ガルヴォルスForce 第11話「深まる溝」

 

 

 互いの正体を知ってしまった亮平と時雨。時雨の打撃を受けて、亮平は意識を失った。

「まさか亮平くんまで・・・僕は何てことを・・・」

「気にしないでください・・時雨さんには、全然悪気はないんですから・・・」

 自分を責める時雨に、渚が弁解を入れる。彼女の言葉に励まされて、時雨が気持ちを落ち着ける。

「とにかく家に行こう。汐ちゃん、とても心配していたよ・・」

「汐さんが!?・・・すみません・・私のために・・・」

 時雨の言葉を受けて、渚が沈痛の面持ちを浮かべる。すると時雨が渚の肩に優しく手を添える。

「汐ちゃんなら、渚ちゃんを優しく受け止めてくれるよ。ではそろそろ帰ろうか。」

「はい・・・」

 時雨の言葉に頷く渚。だが亮平のみを案じていたため、渚は笑顔を見せることができなかった。

 

 亮平たちの帰りを、心配しながら待っていた汐。その心配のあまり、彼女はいても立ってもいられなかった。

「時雨も亮平も渚ちゃんも、ホントにどこに行っちゃったのよー・・・」

 不安を膨らませてひどく落ち込む汐。時刻はもうじき日付を変えようとしていた。

 そのとき、家のインターホンが鳴り、汐が慌てて玄関に向かう。ドアを開けた先には、時雨、渚、そして意識を失ったまま背負われている亮平の姿があった。

「時雨・・渚ちゃん・・亮平・・・」

 3人が戻ってきたことに戸惑いを浮かべる汐。

「亮平くんを休ませてあげて。眠っているだけだから・・」

「う、うん・・・」

 時雨に呼びかけられて、汐が渋々頷く。亮平はベットに横たえられることとなった。

「それと汐ちゃん、大事なお話があるんだ・・・」

「・・今日のことと関係しているの・・・?」

 汐の問いかけに時雨が頷く。汐は緊張を膨らませて、時雨の話に耳を傾ける。

「汐ちゃん・・・亮平くんも、僕と同じ怪物だった・・・」

「えっ・・・!?

 時雨が口にした言葉に、汐が驚愕を覚える。渚も沈痛の面持ちで、2人を見守っていた。

「ホントなの!?・・・ホントに、亮平も・・・!?

「うん・・怪物の姿から元に戻るのを、確かに見た・・渚さんも、知っていたみたいだよ・・・」

 時雨の答えを聞いて、汐が渚に眼を向ける。

「どうして黙ってたの!?・・何で話してくれなかったの・・・!?

