ガルヴォルスForce 第17話「終わりなき追跡」
亮平と渚のお出かけをからかい半分で見送った汐。だが汐の中には嫉妬心が芽生えつつあった。
「ああやってからかってみたものの、やっぱり嫉妬してしまうのは否めないかなぁ・・」
ため息混じりに言いかける汐。すると玄関のドアが開かれる音がした。
「噂をすれば何とやらかな・・」
椅子に腰掛けていた汐が立ち上がり、玄関に向かう。そこには疲れ果てた亮平と渚が倒れ込んでいた。
「亮平!?渚ちゃん!?」
驚きをあらわにする汐が、亮平と渚に呼びかける。
「亮平、しっかりして!どうしたの、渚ちゃん!?」
「さ、散歩の途中に怪物に襲われてね・・ちょっと疲れただけ・・・」
「怪物って・・ホントに大丈夫なの!?ケガとかしてない!?」
「ケガも傷もないって。ホントに疲れただけだって・・」
汐の心配に亮平が作り笑顔を見せる。
「分かった。疲れたなら今日は休みなさい。でも、あたしが心配していること忘れないでよね。」
「ありがとう、姉さん・・お言葉に甘えて、今日はもう休ませてもらうよ・・」
汐の言葉に亮平が答える。それをよそに、渚が自分の部屋に向かっていたが、とても安心できる様子には見えなかった。
「渚ちゃん、大丈夫なのだろうか・・・」
亮平も一抹の不安を感じていた。渚に何があるのか。彼も不安視せざるを得なかった。
夕食の時間まで小休止することにした亮平。しかし渚が心配になり、とても休まる気になれなかった。
そんな気持ちのまま部屋にいる彼の部屋のドアが、ゆっくりと開かれた。その音を耳にして、亮平が体を起こす。
そこにいたのは渚だった。彼女は沈痛の面持ちを浮かべて、亮平を見つめていた。
「渚ちゃん・・・」
戸惑いを見せる亮平に、渚がすがり付いてきた。
「な、渚ちゃん・・・!?」
「亮平さん・・・怖いです・・・私自身が・・・」
驚きの声を上げる亮平に、渚が涙ながらに言いかける。
「私は本当に誰なのでしょうか・・・知らないうちに、誰かを傷つけているような気がしてならない・・いつか、亮平さんだって・・・」
「大丈夫だって・・前にも言ったじゃないか・・渚ちゃんがどんな人だったって、僕はどんなことでも受け止めるって・・・」
自分への不安に駆り立てられる渚に、亮平が励ましの言葉をかける。それでも渚の不安と震えは治まらない。
(いったい、何があったっていうんだ・・渚ちゃんに・・・)
亮平も渚への心配を消し去ることができないでいた。
同じ頃、汐は時雨に電話をかけていた。彼女は亮平と渚の様子を彼に打ち明けていた。
“そんなことが、2人にあったなんて・・・”
「亮平は何でもないって言うんだけど、とてもそういう風に見えなくて・・・」
時雨の反応を聞いて、汐も沈痛さを膨らませる。
“もしかして、これは渚さんの記憶に関係しているんじゃ・・・”
「渚ちゃんの記憶・・・?」
“記憶を失う前に、渚さんに何かがあって・・それが彼女に負担をかけてるんじゃ・・・”
「・・・それが思い過ごしであってほしいんだけどね・・・」
時雨と言葉を交わすうち、汐は物悲しい笑みを浮かべてきた。
“何かあったら僕に連絡して。すぐに駆けつけるから・・”
「ありがとう、時雨・・亮平と渚ちゃんも喜ぶよ・・・それじゃまたね。ホントにありがとう、時雨・・」
時雨に感謝を告げると、汐は電話を切った。
(あたしだって、力になってあげられるんだからね・・頼りにしてよね、亮平、渚ちゃん・・・)
2人への信頼を胸に宿して、汐は今後に備えるのだった。
亮平、時雨、渚への敵意をむき出しにしたまま、シードは街を徘徊していた。泥酔した中年は、彼に肩が当たっただけで瞬殺されることとなった。
