ガルヴォルスForce 第10話「傷だらけの戦士」

 

 

 汐を連れて東家に赴いた時雨。そこで2人は、家に亮平も渚もおらず、鍵もかかっていないことに気付く。

「どうしたんだろう、2人とも?・・どこか出かけたのかな・・・?」

「そんなはずはないよ・・渚ちゃんは分からないけど、亮平には家から出かけるときには、必ず連絡するように言ってある・・黙って、それも家の鍵をかけずにいなくなるなんて・・・」

 不安を口にする時雨と汐。家の中に亮平と渚の姿はなかった。

「僕はこの近くを探してみるよ。汐ちゃんはもう1度家の中を探してみて。」

「分かった。気をつけてね、時雨。」

 時雨の呼びかけに汐が答える。東家を彼女に任せて、時雨は外に赴いた。

 だが周辺を探し回ったが、亮平も渚も見つからない。時雨の中にある不安が徐々に膨らんでいた。

 そのとき、彼のいる通りの近くから轟音が響いてきた。

「この音・・・もしかして渚さん、怪物に・・・!?

 緊迫を一気に膨らませた時雨は、急いで音のしたほうへ駆け出していく。しばらく駆けていったところで、彼は眼を見開いた。

 渚のそばに、自分と互角の戦いを繰り広げた怪物の姿があった。

「アイツ・・・これ以上お前を野放しにはできない!」

 怒りをあらわにした時雨が、異形の姿へと変身し、その怪物、亮平に飛びかかる。

 時雨の接近に気付いた亮平が迎撃に出る。2人は組み合うと、道を激しく横転していった。

 満身創痍の亮平に勝ち目はなかった。彼は時雨の攻撃に対して防戦一方となっていた。

 剣を具現化させた時雨が、その刃を亮平に向けて突き出す。その刀身が、シードの刃でつけられた左肩の傷に突き刺さった。

「ぐあっ!」

 激痛を覚えて絶叫を上げる亮平。時雨の猛攻に押されて、ついに亮平は崖下に突き落とされてしまう。

「海に落ちてしまったか・・これでは倒せたかどうかを確かめることができない・・・」

 毒づく時雨が亮平の生死を確かめられないまま、崖の上から立ち去っていった。彼の姿が見えなくなってから、渚が崖の上に駆け込んできた。

「亮平さん・・・亮平さん!」

 悲痛の叫びを上げる渚。彼女は必死の思いで亮平を探す。

 捜索を続けて崖下の岩場に来た渚。そこで彼女は海から流れてきた亮平を発見する。彼は怪物の姿から人間の姿に戻っていた。

「亮平さん!」

 渚が慌てて亮平に駆け寄る。海から引きずり出して、彼女は亮平に呼びかける。

「亮平さん!しっかりして、亮平さん!」

 渚が呼びかけても、亮平の意識は戻らない。

(亮平さんが・・私のために、こんなになって・・・)

 傷だらけの亮平を目の当たりにして、悲痛さを噛み締める渚。

 そのとき、渚は崖の上でシードがいるのに気付く。

(早く離れないと、私たち・・・!)

 渚が急いで亮平を引き上げて、この場から離れる。そこで彼女は洞窟を発見して、そこに身を潜めた。

 

 亮平と渚の行方を追って崖の上に現れたシード。2人を見つけられず、シードは苛立ちを募らせていた。

「くそっ!・・この近くに力を感じたんだ。この近くにいないはずはない・・・!」

 感情をあらわにするシードが力を暴走させる。その衝撃が周囲の草木を揺るがし、地面を崩壊させていく。

「必ず始末してやるぞ、東亮平・・そしてあの娘はオレがいただくぞ・・・!」

 シードは低く呟くと、2人の捜索のために場所を変えた。力の解放での崖の崩落で、崖下の洞窟の入り口が塞がれてしまっていた。

 

 洞窟の中へと避難した渚と亮平。未だに亮平の意識は戻っていない。

「このままじゃ亮平さんが・・・私、どうしたら・・・」

 亮平を助けようと強く思う渚。しかし彼女には彼を助ける術が分からなかった。

「イヤ・・亮平さんが死ぬなんて・・亮平さんがいなくなるなんて・・・!」

 悲痛さを募らせて、渚が声を振り絞る。彼女は無意識に、亮平を強く抱きしめていた。

(亮平さんを助けたい・・亮平さんが戻ってくるなら、私はどんなことになっても構わない・・・!)