「すみません・・亮平さんに、黙っていてほしいと言われていて・・・」

 問い詰める汐に、渚が沈痛さをあらわにする。その怯え様を見て我に返り、汐が困惑する。

「ゴメン、渚ちゃん・・渚ちゃんも辛いのに・・・」

「いえ、大丈夫です・・私が汐さんに話をしていれば・・・」

 謝る汐と、弁解する渚。口ごもる2人に、時雨が声をかける。

「渚さん、亮平くんは、いつごろから変身するようになったか、分かりますか・・・?」

「はい・・私がここでお世話になってから間もないです・・・」

 時雨の問いかけに渚が答える。すると時雨が深刻な面持ちを浮かべる。

「誤解が生まれてしまったことは、僕も悪かったと思っている・・でも、互いの正体が分かっても、どうして亮平くんは・・・」

「大丈夫です。亮平さん、すぐに分かってくれますよ・・・」

 思いつめる時雨に、渚が微笑みかけてきた。

「亮平さんが優しいこと、私も分かっています・・・だから今までどおり、亮平さんを信じてください・・・」

「渚ちゃん・・・何を言ってるのよ・・あたしは亮平の姉だよ。あたしが信じないわけないでしょう・・・」

 渚の呼びかけに、汐が涙ながらに言いかける。

「僕も亮平くんを信じるよ。汐ちゃんが信じるのに、僕が信じないわけにはいかないからね。」

「汐さん・・時雨さん・・・本当に、ありがとうございます・・・」

 亮平への信頼を寄せる汐と時雨に、渚が喜びを覚える。信頼が膨らみ絆が強まっていくことが、彼女にとってあたたかかった。

「亮平はあたしが見てるから、渚ちゃんはもう休んで。時雨も休んだほうがいいよ。」

「汐さん・・・汐さんだけで大丈夫ですか・・・?」

 不安を浮かべる渚だが、汐は笑顔を絶やさない。

「大丈夫だよ。あたしは家でお留守番ばかりしてて、体を動かしたくてウズウズしてたんだから♪」

「介抱は体を動かすばかりじゃないよ・・」

 上機嫌に振舞う汐に、時雨が呆れて肩を落とした。

 それから汐が亮平の解放に当たり、渚は体を休め、時雨は帰宅するのだった。

 

 亮平が眼を覚ましたときには、時計の針が既に3時を回っていた。

「・・・あれ・・・?」

「やっと眼が覚めたみたいね。んもう、あたしや渚ちゃんがどれだけ心配したと思ってるのよ・・」

 きょとんとなっている亮平に、汐がため息混じりに声をかけてくる。

「姉さん・・・僕、どうしてたんだ・・・?」

「どうしてたも何も・・時雨さんと戦って、気を失ったんじゃないの・・・」

 疑問符を浮かべる亮平に、汐が呆れながら言いかける。その言葉を受けて、亮平が血相を変える。

「そうだ!アイツ・・うっ!」

 とっさに起き上がろうとした亮平だが、体が悲鳴を上げて思うように動けない。

「待ちなさいって!まだ動ける体じゃ・・!」

「このまま放っておけないって・・早くアイツを何とかしないと・・・!」

「アイツって、時雨のこと?・・・時雨はそんな人じゃない・・・」

 汐が深刻な面持ちで言いかけた言葉に、亮平が当惑を覚える。

「知っているのか!?・・渚ちゃんから聞いたの・・・!?

「それと、時雨からもね・・・」

 問いかける亮平に汐が頷く。しかし亮平の心の揺らぎは治まらない。

「たとえ姿が怪物になっても、時雨であることに変わりはない。それは亮平、あなただって同じでしょう・・・」

「だけど、あの人は・・あの人は・・・!」

「どんなことがあったって、いつもの時雨・・だから、時雨のこと、信じてあげてよ・・・」

 涙ながらに亮平に訴えかける汐。だが亮平は素直にその気持ちを受け止めることができなかった。

 時雨が異形の姿となって、渚に迫ってきたことが何度かあった。その経緯から亮平は警戒せざるを得なかった。

 亮平の時雨への信頼は今、完全に揺らいでしまっていた。

 

 それから数日がたった。渚は汐に連れられて、街に買い物に出ていた。

 元気をなくしかけている渚を元気付けたい。汐の彼女への励ましだった。

「うーん・・このサイズだとこの柄がいいのかなぁ・・・?」

 水着選びに悩む汐。一方で渚はどの水着を選んだらいいのか分からず、困り果てていた。

「どうしたの、渚ちゃん?もしかして選び方が分かんないとか?」

「はい・・どの水着を買ったらいいのか、全然・・・」

 汐が問いかけると、渚が答える。すると汐が自信に満ちた顔を見せる。

「よーし!このあたしが、今年の流行の予想を踏まえて、渚ちゃんにいい水着を選んであげる♪」

「えっ?汐さん・・・?」

 汐の意気込みに渚が戸惑いを浮かべる。

「さぁさぁ、まずは何か試着してみないことには始まんないよ♪」

「えっ!?ちょっと、汐さん!?

 動揺する渚を連れて、試着室に入る汐。

 ワンピースやキャミソール、ビキニなど、様々なタイプの水着を試着する。大胆なビキニタイプに、渚は赤面していた。

「うん。こういう感じのほうが似合うかな。」

 最終的に決まったのが、シャーリングボーダーワイヤーの3点水着だった。

「どうかな?自分で着てみて、似合ってると思うかな?」

「はい・・私も、自分でも似合うと思います・・・」

 汐に声をかけられて、渚が微笑んで頷く。

「さーて、それじゃ今度はあたしの水着を選ばなくちゃね。これで迷うことなく選べそうね♪」

 汐も活気を見せて、自分の水着選びに専念するのだった。

 

