ガルヴォルスForce 第15話「力の結束」

 

 

 突如、まばゆい光に包まれた渚。彼女は無表情で、驚愕を浮かべるシードを見据える。

「すぐに立ち去れ・・命を落とすことになるぞ・・・」

 低い声音で言いかける渚。殺気とも言える彼女の凄みに、シードは緊張感を拭えずにいた。

「まさかこんな力を持っていたなんてな・・・それを眼の前にして、尻尾巻いて逃げられるかよ!」

 いきり立ったシードが渚に飛びかかる。だが彼女に手を伸ばそうとした瞬間、彼は衝撃に押されて突き飛ばされる。

「ぐっ!」

 激しく横転するシードが、疲弊のあまりに人間の姿に戻ってしまう。渚が無表情のまま、必死に立ち上がろうとするシードを見据える。

「もう1度だけ言う・・すぐに立ち去れ・・次は殺すぞ・・・」

 鋭く言いかける渚に、シードが畏怖を覚える。まるで蛇に睨まれる蛙のように、彼は恐怖を感じていた。

(声が出ない・・殺すという意思を持てない・・・!)

 完全に怯えてしまっていたシード。戦意をそがれた彼は、ただただ後ずさりするばかりだった。

「このままで・・このままで済むと思うな、小娘が!」

 シードは声を振り絞って吐き捨てると、渚の前から姿を消した。

 やがて光が消失し、渚が意識を失って倒れる。直後、横たわっていた亮平が意識を取り戻した。

「僕、どうしてたんだ?・・・渚ちゃん!?

 倒れている渚を目の当たりにして、亮平が声を荒げる。

「渚ちゃん!しっかりするんだ、渚ちゃん!」

 亮平が呼びかけるが、渚は眼を覚まさない。焦りを膨らませていく亮平は、ひとまず彼女を背負って家に戻ることにした。

 

 渚の驚異の力に逃亡を余儀なくされたシード。

「何ということだ・・・オレが、ここまで恐怖を覚えるなど・・・!」

 自身の恐怖に打ち震えるシード。彼の中に渚への怒りが込み上げてきていた。

「このままでは済まさねぇぞ・・もうビビらねぇ!調べる気も失せた!その首をへし折ってやる!」

 シードは怒号を放つと、渚を狙って改めて行動を開始した。

 

 意識を失った渚を連れて、家に帰ってきた亮平。帰路の途中で何度か呼びかける亮平だが、渚の意識は戻らないままだった。

「渚ちゃん・・目を覚まして、渚ちゃん・・・」

 渚をリビングに横たわらせてから、声を振り絞る亮平。それでも渚は眼を覚まさない。

「ここはもう、人工呼吸しかないのか・・・だけど、やっちゃっていいのかな・・・」

 不安と緊張を膨らませながらも、渚を助けたい気持ちに駆られる亮平。

「やるしかない・・渚ちゃんを助けるためなんだ・・・」

 意を決した亮平が、渚への人工呼吸を行おうとする。

「落ち着け・・これはセクハラではない・・助けるためにやるんだから・・・」

「何をやっているの、亮平?」

 そこへ声をかけられて、亮平が驚きを覚える。恐る恐る振り向いた先には、汐と時雨の姿があった。

「ね、ね、姉さん!?それは、その・・・!」

 慌てふためく亮平に、汐は疑問符を浮かべるだけだった。

「渚さん・・・どうかしたのかい、亮平くん・・・?」

 そこへ時雨が真剣な面持ちで声をかける。その声に亮平も眼つきを鋭くする。

「怪物と戦っていて・・倒したところで意識がなくなって・・気がついたら、渚ちゃんが倒れていて・・・」

「体に外傷は?脈は正常なのかい?」

 事情を説明する亮平。時雨の問いかけに彼は小さく頷く。

「もう医者に見せたほうがいいかもしれない・・」

「そうだね・・あたしたちには、どうしたらいいのか分かんないし・・・」

 亮平の言葉に汐が沈痛の面持ちで言いかける。2人の言葉に時雨も頷いた。

 そのとき、眠っていた渚が、閉ざしていた眼をゆっくりと開けた。

「渚ちゃん・・・!?

