ガルヴォルスForce 第19話「躍動する欲情」

 

 

 渚を手にかけようとする時雨と、渚を守ろうとする亮平。2人の力がぶつかり合い、周囲を揺るがした。

 2人の力は拮抗し、互いに一歩も譲らない争いとなっていた。

「オレが押し切れないなんて・・いつもの時雨さんのように、迷いがない・・・」

「さすがは亮平くんというべきか・・一筋縄じゃいかない・・・」

 距離を置いたところで、亮平と時雨が呟きかける。力を出し切ったため、2人とも息を荒くしていた。

「だけど、このまま渚さんを野放しにするわけにいかない・・もしあんな力と本性を見せられたら、亮平くんは・・・」

 危機感を募らせる時雨が、亮平を打破することに専念する。2人は力を振り絞って、さらなる攻撃を繰り出していく。

 だが決定打を与えることができず、2人は体力を減らすばかりだった。

「どいてくれ、亮平くん・・このままでは君たちは・・・!」

 あくまで渚の中の魔女を封じ込めようとする時雨。その時雨を、亮平が全力で止めようとする。

「2人とも、何をやっているの!?

 そこへ怒鳴り声がかかり、亮平と時雨が動きを止める。声をかけてきたのは、渚から連絡を受けて駆けつけた汐だった。

「姉さん・・・!?

「汐さん・・・!?

「仲直りしたんじゃないの、あなたたち!?それなのにそんな姿になって、傷つけ合って・・!」

 戸惑いを見せる亮平と時雨に、汐が呼びかける。息を絶え絶えにしながらも、彼女は必死に声を振り絞っていた。

「渚ちゃんのことは聞いてるよ、時雨・・でも、渚ちゃんはどんなことがあったって、あたしたちや亮平を傷つけるようなことはしない!」

「汐ちゃん・・・」

 微笑みかける汐に、時雨が困惑する。汐は渚を心から信じていた。

「亮平ももうやめて・・時雨に悪気があったわけじゃないんだから・・」

「姉さん・・・だけど、渚ちゃんは何も悪くないのに・・ただでさえ怪物連中に追い回されてるのに・・・」

 続けて呼びかける汐に、亮平が歯がゆさを浮かべる。

「渚ちゃんが辛くなってると思ってるなら、亮平が守ってあげないと・・」

「姉さん・・・」

 汐からの激励を受けて、亮平が戸惑いを膨らませる。彼の脳裏に、渚を守るために戦う自分の姿が蘇る。

「そうだ・・今までみたいに、僕が渚ちゃんを守ってあげないと・・・」

「その意気だよ、亮平♪」

 自信を取り戻す亮平に、汐が上機嫌に言いかける。

「ところで、渚ちゃんはどこに・・?」

 亮平の問いかけに汐が答える。すると亮平はすぐに渚のところに向かっていった。

「本当に大丈夫だろうか、亮平くんは・・・?」

 時雨は亮平に対して、不安の色を隠せないでいた。

「そこまで心配なら、あたしが様子を見てくるよ。時雨だとまたややこしくなっちゃうかもしれないから・・」

 汐は時雨に呼びかけると、亮平と渚を追って走り出していった。困惑を拭えずにいた時雨は、3人を追いかけることができなかった。

 

 汐からの連絡の中で促され、渚は1人家に戻っていた。亮平と時雨の心配をして、渚は不安に駆り立てられていた。

(亮平さん、時雨さん・・私のせいで、どうしてこんなことに・・・!?

 このような事態の発端として、渚は自分を責めていた。

(私のために争わないでください・・亮平さん・・・亮平さん・・・)

 悲痛さのあまり、涙を浮かべる渚。押し寄せる悲しみと不安に押しつぶされるような気分に陥り、彼女は震える自分の体を強く抱きしめることで精一杯だった。

 そのとき、家の玄関のドアが開かれる音がした。亮平たちが帰ってきたと思い、渚はその不安から解放された気分を覚えた。

「亮平さん・・・!」

 リビングから玄関に駆けていく渚。彼女に飛びつかれて、亮平が体勢を崩しそうになる。

「な、渚ちゃん!?・・どうかしたの!?・・どこか、ケガでもしたの・・・!?

