ガルヴォルスForce 第14話「力の復活」

 

 

 渚から突如放たれた閃光。その光に亮平とシードだけでなく、彼女自身も驚きを感じていた。

「何がどうなっているんだ・・・渚ちゃんから、光が・・・」

 亮平が恐る恐る、光を宿す渚に近づく。だがその途端、彼女からあふれていた光が消えていった。

「光が消えた・・ホントにどうしたんだ・・・!?

 謎が謎を呼ぶ事態に困惑する亮平。渚も自分の異変に動揺していた。

「そうだ。急いでここを離れないと・・・渚ちゃん、こっち!」

 我に返った亮平が、渚を連れてこの場を離れた。シードが立ち上がったときには、2人の姿はなくなっていた。

「くそっ!・・アイツら、逃げ足だけは強力だぜ・・・」

 毒づくシードが人間の姿に戻る。だが彼は苛立ちを隠せなかった。

「クソガキが・・今度こそその首をかき切ってやるぞ・・・!」

 シードは吐き捨てると、亮平と渚を追うことなく、この場を立ち去った。

 

 シードの猛威から辛くも脱した亮平と渚。荒くなっていた息を整えて、2人は気持ちを落ち着ける。

「ふぅ・・何とか逃げることができた・・・」

「あの人も追ってきていないみたいです・・・」

 安堵の吐息をつく亮平と渚。だが2人はすぐに、彼女が発した光に対して疑問を覚える。

「それにしても、渚ちゃんが出した光・・何だったんだろう・・・?」

「分かりません・・私にこんな力を持っていたなんて・・・」

 亮平が疑問を投げかけるが、渚は不安を浮かべるしかできなかった。

「この力・・私の記憶に関係しているのではないでしょうか・・・」

「記憶?もしかして、記憶喪失になる前は、この力を使っていたっていうの・・・!?

 渚が口にした言葉に、亮平がたまらず声を荒げる。

「私、このまま記憶を取り戻したほうがいいのか・・それとも忘れたままのほうが・・・」

 沈痛さを募らせていく渚がその場にひざを付く。その彼女に駆け寄って、亮平が支える。

「渚ちゃんの記憶なんだから・・どちらを選ぶかは渚ちゃん次第だよ・・・」

「亮平さん・・・そうですね・・これは私の問題ですから、私が決めないと・・・」

 亮平に励まされて、渚が笑みを取り戻した。

(そうだ・・僕の力は、僕におかしな気持ちがあったから使えなかったんだ・・どんなことがあっても、渚ちゃんを守っていく・・たとえ僕に何が待ち受けているとしても・・・)

 亮平が胸中で決意を固めていた。自分がどうあるべきなのか、彼は思い知らされていた。

 

 雪男を追い詰めつつあった時雨。氷の刃や吹雪を駆使する雪男だが、時雨には通用しなかった。

「そ、そんな・・こんなこと、あっていいはずが・・・!」

「もう終わりにするぞ・・あまり長引かせるのはお互いよくないから・・」

 恐怖すらあらわにしていた雪男に接近すると、時雨が剣を振りかざす。その一閃が雪男の体を真っ二つに両断した。

「ぐああぁぁっ!」

 絶叫を上げた雪男が事切れて、崩壊を起こして消滅した。氷付けにされていた汐が解放され、その場に倒れ込む。

「汐ちゃん!」

 時雨が汐に駆け寄って、彼女を支える。

「汐ちゃん、大丈夫!?汐ちゃん!」

「・・時雨・・・あたし、またドジやっちゃったかな・・・?」

 呼びかける時雨に、汐が苦笑いを浮かべる。その呟きを聞いて、時雨が安堵を覚える。

「もう・・心配かけて・・・雪男は僕が倒したよ・・・」

「アハハハ・・・さすが時雨・・・」

 肩を落とす時雨に、汐が笑顔を見せる。

「さて、今日の仕事もやることも終わった。早く帰って、亮平くんと渚さんに報告してあげないと。」

「そうだね・・2人を安心させないとね・・」

 互いに笑顔を見せると、時雨と汐は海辺を後にした。

 