「亮平さん・・汐さんと時雨さんも・・・」

 眼を見開く亮平たちに、渚が戸惑いを見せる。

「渚ちゃん、何があったんだい・・僕が気絶している間に・・・」

「はい・・亮平さんが倒れた後に、シードが現れて・・それから私、亮平さんを守ろうと必死になって・・それからのことは何も覚えていません・・・私、本当にどうしてしまったのでしょうか・・・」

 亮平の質問に渚が困惑する。何が起こったのか自分でも分からず、彼女は震えていた。

「とにかくもう休もう、渚ちゃん・・君も僕もくたびれてるから・・」

 亮平の呼びかけに渚が頷く。汐が渚を部屋に連れて行こうとしたときだった。

「汐さん・・今夜は、亮平さんと一緒にいてもいいですか・・・?」

「えっ・・・?」

 渚の突然の申し出に、汐と亮平が戸惑いを覚える。

「亮平さんのそばにいたいんです・・お願いです・・・」

「渚ちゃん・・・」

 懇願する渚に困惑する亮平。彼女の気持ちを汲んで、汐が微笑みかける。

「大胆不敵になったね、渚ちゃん・・・亮平、渚ちゃんに辛い思いをさせたら承知しないからね。」

「もう、姉さんはいつもそれなんだから・・・」

 汐に呼びかけられて、亮平が肩を落とす。だが彼は渚をあたたかく迎えていた。

「行こう、渚ちゃん・・・」

「はい・・・」

 亮平の呼びかけに渚が頷く。2人は亮平の部屋へと向かった。

「あついことだね、2人とも・・」

「あんまりからかわないほうがいいって・・一生懸命なんだから、2人とも・・・」

 にやける汐に時雨が言いとがめる。

(亮平くん、渚さん・・大丈夫だろうか・・・)

 一方で時雨は心の中で2人の心配をしていた。

 

 渚を連れて部屋に入った亮平。閉めたドアに鍵をかけ、そのままベットに横たわった。

「今度は僕から君に頼むよ・・今夜は一緒にいさせてほしい・・・」

「それは私の願いでもあります・・触れてください・・私の体と、心に・・・」

 声を掛け合う亮平と渚。渚は自分の着ている衣服を脱ぎ、亮平に裸身をさらけ出す。

「私のこの体、あなたに預けます・・一緒にいさせてください・・・」

「もちろんだよ・・僕も、僕の体を君に預けるよ、渚ちゃん・・」

 渚の言葉に答えると、亮平も上着を脱ぐ。彼は彼女を優しく抱きしめて、そのぬくもりを確かめる。

「僕の中にある苦しみを和らげてほしい・・渚ちゃん、君にしかできないんだ・・・」

「亮平さん・・・」

「僕は君が傷つく姿を見たくない・・僕は君を守りたい・・僕が僕の全てを賭けて、君を守るから・・・」

 自分の気持ちを告げると、亮平は渚を強く抱きしめる。

「亮平さん・・・亮平さん・・・」

 そのぬくもりを感じ取って、渚も亮平を抱きしめた。

 

 それから亮平と渚はベットで抱擁を行っていた。亮平に胸をもまれて、渚があえぎ声を上げる。

「亮平さん・・・もっと・・もっとやって・・・!」

 渚が上げる声に促されるように、亮平が彼女にすがりつく。彼の体温と吐息が、彼女の恍惚を膨らませていく。

(これが渚ちゃんのあたたかさ・・優しく包み込まれていくみたいだ・・・)

 癒しのような感覚を覚えていく亮平。渚が亮平の顔を自分の胸に押し当てる。

 吐息が直接胸に伝わり、渚はさらなる刺激に襲われる。その快感が一気に上り、彼女の秘所から愛液があふれてくる。

(もう我慢する必要はないんですね・・このまま、この心地よさに流されていけばいいんですね・・・)

 恍惚に身を委ねていく渚が涙を流す。どんなことがあっても亮平のそばにいると、彼女は心に誓っていた。

 自分の中に忌まわしい過去が眠っていることに気付かずに。

 

 この夜、いつしか眠りについていた渚は、夢を見ていた。自分自身を見守っている夢だった。

 彼女の見つめる自分は、怪物たちを見据えて妖しく微笑んでいた。

「やめて・・やめて・・・」

 渚は自分に呼びかけていた。自分が怪物たちに猛威を振るおうとしていた。

「傷つけないで・・・こんなの、私じゃない・・私じゃないよ・・・!」

「ううん・・そこにいるのは間違いなくあなた・・そしてあなたは私、私はあなた・・・」

 そこへ後ろから突然声をかけられて、渚が振り返る。先ほどいたもう1人の彼女がそこにいた。

「どういうことなの・・・あれも私だっていうの・・・!?

