ガルヴォルスForce 第13話「力の理由」

 

 

 雪男の襲撃で渚を氷付けにされ、自分も手も足も出ずに叩きのめされた亮平。彼は自分の中にある異形の力が発揮できず、動揺の色を隠せなくなっていた。

「亮平、しっかりして!・・とにかく時雨に連絡しないと・・・」

「何を言っているんだ・・あの人に頼っても、弄ばれるだけ・・・!」

「いつまでそんなこと言ってるの!?時雨以外に、渚ちゃんを助けられる人がいないのよ!」

 意地を張る亮平に怒鳴る汐。その言葉に亮平が困惑する。

「携帯電話は、ロッカーの中か・・仕方ないけど、ロッカーまで行ってくる。亮平はここでじっとしてて!」

 汐は亮平に呼びかけると、時雨との連絡のために岩場から駆け出した。氷付けから解放されない渚の前で、亮平は落ち込む。

「僕は、渚ちゃんを守れなかった・・・あの力を使えなかったから・・・」

 さらに自分を責める亮平。彼はひたすら自分を責め立てることしかできなかった。

 

 汐からの連絡を受けて、時雨が海辺へとやってきた。

「ゴメン、時雨・・忙しかったのにムリに呼んじゃって・・」

「いや、気にしなくていいよ。この緊急事態じゃさすがに・・」

 謝る汐に時雨が弁解を入れる。だがひどく落ち込んでいる亮平を見て、2人は表情を曇らせる。

「亮平くん、ひどく落ち込んでいるようだね・・」

「もう、しょうがないんだから・・亮平のせいじゃないってあれだけ言ってるのに・・」

 時雨が言いかけ、汐が亮平の姿に呆れてため息をつく。

「仕方がないよ。僕も汐ちゃんに何かあったら、多分、今の亮平くんのようになるかもしれない・・」

「時雨・・・あたしも、同じ気分になりそう・・・」

「でも、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない・・・」

 汐と言葉を交わすと、時雨は亮平に歩み寄った。

「亮平くん、しっかりするんだ。辛いのは分かるけど、今は渚ちゃんを助けるために、その怪物を倒さないと・・」

「何を言っているんだ・・あなただって、その怪物じゃないか・・・」

 励ます時雨だが、亮平は侮蔑の言葉を返す。これに憤った時雨が、亮平をつかみ上げて殴りかかる。

「ぐっ!・・いきなり何を・・・!?

「亮平くん、君はいったい何のために戦っているんだ・・・?」

 うめく亮平に、時雨が問いかける。その問いかけに亮平が答えられずにいる。

「君は今まで、君の持っているその力を、渚さんのために使ってきたんだろう?だったら渚さんを助けることに、意地を張っている場合ではないだろう!」

「時雨さん・・・」

「今、君が力を使えずに渚さんを助けられないでいるなら、僕が渚さんを助け出す。僕にはそれだけの力があるから・・・」

 時雨の言葉を受けて、亮平は歯がゆさを覚えてうずくまる。その姿を深刻な面持ちで見下ろすと、時雨は渚に眼を向ける。

「荒療治になってしまうけど・・やるしかない・・・!」

 鋭く言いかける時雨の頬に紋様が走る。彼の姿が騎士に似た異形の存在へと変化する。

「渚さん、すぐに助けるから・・・!」

 時雨が渚を閉じ込めている氷塊に向けて剣を突き立てる。ひび割れた氷が壊れて、渚が解放される。

「渚ちゃん!」

 汐が慌てて渚に駆け寄る。彼女に支えられた渚が、意識を取り戻す。

「私・・何が・・・?」

「渚ちゃん!・・よかった・・目が覚めたんだね・・・」

 渚が呟きかけると、汐が安堵の笑みを浮かべる。

「渚ちゃん、時雨が助けてくれたんだよ・・・」

「時雨さんが・・・時雨さん・・?」

 汐の説明を聞いて、渚が当惑を覚えた。自分を助けたのが亮平ではなく時雨だったことに、彼女は驚いていた。

「亮平さん、本当に力が使えなくなってしまったのですか・・・!?

