ガルヴォルスForce 第12話「消える青」
時雨を追い詰めた亮平の前に、駆けつけた汐が現れた。汐は時雨を守ろうと、亮平の前に立ちはだかった。
「どうしても時雨を傷つけるつもりなら、あたしを先にやりなさいよ!」
「何を言い出すんだ・・・はやまったことをするのはやめてくれ!」
言い放つ汐に、亮平が困惑する。彼女は命懸けで時雨を守ろうとしていた。
「ダメだ、汐ちゃん!汐ちゃんが危険だ!」
時雨が呼びかけるが、汐は首を横に振って離れようとしない。
「たとえ弟でも、時雨の敵になろうとするなら、あたしにとっても敵だよ!」
「姉さん・・どいてくれ・・どいてくれって・・・!」
言い放つ汐に対し、亮平は攻撃を繰り出すことができずにいる。
「亮平さん!」
そこへ渚も駆けつけ、亮平に呼びかける。完全に自分が敵になっていると思い知らされ、亮平が戦意を失い、人間の姿に戻る。
「僕は・・僕は・・・!」
どうしたらいいのか分からなくなってしまう亮平。判断を下せなくなった彼は、たまらず時雨たちの前から逃げ出してしまった。
「亮平さん・・亮平さん!」
その彼を渚が追いかけていく。2人を追いかけたかった汐だが、時雨が心配になってしまい、その場を動くことができなかった。
裏路地に入ったところで、亮平は立ち止まる。混乱に陥ってしまった彼は、自分の信念を貫くこともできなくなってしまった。
(僕は、いったいどうしたらいいんだ・・・敵である人に攻撃できないなんて・・・)
思い悩み、打ちひしがれる亮平。壁にもたれかかる彼に、渚が追いついてきた。
「亮平さん・・・大丈夫ですか、亮平さん・・・?」
渚が亮平に心配の声をかける。しかし亮平にその声は届かない。
「みなさん、待っていますよ・・汐さんも、時雨さんも・・・」
「時雨さん・・・姉さんを助けたいのに、その姉さんが守ろうとする・・・」
「しっかりしてください、亮平さん!時雨さんは、何ひとつ変わっていないではないですか!」
渚に強く呼びかけられて、亮平が困惑を強める。彼女にここまで強く怒られたのは初めてのことだった。
「時雨さんは私たちの知っている時雨さんのままです。たとえ怪物になっても・・それは亮平さん、あなたも同じでしょう!」
「渚ちゃん・・・それは・・・」
渚が言いかける言葉に反論できないでいる亮平。結局、彼は渚に連れられて、家に戻るしかなかった。
夕暮れ時が近くなっている海岸。そこでは数人の少女たちが水泳を楽しんでいた。
「そろそろ上がらない?日が落ちたら真っ暗になっちゃうし・・」
「もうちょっとだけ。あとひと泳ぎさせて。ね?」
楽しい時間を諦めきれない少女たち。彼女たちは日が暮れるまで海でのひと時を楽しもうとした。
そこへ1人の男がやってきて、少女たちを見つめてにやけていた。
「いるいる。たくさんいるなぁ・・・」
男は言いかけた直後、白い毛で覆われた雪男のような怪物に変身する。雪男は少女たちに向けて、口から白く冷たい風を吐き出した。
「えっ!?」
突然の冷たさに少女たちが驚愕する。海から上がる間もなく、彼女たちは氷付けにされて動かなくなった。
雪男の強力な冷気。それは夏の暑さでも海の水でも解けることはなかった。
「いいぞ、いいぞ。かわいい水着の女の子は凍らせてしまうに限る・・・」
氷塊に閉じ込められている少女たちを見つめて、雪男が哄笑を上げる。
「さて、明日もまたかわいい子がやってくることだから、待つことにしよう・・」
雪男は人間の姿に戻ると、海岸から立ち去っていった。そこには氷付けにされた少女たちが取り残された。
亮平はひどく落ち込んでいた。自分の考えを貫くことができず、歯がゆい気分になっていた。
夕食では箸が進まず、その様子に渚も汐も困り果てていた。
