ガルヴォルスForce 第9話「強さの意味」

 

 

 新たなる形態へと変身し、高まった耐久力で時雨の攻撃を跳ね返す亮平。反撃に転じた亮平が、時雨に向けて両手を突き出す。

(この力がどういうものなのか、僕には分かる・・高い防御と回復だけじゃない・・風と、自然のエネルギーを操る力・・・!)

 眼を見開いた亮平が、両手から旋風を解き放つ。その風に巻き込まれて、時雨が上空に跳ね上げられる。

「ぐっ!」

 地面に叩きつけられた時雨が、激痛を覚えてうめく。必死に起き上がろうとするが、思うように体が動かない。

「これで終わりだ。悪く思わないでくれ・・・」

 亮平が時雨にとどめを刺そうとしたときだった。

 突如亮平の体が青へと戻ってしまった。突然のことに亮平は驚きを隠せなかった。

「どういうことなんだ・・元に戻ってしまった・・・!?

 自分の両手を見つめる亮平。その隙に時雨が何とか立ち上がり、この場から離れていった。

 怪物を逃がしてしまったことに毒づいた亮平は、人間の姿へと戻った。

「どうしてなんだ・・回復力を見せていたのに、突然戻るなんて・・・」

 なぜこのようなことになったのか分からない亮平。彼は再び緑色の姿へと変身し、その原因を確かめた。

「もしかしたら・・よくは分からないけど、この姿は変身していられる時間が限られているんだ・・だいたい10分ぐらいまで・・・」

 4つ目の姿の性質を把握した亮平が、気持ちを落ち着ける。

「どっちにしても、あんまり多用するものじゃないな・・・」

 自分の力を改めて自覚した亮平は、自宅に戻ることにした。彼はバイクに乗り、広場を後にした。

 

 亮平の驚異の力から辛くも逃げることができた時雨。疲弊した彼は、人間の姿へと戻った。

「くっ!・・まさかあんな力も見せてくるなんて・・・!」

 毒づく時雨が、自分の体を気にする。亮平との戦いで受けた傷は、徐々に回復しつつあった。

「できることなら、この力を使いたくないし、あんな怪物と戦いたくはない・・だがあんな怪物が汐ちゃんを襲うようなことがあるなら・・・」

 気持ちの整理をする時雨が、おもむろに拳を強く握り締める。

「僕も迷いはしない・・・全力を出し切る・・・!」

 揺るぎない決意を胸に宿す時雨。そのとき、彼が持っていた携帯電話の呼び出し音が響いてきた。

「汐ちゃんからだ・・今日は汐ちゃんがシフト入っていて、僕はなかった日だったっけ・・」

 迎えに来てほしいと思い、時雨は汐にところに向かうのだった。

 

 この日は汐のバイトの日だった。時雨には仕事が入っていなかったため、彼の支えのない汐は失敗が目立ってしまっていた。

「うぅ〜・・何とか終わったけど、後悔が漂うよ〜・・・」

 レストランの裏口で待つ汐は、すっかり涙目になっていた。そんな彼女を迎えに、時雨がやってきた。

「この調子だと、今日は散々だったみたいだね・・」

「やっぱりあたし、時雨がいないとダメなのかなぁ〜・・・」

 苦笑を浮かべる時雨に、汐が泣きついてくる。

「分かったから。この後は僕が何かおごるから・・」

「ホント!?よーし今日はとことんたべちゃうからね

「ちょっと、あんまり食べると風船になってしまうよ。」

「失礼ねー。女には別腹というものがあるのよ♪」

 元気を取り戻した汐の姿を見て、時雨が笑みをこぼすばかりだった。

 そのとき、時雨が突如体の痛みを覚えて顔を歪める。その異変を汐は見逃さなかった。

「時雨、どうしたの!?時雨!」

「大丈夫・・さっき、怪物と戦ってね・・回復したと思っていたんだけど・・・」

 声を荒げる汐に、時雨が笑顔を作る。

(時雨・・こんなに傷だらけになって・・・)