「そうみたい・・亮平自身もかなり悩んでいるみたい・・・」

 沈痛な面持ちを浮かべる渚と、深刻の色を隠せないでいる汐。そこへ時雨が声をかけてきた。

「そろそろ帰ろう。日も暮れてくるし、体を休めないとよくない・・」

「そうだね・・早く戻ろう・・・亮平、行くよ・・・」

 時雨の呼びかけに答える汐。彼女の声に、亮平は小さく頷くだけだった。

 

 家に帰ってきた亮平は、自分の部屋に閉じこもってしまった。彼は渚を守れなかったことを、今も悔やんでいた。

「もう、らしくないんだから、亮平は。いつまでもウジウジしてるなんて・・・」

 その落ち込み様に、汐は呆れ果てていた。

「すみません・・私が亮平さんを追い込んでしまったから・・・」

「渚ちゃんは何も悪くないの。亮平がちょっと熱くなりすぎちゃっただけだから・・」

 自分を責める渚に、汐が弁解を入れる。

「亮平、あんまり熱中するところがないの。いつもやる気がなくてのんびりしていることが多い。でも熱中すると、周りが全然見えなくなっちゃうことがあるのよ・・」

「そうなんですか?・・とてもそんなふうには見えないのですが・・」

「あたしもそう思うことが多い。ホントはあたしより子供っぽいところがあったりするんだよね・・」

 驚きを覚える渚に、汐が笑みをこぼす。

「だからこういうときにこそ、お姉さんらしくしないとって思ってるの・・」

「汐さん・・・私も、亮平さんの力になりたい・・汐さんのように、亮平さんの血のつながった家族というわけではないのですけど・・」

「何言ってるのよ・・渚ちゃんは、あたしや亮平の家族だよ・・」

 渚の気持ちを汲み取って、汐が励ましの言葉をかける。それを受けて、渚が微笑みかける。

「今回は渚ちゃんに任せるよ。あたしや時雨じゃ効果がないみたいだからね・・」

「ありがとうございます・・私、やってみます・・・」

 汐に後押しされて、渚は意気込みを見せて頷いた。

 

 自分の部屋で塞ぎこんでいた亮平。食欲も湧かず、彼はベットで横たわっていた。

 その部屋のドアがノックされた。しかし亮平はそれに答えようとしない。

「亮平さん・・渚です・・・入っても大丈夫ですか・・・?」

 渚の声を耳にして、亮平がかすかに反応する。

「構わないよ・・でも、僕でいいのかい・・・?」

「いいんです・・亮平さんだからこそ、私も頼りたいんです・・・」

 亮平の問いかけに答えると、渚はドアを開けて部屋に入ってきた。

「亮平さん・・・亮平さんは何も悪くありません。ですから私は何も、亮平さんを責めてはいません・・ですから・・」

「ありがとう、渚ちゃん・・・でも、渚ちゃんが責めていなくても、僕は僕を許せないんだ・・・」

 励ましの言葉をかける渚だが、亮平は自分を責めるばかりだった。

「そこまで自分が許せないなら、自分を許せる自分になればいいんですよ・・・」

「渚ちゃん・・・」

 渚のこの言葉で、亮平がようやく体を起こした。

「誰だって間違いや失敗をする。気にするのはそれじゃなくて、それを繰り返すこと・・汐さんの受け売りなんですけどね・・」

「間違いや失敗を繰り返さない・・姉さんらしい・・前向きだな・・・」

 渚の言葉を受けて、亮平が思わず苦笑いを浮かべる。

「ここは引き締めないといけないところだね・・・」

 不甲斐ない自分に言い聞かせる亮平だが、まだ立ち直れるほどの気持ちの整理がついていなかった。

 そのとき、渚が突然、着ていた服を脱ぎ始めた。この行為に亮平が動揺をあらわにする。

「ち、ちょっと、渚ちゃん!?いきなり何を・・!?