「亮平さん、大丈夫ですか?・・今日はもう休んだほうが・・・」
渚が心配の声をかけるが、亮平は思いつめた面持ちのまま答えない。
「まさか亮平が、あそこまで時雨を敵視していたなんて・・・」
そこで汐がおもむろに呟きかける。彼女も亮平と時雨の対立を気にかけていた。
「う、汐さんも元気出してください・・せっかく新しい水着を買ったんですから・・」
「渚ちゃん・・・そうよね・・こういうときこそ元気を出さなくちゃいけないのに・・・」
渚に励まされて、汐が物悲しい笑みを浮かべる。亮平も汐もどうしたらいいのか、分からないでいた。
(ここは私がしっかりしないといけない・・いつまでも、亮平さんや汐さんに助けられてばかりではいけない・・・)
「今度の休みは海に行きましょう!新しく買った水着を海でお披露目するのですよ、汐さん!」
思い立った渚が、亮平と汐に呼びかける。彼女の勇ましさを垣間見て、2人が戸惑いを覚える。
「行きましょう、亮平さん、汐さん。大きく羽を伸ばせば、嫌な気持ちも晴れるはずです・・」
「渚ちゃん・・・」
渚の言葉に触発されて、汐が笑顔を取り戻す。
「そうだね・・せっかく新しいのを買ったのに、着てみないわけにいかないよね。」
汐は言いかけると、亮平に顔を近づける。
「楽しみにしててね。絶対にあたしたちに釘付けになるからね♪」
汐がにやけてくるが、亮平は笑顔を取り戻さない。深く落ち込んでいるものと改めて痛感し、汐はこれ以上声をかけられなかった。
(こうなったら、海水浴でストレス発散。そして時雨と亮平を仲直りさせる。これで万事解決!うん!)
汐も心の中で意気込みを強めていた。
だが予期せぬ事態が起きた。
時雨が海水浴に行こうとしている日に、大学のゼミのメンバー全員参加の補習があるという。
“ゴメンね、汐ちゃん・・せっかく僕やみんなのために考えてくれたのに・・”
「ううん。時雨の都合を考えなかったあたしが悪いから・・」
電話越しに互いに謝る時雨と汐。
“この埋め合わせは必ずするから・・”
「いいよ、いいよ。あたしがまたこういうのを企画したときに、一緒に行こうね。」
“分かったよ。それじゃ、また今度ね・・”
こうして時雨との連絡を終えた汐。だが最大の目的が達成されないことに、彼女は落胆を覚えていた。
「どうしたのですか・・?」
そこへ渚が声をかけると、汐が困り顔を見せる。
「時雨が大学の補習で来られないんだって・・せっかくの海水浴なのに・・・」
「仕方ないですよ・・あまり先延ばしすると込んでしまいますし、行くしかないですよ・・」
渚の言葉を受けて、汐が頷く。2人は渋々、時雨なしの海水浴に臨むのだった。
そして次の日曜日。亮平は渚と汐に連れられて、近くの海岸へ向かうのだった。
「ふぅ・・海で泳ぎに行くのは久しぶりだなぁ・・それどころか、授業以外で泳ぐことはほとんどなかったし・・」
先に着替えを終えて待っている亮平が、独り言を口にする。しばらく待ったところで、彼の前に渚と汐がやってきた。
2人の水着姿に見とれてしまい、亮平は視線を外せなくなる。
「ほーら、やっぱり釘付けになったー♪亮平も男の子ってことだね♪」
「汐さん、あまりからかわないほうが・・亮平さん、困っていますよ・・」
上機嫌の汐と、困ってそわそわする渚。亮平は頬を赤らめたまま、呆然と2人を見つめていた。
「ほらほら、いつまでもボーっとしてると、泳ぐ前に日が暮れちゃうよ。」
「え、あ、うん・・そうだね・・・」
汐に呼びかけられて、亮平はようやく我に返った。その彼に渚が手を差し伸べてきた。
「行こう、亮平さん・・」
渚に優しく声をかけられて、亮平はその手を取って笑顔を見せた。