「そう。あなたは亮平くんや時雨さんと同じ、怪物の1人・・しかもその頂点に立つ存在なの・・・」

「ウソ・・そんなのウソよ・・・!」

「ウソじゃない・・あなたは亮平くん以上の怪物なのよ・・・」

「ウソよ!」

 自分の言葉を拒絶しようと、渚は悲鳴を上げた。

 

 その悲鳴を上げたところで、渚は眼を覚ました。その声を聞いて、亮平も眼を覚ました。

「どうしたの、渚ちゃん・・・すごい汗だよ・・・」

「亮平さん・・・大丈夫です・・ただ、夢を見ていただけです・・・」

 心配の言葉をかける亮平に、渚が笑顔を作って答える。

「もしかして、悪夢?・・記憶に関係しているのかな・・・?」

「分からない・・ただの夢なのか、記憶に関係しているのか・・・」

 亮平の問いかけに困惑する渚。すると亮平が渚を抱きしめる。

「どんなことがあっても怖がらなくていい・・僕が君を守るから・・・」

「亮平さん・・・ありがとうございます・・亮平さん・・・」

 自分の気持ちを告げる亮平に、渚も素直に感謝の言葉をかけた。2人は抱き合ったまま横たわり、再び眠りについた。

 

 抱擁の一夜が明けた。衣服を着た亮平と渚が、リビングにやってきた。

「おはよう、お二人さん♪すばらしい夜はどうでしたかなぁ?」

 そこへ既にリビングにいた汐が、2人に声をかけてきた。

「からかわないでよ、姉さん・・今の今まで大真面目だったんだから・・」

 亮平が呆れ、渚が頬を赤らめる。

「アハハハ・・ゴメン、ゴメン・・時雨は昨日のうちに帰ったよ。2人のことを心配したまま・・」

 謝る汐に亮平が困惑を覚える。彼は時雨に気持ちを傾けていた。

(やっぱり、けじめはつけないといけないってことかな・・・)

 気を引き締める意味を込めて、亮平が自分の頬を強く叩く。彼の突然の行為に、渚と汐が驚く。

「ど、どうしたの、亮平・・・!?

「亮平さん・・・」

 当惑する2人に、亮平が気さくな笑みを見せる。

「大丈夫。ちょっと自分に喝を入れただけだから・・」

 亮平はそういうと、朝食のためにキッチンに向かっていった。

「らしくないね、亮平があんなことをいうなんて・・・」

「でももう大丈夫ですよ・・いつもの亮平さんらしく、落ち着いています・・・」

 きょとんとなる汐に、渚が微笑みかける。渚は亮平の気持ちを誰よりも理解していた。

 

 朝食の後、亮平はツーリングに出かけていた。彼にとって久しぶりのツーリングだった。

(いろいろなことがあったからね・・また気持ちを切り替えてやっていくかな・・・)

 胸中で呟きながら、亮平はスピードを上げた。

 しばらく街中の通りを進んでいったところで、亮平はバイクを止めた。彼の眼前にシードが立っていた。

「シード・・いい加減しつこいって・・・!」

 バイクを降りてメットを外した亮平が毒づく。一方でシードが亮平への怒りをあらわにしていた。

「テメェもあの小娘も、全員この手でひねりつぶしてやるぞ!」

 怒号を放つシードが異形の姿へと変身する。

「こりゃ聞く耳持たないってヤツか・・・!」

 慌しく逃げ出す亮平の頬に紋様が走る。彼も異形の姿に変身して、シードを迎え撃つ。

「僕みたいなのが言うのもなんだけど、しつこい男は嫌われるって!」

「テメェがオレに殺されれば、全部丸く収まるんだけどな!」

 愚痴を言い放つ亮平に、シードが高らかに言い放つ。シードが突き出してきた刃を、亮平が拳で弾き返す。

「オレの邪魔になるヤツは皆殺しにしてやった!家族も何もかも!」

「何だとっ!?