「亮平さん・・・よかった・・無事でよかったです・・・」

 驚きの声を上げる亮平に、渚が安堵の言葉をかける。喜びのあまり、彼女の眼から涙があふれてきていた。

「あらま。時雨が心配するから代わりに来たけど、その必要はなかったみたいだね・・」

 遅れてやってきた汐が、亮平と渚が抱き合う姿を見て安堵の笑みを浮かべる。

「おーい、いつまで抱きついてるつもりー?」

 汐がのん気な声で呼びかけると、亮平と渚が我に返り、気恥ずかしくなって赤面する。

「姉さん・・相変わらず悪ふざけが好きなんだから・・・」

「ゴメン、ゴメン・・時雨も悪かったと思ってるから・・・」

 呆れて肩を落とす亮平に、汐が苦笑いを見せる。

「渚ちゃん、ホントに大丈夫?・・あたしたちがついてるから・・・」

 汐が笑顔で声をかけるが、渚は沈痛の面持ちを浮かべるばかりである。

「ここは女同士のほうが気が楽かもしれないね・・亮平、渚ちゃんをちょっとだけ借りるね・・・?」

「そ、それは僕よりも渚ちゃんがいいかどうかだよ・・・」

 問いかけてくる汐に、亮平が困惑気味に答える。2人は渚に視線を向けるが、彼女は沈痛さを浮かべるばかりだった。

「今日はあたしと一緒にいよう、渚ちゃん・・亮平も今日は家にいるから、会いたくなったらすぐに会えるから・・・」

「汐さん・・・はい・・・」

 汐の言葉をようやく受け入れて、渚は一緒に部屋に向かった。亮平もひとまず自分の部屋に戻ることにした。

 2人が汐の部屋に行ったが、亮平は2人のことを気にはしていたが、部屋をのぞこうとしなかった。2人を信じたための決断だった。

 しばらく1人で部屋でじっとしていると、家のインターホンが鳴り出したのを耳にした。亮平が玄関に向かうと、時雨が訊ねてきていた。

「時雨さん・・・」

「渚さんの様子はどうかな・・・?」

 当惑を見せる亮平に、時雨が深刻さを秘めて問いかける。

「今、姉さんと一緒にいる・・一緒なら大丈夫だと、僕は信じてる・・・」

「でも今は、渚さんの力を止めないといけない・・みんなを傷つけたくない。それは僕も同じだ・・・」

 信頼を募らせる亮平だが、時雨は渚を止めるという考えを変えてはいなかった。

「信じるだけでは変わらないこともある・・渚さんのことだって・・・」

「時雨さんは、姉さんを信じているんですよね・・・?」

 言葉を振り絞る時雨に、亮平が質問を投げかける。その問いに時雨が当惑する。

「時雨さんは姉さんを信じている・・僕は渚ちゃんを信じている・・・この信じる気持ちに、何の違いがあるっていうんだ・・・!?

「亮平くん・・・」

「信じてあげてください・・渚ちゃんを・・・渚ちゃんを信じている、姉さんを・・・」

 揺るぎない決意を告げる亮平に、時雨は反論できなかった。信じる気持ちは、時雨の中にもしっかりと渦巻いていた。

「しばらく待っていましょう・・何かあれば声をかけるように言ってありますから・・」

 呼びかける亮平に、時雨は渋々従うことにした。

 

 渚を連れて自分の部屋に来ていた汐。自分の中にいる自分に怯えて震える渚を、汐は優しく抱きしめて支えていた。

「大丈夫だよ、渚ちゃん・・・何を悩んでいるのか話してみて?・・亮平に知られたくないことだったら、2人だけの秘密にしていいから・・・」

「汐さん・・・私のために、本当にありがとうございます・・・」

 励ましの言葉を受けて、渚が微笑みかける。

「私、自分が怖いんです・・自分が変わってしまうような気がして・・・」

「それって、忘れている過去と関係しているの・・・?」

「分かりません・・そうなのかもしれません・・・」

 汐からの問いかけに渚が小さく頷く。

「どうしたらいいのでしょう・・・自分を抑えられない・・・」

「大丈夫だって・・あたしも亮平も時雨も、渚ちゃんのことを、しっかりと支えてあげるから・・・」

 不安になる渚を汐が抱きしめる。その抱擁に渚が戸惑いを覚える。

「あたしだって・・渚ちゃんのことを受け止められるんだから・・・」

「汐さん・・・ありがとう、ございます・・・」

 微笑みかける汐に抱かれて、渚は大粒の涙を流していた。

 