 体力が回復するに至っていないまま、亮平と渚は移動していた。シードがまだ追いかけてきているのではないかと、2人は思っていた。

(何とか、落ち着いて休める場所に行かないと・・今の状態じゃ、戦えない・・・)

 焦りを膨らませていく亮平。異形の力を取り戻す以外に、打開の糸口がなかった。

「亮平さん、大丈夫ですか・・・?」

 渚が亮平に心配の声をかける。すると亮平は笑みを見せてきた。

「心配しないで、渚ちゃん。力が使えないこと以外は、全然大丈夫だから・・」

「・・・そんなの、ウソですよ・・だって亮平さん、とても辛そうではないですか・・・」

 弁解する亮平だが、渚は沈痛さを浮かべていた。彼女には亮平の心は筒抜けになっていた。

「私の問題が私にしか解決できないように、亮平さんの問題は、亮平さんにしか解決できないんです・・・」

「渚ちゃん・・・自分が励ました言葉で励まされるなんて、ホントに情けないや、アハハハ・・・」

 渚に励まされて、亮平が苦笑を浮かべる。気を引き締めるため、彼は自分の両頬を強く叩く。

「しっかりするんだ、東亮平!お前は何のために頑張るんだ!?

 自分に問いかける亮平。立ち直ろうとする彼に、渚も喜びを感じていた。

「お姉ちゃん、かわいいね・・・」

 そこへ声がかかり、亮平と渚が振り返る。その先には人形のようにも見える少女がいた。

「君・・また会ったね・・」

 亮平が微笑んで少女に歩み寄る。

「ケガとかしていない?今日はパパやママと一緒じゃないの?」

 亮平が気さくに声をかけるが、少女は渚を見つめるばかりだった。

「お姉ちゃんも、お人形にしてあげる・・・」

「えっ・・・?」

 少女が言いかけた言葉に、亮平と渚が当惑する。次の瞬間、少女の眼から不気味な輝きが発せられた。

「えっ・・・!?

 その輝きが自分に伝達して、渚が驚く。その輝きに包まれて、彼女は身動きが取れなくなる。

「渚ちゃん!?

 驚愕する亮平が振り返ると、渚の体が徐々に小さくなっていく。

「あ・・・亮平・・さん・・・」

 声を振り絞る渚が、少女の力を受けて人形と化してしまった。

「渚ちゃん!・・君、もしかして怪物の仲間・・・!?

 亮平がゆっくりと少女に視線を戻す。彼が問いかけると、少女は微笑を浮かべてきた。

「お姉ちゃん、もらっていくからね・・・」

 少女は言いかけると、人形になった渚に近づいていく。だが亮平が飛び出し、渚を拾い上げる。

「残念だけど、悪い子の好きなようにはさせないよ!渚ちゃんは渡さない!」

「お兄ちゃん・・お人形さんを返して・・・」

 言い放つ亮平に、少女が沈痛の面持ちを見せる。

「渚ちゃんは人形じゃない!誰かのものになるわけがないだろ!」

「お人形さんを返して・・私のお人形さん・・・返して!」

 渚を守ろうとする亮平に、少女が怒り出す。彼女の体から不気味なオーラがあふれてきた。

(ダメです・・お願いです・・亮平さん、逃げて!)

 人形にされていた渚が心の声を上げる。彼女の意識はまだ残っていたが、その声は周りには届かない。

(すごい力・・・ここは逃げたほうがいいかもしれない!)

