚に向けていた2本の刃が、ガラスのように割れて砕けた。

「なっ!?

「それがお前の限界・・憎悪と殺意と裏腹に、体は限界を迎えていたのだ・・・」

 驚愕の声を上げるシードに、渚が冷淡に告げる。

「こんなんで砕けるのかよ・・・こんなんで負けるなんてねぇだろうが!」

 負けを認めないシードが、さらに渚に刃を投げつける。だがそれも渚に受け止められる。

「自分の身の程を弁えられないヤツが、私に勝てるはずもないだろう・・・」

 渚は呟くように言いかけると、シードの懐に飛び込んできた。彼女はシードの体に閃光を叩き込む。

 声にならない絶叫を上げて、倒れ込むシード。仰向けになった彼の体を渚が踏みつける。

「テメェ・・誰が踏みつけていいっていった・・・!?

「そんなこと、私の知ったことではない・・・」

 声を振り絞るシードの言葉を、渚は冷たくあしらう。彼女が手にしていた刃が、シードの体に突き刺さる。

「いい加減に死ね・・お前のようなヤツの愚かさは、死んでも治らないのだろうが・・・」

 渚はシードに突き刺さっている刃をさらに突き刺していく。全身に激痛が襲い、シードが吐血する。

「オレは死なねぇ・・オレが死ぬなんて・・絶対にありえねぇ・・・」

「その傲慢さが、お前の敗因だ・・・!」

 あくまで負けを認めようとしなかったシードを、渚は刺さっている刃を振りかざして切り裂いた。彼の体から鮮血が吹き出し、地面を紅くぬらした。

 声も出せなくなったシードの体が固くなっていく。事切れた彼の体が砂のように崩壊していった。

「実に愚か・・実に浅はか・・・これが、この上ない愚か者の末路ということだ・・・」

 シードの行動を嘲る渚。嘆息を付くと、彼女は自身の安息を求めて歩き出そうとした。

 そのとき、渚は突如激しい頭痛に襲われる。頭を手で押さえて、彼女はその場でふらつく。

「ま、また・・こんな・・・自分を保てないほどの痛みが・・・!」

 声を荒げる渚が呼吸をも乱し、その場にひざを付く。激痛を抑えることができず、彼女はうめくばかりだった。

「や・・やはりあの男の存在が、私を苦しめているというのか・・・ヤツがいる限り、私に本当の安息は訪れないということか・・・!」

 渚の脳裏に亮平の顔が浮かび上がってくる。彼女の敵意が亮平へと向けられつつあった。

「葬ってやる・・この手でヤツの命を刈り取ってやる・・・!」

 憎悪を膨らませて、渚は歩き出す。亮平の決意と裏腹に、彼女は彼を敵として認識していた。

 

 渚を追い求めて、街を駆け回っていた亮平。五感を研ぎ澄ましていた彼だが、渚を感じ取れないでいた。

(渚ちゃん、ホントにどこに行っちゃったんだろうか・・・渚ちゃん・・・)

 押し寄せてくる不安を跳ね除けようとしながら、亮平は渚の捜索を続けていく。

 そのとき、亮平は異質の気配を感じて足を止める。だがその気配は渚のものではなかった。

「この気配、この殺気は・・時雨さん・・・!」

 振り返った亮平が、慄然と佇む時雨を目撃する。時雨は鋭い視線を亮平に向けてきていた。

「亮平くん、1度だけ聞くよ・・・君は渚さんの味方か、それとも敵か・・・?」

 時雨が投げかけた問いかけに亮平が口ごもる。この質問は時雨からの忠告に他ならなかった。

「僕の気持ちはもう決まってる・・僕は渚ちゃんを助ける!時雨さんの言うように魔女になっているなら、僕が命を賭けてでもこっちに引き戻す!」

「それが君の答え、君の決意ということか・・・なら・・・!」

 決意を言い放つ亮平に対し、歯がゆさを覚える時雨。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「東亮平・・お前もオレの敵だ!」

 眼を見開いた時雨が異形の姿に変身する。彼は亮平の敵として立ちはだかり、敵意を見せていた。

「どいてくれ、時雨さん・・僕と戦うのも、渚ちゃんと戦うのも、あなたの行動は間違っている・・・!」

「間違っているなんて言わせない・・これを正しいものとしなければ、汐ちゃんが辛くなる・・・!」

 呼びかける亮平だが、時雨は聞き入れようとしない。時雨は具現化させた剣を手にして、亮平を見据える。

「変身しろ!でなければ死ぬぞ!」

「ダメだ、時雨さん!そんなことをしても、姉さんは喜んだりしない!」

 互いに呼びかけあう時雨と亮平。

「もう言葉に意味はないというのか・・・!」

 いきり立った時雨が亮平に飛びかかる。後退する亮平に剣の切っ先が迫る。

(間に合わない!)