 時雨も東家に留まることにした。リビングにて、亮平との静寂の時間がしばらく続いた。

(何か起こっていないだろうか・・もしも渚さんが魔女に変わっているなら、その力を僕も感じ取っているはず・・・)

 渚への警戒を怠らない時雨。この静寂がまだ続くかと思われた。

 突如発せられた異形の気配を感じ取り、亮平と時雨が緊迫を覚える。その瞬間、近くで轟音が鳴り響いた。

(この気配・・ずっと感じてきた・・・また懲りずにアイツは・・・!)

 亮平は確信を抱いて外に飛び出した。一瞬渚と汐を気にした時雨だが、あえて亮平を追いかけた。

 2人が駆けつけた通り。そこではシードが不気味な哄笑を上げていた。

「シード・・・!」

「テメェらからやってきてくれるとはな・・嬉しい限りだぜ・・・!」

 苛立ちを隠せない亮平に眼を向けて、シードが哄笑を上げる。彼の姿が異形の怪物へと変貌していく。

「いい加減オレに殺されろ!そうすりゃすべて終わるんだよ!」

「ここまでしつこいと逆に感心するよ、アンタ!」

 怒号を放つシードに言い返すと、亮平も異形の姿に変身する。時雨も続けて異形に変身する。

「お前にウロウロされると迷惑なんだよ・・これ以上付きまとうなら、今度こそ息の根を止めてやる・・・!」

「でかい口叩きやがって・・2度と叩けなくしてやる!」

 時雨の言葉に苛立つシード。飛びかかったシードが、亮平と時雨に両腕で突進を仕掛ける。

 だがすぐにシードの腕をかいくぐり、亮平と時雨が身構える。

「オレは渚ちゃんを守るんだ・・お前なんかに傷つけられてたまるか・・・!」

 言い放つ亮平が、体色を赤に変える。力を高めた彼が、シードとの真っ向勝負に挑もうとしていた。

 

 その頃、渚も亮平たちの異形の気配を感じ取っていた。気配を感じることができない汐は、渚がなぜ震えているのか、すぐに分からなかった。

「どうしたの、渚ちゃん?・・もしかして、亮平たちが・・・!?

「はい・・シードという人と戦っています・・・」

 汐が訊ねると、渚が小さく頷く。

「またアイツが暴れてるのね・・・大丈夫だよ。亮平と時雨なら負けないって。」

「そうですよね・・・でも不安なのは、亮平さんたちのことじゃないんです・・・」

 励ます汐に対し、渚は不安を拭えずにいる。その様子に汐が当惑を覚える。

「亮平たちのことじゃないなら、過去のことなの・・・!?

「はい・・・止められない・・自分の中にいる自分を・・・」

 説明しようとする渚が、突然苦悶の表情を浮かべて、たまらず汐を突き飛ばす。

「な、渚ちゃん・・・!?

「逃げて・・逃げてください・・汐さん・・・!」

 再び当惑する汐に、渚が声を振り絞る。彼女の体から淡い光があふれてきていた。

「渚ちゃん!?・・どうしたの、いったい・・・!?

「ダメ・・汐さん・・・私に・・近づいたら・・・!」

 近寄ろうとした汐と渚が制する。光は徐々に強まり、汐の眼をくらますほどになった。

「渚ちゃん・・・渚ちゃん!」

 光に包まれた渚に、汐がたまらず声を張り上げる。やがて光が弱まり、渚の姿がはっきりとしてくる。

「渚ちゃん・・・」

 汐は動揺の色を隠せなくなっていた。眼の前にいるのが、自分の知っている渚でないと痛感していたからだ。

「ただの人間か・・刃向かってきても、何の障害にもならない・・・」

 渚が低い声音で呟きかける。変わり果てた彼女を眼にして、汐が息を呑む。

「いつもの渚ちゃんじゃない・・・どうしたの、渚ちゃん・・・!?