 思い立った亮平が、渚を抱えて走り出す。

「逃げないでよ・・私のお人形さん、返してよ・・・」

 少女が亮平を追って、浮遊して前進していった。

 ひたすら逃げる亮平。だが少女は徐々に彼を追い詰めていった。

「お人形さんを返してくれないと、お兄ちゃんもお人形さんにするよ・・・」

「冗談じゃない!お人形になるなんて真っ平ゴメンだ!」

 低い声音で言いかける少女に、亮平が反論する。彼は立ち止まると、少女を鋭く睨みつける。

「これ以上悪さをするならお仕置きだぞ!」

 いきり立った亮平が少女に殴りかかる。だが少女の放つオーラに弾かれて、彼は突き飛ばされる。

「ぐっ!」

 倒れてうめく亮平に、少女がゆっくりと近づいていく。

「もういいよ・・お兄ちゃんもお人形さんにする・・・」

 少女が不満を浮かべて、眼を輝かせる。

「冗談じゃないって言ってるだろ・・怪物連中に、渚ちゃんを渡すわけにいかないって・・・!」

 亮平が力を振り絞って、ゆっくりと体を起こす。

「僕は渚ちゃんを守る・・この気持ちに、もう迷ったりしない!」

 そのとき、亮平の体から衝動が湧き起こった。その衝撃が外に飛び出し、少女を突き飛ばした。

「痛い・・痛いよ、お兄ちゃん・・・」

 転んだ少女が痛みを訴える。その前で亮平がゆっくりと立ち上がる。

「僕は戦う・・たとえ相手が、子供の姿をしていたとしても!」

 叫ぶ亮平の頬に異様な紋様が浮かび上がる。そして彼の姿が異形へと変化を遂げる。

「これは・・・戻った・・僕に力が戻った・・・」

 この変化に亮平は喜びを覚える。迷いを断ち切った彼は、異形の力を取り戻したのだった。

「お兄ちゃん、怪物だったの?・・怖い怖い怪物だったの・・・?」

 少女が亮平の姿を眼にして、怯え出す。亮平は気持ちを落ち着けて、少女に眼を向ける。

「これは僕だけの力じゃない・・渚ちゃんの力でもあるんだ・・・」

 亮平は言いかけると、両手に力を集束させていく。

「渚ちゃんを元に戻せ・・でないと容赦しない・・・」

「イヤだよ・・お人形さんを取ったのは、お兄ちゃんじゃない・・・」

 忠告する亮平だが、少女は首を横に振るばかりだった。

「どうして・・どうしてそんなことにこだわるんだ・・・!?

 歯がゆさを募らせた亮平が、金色へと体色を変化させる。速さを増した彼は、少女の横を一気にすり抜けた。

 直後、少女の体が崩壊を引き起こした。亮平の突きが少女の心臓を突いたが、眼にも留まらぬ速さに感じたため、彼女には何が起こったのか分からなかった。

「そういう僕も、人のこと言えないよね・・・」

 人間の姿に戻った亮平が、物悲しい笑みを浮かべる。少女が命を落としたことで、人形にされていた渚が元に戻った。

「亮平さん・・・力、戻ったんですね・・・」

 渚が声をかけるが、亮平は思いつめた心境を浮かべたままだった。

「大丈夫ですか、亮平さん・・・?」

 渚が不安を浮かべて、亮平に歩み寄る。彼女の伸ばした手に触れられて、亮平は我に返った。

「渚ちゃん・・・元に戻ったんだね・・・」

「亮平さん・・・体は、何ともないんですか・・・?」

 渚が心配をかけると、亮平が微笑みかける。

「渚ちゃんのおかげで、力と元気を取り戻すことができたよ・・・ありがとう、渚ちゃん・・・」

「私も亮平さんに、たくさん勇気をもらいました・・亮平さんは、私の心の支えです・・・」

 互いに感謝の言葉をかける亮平と渚。2人の心の強さがいっそう強まったのだった。

 そのとき、気持ちが楽になった途端、亮平が突如その場に倒れ出した。

「亮平さん!?

