ガルヴォルスForce 第20話「暴走する力」

 

 

 魔女としての変貌を遂げた渚に、汐は愕然となっていた。汐は渚にかける言葉を失い、困惑するばかりだった。

「受け入れろ・・これが私・・本当の私なのだ・・・」

 哄笑をもらす渚に、汐は体を震わせていた。

「あまり長居するわけにはいかない・・移動しなければ面倒になる・・・」

 周囲に点在する異形の気配を感じ取り、渚が部屋を出ようとする。だが再び汐に抱きつかれて止められる。

「ダメ!行かないで、渚ちゃん!行ったら亮平くんが・・!」

 声を振り絞る汐だが、またしても渚に突き飛ばされる。

「どこまで私を邪魔する気だ?そんなに自分の命がいらないのか?」

 行く手を阻んでくる汐に、渚はついに苛立ちをあらわにしてきた。

「そこまで私の前に立ちはだかるなら、手にかけるしかない・・邪魔をするなら、何だろうと容赦しない・・・」

 渚は鋭く言いかけると、汐の首をつかみ上げた。首を締め付けられて、汐が苦悶の表情を浮かべていた。

 

 シードの言葉と、渚にところに向かった時雨に、亮平は不安を募らせていた。

「そんなバカな・・・渚ちゃんが魔女だって・・信じられるわけないじゃないか・・・!」

「へへ・・不様にやられちまったが、テメェが絶望するだけでもよしとするか・・・」

 困惑する亮平と、その様子を見てあざ笑うシード。

「テメェはどうすんだ?・・大事な女がどうかなっちまうぞ・・・」

 シードの態度に苛立ちを覚える亮平だが、心配のほうが上回っていたため、渚に駆けつけることを優先した。

「絶望しろよ、クソガキが・・・絶望したテメェを、オレが今度こそ始末してやるぞ・・・」

 哄笑を上げながら立ち上がるシード。回復のため、彼はこの場から離れていった。

 

 渚に首を絞められて、苦痛を覚える汐。その姿を見て、渚が笑みをこぼす。

「どうだ?さすがに私の邪魔をする気が失せただろう?」

「・・・行かないで・・・亮平の、そばに・・・」

 あくまで信じようとする汐に、渚が苛立ちを浮かべる。

「これだけやられても、私を信じようというのですか・・・」

 呆れ果てた渚が、汐の体を強く抱きしめる。次に体を締め付けられて、汐が苦痛にあえぐ。

「そこまで私を信じようとする気持ちは私も感服する・・その精神力、私の糧にしよう・・」

 渚が眼を見開くと、全身から閃光が解き放たれる。その光に包まれた汐からも、別種の光があふれ出てくる。

 その衝動で、汐の着ていた衣服が引き裂かれていく。素肌をさらけ出した彼女だが、恥じらいよりも純粋な動揺のほうが強かった。

(何、コレ!?・・体の力が抜けていく・・・!?

 自分の異変に動揺を膨らませる汐。その中で彼女は体の自由が利かなくなるのを感じていく。

 やがて光が弱まり、渚に流れ込んでいく。姿がはっきりとしてきた汐の体に異変が起きていた。

 あらわになった彼女の体が固くなっており、ところどころにヒビが入っていた。

「お前の力は私がもらった。力を失ったお前は石化し、ずっとここにいることになる・・・」

「石化って・・・それじゃあたし・・石になるってこと・・・?」

 妖しく微笑む渚に、汐が疑問を投げかける。力を奪われ、さらに体が石になっているため、汐は力が出せず、声も弱々しくなっていた。

「これでもう私の邪魔はできない・・自分の行いを後悔するといい・・・」

 渚は哄笑を上げながら、改めて部屋を出て行く。彼女を止めようと考える汐だが、石化した体は彼女の意思を受け付けなかった。

「美しいな・・・きれいなお前に、私から慈悲を与えてやるぞ・・・」

「待って・・行かないで・・・渚ちゃん・・・」

 汐の呼びかけも実らず、渚はついに部屋を出て行ってしまった。自分の無力さを痛感して、汐は眼から涙をあふれさせていた。

 

 渚の力を感じ取って、東家に駆けつけてきた時雨。そのとき、丁度渚が家から出てきていた。

「渚さん!」

 時雨が呼びかけるが、渚は立ち止まることなく立ち去っていった。

「渚さん・・・汐ちゃん、まさか・・・!?