 買い物を終えた汐と渚は、近くのハンバーガーショップで小休止していた。

「ありがとうございます、汐さん・・私のために・・・」

「気にしないで。あたしも新しい水着がほしかったからね・・」

 感謝の言葉をかける渚に、汐が笑顔で答える。渚の笑顔を見て、汐は安堵の笑みを浮かべる。

「どうやら、そんなに落ち込んでないみたいだね・・」

「えっ・・・?」

 汐に突然声をかけられて、渚が当惑を浮かべる。

「亮平と時雨のことで悩んでるんじゃないかって思って、今日渚ちゃんを誘ったんだけど・・」

「汐さん・・・本当に、本当にありがとうございます・・私のために、私たちのためにここまで・・・」

 汐の優しさを感じて、渚が感動して涙を浮かべる。それを目の当たりにして、汐がそわそわし出す。

「そ、そんなに感動することのほどじゃないって。アハハハ・・・」

「す、すみません・・嬉しくなったら、涙が出てきてしまって・・・」

 苦笑いを浮かべる汐に、渚が微笑んで指で涙を拭う。

「でも、汐さんも大丈夫なのですか?・・亮平さんと時雨さんのこと、私よりも心配しているのですよね・・・?」

「あたしは平気だって。だって時雨も亮平も今までと変わってないんだから。」

 不安を投げかける渚に、汐が笑顔を見せて答える。

「今は信じて待つことにする。またいつものように仲良く楽しい時間を過ごせるって・・」

「汐さん・・・そうですね・・私も信じてあげないと、亮平さんに悪いですから・・・」

 汐の気持ちを聞いて、渚が改めて亮平への信頼を胸に宿した。

「さーて。この水着で時雨と亮平の視線を釘付けにしてやるわよー♪」

「汐さん、少し落ち着いて・・・」

 にやける汐に渚が呼びかける。このような屈託のない会話を経て、2人は店を出た。

 

 逃げ惑う1人の女性。彼女は恐怖を膨らませながら、追ってくる影から必死に逃げていた。

 彼女を追っていたのは、フランス人形のような洋服を着た幼い少女だった。だが彼女からは異質の力が宿っていた。

 ついに行き止まりに追い詰められた。息を荒くしている彼女に対し、少女は無表情を変えていない。

「来ないで・・・何なのよ、あなた・・・!?

「かわいいお人形さんを探してるの・・あなたはとてもかわいいから、私のお人形さんになって・・・」

 声を上げる女性に淡々と言いかけると、眼から不気味な輝きを放つ。その瞬間、女性の体が淡い光に包まれて小さくなった。

 女性は地面に落ちて、動かなくなる。その姿を見下ろして、少女が微笑みかける。

「これでまたお人形さんが増えたよ・・・」

 少女は人形になった女性を拾い、じっと見つめる。

「この調子でどんどんお人形さんを増やしていかないと・・・」

「待つんだ!」

 立ち去ろうとした少女が呼び止められる。彼女の前に現れたのは時雨だった。

「たとえ子供でも、人を傷つけるのを放ってはおけない・・・!」

「邪魔しないで・・お人形さんを持って帰るんだから・・・」

 時雨の声を聞き入れず、少女が立ち去ろうとする。

「その人を放すんだ!」

 いきり立った時雨が異形の姿へと変身する。

「あなたも怪物なの?・・でも私、相手する気分じゃないの・・・」

「みんなを放せ!でなければ君を倒さなくてはならなくなる・・・!」

「本当に邪魔しないでよ・・私、怒るよ・・・」

 鋭く言いかける時雨に、少女が不満を浮かべてきた。彼女の眼から放たれた眼光を、時雨が横に飛んでかわす。

 具現化した剣を手にして、時雨が少女に飛びかかる。防御の術を持っていない少女は、突き出された剣をかわすも、その衝撃に押されてしりもちをつく。

 起き上がろうとした少女の鼻先に、時雨が剣の切っ先を向ける。

「みんなを元に戻すんだ・・できることなら、僕は君を殺めたくない・・・」

 時雨が忠告を送るが、少女は聞き入れる様子を見せず、ただ無言で彼を見つめるだけだった。

「これも仕方のないことかもしれない・・・」

 時雨が迷いを振り切り、少女に剣を振り下ろそうとした。

「やめろ!」

 だがその剣が横から弾かれ、時雨が攻撃を外される。その間に少女が彼の前から離れる。

「こんな幼い女の子まで・・何を考えているんだ、あなたは!?