 時雨の戦いの傷痕を目の当たりにして、汐が困惑する。

「本当に大丈夫だから・・もう治るから・・・それより、どこかで食べに行こう。食べれば元気が出るって、汐ちゃん、よく言ってるじゃないか・・」

「そうだね・・でも時雨、何かあったらあたしにも相談して・・あたし、時雨に比べたら全然ダメだけど、あたしにできることが必ずあるはずだから・・・」

 弁解する時雨に、汐が心配の言葉をかける、その言葉に励まされて、時雨が感謝を覚える。

「ありがとう、汐ちゃん・・その優しさだけでも、勇気が湧いてくるよ・・・」

「そんな大げさだよ、アハハハ・・・」

 時雨の言葉に汐が照れ笑いを浮かべる。彼女の笑顔を見て、時雨は勇気付けられていた。

「あたしこそありがとうね、時雨・・今日は割り勘でいいわ・・・」

「そんなに気を遣わなくていいよ、汐ちゃん・・・」

 気遣ってくる汐に、時雨が苦笑いを見せた。

 2人は別のレストランで小休止するため、小道を歩いていた。そこで奇怪な事件における警備をしている警官たちの姿を見て、2人は当惑する。

「またおかしな事件が起きてるみたいだね・・・」

「美女ばかりが突然石にされる・・・あたしも狙われちゃうかもね・・」

「ちょっと汐ちゃん、冗談でもそういうことは言わないでよね・・・」

 上機嫌を見せる汐に、時雨が呆れて肩を落とす。

 そのとき、時雨がこの近辺に不気味な気配が漂っていることに気付き、足を止める。

「どうしたの、時雨・・・?」

 疑問を覚えた汐が声をかけるが、時雨は周囲に注意を向けている。

 そんな2人の視界に、突如巨大な眼が出現した。

「何、あの眼・・・!?

「何かイヤな予感がする・・・逃げるんだ、汐ちゃん!」

 不安を覚える汐に呼びかけて、時雨がこの場から離れる。必死に逃げる2人だが、巨大な眼が再び彼らの前に出現した。

「残念だけど、オレから逃げることはできないよ・・・」

 そこへ声がかかると、時雨が横からの衝撃に押されて突き飛ばされる。

「時雨!」

 横転する時雨に駆け寄ろうとする汐だが、その前に1人の男が行く手を阻んできた。

「君はオレに石にされるんだよ。かわいいお嬢さん・・」

「逃げるんだ・・汐ちゃん・・・!」

 妖しく微笑む男と、汐に必死に呼びかける時雨。だが汐は逃げようとしない。

「時雨を置いて1人だけ逃げるなんてできない・・あたしはいつだって、時雨の味方なんだから・・・」

「そういう強気な女の子も嫌いじゃないよ・・その強気が恐怖で歪んでいく様を見るのもまた面白いからね・・・」

 時雨に決意を言いかける汐に、男が力を解放する。巨大な眼から不気味な輝きが放たれる。

 その輝きに照らされた汐の体が、徐々に色をなくして固まっていく。

「か、体が石になってく・・・!?

「結局は普通の人間。オレの石化から逃げることなんてできないんだよ・・・」

 驚愕する汐に、男が淡々と言いかける。

「汐ちゃん!」

「ゴメン、時雨・・足手まといになっちゃったね・・・」

 声を上げる時雨に、汐が微笑みかける。彼女が石化に侵食され、体の自由を奪われる。

「汐ちゃん・・・!」

 汐が眼の前で石にされたことに、時雨が愕然となる。微動だにしない彼女を見つめて、男が笑みをこぼす。

「これでまた石像が増えたな・・こうして美女が美女らしくなるのは気持ちがいいな・・」

「お前の私利私欲のために、汐ちゃんまで・・・!」

 立ち上がった時雨が、怒りをあらわにしてきた。彼の頬に紋様が浮かび上がる。

「僕ももう迷いを捨てる・・・汐ちゃんを守るため、オレは鬼になる・・・!」

 鋭く言い放つ時雨の姿が、異形のものへと変化する。その変貌に男も眉をひそめる。

「お前もそうだったのか・・つくづくそういうのに会うな、最近は・・」

 思わず苦笑を浮かべる男。彼に対して、時雨は出現させた剣の切っ先を向ける。

「汐ちゃんを元に戻せ・・でないとお前を生かしてはおかないぞ・・・!」

「生かしてはおかない?ずい分と穏やかじゃない言い方だねぇ・・」

 鋭く言い放つ時雨だが、男は悠然とした態度を崩さない。だが次の瞬間、男の右肩から突如血しぶきが飛んだ。

「なっ!?

