ガルヴォルスForce 第18話「魔女」
渚が放った閃光を受けて、左肩を負傷する時雨。傷ついた肩を押さえて、彼は後退していく。
「渚さん・・やめるんだ・・・こんなこと、誰が望んだんだ・・・!?」
必死に声を振り絞り、渚に呼びかける時雨。だが肩の痛みで力が入らず、彼は人間の姿に戻ってしまう。
「私に近づく異形の存在は、全て葬り去る・・・」
渚が時雨に向けて右手をかざす。その手の平に光が集束されていく。
「渚ちゃーん!」
そこへ亮平の声が飛び込んできた。その声を耳にした途端、渚が再び頭に激痛を覚える。
(また、この痛み・・しかも、今度はさらに・・・!)
押し寄せる頭痛に平穏さを保てなくなる渚。彼女の体から完全に光が消失する。
「亮平さん・・・亮平・・さん・・・」
弱々しく声を振り絞って、渚がその場に倒れる。直後に亮平が駆け込んできた。
「渚ちゃん!?渚ちゃん、しっかりして!」
「亮平くん・・渚さんは・・・」
渚に呼びかける亮平の後ろで、疲弊した時雨が倒れる。
「時雨さん!?」
汐、渚に続いて時雨まで倒れ、亮平は愕然となる。
「いったい・・何があったっていうんだ・・・!?」
この場で起こったことが何か分からず、亮平は困惑していた。
亮平を逃がしたシードは、苛立ちを隠せないでいた。だが彼は亮平との戦いと比べて冷静さを取り戻していた。
(またあのガキに邪魔されるとはな・・こうなったら皆殺しにするしかねぇようだな・・・)
胸中で呟いて、シードが亮平にも渚にも敵意を向けていた。
(必ずつぶしてやる・・必ずオレが勝利をもぎ取ってやる・・・!)
いきり立ったシードが行動を起こす。自分の行く手をさえぎるものは全て壊さなければ気が済まない。それがシードのこれまでの生き方だった。
先に眼を覚ましたのは汐だった。彼女は困惑気味になっている亮平を目の当たりにする。
「亮平・・あたし・・・?」
「姉さん・・目が覚めたんだね・・・」
きょとんとなる汐の声を耳にして、亮平が振り向いて笑みを見せる。
「姉さん、ここで何があったのか、分かる・・・?」
「怪物に襲われて、それからのことを何も・・・渚ちゃんがここにいるってことは、無事だったってことだよね・・・時雨!?」
亮平の質問に答えると、汐が時雨の姿を見て駆け寄る。
「時雨!眼を覚まして、時雨!」
「汐ちゃん・・僕は大丈夫・・・」
汐の悲痛さを込めた呼びかけを受けて、時雨が声をかける。だが渚の姿を眼にして、時雨は表情を曇らせる。
(渚さん・・・連中が言ったように、渚さんは魔女かもしれない・・・)
心の中で、時雨は渚への懸念を抱いていた。
(渚さんの中に、魔女としてのもう1人の渚さんがいる・・・何とかしないと・・渚さんを放っておいたら、亮平くんまで・・・)
時雨は一抹の不安を感じていた。いつか渚が亮平まで傷つけてしまうのではないかと。
(すぐに話を切り出すのはまずい・・汐さんに後で話そう・・・)
時雨はその不安をすぐに切り出さず、渚の様子を伺うことにした。
なかなか意識の戻らない渚は、亮平に抱えられて家に連れて来られていた。彼女の私室で横たわっていた。
「渚ちゃん、大丈夫だろうか・・・?」
「アンタが渚ちゃんを1番信じてるんでしょ?だったら最後まで信じてあげないとダメだって・・」
不安を口にする亮平に、汐が呼びかける。その言葉に励まされて、亮平が笑みを取り戻す。
「そうだね・・僕が信じてあげないと、渚ちゃんがかわいそうだ・・・」
元気を取り戻した亮平を見て、汐も笑みをこぼした。そこへ時雨がやってきて、ドア越しに汐に眼を向けてきた。
「汐ちゃん、ちょっといいかい・・・?」