 現れたのは異形の姿へと変身した亮平だった。怒りをあらわにしている亮平に、時雨が弁解を入れる。

「違う!その子も怪物だ!人を人形に変えているんだ!」

「みんなを騙しているお前の言葉が信じられるか!」

 しかし亮平は時雨の言葉に耳を貸そうとしない。その間に少女は立ち去り、姿を消してしまった。

「そうやってみんなを傷つけようとしているのか・・姉さんや、渚ちゃんまで騙して・・・!」

「話を聞くんだ、亮平くん!僕は誰かを傷つけるつもりはない!この力も、汐ちゃんを守るためだけに使っているんだ!」

「うるさい!僕は騙されない!姉さんを騙したお前を、僕は許さない!」

 時雨の呼びかけを一蹴して、亮平が飛びかかる。彼が突き出した拳を、時雨が手で弾く。

「やむを得ないのか・・・!」

 歯がゆさを募らせながら、時雨も亮平に拳を繰り出す。だが体の色を青から金色に変えた亮平が、加速した動きでその拳を回避する。

「速い・・こんな力まで持っているなんて・・・!」

 毒づく時雨が後ろに振り返る。その先にいる亮平が、時雨を睨んでくる。

「僕は決めたんだ・・渚ちゃんを傷つけさせないって・・・」

 亮平の体の色が金から赤に変わる。

「だから、あなたを倒す・・・!」

 亮平が真正面から駆け出し、時雨に拳を繰り出す。時雨が剣を振りかざすが、亮平の強化された力でその刀身を叩き折られてしまう。

「くっ!すごい力だ・・ここまで力を上げられるなんて・・・!」

 毒づいた時雨が、後退して亮平との距離を取る。

「これほどの力の飛躍と能力のバリエーションを見せてくるなんて・・・オレでも止められるかどうか・・・」

 状況の打破を試みる時雨に、亮平が接近する。彼の体が赤から金になると、その姿が時雨の視界から消える。

「何っ!?

 驚愕を覚える時雨が周囲を見回す。だが亮平は彼の背後に回りこんでいた。

「しまっ・・!」

 眼を見開いた時雨が、赤い体になった亮平の痛烈な打撃を受ける。その衝撃で激しく横転した時雨は、人間の姿へと戻ってしまう。

「くそっ・・まさかここまでとは・・・体に、力が入らない・・・!」

 激痛にさいなまれていく時雨。必死に立ち上がろうとする彼だが、思うように体が動かない。

 そんな彼の前に、青い体に戻った亮平が立ちはだかる。

「もうやめてくれ、時雨さん・・姉さんの気持ちを、ちゃんと受け止めてほしい・・・」

 亮平は言いかけると、右手に力を込める。回避を試みようとする時雨だが、思うように動けない。

「やめて!」

 そこへ聞き覚えのある声がかかり、亮平が眼を見開く。直後、2人の間に汐が割り込んできた。

「姉さん!?

「汐ちゃん!」

 声を荒げる亮平と時雨。汐が感情をあらわにして、声を張り上げる。

「亮平、どういうつもりなの!?時雨は何も悪いことしてないじゃない!」

「何を言ってるんだ、姉さん!?時雨さんは怪物なんだよ!」

「それは亮平も同じじゃない!でも2人とも心までは怪物になってない!そうでしょ!?

 汐に言いとがめられて、亮平は反論できなくなる。しかし時雨への危険視を捨て去ることもできないでいた。

「どうしても時雨を傷つけるつもりなら、あたしを先にやりなさいよ!」

 涙ながらに言い放つ汐。彼女の言動に亮平だけでなく、時雨までも緊迫を膨らませていた。

 

 

次回

第12話「消える青」

 

「僕は、いったいどうしたらいいんだ・・・」

「ほーら、やっぱり釘付けになったー♪」

「かわいい水着の女の子は凍らせてしまうに限る・・・」

「亮平さん・・・!?

「どうしたんだ・・変身、できない・・・!?

 

 

作品集

 

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