 汐が呼びかけるが、渚は妖しい笑みを浮かべるばかりだった。

「近くに力を感じる・・私に牙を向く者なのだろう・・・」

 渚は呟きかけると、体に光を宿したまま部屋を出ようとする。だが背後から抱きついてきた汐に止められる。

「待って、渚ちゃん!外は危ないよ!行かないで!」

 必死に渚を呼び止めようとする汐。だが渚は汐を振り払う。

「信じられない・・こんなの、渚ちゃんじゃない・・・!」

「渚ではない?・・これが私なのだよ・・・」

 愕然となる汐に、渚が微笑みかける。

「これが現実・・・これが本当の私だったのだ・・・」

「そんなことない・・渚ちゃんが、こんなこと言うなんて・・・!」

 哄笑をもらす渚を目の当たりにして、汐は絶望に打ちひしがれていた。

 

 渚の中にいる魔女の気配を、シードと戦っていた時雨が感じ取った。

「この気配・・・!」

 緊迫を膨らませる時雨が、攻撃の手を止める。亮平と組み合っているシードも、渚の力を感じて眼を見開く。

「また魔女が動き出したか・・どいつもこいつも、オレをイラつかせやがる・・・!」

 亮平の腕を振り払おうとするシードだが、力負けして押されていく。

「負けられないって言っただろ・・このまま押し切ってやる・・・!」

「いい気になるな、ガキが・・テメェなんかがオレを止められねぇんだよ!」

 決意と怒号を言い放つ亮平とシード。だがシードは亮平を押し返せず、力のある両手に突き飛ばされる。

「ぐあっ!」

 力を大きく消耗してうめくシード。彼の両腕は折れる寸でのところまで追い込まれていた。

「これで終わりだ・・いい加減に倒されろ・・・!」

 息を切らしながらも、亮平がシードに言い放つ。敗北を認めたくなかったため、シードは苛立ちを見せるしかなかった。

 体色を青に戻した亮平が拳を繰り出す。腕を思うように動かせなかったシードが、防ぐこともできずにこの一撃を受ける。

「ごあっ!」

 絶叫を上げながら、シードが激しく横転する。激痛にさいなまれたシードは人間の姿に戻り、もはや立ち上がる力さえも失っていた。

 それでも立ち上がろうと力む彼の前に、亮平が立ちはだかってきた。

「今度こそ終わりだ・・2度とオレたちの前に現れないように、ここで粉々にしてやる・・・!」

「フン・・そんなのん気にしてていいのかよ・・・」

 低く告げる亮平に、シードが不敵な笑みを見せる。その笑みに亮平が眉をひそめる。

「さっきから魔女が現れてんのに気付かねぇなんてな・・どこまでもおめでたいヤツだぜ・・・」

「魔女?何度も言わせるなって。渚ちゃんのことを言ってるなら大間違いだ。渚ちゃんは魔女なんかじゃない・・絶対にだ・・・」

「だったらその眼で確かめてこいよ・・テメェの女は、テメェの知ってる女じゃなくなってるからよ・・・」

 シードの言葉を聞いて、亮平は心を揺さぶられる。ここで彼は、時雨の姿がどこにもないことに気づく。

「時雨さん!?・・・時雨さんも、シードの感じた気配に気付いていた・・・!?

 不安を募らせる亮平が、シードにとどめを刺さないまま、時雨を追いかけていった。

 

 

次回

第20話「暴走する力」

 

「邪魔をするなら、何だろうと容赦しない・・・」

「テメェが絶望するだけでもよしとするか・・・」

「きれいなお前に、私から慈悲を与えてやるぞ・・・」

「ゴメンね、時雨・・・何も、してあげられなくて・・・」

 

 

作品集

 

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