 渚が亮平の無事を強く願った。

 そのとき、渚の体から突如淡い光があふれ出てきた。光は霧のように亮平の体に流れ込んでいった。

(これって・・・私から、何かがあふれてくる・・亮平さんに、入っていく・・・)

 自分の中に起こっている変化を、渚は実感していた。

(お願い、亮平さん・・どうか、眼を覚まして・・・!)

 渚は強く願った。亮平が眼を覚ましてくれることを。

 その願いが聞き入れられたかのように、亮平が閉ざしていた眼を開いた。

「渚、ちゃん・・・?」

「亮平さん・・・!?

 呟きかけてきた亮平に、渚が戸惑いを浮かべる。

「力が、湧いてくる・・・どうなってるんだ・・・?」

「亮平さん・・・よかった・・気がついたんですね・・・」

 当惑する亮平を見て、渚が喜びを覚える。その歓喜に駆り立てられて、彼女は亮平を強く抱きしめた。

「ち、ちょっと渚ちゃん、苦しいって・・・」

「す、すみません!・・亮平さんが無事だったことが、とても嬉しくて・・・」

 亮平の声を聞いて、渚が我に返って離れる。だが喜びを抑えることができず、彼女は再び亮平に寄り添った。

「でも本当に嬉しいです・・本当によかったです・・・」

「渚ちゃん・・・ゴメン・・僕のために、また渚ちゃんを悲しませちゃったみたいだね・・・」

 涙を見せる渚に、亮平が沈痛さを浮かべる。震える彼女の体を、彼は優しく抱きしめる。

「僕は強くなる・・渚ちゃんを悲しませないために・・渚ちゃんが、心からの笑顔を見せられるように・・・」

「亮平さん・・・」

 亮平の決意に、渚が戸惑いを覚える。自分のために全身全霊を賭けている亮平に、彼女は動揺を隠しきれなくなった。

「ありがとう・・本当にありがとう・・亮平さん・・・」

 亮平の気持ちに応えようと、渚も涙ながらに感謝の言葉を繰り返した。

 