「ヤツらめ・・必ず始末してやるぞ・・このままでは絶対に済まさせねぇぞ・・・!」
怒りの言葉を口にするシード。その最中、彼は人間の姿をしている異形の存在を発見する。
「ちょっと待て、テメェら・・・!」
鋭く言いかけるシードに、男たちが思わず足を止める。
「テメェら今、魔女がどうのこうの言ってたな・・・!?」
「は、はい・・・」
「詳しく聞かせてもらおうか・・もしかして、あの渚って小娘のことなのか・・・!?」
眼つきを鋭くするシードに、男たちはやむなく、知っていることを全て話した。
「オレたちの探してる魔女とあなたが探している女が同一人物かどうかは分からない・・・」
「だけど、魔女はオレたちの天敵なんだ・・倒さないと、オレたちに未来はない・・・」
男たちが魔女への畏怖を口にする。だがシードは不敵な笑みを浮かべていた。
「魔女か・・面白いことになってるじゃねぇか・・・」
「あ、あなたも魔女を倒そうと・・・」
男たちが期待の笑みを浮かべると、シードにいきなり首をつかまれた。
「勘違いするなよ。オレはテメェらのようなクズの味方をするつもりはねぇ。魔女がオレの邪魔になりそうだから片付けるだけだ。」
鋭く言いかけると、シードは男たちから手を離す。
「オレの邪魔をするな・・邪魔したら確実に死ぬ・・覚えとけ!」
シードは言い放つと、男たちの前から立ち去っていった。
「アイツ・・1人で魔女をやっつける気かも・・・」
「何にしても、魔女を始末できるなら、オレたちは万々歳だな・・」
シードの力と態度に畏怖しながらも、男たちは期待を膨らませていた。
不安に襲われている渚を気遣おうとする汐。彼女は渚を連れて買い物に出かけた。
いろいろな場所に出かけて、買い物や食事を行っていく。しかし渚はなかなか笑顔を見せてくれない。
「元気出して、渚ちゃん・・でないと亮平まで元気がなくなっちゃうよ・・あたしだって・・・」
「すみません、汐さん・・・ですが、私・・・」
呼びかける汐だが、それでも渚は笑わない。
「成せば成る。何とかなる。先のことで余計な不安を抱えるのはよくないよ。あたしはそう思ってる・・」
「余計な不安ですか・・・汐さんのように明るく前向きになれればいいのですが・・・」
「気持ちの持ちようだよ。前向きになろうとすれば前向きになるし、後ろ向きに考えちゃうと後ろ向きになっちゃう。だからどんなことがあっても、前に向かって歩いていく・・・亮平には、猪突猛進だって呆れられてるんだけどね・・」
「でも、汐さんらしくれいいと思いますよ・・・」
「あ、今笑った♪」
ようやく笑顔を取り戻した渚に、汐が笑みをこぼした。
「そ、そうですか・・アハハハ・・確かに笑っていますね・・」
「そうそう、その意気♪このままスマイルタイムね♪」
微笑む渚と、満面の笑顔を見せる汐。2人はこれから楽しい時間を過ごそうと考えていた。
「おやぁ?こんなところに小娘と出会えるなんてなぁ・・」
そこへ声がかかり、渚と汐が振り向く。その先にいたのは、不敵な笑みを見せるシードだった。
「シード!?」
渚が恐怖を覚えて後ずさりする。だが汐はシードを鋭く睨みつけていた。
「あなたのことは時雨から聞いてるよ・・よくもみんなをひどい目にあわせてくれたね!」
「邪魔すんなよ・・オレは今、そっちの小娘の相手をしてんだよ・・」
言い放つ汐にシードが鋭く言いかける。しかしそれでも汐は退かない。
「あたしはただの人間だけど、やるときにはやるからね!」
「自惚れんなよ、女!そんなに死に急ぎてぇか!」
汐の言動にいきり立ったシードが異形の姿に変身する。その瞬間、汐が後ろから突然引っ張られた。
「えっ!?」
「逃げましょう、汐さん!」
驚きの声を上げる汐を引っ張って、渚が駆け出していく。