時雨の呼びかけに汐は小さく頷き、立ち上がる。
「亮平は渚ちゃんを見てて・・目が覚めたら声をかけて・・」
汐が言いかけると、亮平は無言で小さく頷く。それを確かめてから、汐は部屋を出た。
「どうしたの、時雨・・・?」
「汐ちゃんには話しておかないと思ってね・・・」
汐が訊ねると、時雨が深刻な面持ちを浮かべる。
「汐ちゃんと渚さんを襲ってきた怪物たちを倒したのは、渚ちゃんなんだ・・」
「えっ?・・ちょっと時雨、いきなり何言い出すの・・・!?」
時雨が切り出した言葉に、汐が驚きを見せる。
「そ、そんなことありえないって・・渚ちゃん、今まで全然怪物になったことなんてないって・・・!」
「でも現に渚さんが怪物たちを倒していた・・・そのときの渚さん、まるで別人のようだった・・・」
信じられない気持ちでいっぱいになる汐に、時雨が自分が見たことをそのまま伝える。
「渚さんは過去の記憶を失っているって言ってたよね?・・もしかしたら渚さん、記憶を失う前は・・」
「そんなことないって!あの渚ちゃんが、怪物と同じだなんてありえないって・・・!」
時雨が告げた言葉を、汐が拒絶して叫ぶ。だが時雨は深刻さを浮かべたままだった。
「信じたくない気持ちは分かる・・でも最悪の場合、渚さんが亮平さんを傷つけてしまうことも否定できない・・・」
「勝手なこと言わないでよ・・そんなこと・・そんなこと絶対にありえない・・・」
心を鬼にして言いかける時雨の言葉を否定するあまり、汐は眼から涙をこぼしていた。
亮平が見守る中、渚がようやく意識を取り戻した。
「渚ちゃん・・・よかった・・このまま眼を覚まさないんじゃないかって、心配したよ・・・」
「亮平さん・・・私、どうしてしまったのでしょうか・・・」
安堵を浮かべる亮平と、不安を浮かべる渚。
「またおかしなことになっていました・・このままではいつか、知らない間に亮平さんまで傷つけてしまうことに・・・」
「何を言っているんだ、渚ちゃん!?」
自分を責める渚に、亮平がたまらず呼びかける。
「渚ちゃんは何も悪くない!渚ちゃんの悩みは、僕も向かい合いたいと思ってるから!」
「亮平さん・・・」
亮平からの優しさを改めて感じ取って、渚は涙を浮かべていた。亮平と一緒ならば不安を解消できる。過去の恐怖を乗り越えられる。渚はそう思っていた。
「そうだ。姉さんと時雨さんに知らせないと・・2人も心配していたから・・」
亮平は言いかけると、時雨と汐を呼びに部屋を出て行った。その後ろ姿を笑顔で見送った渚だが、すぐに表情が曇る。
(亮平さんはここまで私を信じてくれている・・そんな亮平さんを、私は傷つけたくない・・・)
渚は願った。自分の中にある邪な力がこれ以上暴走しないことを。
その翌日、亮平と渚は家にいた。汐はバイトで出かけており、渚の介抱を亮平が受け持っていたのである。
「渚ちゃん、もう少し休んでいたほうが・・昨日、あんなことがあったばかりだから・・・」
「ありがとうございます、亮平さん・・でも動いていたほうが気が楽になりますから・・」
心配する亮平に、渚が笑顔を見せる。彼女は体の疲れよりも、不安や恐怖を気にしていた。
「何かあったら僕に言ってね。ムリすると体に毒だからね・・」
「はい・・・」
呼びかける亮平に渚が微笑んで答える。だが彼女は空元気を見せているだけだと、誰の眼にも明らかだった。
「今日は僕が食事当番だった・・でも確か冷蔵庫の中が少なかったような・・・」
「亮平さん・・・?」
突然わざとらしいことを言い出した亮平に、渚が戸惑いを覚える。
「よかったら一緒に買い物に行かない?体を動かすなら、外に出たほうが何かと効果的だし・・」