 心身ともに落ち着いたところで、亮平と渚は洞窟から脱出しようとしていた。だが入り口は岩で完全に塞がれていた。

「下手に力を使ったら、洞窟が壊れて僕たちまでお陀仏になってしまう・・奥まで行って出られることに賭けてみるしかないか・・・」

「でも、奥に行って出られるか分からないんですよ・・」

「このままここにいても、結局出られないままだよ。だったらやってみるしかない・・」

 不安を浮かべる渚に亮平が言いかける。その言葉を受けて、渚が亮平に信頼を寄せる。

「分かりました・・私、亮平さんを信じているんです。ここに亮平さんを信じないと・・・」

「渚ちゃん・・ありがとう・・それじゃ、行くよ・・・」

 強まっていく信頼を胸に秘めて、亮平と渚は洞窟の奥へと向かった。日の光が差さず漆黒の闇に満たされた洞窟の中だが、亮平の視覚は鮮明にその内部を捉えていた。

 1本道であるため、真っ直ぐに進むことができた2人。だが依然として外に出られる気配は感じられなかった。

 だがしばらく歩いたところで、亮平が足を止めて耳を澄ます。彼の鋭い聴覚が、近くで流れる水の音を捉えていた。

「どうしたのですか、亮平さん・・・?」

「水の音がする・・もしかしたら、近くに下水か川があるのかもしれない・・・」

 渚が問いかけると、亮平が真剣な面持ちのまま答える。

「こうなったら壁を壊して外に出るしかない・・でも壊した途端に水が流れてくる危険があるんだ・・」

「大丈夫です。亮平さんと一緒なら、必ず希望があるって信じてますから・・・」

 不安を口にする亮平に、渚が信頼を寄せる。その言葉を受けて、亮平が微笑んで頷いた。

「分かった。渚ちゃん、僕にしっかり捕まっているんだ。」

「はい。」

 亮平の呼びかけに渚が頷く。亮平は意識を集中して、異形の姿へと変身する。

「それじゃ行くよ、渚ちゃん。」

 亮平は渚に言いかけると、右手に力を込める。水の音のするほうに向けて、彼はその拳を岩の壁に叩きつける。

 勢いよく粉砕される壁。その先は下水の通路につながっていた。

「下水の地下通路だ・・うまく通じたみたいだ・・・」

 外への道を見出して、亮平が安堵を覚える。

「大丈夫ですか、亮平さん?体はどこも痛くないのですか・・?」

「大丈夫だよ。痛みはない。大分回復したみたいだ・・」

 渚の心配に亮平が微笑んで答える。2人は下水の上流に眼を向ける。

「急いで出よう。姉さんと時雨さんが心配している・・・」

「そうですね・・行きましょう・・」

 外を目指して、亮平と渚は再び歩き出していった。

 

 依然として亮平と渚を見つけられずにいた時雨と汐。時刻は夜に差しかかり、時雨は家にいる汐と連絡を取っていた。

“2人とも、まだ・・・時雨、1度戻ってきて。このままだと時雨の体が持たないよ・・・”

「ありがとう、汐ちゃん・・もう少しだけ探したら、1度戻るよ・・・」

“分かった・・もし先に2人が帰ってきたら、そのときに連絡するね・・・”

 汐との連絡を終えて、携帯電話をしまう時雨。彼はその日の最後の捜索を行おうとした。

「こんな時間にまでうろついているとは、君も危なっかしいじゃないか。」

 そこへ声がかかり、時雨が振り返る。その先にいたのは、悠然さを見せているシードだった。

「またあなたですか。あなたの相手をしている暇はないんです・・」

「暇があろうがなかろうが関係ねぇんだよ。鬱陶しいヤツはすぐに退場させたほうがいいからな。」

 不満を浮かべる時雨に、シードが粗暴に言いかける。

「僕は倒れるわけにはいかない・・僕の帰りを待っている人がいるから・・・」

「気色悪いこと言ってんじゃねぇよ、クソガキが・・・!」

 決意を口にする時雨と、苛立ちをあらわにするシード。2人が各々の異形の姿へと変身する。

「時間が惜しい。すぐに終わらせるぞ。」

「オレに大口を叩くな!」

 低く告げる時雨に怒号を浴びせるシード。2人が手にした剣と刃がぶつかり合い、火花を散らす。

「オレには、オレを支えてくれる人たちがいる。自分が正しいと思っているお前には、絶対に負けない!」

「善人ぶった言い方をしやがって!自分が正しいと思っているのはテメェだろうが!」

 力押しを仕掛けるシードが、全身から刃を放出する。時雨が後退して、その刃を剣で叩き落としていく。

 そこへシードが飛び込み、刃を突き出してきた。この突きも剣ではたくが、このとき時雨は体勢を崩してしまう。

「終わりだ!」

 シードが落下する時雨に向けて刃を構える。そこへ時雨が手にしていた剣をシードに向けて投げつける。

「何っ!?

 驚愕するシードの左肩を剣がかすめる。その衝動でシードも体勢を崩される。

 体勢を立て直せないまま、地上に落ちる時雨とシード。すぐに立ち上がるシードだが、時雨の姿は既になかった。

「また逃げたのかよ!・・こっちも傷がついたか・・命拾いしたな、ガキが・・・」

 シードは人間の姿に戻ると、時雨を追おうとせず、きびすを返してこの場を立ち去った。

 

