ガルヴォルスForce 第21話「壊れた青」

 

 

 魔女としての姿の渚を目の当たりにして、絶望感に駆り立てられた亮平。彼は混乱に陥ったまま、渚に吹き飛ばされ、茂みの中に叩き込まれた。

 閃光による肉体的なダメージはほとんどなかった。だが精神的ダメージはそれをはるかに上回っていた。

「そんな・・・あれが・・ホントに渚ちゃんだっていうの・・・?」

 変わり果てた渚に、亮平は絶望感を膨らませていた。

「信じられない・・信じたくない・・・あんなのが渚ちゃんのわけがない・・・」

 必死に自分に訴えかける亮平。だがその語気は非常に弱々しくなっていた。

「悪い夢なら覚めて・・・渚ちゃんが悪い夢を見てるなら、眼を覚まして・・・」

 亮平の眼から涙があふれてくる。だが今の亮平に、その涙を止める気力さえなかった。

「渚ちゃん・・・渚ちゃん・・・」

 ひたすら渚を呼び続ける亮平。だがその声と気持ちは、今の渚に届くことはなかった。

 

 亮平との戦いを中断した時雨は、渚を追っていた。汐を石化させた渚に、時雨は激しい怒りを感じていた。

「僕は魔女を絶対に許さない・・汐ちゃんをあんな姿にした魔女は、僕が必ず倒してやる・・・」

 汐を奪われた今の時雨には、渚を倒すことしか頭になかった。彼は怪物の気配を細大漏らさず感じ取ろうとしていた。怪物は魔女である渚にひかれていく。それを利用すれば渚に近づくことができる。

「どこだ・・どこにいるというんだ、渚は・・・!?

 感覚を研ぎ澄まして、時雨は必死に渚を探した。しばらく道を歩いたところで、彼は怪物の気配を感じ取った。

 時雨は普通の人間を装いながら、異形の気配を発する男をつけていく。2人は人気のない道に差し掛かり、林の中に入っていった。

 そこでは他にも異形の気配を放つ人々がやってきていた。

(この近くにいるのか、魔女が・・・?)

 周囲を見回す時雨だが、人々の中に渚の姿はない。

 そのとき、時雨や周囲の人々が強い気配を感じて緊迫を覚える。

(この感じ・・間違いない・・魔女だ・・・!)

 時雨が振り返った先に、渚はいた。自分を狙って群がってくる怪物たちに、渚は呆れていた。

「ここへ来ても・・・まるで私には安住の地はないと言わんばかりだな・・・」

 渚は呟きかけると、両手から光を放出する。その光が次々と人々を襲い、時雨が即座に異形の姿に変身して光をかわす。

「とうとう無差別に攻撃するようになったのか・・・!」

 苛立ちを浮かべて、渚を鋭く睨みつける時雨。渚がゆっくりと振り返り、時雨を見つめる。

「またお前か・・性懲りもなく私に牙を向くのか・・・」

「先に手を出したのはお前だ・・オレの大切な人を手にかけたお前を、オレは許すつもりはない・・・」

 淡々と言いかける渚に、時雨が鋭く言いかける。

「汐ちゃんを元に戻せ・・・でなければ、殺す・・・!」

「殺す?私を?いつになく大きな態度だな・・・」

 殺気をむき出しにする時雨を、渚はあざ笑う。

「やってみるか?できるものならな・・・」

「やるしかない・・やらなければ、汐ちゃんは助けられないんだ・・・!」

 妖しく微笑む渚を見据えて、時雨が決意を募らせる。汐を助けるため、時雨は渚に飛びかかっていった。

 