「亮平さん・・・そうですね・・そのほうがいいかもしれませんね・・・」
亮平の案に同意して、渚が小さく頷いた。家での仕事を終えると、2人は買い物に出かけた。
「ん〜ん。天気がいいと空気もおいしい。思わず背伸びしちゃいそうだよ・・・」
深呼吸して気分をよくする亮平を見て、渚も笑みをこぼす。
「いつまでも今日みたいないい天気のように、晴れ晴れした時間が続きますように・・」
「亮平さん・・私も亮平さんと、いつまでも一緒にいたいです・・・ですが・・・」
感謝の言葉を口にする亮平に対し、渚が表情を曇らせる。
「私が知らない間に、亮平さんを傷つけてしまうかもしれません・・もしまた、私がおかしくなったときは、迷わずに・・・」
渚が沈痛さを込めて、亮平に言いかけたときだった。
「いたいた。こんなとこに魔女がいた・・」
「今度こそ魔女を始末してやるぞ・・」
不気味な男たちが、またもや渚を狙って姿を現した。
「お前たち・・・性懲りもなくまた・・・!」
迫る男たちに亮平が毒づく。渚は恐怖を浮かべて、亮平の後ろに身を潜める。
「魔女をやっつけたら、もうお前に近づくことはない・・」
「だから早く魔女をやらせてよ・・」
いきり立った男たちが、続々と怪物に変貌していく。苛立ちを見せる亮平の頬に紋様が走る。
「いい加減にしろって・・いつまで渚ちゃんに付きまとってる気なんだ・・・!」
異形の姿に変身した亮平が、向かってきた怪物たちを迎え撃った。即座に体色を赤にして、亮平が力で怪物たちをねじ伏せる。
「渚ちゃんは僕から離れないで!アイツら、逃げたところを狙ってくる!」
亮平の呼びかけに渚が小さく頷く。力では亮平が上だったが、数の多さに彼は体力を奪われていた。
「さすがに連中のしつこさには参ってしまうな・・」
疲れを感じて息が上がってきた亮平。そのそばで渚が、彼の姿を心配しながら見守っていた。
「こうなったら一気に決めてやる・・渚ちゃん、危ないからそこから絶対に動かないで・・・!」
「は、はい・・分かりました・・・」
亮平の呼びかけに渚が戸惑いながら答える。すると亮平が体色を金色に変えて、一気に加速する。
「渚ちゃんには手を出させないぞ!」
言い放つ亮平の猛攻によって、ついに怪物の大群は撃退されたのだった。疲れ果てた亮平が動きを止めてひざを付き、そのまま人間の姿に戻ってしまう。
「亮平さん!」
慌てて亮平に駆け寄っていく渚。すると亮平が作り笑顔を見せる。
「大丈夫だった、渚ちゃん?・・ケガとか、してない・・・?」
「はい・・亮平さんが、私を守ってくれましたから・・・」
問いかける亮平に、渚が涙ながらに頷いた。
「それにしても、本当に参っちゃうなぁ・・渚ちゃんを魔女呼ばわりして、集団で襲いかかってくるなんて・・」
肩を落とす亮平が口にした言葉に、渚が不安を覚える。心の奥底にいるもう1人の自分こそ、怪物たちのいう魔女であると、彼女は自覚していた。
そのとき、亮平の表情が再び険しくなる。彼は近づいてくる足音を耳にしていた。
「亮平さん・・・?」
「誰かが近づいてくる・・また新しい怪物かも・・・」
注意を強める亮平の言葉を聞いて、渚が不安を覚える。足音が徐々に近くなっていく。
警戒心を強めていく2人の前に現れたのは、時雨だった。
「時雨さん・・・ビックリさせないでくださいよ・・・」
「亮平くん、渚さん・・・?」
安堵を浮かべる亮平と、事情が飲み込めずきょとんとなる時雨。
「少し遅かったですね、時雨さん。さっき怪物たちが襲ってきたのですが、僕が全部やっつけましたから・・」