 シードが口にした言葉に亮平が声を荒げる。

「どいつもこいつもオレで憂さ晴らししやがって・・だから親だと思い上がったクズどもを、オレがズタズタにしてやったんだよ!オレを怒らせたらどうなったか、死んで理解しただろうな!」

「お前・・家族を何だと思っているんだ!?

 苛立ちを見せるシードに、今度は亮平が怒りを覚える。突き出された2本の刃を、亮平が両手で受け止める。

「何っ!?

 驚愕するシード。刃を握る亮平の手から血がこぼれる。

「家族は1番絆のつながりが強い間柄じゃないか・・それをクズ呼ばわりするなんて!」

「クズをクズ呼ばわりして何が悪い!?理解力のねぇヤツなんか、死んだほうが問題がねぇんだよ!」

 怒鳴る亮平をあざ笑うシード。シードが刃を振り上げて、亮平を地面に叩きつける。

「ぐっ!」

「テメェらも邪魔だ!だからさっさとオレに殺されろ!」

 うめく亮平に怒りをぶつけるシード。亮平も負けじと全身に力を込めて、シードへの反撃に出た。

 

 一方、バイトに向かおうとしていた時雨。その途中、彼は亮平、渚、汐の心配をしていた。

「大丈夫かな、みんな・・汐ちゃんは大丈夫だって言っていたけど・・・」

 汐に励まされても不安が消えず、時雨は困惑していた。

 そのとき、時雨は近くから轟音が響いてきたのを耳にする。

「この音は・・・!?

 緊迫を膨らませて、音のしたほうに走り出す時雨。その現場では亮平とシードが戦っていた。

「亮平くん!」

 たまらず声を上げる時雨。シードの猛攻に、亮平は徐々に劣勢を強いられていた。

「いい加減死ねよ!すぐに小娘も後を追わせてやるから!」

「どこまでも自分勝手なことを!」

 言い放つシードに抗議の声を上げる亮平。シードが突き出した2本の刃が、亮平の両肩を切りつけた。

「うぐっ!」

 痛烈なダメージを受けてうめく亮平。手ごたえを感じて、シードが不敵な笑みを見せる。

「今度こそ最後だ・・テメェなんぞが、オレの前に立つことさえ馬鹿げてるんだよ!」

 シードが眼を見開いて、亮平にとどめを刺そうとする。

「やめろ!」

 そこへ時雨が飛び込み、シードを横から突き飛ばしてきた。

「何っ!?

 虚を突かれたシードが体勢を崩される。驚きのあまりに力が抜け、亮平が人間の姿に戻る。

「し、時雨さん・・・!?

「亮平くん、大丈夫かい!?

 当惑する亮平に時雨が呼びかける。横槍を入れられたシードが、さらに苛立ちを膨らませる。

「この前のヤツか・・どいつもこいつもオレの邪魔しやがって・・!」

 怒号を放つシードが全身から刃を放出する。時雨が亮平を連れて、近くの壁に身を潜める。

「シード、頭にかなり血を上らせているみたいだ・・」

「邪魔者を徹底的につぶさないと気が済まない、自分勝手なヤツだ・・・!」

 状況を分析する時雨と、シードの横暴に毒づく亮平。

「このままだと渚ちゃんまで危険になる・・渚ちゃんを守るために、僕はアイツを倒す・・・!」

「シードを倒さないといけないのは僕も同じだ・・汐さんを守るために、僕はこの力を使っている・・・」

 亮平に続いて時雨も自分の決意を口にする。

「亮平くん、君も大切な人を守るために戦っている・・僕も同じだ・・・」

「時雨さん・・・」

「大切な人を守りたい・・その気持ちが同じだから、僕はあなたと戦う・・・!」

 集中力を高める亮平と時雨。2人の前にシードが立ちはだかる。

「やってやる・・渚ちゃんを守るためなら、何だって・・・!」

 言い放つ亮平が、時雨とともに異形の姿に変身する。決意を秘めた2人の青年が、大切な人のために戦おうとしていた。

 

 

次回

第16話「忘れられた力」

 

「昔の私は、どんな人だったのでしょう・・・?」

「僕はどんなことでも受け止めるよ・・・」

「こんなところにいたのか、魔女・・・」

「魔女・・・!?

「完全に眼を覚ます前に、ここで始末してやる・・・!」

 

 

作品集

 

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