 魔女としての記憶を取り戻した渚を目の当たりにして、亮平は絶望していた。草原の真ん中で、彼は無気力となり、立ち上がることもできずにいた。

 そこへ姿を現したのはシードだった。シードは倒れ込んでいる亮平を見下ろして、不敵な笑みを浮かべた。

「何だ?ちょっと見ない間に、ずい分と惨めになったもんだな・・」

 あざ笑うシードだが、亮平は彼の存在にも気付いていない。

「あの女のホントの姿を見たのがそんなにショックだったか?散々オレの邪魔をしてきたクソガキとは思えねぇ不様だな。」

 シードが亮平を強く蹴り飛ばす。だが横転する亮平は声を上げることもなく、死人同然だった。

「ケッ。こんだけ言っても全然反応しねぇ。逆にしらけちまうぜ・・」

 亮平の姿に呆れ果てて、シードが嘆息を付く。

「今まで散々オレの邪魔をしてきたテメェだが・・・調子に乗れるのもここまでのようだな・・・」

 再び不敵な笑みを浮かべてきたシードが、異形の姿に変身する。それでも亮平は絶望したままで、シードの敵意にも感付いていなかった。

「コケにされてきた礼だ・・たっぷり受け取りな!」

 シードは言い放つと、亮平を高く蹴り飛ばす。亮平は力なく跳ね上がり、人形のように落下して転がっていく。

「拍子抜けもいいとこだ・・これじゃとても恨みは晴らせねぇよ・・」

 シードはため息をつきながら、ゆっくりと亮平に近づいていく。

「とりあえず死なない程度にいたぶる。最後に思いっきり叩き潰して、華々しく散らせてやるよ!」

 いきり立ったシードが亮平を踏みつける。それでも亮平は苦痛を見せることはない。

 亮平は心は、完全に渚への気持ちとそれに裏切られた絶望で満たされていた。自分で立ち上がろうとする気力すら湧かず、彼の心は死を受け入れてしまっていた。

 そしてシードの猛威によって、心だけでなく体にも死を与えられようとしていた。

(どうしたらいいんだ・・僕は、このまま死んでしまえばいいんだろうか・・・)

 いつしか自分に声をかけていた亮平。

(それもいいかもしれない・・今まで本気になってやりこんだことなんてないし・・・)

“本当にそうなのですか・・・?”

 そのとき、亮平の脳裏に声がかけられてきた。自分以外の、最も自分に親しみのある声が。

(渚ちゃん・・・聞き間違いかもしれない・・だって渚ちゃんは・・・)

“亮平さんの本当の気持ちを、私に伝えてください・・・私はまだ、亮平さんの口から本当の気持ちを聞いていません・・・”

 渚の声を耳にした亮平。彼は無意識にその声に突き動かされていた。

「さて、そろそろしまいにするか・・最後は派手に、テメェの頭を粉々にしてやるぜ!」

 シードは高らかに言い放つと、亮平の頭目がけて足を下ろす。だがその足が突然止められる。

「何っ!?

 攻撃を止められたことに驚愕するシード。亮平が右手をかざして、シードの足を受け止めていた。

「コイツ、まだそんな力が・・!?