 不安を募らせた時雨が、急いで東家に駆け込む。家の中を探し回り、時雨はついに汐の部屋のドアを開けた。

 その部屋の中の光景に、時雨は眼を疑った。汐は一糸まとわぬ姿で弱々しく立ち尽くしていた。

「汐、ちゃん・・・!?

「し・・時雨・・・!?

 愕然となる時雨を眼にして、汐も困惑を覚える。だが力が入らず、彼女は感情を表に出すことができなかった。

「どういうことなんだ、汐ちゃん!?・・・渚さんが・・渚さんがやったのか・・・!?

 時雨が体を震わせながら呼びかけるが、汐は答えるのもままならなかった。

「どうしたんだ、汐ちゃん!?しっかりして・・!」

 時雨が汐に駆け寄る。だが彼女の両肩に触れた瞬間、時雨は彼女の体が石になっているのを痛感する。

「汐、ちゃん・・・!?

「時雨・・・渚ちゃん、止められなかったよ・・・」

 思わず後ずさりする時雨に、汐が物悲しい笑みを浮かべる。その間にも彼女の体は完全な石へと近づきつつあった。

「ゴメンね、時雨・・・何も、してあげられなくて・・・」

 涙を流す汐から、生の輝きが消える。渚に力を奪われた彼女は、物言わぬ石像と化してしまった。

「汐ちゃん・・・汐ちゃん!」

 変わり果てた汐に、時雨が叫ぶ。押し寄せる悲痛さに打ちひしがれて、彼はその場に座り込む。

「汐ちゃん・・・どうして・・どうしてこんなことに・・・!?

 汐に危害が及んだことに涙する時雨。彼はいつしか、彼女を助けられなかった自分を責めるようになっていた。

「そばにいてあげればよかった・・・僕が汐ちゃんのそばにいて、守ってあげれば・・・」

 悲しみに暮れる時雨が、徐々に憤りを覚えていく。

「僕が渚さんを・・魔女を倒していれば・・・!」

 時雨の悲しみは、渚に対する憎悪と化していった。

 

 同じく渚を心配して、亮平も東家に戻ってきた。家に入ろうとしたとき、時雨が力なく家から出てきた。

「時雨さん・・・!?

 時雨の様子に亮平が眉をひそめる。彼が慌しく駆け寄ったところで、時雨はようやく気付いた。

「どうしたんです、時雨さん!?・・姉さんと渚ちゃんは・・・!?

 亮平が問いかけるが、時雨は何も答えない。嫌な予感を抱いたまま、家に入り、汐の部屋に行き着く。

「姉さん・・・!?

 変わり果てた汐を目の当たりにして、亮平が困惑する。そして彼は、部屋に渚がいないことに気付く。

「どうしたんだ、姉さん!?・・渚ちゃんは、どこに・・・!?

 半ば混乱した状態で、亮平が周囲を見回す。しかし家の中を探しても、渚はいなかった。

「何がどうなっているんだ・・・時雨さん・・・!」

 状況が飲み込めなかった亮平が、再び時雨に駆け寄る。

「姉さんはどうしたんですか!?渚ちゃんはどこに行ったんですか!?

 亮平が再び問いかけると、時雨が憤りをあらわにしてきた。

「全て魔女の仕業だ・・・アイツが・・渚が・・・!」

「渚ちゃんが!?・・・そんなはずない!渚ちゃんが、姉さんにあんなことするはずがない!」

 信じようとしない亮平に、時雨がつかみかかってきた。

「いい加減自覚しろ!あんなこと、魔女であるアイツでなければできるはずがない!」

「アンタこそいい加減にしろよ!そんなに渚ちゃんを困らせたいのか!?