「先に逃げてほしかったんだけど・・・」
「汐さんだけを置いて、私だけ逃げるなんてできません・・・!」
苦笑いを浮かべる汐に、渚が悲痛さを浮かべて言いかける。その2人の前に、シードが回りこんできた。
「あんなマネして、逃げられると思ってんのか・・・!?」
哄笑を浮かべるシードに、渚と汐は焦りを覚える。
そのとき、亮平がバイクに乗って走り込み、そのままシードに突進してきた。虚を突かれたシードが渚と汐の上を飛び越え、大きく横転する。
「大丈夫、渚ちゃん、姉さん!?」
「亮平・・・」
「亮平さん・・・」
呼びかける亮平に、汐と渚が戸惑いを見せる。そこへ起き上がったシードが立ちはだかってきた。
「女の危機に参上する王子様ってか!?笑わせてくれるな!」
亮平をあざ笑うシード。彼を見据える亮平の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「姉さん、渚ちゃんを連れて逃げるんだ!」
呼びかける亮平が異形の姿に変身する。亮平が飛びかかり、シードに拳を叩き込む。
その拳を受け止めて、不敵な笑みを浮かべるシード。彼は汐に連れられて逃げる渚に眼を向けていた。
(魔女か・・お前にふさわしい呼び名だな!)
男たちの言葉を思い返して、シードは異質の力を発揮する渚を嘲る。
「おい、ガキ!あの小娘がどう思われてるか、知ってるのか!?」
シードが突然切り出してきた言葉に、亮平が眉をひそめる。
「魔女だって・・オレたちバケモノからも魔女呼ばわりされてるんだから!アイツの持ってる力は、まさに魔女そのものだ!」
「それが何だって言うんだよ!?」
高らかに言い放つシードを、亮平が押し切ろうとする。
「誰だろうと関係ない!渚ちゃんは、僕が守る!」
「言ってくれるな、クソガキのくせによ!」
決意を言い放つ亮平をあざ笑うシード。体色を赤に変えた亮平が、力を込めて拳を叩き込む。
「ぐっ!」
重みのある攻撃に怯み、シードが突き飛ばされる。
「いい加減、オレたちの前に出てくるな!オレたちは、絶対にお前の思い通りにはならないっての!」
「どこまでも勝手なことを・・このクソガキが!」
亮平の言葉に怒りを爆発させるシードが、全身から刃を放出する。とっさに体色を金色に変えた亮平が、連射される刃を回避していく。
(シード以外にも他の怪物たちも渚ちゃんを狙ってる・・シードばかりに気を取られてる場合じゃない・・・!)
渚と汐の身を案じた亮平が、シードとの戦いを中断して、この場から離れていく。理性を失っていたシードは、亮平の退散にも気付いていなかった。
汐とともに逃走を続けていた渚。だがその2人を他の怪物たちが狙っていた。
「もう!どうしてあんな気持ち悪いのばかりに好かれるのよー!」
押し寄せてくる怪物たちに、汐がたまらず叫ぶ。
「やはり亮平さんのところに戻ったほうが・・」
「戻るところで追いつかれそうだよ・・せめて時雨に連絡を入れておかないと・・・」
不安を口にする渚に答えながら、汐が時雨に連絡を入れようとした。だが2人の前に怪物たちが回り込んできた。
「し、しまった!」
「鬼ごっこはおしまいだ・・」
「鬼はオレたちじゃなくてアイツだけどな・・」
顔を強張らせる汐に、怪物たちが不気味な笑みを浮かべる。
「さーて、今度こそ魔女を始末してやるぞ・・!」
「キャッ!」
怪物の1人が突き出した右手を受けて倒される渚と汐。その衝撃で汐が気絶してしまう。
「う・・・汐さん!?汐さん!」
渚がたまらず汐に呼びかける。だが汐は眼を覚まさない。
「安心しろ・・そこの女も後から追わせてやるからさ・・・」
「今度こそ魔女の最後だ・・・!」
いきり立った怪物たちが、渚に手を伸ばす。