 危機感を覚えた亮平が、無意識に異形の姿に、金色の体に変身する。高速になった彼が、時雨の突きを紙一重でかわした。

「倒す!魔女もお前も!汐ちゃんを助けるために!」

 時雨が剣を振りかざし、着地した亮平を狙う。だが時雨の一閃は、動きの速い亮平に軽々と回避される。

「こんなことで負けていられない・・・オレが負けたら、汐ちゃんを救えない・・・!」

 時雨の脳裏に汐との思い出が蘇ってくる。同時に彼の中にある意思も膨れ上がっていく。

「汐ちゃんのいない時間なんて、オレはイヤだ!」

 絶叫を上げた時雨に、突如変化が起こった。全身を淡い光と稲妻のようなオーラがあふれてきていた。

「時雨さん・・これは・・・!?

 時雨の異変に亮平が驚愕を覚える。時雨が亮平に眼を向け、右手を掲げる。

 直後、その右手から衝撃波が放たれる。衝撃波は高速化している亮平に命中し、突き飛ばした。

「ぐっ!」

 吹き飛ばされて激しく横転する亮平。すぐに体勢を整えて立ち上がるも、彼は時雨の異変に困惑を隠せないでいた。

「速くなったオレの動きを捉えた・・時雨さんは、明らかに強くなっている・・・!」

 亮平は危機感を覚えた。今の時雨は、亮平の金色の体の速さと赤い体の力を兼ね備えていた。

「汐ちゃんを助けるために・・オレはお前を殺す・・・!」

 時雨は低い声音で言いかけると、再び衝撃波を放つ。亮平は一気にスピードを上げて、辛くも衝撃波をかわす。

 だが直後、亮平の眼前に時雨が飛び込んできた。時雨が亮平の体に拳を叩き込む。

「ぐっ!」

 重みのある攻撃を受けて、亮平が吐血する。怯む彼に、時雨が容赦なく追撃を繰り出していく。

(この姿だと時雨さんの力に耐えられない・・こっちも力で対抗しないと・・・!)

 亮平がとっさに体色を金色から赤に変える。彼は時雨の拳を受け止めて、力比べに持ち込む。

「ここで倒れるわけにいかないのはオレも同じだ!この先に渚ちゃんがいる!だから負けるわけにいかないんだ!あんたにも!」

「そうまでしてお前は魔女を!」

 決意を言い放つ亮平に苛立つ時雨。彼は力を振り絞って亮平を持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。

「ぐあっ!」

「このまま吹き飛ばしてやる・・その偽善の言葉が2度と叩けないように・・・!」

 うめく亮平に強く言い放つ時雨。彼は両手を振り上げて、力を集束させる。その力が稲光のように輝き、激しく唸りを上げている。

「これで終わりだ!オレは汐ちゃんを助ける!」

 高らかに叫ぶ時雨が、亮平に向けて両手を振り下ろす。その攻撃が叩きつけられた瞬間、2人を中心に閃光と爆発が巻き起こった。

 穏やかだった街を破壊の光が包み込んだ。閃光が治まり、その場には煙が舞い上がっていた。

 その中で時雨は立っていた。力を全てつぎ込んだ彼は、弱々しくその場に立ち尽くしていた。

「ゴメン、汐ちゃん・・・こうするしか、亮平くんを止めることしかできなかった・・・」

 亮平を手にかけたことを、汐に向けて詫びる時雨。激情に駆られていた彼の眼から、大粒の涙があふれ出していた。

 

 

次回

第23話「力と牙」

 

「アイツは・・・アイツはどこにいる・・・!?

「渚ちゃんと会う前に、あなたと決着を着けないといけないみたいだ・・・」

「もう誰にも負ける気がしない・・たとえ魔女にも、お前にも・・・!」

「渚ちゃんは、オレを待っているんだ!」

 

 

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