気さくに言いかける亮平の言葉を耳にして、時雨が渚に眼を向ける。清楚な少女の心の中に、邪な魔女が潜んでいる。時雨の中に渚への敵意が膨らんできていた。
「亮平くん、ちょっと下がっていてくれないかな・・・」
「時雨さん・・・?」
時雨が切り出した言葉に、亮平が眉をひそめる。時雨が未だに震えている渚に近づいていく。
「ゴメン、渚さん・・だけど、みんなのために、こうするしかないんだ・・・」
振り絞るように言いかける時雨が異形の姿に変身する。その変貌に亮平が眼を見開く。
「時雨さん・・何を・・・!?」
眼を疑う亮平の前で、時雨が具現化させた剣を構える。突然のことに渚が恐怖を膨らませる。
そこへ亮平が割り込み、異形の姿になって時雨の剣を受け止める。
「何をするんだ、時雨さん!?」
「亮平くん!?」
亮平の乱入に時雨が驚愕を見せる。亮平が時雨を引き離し、渚を守ろうとする。
「何を考えているんだ、時雨さん!?どうして渚ちゃんを襲いかかろうとしたんだ!?」
「聞くんだ、亮平くん!渚さんを襲ってきた怪物たちの考え、あながち間違っているとは言い切れないんだ・・・!」
声を荒げる亮平に時雨が呼びかける。だが亮平は聞き入れようとしない。
「あんなバケモノたちのいうことを聞き入れるつもりなのか、時雨さんは!?・・魔女だからって、時雨さんも渚ちゃんを襲うというのですか・・・!?」
時雨の行動が理解できず、亮平が静かな怒りを膨らませていく。
「待つんだ、亮平くん!まず話を・・!」
「やっぱりアンタとは、きちんと決着を着けないといけないみたいだ・・・!」
呼びかける時雨だが、亮平は怒りに駆り立てられていた。
「渚ちゃん、すぐに姉さんのところに行って・・・」
「でも、それでは亮平さんと時雨さんが・・・!」
静かに呼びかける亮平に、渚が声を返す。
「時雨さん、どういうわけか渚ちゃんを狙ってる・・どんな理由があったって、渚ちゃんを傷つけていいことにはならないんだ・・・!」
亮平に言いとがめられる渚。亮平の言葉を素直に受け止められずにいるも、彼女は言葉を出すことができなかった。
「邪魔をしないでくれ、亮平くん・・でないと君は、必ず後悔する・・・!」
「そこまで渚ちゃんを嫌うっていうのか・・・本気であなたは・・・!」
時雨の呼びかけに亮平が反発する。亮平が飛びかかり、時雨に向けて拳を繰り出す。
時雨が剣をかざして、亮平の拳を受け止める。そのまま剣を振りかざし、亮平を引き離す。
「早く行くんだ、渚ちゃん!」
「亮平さん・・・」
亮平に呼びかけられて、渚はやむなく汐を呼びに向かう。
「それが君の答えなら、僕はどうしても君をどかさないといけない・・・!」
「あなたって人は・・・そこまで渚ちゃんを!」
時雨の忠告に、再び怒りをあらわにする亮平。だが時雨は向かってきた亮平に剣を振りかざしていた。
その一閃を回避していく亮平。だが渚を守るため、亮平は退こうとしなかった。
反撃に転じて拳を叩き込んでいく亮平。この打撃を時雨が剣で受け止めていく。
(このままでは押されてやられてしまう・・たとえ傷つくことになっても、亮平さんを止めないと!)
焦りを覚えた時雨が亮平との距離を取り、力を集中させる。
「君にケガをさせることになるけど・・ここは力ずくでも君をどかして、渚さんの力を封じ込める!」
「どこまでも勝手なことを!」
集中力を高めた時雨に、亮平が飛びかかる。最大出力の2つの力がぶつかり合い、周囲を激しく揺るがした。
次回
「どうしたらいいのでしょう・・・自分を抑えられない・・・」
「信じる気持ちに、何の違いがあるっていうんだ・・・!?」
「どうしたの、渚ちゃん・・・!?」
「これが現実・・・これが本当の私だったのだ・・・」