 声を荒げるシードが亮平に振り払われる。ようやく立ち上がった亮平だが、目の焦点は合っておらず、意識が戻っていない状態だった。

「フン。目が覚めてねぇのか・・無意識の抵抗までしてくるとは、つくづくオレを苛立たせるヤツだよ、テメェは!」

 怒号を言い放つシードが刃を手にして、亮平に突き出す。その瞬間、亮平の姿が異形の姿に変身する。

 亮平はシードの刃を左手で受け止める。だがこの行為で手傷を負い、血があふれてきた。

「そうだった・・ぼくはまだ、渚ちゃんに気持ちを伝えていない・・・」

 亮平は呟きかけると、左手に力を込める。シードが苛立って刃を引き抜こうとするが、ビクともしない。

「今の渚ちゃんでも、ちゃんと気持ちを伝えることができるって信じないと・・・」

 決意を口にする亮平が、シードの刃を打ち砕いた。刃を折られたことに、シードがさらなる驚愕を覚える。

「今まで死んでたのかウソみてぇだ・・いや、今まで以上の力に膨れ上がってやがる・・・!」

 息を呑むシードを、亮平はじっと見据えていた。

「悪いけど、オレはここで死ぬわけにはいかないんだ・・・!」

「どこまで勝手なことを・・テメェはオレにやられて、ここでくたばるって決まってんだよ!」

 構える亮平に苛立ち、シードが飛びかかる。体から2本の刃を取り出して、亮平に向けて振り下ろす。

 体色を青から緑に変化させて耐久力を増加させる亮平。彼は両手でシードの刃を受け止める。

 いきり立つシードが刃に力を込める。だが亮平の頑丈な体を突き崩すことができない。

「オレは死ねない・・その先には、渚ちゃんが待っているから・・・!」

 亮平は刃を払いのけると、体色を金色に変えて速度を上げる。彼は素早く動いて、シードをかく乱する。

「そう何度も速さに振り回されてたまるか!」

 シードが全身から大量の刃を放出する。だが亮平はその全てをかいくぐる。

 そして亮平はシードの懐に飛び込んだ。彼はすぐさま体色を金色から赤に変えて、シードに打撃を繰り出す。

「ぐっ!」

 速さを伴った重みのある攻撃を受けて、シードがうめいて吐血する。激痛のあまり、シードは嗚咽しながら後ずさりする。

「がはっ!・・このオレが、こんな痛みが我慢できないなんて・・・!」

 痛みを跳ね除けようとするシードだが、彼の体はその意思を受け付けない。

「オレは渚ちゃんのところに行く・・今度こそ迷わずに、オレの本当の気持ちを伝えないと・・・」

「バ・・バカなこというな・・魔女に何が伝わるというんだ・・・!?

 真剣に言いかける亮平を、シードがあざ笑う。だがそれでも亮平の決意は変わらない。

「伝わらないかもしれない・・だからって、伝わらないって諦めて、何もしないよりはマシだ・・・」

「殊勝なことだな・・・それが報われることは絶対にねぇけどな・・・」

 表情を変えずに言いかける亮平。シードの嘲笑を気に留めず、亮平は歩き出していく。

「待てよ・・このまま逃げる気か・・・!?

「今、お前の相手をしている場合じゃない・・邪魔するなら、今度こそ仕留める・・・!」

 シードが挑発するが、亮平は逆に忠告を送り、歩いていく。その言葉に苛立つシードだが、体が言うことを聞かず、その場に留まるしかなかった。

 

 汐を助けるため、時雨は渚に挑んでいた。だが渚の驚異の力に翻弄され、時雨は攻撃を与えられないでいた。

「逃げるな!オレはお前を倒さなければならないんだ!」

「フン。わざわざ殺されるのを待ってやるヤツなどいない。お前もそう思うだろう?」

 怒鳴る時雨に、渚が妖しく微笑みかける。

「私は私を狙うもの、私の邪魔をするもののために命を散らすつもりはない。汐も私の邪魔をしなければ、私に力を奪われることもなかった・・」

「ふざけるな!結局は自分勝手じゃないか!そのために汐ちゃんは、あんな姿になったっていうのか・・・!」

「自分勝手なのは私だけではない。お前も、私を狙うものたちも、この世界に生きる全てのものが、自分勝手に考え動いている・・・」

「次から次へと理屈ばかり・・どこまでふざけたことを口にするつもりだ!?

 渚の態度に怒りを募らせる時雨。彼は具現化させた剣を手にして、渚を見据える。

「もうその態度を見ているだけで気分が悪くなる・・一気に終わらせる・・・!」

「終わらせる?今まで私に翻弄されてきたお前が、私に勝つことができるのか?」

 鋭く言い放つ時雨を、渚はまたしてもあざ笑う。

「その余裕を浮かべたまま、その体を真っ二つにしてやる・・・!」

 時雨が剣を構えて、渚に向かって飛びかかる。だが突き出した剣を、渚は左手だけで受け止めてしまった。

「何っ!?

「この程度で私を真っ二つにしようと思っていたのか?笑わせるな・・・」

 驚愕する時雨に、渚が冷笑を見せる。彼女は右手を時雨の体に当てて、閃光を放射する。

「ぐあっ!」

 吹き飛ばされた時雨が激しく横転する。激痛にさいなまれた彼は、人間の姿に戻る。

「お前も所詮は身の程知らずだったということだ・・私を放っておけば、苦しむこともなかったのに・・」

 渚は嘆息をつくと、手にしていた剣を投げつける。剣は時雨の顔の横に突き刺さり、消失する。

「とどめを刺してやる・・もう2度と、私に牙を向けられないようにな・・」

 渚が時雨に近づき、再び右手をかざす。その手の平から光が現れ、集束されていく。

 必死に立ち上がろうとする時雨だが、体に力が入らず、起き上がることができない。

「渚ちゃん!」

 そこへ声がかかり、渚が視線を移す。その先で、亮平が息を絶え絶えにしていた。

「亮平、くん・・・!?