 驚愕をあらわにする男が、血まみれになってその場にひざを付く。時雨が素早く飛びかかり、男に斬りかかったのである。

「今度余計なことをしたら、次は確実に真っ二つにする。今のオレはとても穏やかに相手ができない・・」

「まさかこんなすごい力を出してくるとはね・・でも、どんなに力がすごくても、オレの石化から逃れることはできないよ・・・!」

 再び鋭く言いかける時雨に、男が不敵な笑みを浮かべる。彼が意識を集中して、巨大な眼を出現させる。

「お前も石にしてやるよ!そしてその後に粉々に砕いて、華々しく散らしてやるよ!」

 眼を見開いた男が勝ち誇り、哄笑を上げる。だが彼の眼前から時雨の姿が消えた。

「えっ・・・!?

 眼を疑った男の背後に、再び時雨が姿を現した。

「何度も言わせるな・・今のオレは穏やかじゃないと・・・」

 時雨が低く告げたときだった。男が真っ二つに両断され、血しぶきをあげて昏倒した。

 断末魔の叫びを上げる間もなく、男は絶命した。血を振り払う時雨が人間の姿に戻る。

「汐ちゃん・・・」

 時雨が慌しく汐に駆け寄っていく。男が死亡したことで、石化されていた彼女の体が元に戻った。

「あ、あれ?あたし、今まで何を・・・?」

「汐ちゃん・・無事に元に戻れたんだね・・よかった・・・」

 当惑を見せている汐に、時雨が安堵の笑みを見せる。

「時雨、大丈夫なの?・・また、あたしのために・・・」

「僕なら大丈夫だよ・・僕が痛い思いをするより、汐ちゃんに何かあったときのほうが辛い・・・」

 心配する汐に時雨が微笑みかける。すると汐が時雨にすがり付いてきた。

「あたしだって・・時雨に何かあったときのほうが辛いよ・・・」

「そうだね・・・ゴメン、汐ちゃん・・・」

 時雨は涙ぐむ汐を優しく抱きしめる。大切なものを守るために、忌まわしき力を使う。時雨は決意をさらに強めるのだった。

 

 戦いでの傷を癒す亮平のために、渚は一生懸命になっていた。元気の出る料理を作ろうと、彼女は材料を買い揃えていた。

「これだけあれば、亮平さんも元気になってくれるはずです・・亮平さん、見ている限りではたくさん食べていますから・・」

 亮平の喜ぶ顔を思い描き、笑顔を浮かべる渚。彼女はその喜びを抱えたまま、家へと帰ろうとした。

 だがその帰路の途中、彼女は唐突に足を止める。眼の前に立っていた人物に恐怖を覚え、持っていたものをいくつか落としてしまう。

「まさかこんなところで君と会うことになるとはね・・」

 悠然とした態度で渚に声をかけてきたのはシードだった。シードは何らかの謎を宿している渚を狙ってきたのである。

「君についていろいろと調べたいことがあるんだ。一緒に来てもらえないかな?」

「イヤです!私に近づかないでください!」

 呼びかけるシードの誘いを拒み、渚が持っていた買い物を投げつけて逃げ出す。誘いを断られたことにシードが憤る。

「小娘の分際でいい気になりやがって・・・!」

 怒号をあらわにして、刃の怪物へと変身するシード。その強靭な力で加速し、渚の前に回り込む。

「逃げられねぇよ・・大人しくついてくれば痛い目にあわずに済むぞ・・・!」

 不敵な笑みを浮かべて言い放つシード。彼が発する殺気に恐怖し、渚が声が出せず後ずさりするばかりだった。

「オレが逃げるなと決めれば、絶対に逃げちゃいけねぇんだよ・・そうやって大人しく言うことを聞いてりゃいいんだよ・・」

「渚ちゃん!」

 シードが哄笑を上げたときだった。駆けつけた亮平がシードを横から突き飛ばした。

「何っ!?

「亮平さん!?

 驚愕するシードと渚。亮平に突き飛ばされて、シードが横転する。

「渚ちゃん、大丈夫!?ケガはしていない!?