 亮平が声を荒げるが、渚は構わずに全ての服を脱いで裸身をあらわにした。

「今夜は一緒にいさせてください・・亮平さんの心を、あたためさせてください・・・」

「渚ちゃん・・・そこまで、僕のために・・・」

 渚の言葉に亮平の心は揺れていた。

「では亮平さん、失礼します・・・」

 渚は言いかけると、亮平に寄り添ってきた。亮平は渚を優しく抱きしめると、そのままベットに横たわった。

「不思議だよ・・まるで天使が舞い降りているようだよ・・・」

「そんな・・亮平さんったら・・・」

 亮平の言葉に動揺する渚。彼女の素肌に触れながら、亮平はそのまま眠りについた。

 

 時雨と話し合うために、亮平は彼と汐のバイト先のレストランに向かっていた。渚も彼についていこうとしていた。

「僕だけでもよかったんだけど・・・」

「亮平さんと時雨さんが仲直りするところを最後まで見たいと思いまして・・」

 言いかける亮平に、渚が笑顔で答える。

「何だか照れくさくなっちゃうな・・渚ちゃんが見ている前で正念場を見せることになるなんて・・」

「大丈夫です。亮平さんは亮平さんですから、私のことは気にせずに話をしてください・・」

 苦笑いを浮かべる亮平に、渚はさらに笑みをこぼす。

「ずい分とにぎやかに過ごしているようだね。」

 そこへ声がかかり、亮平と渚が緊迫を覚える。2人が振り返った先には、シードの姿があった。

「シード・・・!」

「いい加減彼女をこちらに渡してほしいものだね・・あまり滞るのは気分の悪さの要因となる・・」

 身構える亮平を見据えて、シードが徐々に笑みを消していく。

「いい加減にオレに潰されろ、ガキどもが・・・!」

 苛立ちをあらわにしたシードが異形の姿に変身する。

「こんなときにまで、お前の相手をしなくちゃならないなんて!」

「そんなに焦るなら、さっさとオレに殺されて楽になれよ・・・」

 毒づく亮平に向かってシードが迫る。

「渚ちゃん、逃げるんだ!」

「だから逃げるなってんだよ!」

 亮平が渚に呼びかけ、シードが怒号を放つ。シードが突き出してきた刃を、2人は何とか回避する。

「どうした!?早く変身しろよ!それとも変身するまでもねぇって思ってんのか!?

 亮平を嘲るシード。だが今の亮平には、異形の力を発揮したくでもできなかった。

「お前なんかに、渚ちゃんは傷つけさせない!」

 亮平が飛びかかるが、シードの強靭な体に跳ね返される。

「ん?もしかしてお前、変身しないんじゃなくて、変身できないんじゃねぇのか?」

 シードが疑問を投げかけるが、亮平はそれに答える。沈黙を肯定と捉えて、シードが哄笑を上げる。

「いい気味だな、東亮平・・・お前はオレに刃向かうこともできずに、ボロ雑巾のように叩き潰されるだけだとはな!」

 哄笑を上げるシードに、亮平は反論することができなかった。

「お前はオレが気が済むまで弄んでやる・・ありがたく思うんだな!」

 シードは高らかに言い放つと、全身から刃を放出する。亮平がとっさに動いて刃を回避する。

「亮平さん!」

 渚がたまらず亮平に飛びつく。2人はそばに建物に逃げ込み、刃から逃れる。

 2人が身を潜めた壁の澄に、シードの放った刃が突き刺さる。

「亮平さん、大丈夫ですか・・・!?

「渚ちゃん、ありがとう・・・まさか渚ちゃんに助けられるなんて・・・」

 心配する渚に感謝の言葉をかけると、亮平が肩を落とす。

「いつも亮平さんに助けられてばかりですから、こういうときこそ私が亮平さんを助けないと・・」

「本当にありがとう、渚ちゃん・・・」

 渚の優しさに勇気付けられる亮平。

「亮平さんは優しい人・・私のために、命懸けで戦っているんです・・・だから私も、私にできる精一杯のことをします・・・」

「渚ちゃん・・・僕も渚ちゃんを守りたい・・君のような優しい人に、傷ついてほしくない・・・」

 渚に向けて、亮平が自分の気持ちを正直に伝える。その言葉に今度は渚が戸惑いを覚える。

「感動の続きは、あの世でやるんだな。」

 そこへシードの声がかかり、亮平と渚の背後にあった壁が破壊される。振り返った2人に、不敵な笑みを見せるシードが迫ってきていた。

 