「今度はお前か・・私に何の用だ?」

 困惑を見せる時雨と、微笑みかける渚。呼吸を整えてから、亮平が渚に呼びかける。

「渚ちゃん、帰ってきてくれ・・僕も姉さんも、渚ちゃんをやさしく迎えるから・・・!」

「何を言っている?私に帰る場所も安住の地もない。お前たちとは何の関わりもない・・」

 呼びかける亮平だが、渚はあざ笑うばかりだった。

「帰る場所ならある!僕たちの家が、僕たちのいるところが、渚ちゃんの帰る場所なんだ!」

「どこまでもそんなたわ言を・・お前もこの男のように葬り去られたいか・・・!?

 それでも呼びかける亮平に、渚が苛立ちを覚える。

「何度だって言う・・僕は渚ちゃんと一緒じゃなきゃダメなんだ!」

「貴様・・・!」

「僕、今までやる気を出して打ち込んできたことなんてなかった・・だけど渚ちゃんと出会って、やる気のない僕が、渚ちゃんのために何かしてあげたいって思ったんだ・・」

 歯がゆさを見せる渚に、亮平が自分の気持ちを率直に告げる。

「僕、渚ちゃんを守りたい・・渚ちゃんを救ってあげたい・・心から、そう思っている・・・」

「そうやって私を欺こうというのか・・・私にそんな手は通用・・・」

 微笑みかける亮平を、渚が再びあざ笑おうとした。

 そのとき、突如激しい頭痛に渚は襲われた。激痛に顔を歪めた彼女が、たまらずふらつく。

「渚ちゃん・・・!?

「近づくな・・何だ、この痛みは!?・・・頭が、割れるように痛い・・・!」

 眼を見開く亮平を呼び止めつつ、苦痛にあえぐ渚。

「もしかして、お前が私を・・・こうまでして私を苦しめるというのか、お前は・・・!」

 渚が敵意を亮平に傾ける。彼女の異変に亮平が困惑する。

「どうしたんだ・・渚ちゃんに、何が起きてるんだ・・・!?

「お前だけは・・どうしても始末しなければならないようだ・・・」

 渚が亮平に向けて敵意を膨らませる。だが頭痛に苦しめられて、彼女は亮平に近づくことができなかった。

「今のうちだ・・あの魔女を倒すことのできるチャンス・・・!」

 そこへ時雨が力を振り絞って立ち上がる。冷静さを保てないでいる渚を倒そうと躍起になっていた。

「今度こそ・・今度こそ魔女を倒してやる!」

 いきり立った時雨が異形の姿に変身する。渚を倒すため、彼は全力で飛び出す。

「時雨さん!」

 亮平がたまらず異形の姿に変身し、時雨をつかんで止める。

「ぐっ!亮平くん、何をする!?

「渚ちゃんを傷つけるな!渚ちゃんは完全に魔女になってるわけじゃない!」

 声を荒げる時雨に、亮平が必死に呼びかける。

「渚ちゃん、逃げるんだ・・君はオレの、大切な人だから!」

「邪魔するな、亮平くん!これ以上邪魔をするというなら・・・!」

 渚に呼びかける亮平を振り払おうとする時雨。困惑を浮かべる渚が後ずさりし、ついに駆け出してこの場から離れていった。

 業を煮やした時雨が、亮平に打撃を加え、背負い投げで振り払う。

「たとえ亮平くんであっても、オレは容赦なく倒す!」

 敵意をむき出しにする時雨に、亮平は危機感を覚えていた。

 

 

次回

第22話「絆」

 

「邪魔をするな・・死ぬことになるぞ・・・!」

「もう、全部を抱え込むなんてできないってことか・・・」

「あたし、分かるよ・・渚ちゃんを助けたいんだって・・」

「あたしも信じる・・亮平なら絶対やり遂げるって・・・」

 

 

作品集

 

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