「私に触れるな・・・」
そのとき、攻撃を加えようとした怪物が突き飛ばされる。渚が発した衝撃波が、怪物を撃退したのである。
「ま、まただ・・・!」
「魔女は記憶をなくしてるが、一時的に本性を現してくる・・・!」
「これじゃ迂闊に始末できないじゃないか・・・!」
怪物たちが渚の力に畏怖し、後ずさりする。渚が眼つきを鋭くして、怪物たちに言い放つ。
「性懲りもなく私に牙を向くのか・・愚か者どもが・・・」
「だ、だってお前は魔女だ・・・!」
「魔女は倒さないと、オレたちに未来はないって!」
抗議の声を上げる怪物たちだが、渚は聞く耳を持たなかった。
「死ななければ後悔もできないとは・・もはや愚の骨頂でしかない・・・」
渚は全身から閃光を放出する。その光の衝撃で、怪物たちが消滅していった。
「何ということだ・・これでは迂闊に攻撃できない・・・!」
「けど、逃げ回ったって、いつか魔女に食いつぶされるだけだ・・・!」
「こうなったらやってやる・・当たって砕けてやる!」
恐怖を振り払おうといきり立ち、怪物たちが無謀の特攻を仕掛ける。だが渚の放つ光を受けて、怪物たちが鮮血をまき散らして倒されていった。
その血が頬についても、渚は全く顔色を変えない。
「どいつもこいつも、身の程知らずで気分が悪くなる・・・」
苛立ちを浮かべて、頬の血を拭う渚。そこへ汐からの連絡を受けて、時雨が駆けつけてきた。
「渚さん・・・何が、どうなっているんだ・・・!?」
様子の一変した渚を目の当たりにして、時雨が緊張を膨らませる。
「お前も異形の存在か・・お前も私に無謀の戦いを挑むのか・・・?」
渚が鋭い視線を時雨に傾けてきた。その睨みに時雨の緊迫が一気に強まる。
(渚さんじゃない・・このままでは渚さんを狙ってきた怪物たちだけじゃなく、僕や汐ちゃんまで・・・!)
危機感を覚えた時雨の頬に紋様が走る。彼が異形の姿に変身したことで、渚の殺気が強まっていった。
「お前も始末されなければならないようだな・・・」
「待ってくれ、渚さん!落ち着くんだ!」
冷徹に告げる渚に時雨が呼びかける。だが渚は時雨に向けて右手をかざす。
「待つんだ!そばには汐ちゃんがいるんだ!汐ちゃんを傷つけてもいいのか!?」
時雨が悲痛さを込めて呼びかける。その声を耳にしたとき、渚が突如苦痛を覚えて顔を歪める。
「あ、あぐっ!・・な、何だ、これは・・・!?」
頭に激痛を覚える渚がふらつく。彼女自身、何が起こっているのか分かっていなかった。
「汐さんを傷つけたらいけない・・やめて・・・やめて・・・!」
渚の声色が変わった。普段の彼女の声色に戻っていた。
(もしかして、渚さんの中に、別の人格があるんじゃ・・・!?)
時雨は渚の異変に困惑していた。彼女から発せられる光が徐々に弱まっていく。
「眼を覚ますんだ、渚さん!亮平くんもすぐに来るから!」
「亮平さん・・・亮平さんが・・・」
時雨の立て続けの呼びかけに反応を見せる渚。脱力した彼女は、その場に静かに座り込む。
「渚ちゃん、大丈夫かい!?」
時雨が心配の声をかけて、渚に駆け寄っていく。
(敵は倒せ・・邪魔者は全て始末するのだ・・・)
だがこのとき、渚の中にあるもうひとつの人格が眼を覚ましていた。
「ぐっ!」
顔を上げた渚が発した閃光が、近づいてきた時雨の左肩を突き刺した。
「私に近づく異形の存在は、全て葬り去る・・・」
時雨に対し敵意を見せる渚。彼女の中に眠っていた邪なる意思が、表に現れたのだった。
次回
「渚さんを放っておいたら、亮平くんまで・・・」
「渚ちゃんは何も悪くない!」
「もしまた、私がおかしくなったときは、迷わずに・・・」
「やっぱりアンタとは、きちんと決着を着けないといけないみたいだ・・・!」