それから3人の海辺でのひと時が始まった。
ゴムボートに乗って波に揺られる亮平。海辺で子供のようにはしゃぐ渚と汐。
ビーチバレー。スイカ割り。海の家での食事。
楽しいひと時は瞬く間に過ぎていった。
「ふぅ・・こういうのも悪くないけど、疲れるのが玉に瑕だな・・・」
吐息をついた亮平が、浜辺に横たわったまま眠りについていた。だが目が覚めたとき、彼は首から下を砂で埋められていた。
「えっ!?な、何だ、これは!?」
「ウフフフ。もう、亮平ったら、全然眼を覚まさないんだからー♪」
驚きをあらわにする亮平に、汐が笑みを浮かべる。
「私は、やめたほうがいいって言ったのですが・・・」
渚は困り果てた様子で、亮平と汐を見つめていた。
「渚ちゃんは悪くないよ・・悪いのは、そこのいたずら好きの子供なんだから!」
怒った亮平が自分を生めていた砂から飛び出してきた。慌てて逃げる汐と、目くじらを立てて追いかける亮平。2人の姿を見て、渚は思わず笑みをこぼしていた。
汐が泳ぎ着かれて日陰で休んでいる間、亮平と渚は岩場に来ていた。そこで2人は広がる海と青空を見つめていた。
「きれいですね・・どこまでも広がっていて、透き通っていて・・・」
海を見渡して、渚が微笑みかける。だがその笑顔が物悲しいものへと変わっていく。
「私の記憶も、この海みたいに遠くまで流されてしまったのでしょうか・・・?」
「渚ちゃん・・・」
渚が切り出した言葉に、亮平が戸惑いを覚える。だが彼はすぐに笑顔を取り戻した。
「消えてなくなったわけじゃない・・ホントに遠くにあるだけで、どこかに必ずある。そうだよね?」
「亮平さん・・・そうですよね・・いつかまた、思い出せるときが来ますよね・・・?」
「うん。きっと来る・・僕はそう信じているし、渚ちゃんもそう思っている。それでいいじゃない・・」
亮平に励まされて、渚が笑顔を見せた。彼女は亮平が普段の気さくさを取り戻したものと信じていた。
そのとき、亮平と渚が突然肌寒さを覚え、自分の体を抱きしめる。
「寒い・・夕暮れになって冷えてきたのでしょうか・・・?」
「いや・・それにしても寒すぎる・・どこから出てきてるんだ・・・!?」
声を振り絞る渚の隣で、亮平が緊張を募らせる。彼はこの冷気が故意に発せられていることに気付いていた。
(もしかして怪物が出しているのか・・・どこにいるんだ・・・!?)
亮平は五感を研ぎ澄まして、怪物の居場所を探る。冷気が発せられる方向に怪物はいる。
「そこか!」
亮平が振り向いた先に、冷気を放つ雪男がいた。彼の体から出る空気でさえ、普通の人間にとっては冷たく感じられた。
「またかわいい水着の女の子がやってきた・・」
「怪物・・こんなところにまで出てくるなんて・・・!」
不気味な笑みを浮かべる雪男に、亮平が憤りを浮かべる。
「でも、そこの男は邪魔だね。叩き潰しちゃおうか・・」
「渚ちゃん、ここは危ない!姉さんのところに逃げるんだ!」
敵意を向ける雪男を前にして、亮平が渚に呼びかける。
「でも、それでは亮平さんが・・・!」
「僕のことは気にしなくていい!姉さんのところに行くんだ、渚ちゃん!」
困惑する渚に、亮平がさらに呼びかける。彼は雪男の前に完全に立ちはだかった。
「邪魔するなよ・・バラバラにするぞ・・・!」
「お前なんかに、渚ちゃんに手は出させないぞ・・・!」
眼つきを鋭くする雪男に、亮平が強く言い放つ。異形の姿へと変身するため、亮平は意識を集中する。
だが、どんなに集中力を上げても、異形への兆しを示す異様な紋様が浮かび上がらない。
「えっ・・・!?」
何が起こったのか分からず、亮平が愕然となる。どんなに意識を高めても、異形に変身することができない。
「亮平さん・・・!?」