 レストランでの仕事を終えた汐と時雨。2人は先日の海辺に出没する雪男の行方を追っていた。

「もう、渚ちゃんまで凍らせちゃうなんて・・会ったら絶対にやっつけてやるんだから・・・!」

「やっつけるのは僕なんだけど・・・」

 不満を口にする汐に、時雨が肩を落とす。

「その、渚さんを氷付けにした怪物が、この近くにいたっていうんだね・・?」

「うん・・海水浴に来た女性を次々に凍らせているみたいなの・・」

「今度は汐ちゃんが凍らされたりして・・」

「ちょっと、こういうときに悪い冗談はやめてって・・・」

 からかってきた時雨に汐が言い返したときだった。

 突如2人に向けて強く冷たい風が吹き込んできた。

「キャッ!」

「な、何だ!?

 悲鳴を上げる汐と、声を荒げる時雨。吹雪に煽られて、汐が氷に包まれて動かなくなった。

「汐ちゃん!」

 氷付けになった汐を目の当たりにして、時雨が驚愕する。

「水着の女の子を凍らせるのが1番だけど、私服姿も捨てがたいってところだね・・」

 そこへ不気味な声がかかる。雪男が姿を現し、哄笑をもらしていた。

「お前が渚さんを凍らせたヤツか・・汐ちゃんまで・・・!」

「渚?もしかしてこの前凍らせた女の子のこと?あの子もかわいかったなぁ・・」

 憤る時雨だが、雪男は喜びを浮かべるばかりだった。

「お前をこのまま野放しにするなんてできない・・ここで倒してやる!」

 いきり立った時雨が異形の姿へと変身する。

「男は邪魔なだけなんだよね・・凍らせた後に粉々にするか・・氷の刃で串刺しにするのもいいかもしれない・・」

「残念だけど、オレはお前の獲物にはならない・・・!」

 笑みをこぼす雪男に、時雨が歩を進めていく。彼に向けて、雪男が氷の刃を放つ。

 だが時雨は具現化させた剣でその刃を叩き落していく。

「何っ!?オレの氷を壊すことなんて・・!?

 驚愕する雪男が吹雪を放つ。だが時雨が放った一閃が、吹雪を真っ二つに切り裂いた。

「そ、そんな・・・!?

「渚さんの氷を壊したのはオレだ。お前の攻撃を跳ね返すことができるのは当然だ・・」

 愕然となる雪男に、時雨がさらに前進していった。」

 

 街中で爆発が巻き起こる。シードの追跡から、亮平と渚は必死に逃げていた。

 だが異形の力を発揮するシードに、2人は徐々に追い込まれていた。

「いい加減に逃げ回るのはやめろよ・・もうテメェらに逃げ道なんてねぇってのに・・」

 苛立ちをあらわにするシード。行き止まりに追い詰められ、亮平と渚が困惑する。

「く、くそっ!」

「もう終わりだ・・諦めてオレに殺されろ・・・!」

 毒づく亮平に言い放ち、シードが刃を引き抜いた。

「冗談じゃない・・こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ・・・!」

「まだそんな口を叩けるのかよ・・バカは死ななきゃ治らねぇとはよく言ったもんだな!」

 たまらず叫ぶ亮平に向けて、シードが刃を突き出す。力の発動を強く願うと同時に、亮平は無意識に死を覚悟していた。

「亮平さん!」

 そこへ渚が飛び出して亮平を守ろうとしたときだった。

 突如彼女の体からまばゆい光が解き放たれた。

「何っ!?

「えっ!?

 この現象にシードと亮平が驚愕する。渚からあふれた光で、シードが突き飛ばされる。

「これって・・・私、何を・・・!?

 自分の身に起こったことに、渚自身も驚きを隠せなかった。

 

 

次回

第14話「力の復活」

 

「この力・・私の記憶に関係しているのではないでしょうか・・・」

「お姉ちゃんも、お人形にしてあげる・・・」

「亮平さん、逃げて!」

「僕は渚ちゃんを守る・・この気持ちに、もう迷ったりしない!」

 

 

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