 憤った亮平が、つかんでいる時雨の手を振り払う。

「渚ちゃんは記憶喪失で、いつも不安になっている・・その渚ちゃんに、アンタはなんてことを!」

「その過去が魔女だったんだ、彼女は・・そして汐ちゃんを手にかけて・・・!」

 渚を信じぬく亮平と、渚を憎悪する時雨。2人の間に新たな確執が生まれていた。

「とにかく、僕は渚を倒す・・そうすれば汐ちゃんを元に戻せるかもしれない・・・」

 時雨が渚を探しに動き出そうとする。だが亮平に肩をつかまれて止められる。

「邪魔をしないでくれ、亮平くん・・僕は汐ちゃんにあんなことをしたアイツを、絶対に許せない・・・!」

「渚ちゃんを傷つけさせない!たとえ時雨さんでも、渚ちゃんを傷つけるなら、僕が許さない!」

 怒りを爆発させた時雨と亮平が、それぞれ異形の姿に変貌する。感情と激情に駆り立てられるまま、2人はまたしても戦いの火蓋を切った。

 怒りのままに力を振るう2人の青年。相手を思いやる気持ちは完全に消え失せ、敵意を乗せて攻撃が互いの体に叩き込まれていく。

(早くしないと魔女が、また他の人たちを犠牲にしてしまう・・・!)

(今は時雨さんの相手をしている場合じゃない!渚ちゃんを探さないと・・・!)

 焦りまでもが膨らんでいく2人。やがて2人が繰り出した拳がぶつかり合い、互いに突き飛ばされる。

 茂みの中に消える時雨と、坂を転がる亮平。立ち上がった亮平が、渚を気にかけて戦いを中断する。

「こんなことしてる場合じゃない・・渚ちゃんを探さないと!」

 思い立った亮平が、渚を追いかけていった。

 