 渚がたまらず亮平を支える。亮平は気絶していたが、安らぎに満ちた笑みを浮かべていた。

「亮平さん・・・」

 その寝顔を見つめて、渚も笑みをこぼしていた。

「フン。まさかこんな好機に巡り会えるとはね・・」

 そこへ声がかかり、渚が笑みを消す。彼女の前に現れたのはシードだった。

「邪魔者の小娘と一緒にお前たちを始末してもよかったんだがな、そこのガキが力を取り戻したんでな。ちょっと様子を見させてもらったわけだ・・」

「そんな・・まだ、私たちを・・・」

 淡々と語りかけるシードに、渚が恐怖を覚える。

「ガキが気絶してくれたのは不幸中の幸いだ。娘、オレと一緒に来い。そうすりゃガキの命は助けてやる。」

 シードの呼びかけに渚が息を呑む。

「頼みの綱の王子様がそのざまじゃ、言うとおりにするしかねぇよな?」

「本当に、亮平さんを助けてくれるのですか・・・?」

「そういってるじゃねぇかよ。早くしねぇと気が変わっちまうぞ。」

 念を押す渚にシードが答える。

「分かりました・・私、行きます・・・」

 その言葉を信じて、渚は亮平を横たわらせてからシードのそばに向かった。彼女を間近で見て、シードが笑みを強める。

「やっとオレの手の中に入ってきたぞ・・さて、それじゃ後始末をしておかないとな。」

 シードは言いかけると、異形の姿へと変身し、横たわる亮平に敵意を向ける。

「待って!亮平さんは助けるって言ったじゃない!」

「は?誰がそんなこと言った?自分の好都合に引き込もうとしてもそうはいかねぇよ。」

 抗議する渚をシードがあざ笑う。彼には亮平を見逃すつもりなど毛頭なかった。

「やめて!亮平さんを傷つけないで!」

 渚がシードの前に立ち、亮平を守ろうとする。

「邪魔すんなよ。一緒に吹き飛ばすぞ。」

「亮平さんを守れるのでしたら、私は絶対にここから動きません・・絶対にあなたから逃げません!」

 シードが呼びかけるが、渚はこの場を離れようとしない。その彼女の言動にシードは苛立つ。

「そんなに死にてぇなら好きにさせてやるよ!」

 いきり立ったシードが、渚に向けて刃を放つ。

(亮平さん!)

 亮平を強く想う渚。彼女の体から突然、まばゆいばかりの光が放たれた。

 その光が、シードが放った刃を弾き飛ばした。

「何っ!?またこの光かよ!?

 声を荒げるシードが、体から引き抜いた刃を手にする。渚は無表情でシードを見据えていた。

「すぐに立ち去れ・・命を落とすことになるぞ・・・」

 低い声音で言いかける渚。その威圧感に押されて、シードは緊張の色を隠せなくなっていた。

 

 広大な森林。その森の中を、1人の少女が走り抜けていた。

 少女は強大な力を持っていた。その力で猛威を振るったため、彼女は異形の存在から疎まれることとなった。

 ボロボロになっている白服を着ており、足は何も履いていない。足が傷つくのもかまわずに、少女はひたすら森の道を駆け抜けていた。

 本心では傷つけたいとは思っていなかった。だが周囲からの迫害が、その気持ちを行動に移させてくれなかった。

 少女はひたすら逃げていた。その彼女を追って、怪物たちが歩を進めてきていた。

 森の中を走り抜ける少女は、森を抜けたと思い、一瞬安堵を覚えた。だがその先は崖になっていた。

 少女は勢いを止めることができず、そのまま崖下に落ちていった。普通だったら確実に死んでいるところである。

 だが少女は落下している途中、自分の中にある力を解放した。その力を駆使して、彼女はこの崖下から瞬間移動を行った。

 

 力を解放して崖から離れた草原に移動していた少女。だが持てる全ての力を使い果たしたことで、彼女は意識を失った。

 怪物たちの追跡が草原に及ばなかったことが幸いした。横たわっていた少女は、夜明けとともに眼を覚ました。

「あ、あれ?・・あれ・・・?」

 少女は疑問符を浮かべていた。何かを思い出そうとしても、彼女は何も思い出せなかった。

「私は誰なの?・・何をしていたの・・・?」

 自分のことが分からず、困惑する少女。彼女は力を使い果たしたことで、記憶喪失に陥っていた。

「どうしたらいいの・・私、どうしたら・・・?」

 何もかも分からないまま、少女は草原から歩き出す。記憶喪失になったと同時に、彼女にあった異形の力も眠りにつくこととなった。

 これが少女、渚の記憶喪失の顛末であった。

 

 

次回

第15話「力の結束」

 

「オレが、ここまで恐怖を覚えるなど・・・!」

「私、本当にどうしてしまったのでしょうか・・・」

「僕が僕の全てを賭けて、君を守るから・・・」

「大切な人を守りたい・・その気持ちが同じだから、僕はあなたと戦う・・・!」

 

 

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