「どうしたんだ・・変身、できない・・・!?」
困惑する渚と、自分の両手を見つめて体を震わせる亮平。
「何をしようとしたのか知らないけど・・邪魔。」
そこへ雪男が迫り、亮平を横殴りで突き飛ばす。
「ぐふっ!」
「亮平さん!」
痛烈な攻撃に吐血する亮平と、たまらず悲鳴を上げる渚。だが彼女の前に雪男が立ちはだかる。
「そいつの心配をしなくても、君はすぐに氷付けにしてあげるから・・」
「に、逃げるんだ、渚ちゃん・・このままでは・・・!」
亮平が声を振り絞って、渚に呼びかける。
「せっかくの美少女を、逃がすわけないでしょうが・・・!」
眼を見開いた雪男が、口から吹雪を吐き出す。
「キャアッ!」
悲鳴を上げる渚。吹雪を浴びる彼女の体が氷に包まれていく。
「渚ちゃん!」
「亮平・・さん・・・」
たまらず駆け寄ろうとする亮平だが、彼の手が届く前に渚が完全に氷付けにされてしまう。
「渚、ちゃん・・・!?」
「うんうん。水着姿の美少女は、凍らせて鑑賞するのが1番だ・・」
愕然となる亮平のそばで、雪男が歓喜を浮かべる。
「さて、男のほうは邪魔だから、さっさとやっつけてしまうに限る・・」
雪男は言いかけると、亮平にも吹雪を吹きかける。その突風に押されて、亮平が海に投げ出されてしまう。
亮平の落ちた海を見下ろし、雪男が笑みを浮かべる。
「これでいい。これで・・・」
雪男は人間の姿に戻ると、氷塊の中に閉じ込められている渚を見つめる。彼女は凍りついたまま、微動だにしない。
「このかわいらしい姿をずっと保っていてちょうだいね・・では次のかわいい子を凍らせに行くとするかな・・」
男は不気味な笑みを浮かべながら、海岸から立ち去っていった。その場には氷付けにされた渚だけが取り残されていた。
亮平と渚が戻ってこないことを心配して、汐は浜辺を探し回っていた。そして彼女は岩場にやってきた。
「亮平と渚ちゃん、どこまで言っちゃったのよ、もう・・・」
不安を募らせて、汐が思わず呟きかける。彼女はさらに岩場を進んでいった。
そこで汐は驚愕を覚える。渚が氷の中に閉じ込められて動かなくなっていた。
「な、渚ちゃん・・・!?」
変わり果てた渚の姿を目の当たりにして、汐は混乱しそうになる。さらに彼女は、近くの海辺に漂っている亮平の姿を目撃する。
「亮平!」
汐がとっさに海に飛び込み、急いで亮平を海から引き上げる。
「亮平!しっかりして、亮平!」
汐が必死に呼びかけて、亮平が意識を取り戻す。
「あ・・ねえ、さん・・・」
「亮平!・・よかった・・目が覚めたんだね・・・」
呟きかける亮平に、汐が安堵の笑みをこぼす。
「・・そうだ!渚ちゃん!渚ちゃんは・・!?」
亮平が渚を思い出し起き上がるが、全身を襲う痛みに顔を歪める。
「亮平・・渚ちゃんが・・・」
汐の困惑を込めた言葉を耳にして、亮平も凍りついた渚を目の当たりにして愕然となる。
「渚ちゃん!?・・・守れなかった・・僕が・・僕が・・・!」
渚を守れなかった自分を責める亮平。その彼の肩を汐がつかむ。
「しっかりして、亮平!亮平は渚ちゃんを守ろうとして・・!」
「違う・・・変身できなかったんだ・・あの姿に・・・」
亮平の口にした言葉に、汐が当惑する。
「変身できなかったって・・どういうこと・・・!?」
「そのままの意味だよ・・どんなに願っても、集中しても、あの力を出せなかったんだ・・・」
亮平が告げた言葉に、汐は完全に困惑する。亮平は異形の力を発揮することができなくなっていた。
次回
「僕は、渚ちゃんを守れなかった・・・」
「君はいったい何のために戦っているんだ・・・?」
「いい気味だな、東亮平・・・」
「亮平さんは優しい人・・私のために、命懸けで戦っているんです・・・」