 魔女としての覚醒を果たした渚は、怪物の気配を感じ取って行動していた。そして怪物たちも、渚を倒そうと迫ってきていた。

「私の眠っていた間に、狩人も増えたということか・・・」

 人気のない草原の真ん中で立ち止まる渚。すると怪物たちが続々と姿を現してきた。

「今度こそ始末してやるぞ、魔女・・・!」

「お前の息の根もここまでだ・・・!」

「魔女の悲鳴か・・・聞いてみたいものだ・・・!」

 不気味な笑い声を上げて、怪物たちが渚に近づく。だが渚は全く追い込まれていなかった。

「やはりただの獣だな・・ただの獣が、私を止めることさえできるはずがない・・・」

 渚は呟くように言いかけると、全身から閃光を解き放つ。その光に突き飛ばされて、怪物たちの数体が体を断裂される。

「今すぐ立ち去るなら見逃してやる。だがそれ以後の助けは認めない・・・」

 渚が冷徹に告げるが、怪物たちは引き下がろうとしない。

「どうやらここにいるのは、自殺志願者ばかりのようだ・・・」

 渚はため息をつくと、再び閃光を放つ。先ほどよりも強力なエネルギーで、一瞬にして怪物たちを粉砕して一掃してしまった。

「実にくだらない・・力の差も理解できないとはな・・・」

 呆れ果てて肩を落とす渚。だが怪物たち全員を葬ったわけではなかった。

 1人生き残った怪物が、女性の姿へと戻る。彼女は渚の力を痛感し、敵意に代わって恐怖で満たされていた。

「まだ生きていたか・・それなりに力があったのか、運がよかったのか・・」

 渚は妖しい笑みを浮かべて、その女性に近づいていく。女性は慌てて立ち上がって逃げようとするが、すぐに渚に回りこまれてしまう。

「私に牙を向けられて、逃げられると思っているのか・・・?」

 渚が鋭く言いかけるが、女性は恐怖のあまりに言葉が出なくなっていた。渚は彼女を見つめて、再び妖しく微笑む。

「それにしても、なかなかの美しさだな、お前も・・私の糧となるがいい・・・」

 渚は女性の震える体を抱きしめる。恐怖が頂点に達し、女性は渚の腕から逃れることができない。

 渚の体から光があふれ出てくる。その光に包まれた女性からも、別種の光があふれ出す。

 その衝動で彼女の着ていた衣服が引き裂かれていく。裸身をさらけ出された彼女から恐怖が薄まり、高揚感が膨らんでいく。

「どうしたのかな・・・何だか、気分がよくなってきちゃった・・・」

 喜びを覚えて快楽に身を委ねる女性。彼女の体が力を失い、石へと変質していく。

 光が弱まっていき、渚が女性から離れる。光の中から現れた女性は、体が徐々に石に近づいていっていた。

「お前の力、確かにいただいたぞ・・そしてお前は、より美しくなることができた・・・」

 渚が見つめる先で、女性の裸身がどんどん固くなっていく。しかし女性は恍惚を堪能して、喜びをあらわにしていた。

「そこで自分の美しさを喜んでいるといい。私の力の一部となれたことを誇りにしながら・・・」

 女性に微笑みかけると、渚は振り返って草原から立ち去ろうとした。だがその足がふと止まる。

 彼女の前にいたのは亮平だった。亮平は渚の変貌に、動揺の色を隠せなくなっていた。

「渚ちゃん・・・どうしたっていうんだ・・いつもの渚ちゃんじゃない・・・!?

 変わり果てた渚に、亮平は眼を疑っていた。渚はそんな亮平に向けて、妖しい笑みを浮かべていた。

「今の私が会うのは初めてになるな・・心配かけてすまない、というところだな、亮平・・・」

「どうしたっていうんだ・・・どうしちゃったんだ、渚ちゃん!?

 亮平がたまらず渚に向けて大声を上げる。

「誰かに操られているのか!?それとも渚ちゃんに化けた偽者なのか!?

「ウフフフフ。冗談を言うようになるなんて、亮平もおかしくなったものだな・・・」

「冗談じゃないって・・・まさかホントに・・・ホントに渚ちゃんなのかい・・・!?

「そう。これが本当の私・・魔女と呼ばれ続けながら、怪物たちに忌み嫌われてきた・・それが本当の私だ・・・」

 渚が口にした言葉に亮平は愕然となる。否定し続けてきた事実が、彼の心に重くのしかかってきていた。

「記憶を失い、力の使い方まで忘れてしまった私は、戦いのない日常を過ごすこととなった・・だが記憶と力を取り戻した私は、戦いの日常に戻ることを余儀なくされた・・・」

「そんな・・・そんなことって・・・!?

「私の前に立ち塞がるものは全て手にかける・・それが生き残る道であり、力の差を理解させる単純な方法でもある・・・」

「それじゃ、姉さんは・・・姉さんを、君が・・・!?

 困惑する亮平から、渚が女性に視線を向ける。女性の体はほとんど石に変質していた。

「あの娘からの力をいただいた・・あの女のように石になり、美しく立っていることだろう・・・」

「どうしてそんなこと・・・姉さんを助けてくれ!渚ちゃんがやったっていうなら、元に戻すこともできるはずだ!?

「何を言っている?私がなぜそんなことをしなければならない?ヤツが邪魔立てするから、私が力を奪って石に変え、大人しくさせたというのに・・・」

 呼びかける亮平を渚があざ笑う。信じる気持ちを貫くことができず、亮平は錯乱状態に陥っていた。

「言いたいことはそれだけか?ならばそこをどけ・・さもなくばお前とて命はないぞ・・・」

 渚が笑みを消して言いかけるが、亮平の耳には届いていない。

「絶望のあまり、私の声も聞こえていないか・・・ならばその絶望を抱えたまま、命を終えるがいい・・・」

 渚は亮平の眼前に近づくと、ゆっくりと右手をかざす。その手の平から閃光が放出された。

「うわあっ!」

 その光に吹き飛ばされる亮平。回避も防御もままならなかった彼は、茂みの中に叩き込まれていった。

「お前との時間、それなりに楽しませてもらったぞ・・・」

 渚が亮平に向けて言葉をかけると、改めて草原から立ち去った。彼女に力を奪われた女性は、完全に石に変わり、物言わぬ石像としてその場に立ち尽くしていた。

 

 

次回

第21話「壊れた青」

 

「あれが・・ホントに渚ちゃんだっていうの・・・?」

「調子に乗れるのもここまでのようだな・・・」

「またお前か・・性懲りもなく私に牙を向くのか・・・」

「汐ちゃんを元に戻せ・・・でなければ、殺す・・・!」

 

 

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