「私は大丈夫です・・それよりも亮平さん、どうしてここに・・・!?

「ちょっと心配になったからね・・まさかシードが襲ってくるなんて・・・!」

 声を掛け合う亮平と渚。そこへシードが立ちはだかり、2人に鋭く睨みつけてくる。

「よくも邪魔をしてくれたな・・たっぷりと地獄を見せ付けてやるぞ!」

「渚ちゃん、すぐに逃げるんだ!ここは僕が押さえるから!」

 言い放つシードに対し、亮平も異形の姿に変身して立ち向かう。

「この前のように勝てると思うな、クズが!」

 鋭く言い放つシードが全身から刃を解き放つ。亮平は金色の姿へと変身し、加速して刃を回避していく。

「オレばかりに眼を向けていていいのかな?」

 シードが言い放った言葉に、亮平が背後に注意を向ける。シードが放った刃の一部が、渚に向かって飛んできていた。

「渚ちゃん!」

 亮平がとっさに後退して渚の元へ向かう。彼は素早く動き、渚を抱えて刃から守ろうとする。

「うっ!」

 だが刃を完全にかわすことができず、亮平が背中に刃を刺されてしまう。

「亮平さん!」

 悲鳴を上げる渚。亮平は何とか彼女を守ろうと、シードから逃げ出そうとする。

 だが2人の前にシードが回りこんでいた。

「なっ!?

「どんなに動きが速くても、来る場所が分かれば問題ねぇんだよ!」

 驚愕する亮平に、シードが高らかに言い放つ。シードが刃を1本手にして、亮平に向けて突き出す。

「ぐあっ!」

 左肩に刃を突き立てられて、亮平が絶叫を上げる。激痛に耐えられず、彼の体の色が青に戻る。

「ひ、卑怯だぞ・・こんなときまで渚ちゃんを狙うなんて・・・!」

「卑怯?戦いに卑怯なんてものはねぇんだよ。ゴミの言い訳にもなんねぇよ!」

 うめく亮平をシードがあざ笑う。負傷した今の亮平に、渚を連れてこの危機を脱する力は残されていない。

「その娘をオレによこせ。そうすりゃ穏便にことを済ませてやる。」

「ふざけるなって・・大人しく言うことを聞いたところで、お前が僕を助ける保障はないっての・・・」

「分かりきってるふうにいってくれる・・そんなに死にたいなら、望みどおりにしてやるよ!」

 シードは眼を見開くと、亮平に向けて一蹴を繰り出す。

「ダメ!やめて!」

 そのとき、亮平を守ろうと飛び出した渚の体から、まばゆい光が解き放たれた。突然のことにシードも亮平も驚きを覚える。

「こ、これは!?

 声を荒げるシードが、渚からの閃光に眼をくらまされる。光が治まったときには、彼の視界から亮平と渚の姿はなくなっていた。

「くそっ!・・何だったんだ、今のは・・・!?

 舌打ちをするシードが人間の姿に戻る。彼はまだ遠くに逃げていないと思い、亮平と渚の行方を追った。

 

 亮平はとっさの判断で渚を連れて逃げ出した。シードの卑劣な攻撃を受けて、彼の体は傷だらけになっていた。

「くっ!・・ボロボロになってしまった・・・!」

 左肩に刺さっている刃を引き抜く亮平。痛々しい彼の姿を見て、渚が不安を覚える。

「すぐに病院に行きましょう・・その体では・・・」

「いや、大丈夫だ・・僕の力ですぐに治せるから・・・」

 心配の面持ちを浮かべる渚に、亮平が笑みを見せる。彼は緑の姿に意識を傾けて、傷の回復を試みようとした。

 そのとき、亮平は自分への殺気を感じ取った。シードとは別の異形の力だった。

「この気配・・感じたことがある・・・アイツが!」

 緊迫を覚えた亮平がとっさに振り返る。その先には異形の姿へと変身した時雨がいた。

 

 

次回

第10話「傷だらけの戦士」

 

「これ以上お前を野放しにはできない!」

「亮平さんが・・私のために、こんなになって・・・」

「もう僕は、渚ちゃんを悲しませたくない・・・!」

「君は・・・!?

「どうして・・・!?

 

 

作品集

 

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