 外を目指して下水の地下通路を進んでいく亮平と渚。2人はようやく、地上に向けて伸びているはしごを発見する。

「よし。ここから外に出られそうだ・・渚ちゃん、僕が先に出て様子を見てくるから・・」

「分かりました。では後から私も上っていきますから・・」

 亮平が呼びかけると、渚が微笑んで頷く。亮平ははしごを上って、地上に向かう。

 そしてはしごの頂上のマンホールに差し掛かったときだった。

「よし。ここから外に出られる・・・」

 マンホールを開けて外に出たとき、亮平はその上の道を歩く異形の姿を目撃する。それは亮平にとって因縁のある姿だった。

「アイツ・・また・・・!」

 いきり立った亮平が飛び出し、時雨に向かって飛びかかる。気付いた時雨が剣を具現化して迎撃に出る。

「お前、こんなところまで!」

 時雨が突き出した剣を、亮平が右手ではたく。だが時雨が立て続けに出した右のひざ蹴りを受ける。

「うっ!」

 痛烈な一撃を受けて突き飛ばされる亮平。横転する彼に、時雨が間髪置かずに追撃を仕掛ける。

 横転しながら必死に回避しようとする亮平。だが時雨の剣は、徐々に亮平に迫りつつあった。

「オレは負けない!オレの帰りを待つ人がいるから!」

「負けられないのはこっちのほうだ・・もう僕は、渚ちゃんを悲しませたくない・・・!」

 互いに自身の意思を言い放つ時雨と亮平。だが亮平が口にした言葉に時雨が一瞬眉をひそめる。

 その隙を狙って、態勢を整えた亮平が飛びかかる。だが彼が繰り出した拳は、時雨に紙一重でかわされる。

「なっ・・・!?

 声を荒げる亮平。時雨が気を取り直して、亮平に向けて剣を振りかざす。

「ぐっ!」

 体を斬りつけられて、亮平がうめく。だが亮平は反射的に、時雨に右足を叩き込んでいた。

「ぐあっ!」

 痛烈な反撃を受けて倒れる時雨。亮平も傷を負って仰向けに倒れる。

 傷ついた2人。そこへ渚が遅れて地下通路から外に出てきた。

「亮平さん・・・亮平さん!」

 渚が悲痛さをあらわにして、亮平に駆け寄る。そのとき、亮平と時雨が力を消耗し、人間の姿へと戻る。

「えっ・・・!?

 渚は亮平と対峙していた人物が時雨であったことに驚愕する。そして互いの正体を目の当たりにした亮平と時雨も。

「君は・・・!?

「どうして・・・!?

 2人は眼を疑った。今まで因縁を込めて戦ってきた相手が、自分の身近にいる人だったことが信じられなかったのだ。

「まさか、君まで僕と同じだったなんて・・・!」

「時雨さんも、怪物の仲間だったなんて・・・!?

 愕然となる時雨と亮平。2人の様子を目の当たりにする渚も、動揺の色を隠せないでいた。

「渚ちゃんには手を出させない・・たとえ姉さんのボーイフレンドであるあなたであっても、絶対に渚ちゃんを傷つけさせない!」

「亮平くん!」

 いきり立った亮平が時雨に向かって飛びかかる。2人は組み合ったまま、激しく横転する。

「亮平さん!時雨さん!」

 悲痛の叫びを上げる渚が2人を追いかける。彼女が駆けつけたとき、時雨がとっさに足を突き出して、亮平を突き飛ばす。

「やめるんだ、亮平くん!どうして僕たちが争わなくてはいけないんだ!?

「僕たちを騙しておいて・・姉さんを騙しておいて!」

 呼びかける時雨だが、亮平は聞く耳を持たない。

「仕方がないのか・・・!」

 毒づく時雨に向かって、亮平が再び飛びかかる。

「やめて、亮平さん!」

 そこへ渚の悲痛の声が飛び込む。その声を耳にして、亮平の動きが鈍る。

 その一瞬の隙を突き、時雨が拳を叩き込む。その一撃を受けて、亮平が昏倒する。

 疲労で意識を失い、亮平が動かなくなる。

「亮平さん!・・亮平さん・・・」

 亮平に駆け寄り、渚がさらに困惑する。痛みを訴える体に鞭を入れて、時雨が立ち上がる。

「大丈夫だよ。気絶しているだけだ・・それよりも・・・」

 渚に言いかけて、時雨が困惑の面持ちを浮かべる。2人の異形が、ついに互いの正体を目の当たりにしたのだった。

 

 

次回

第11話「深まる溝」

 

「まさか亮平くんまで・・・」

「時雨のこと、信じてあげてよ・・・」

「亮平さんが優しいこと、私も分かっています・・・」

「僕は決めたんだ・・渚ちゃんを傷つけさせないって・・・」

「だから、あなたを倒す・・・!」

 

 

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