ガルヴォルスForce 第8話「壮絶なる宿命」
突然の亮平と時雨の激突。2人の力がぶつかり合い、その衝撃は周囲への通りをも揺るがした。
爆発と衝撃で吹き飛ばされた亮平と時雨。舞い上がる土煙で視界がさえぎられている中、2人は人間の姿へと戻っていた。
「くっ・・またとんでもないのが出てきたもんだよ・・・」
突然現れた怪物の力に毒づく亮平。
「おっといけない・・急いで時雨さんを探さないと・・まだこの近くに・・・」
亮平が改めて時雨の行方を追うことにした。視界をさえぎる土煙を抜けたところで、彼は偶然にも時雨を発見した。
「時雨さん!」
亮平が呼びかけると、時雨が振り返る。
「亮平くん!?・・君もここに来ていたのかい・・・?」
「姉さんから連絡を受けて・・でも無事だったみたいですね・・」
「汐ちゃんか・・心配性でよく慌てるからね・・でもこの近くにまだ怪物が・・・!」
時雨が周囲を見回すが、既に怪物の姿は完全になくなっていた。
(いなくなったのか・・向こうがいなくなってくれて、好都合というべきなのかな・・亮平くんも被害を受けずに済んだし・・)
亮平が怪物に教われなかったことに、時雨は内心安堵していた。亮平も自分と同じ、しかも先ほど自分と対峙していた異形の存在であることも知らずに。
(深追いをするのはやめよう。今は亮平くんと一緒に、汐ちゃんと合流するのが先決だ・・)
「汐ちゃんのところに行こう・・この辺りはまだ危ないから・・」
話を切り替える時雨に、亮平が真剣な面持ちで頷いた。
亮平との連絡の後、彼と時雨への連絡を試みる汐。しかしその後、2人への連絡がつかないままとなっていた。
「時雨も亮平もどうしちゃったの?・・・まさか、あの怪物に・・・!?」
不安を膨らませてしまい、汐は心配のあまりにその場で右往左往する。彼女はおもむろに時雨のところに行こうとした。
そのとき、汐は亮平と時雨が歩いてくるのを見つけた。2人の無事に彼女は安堵を浮かべる。
「時雨、亮平・・無事なら無事って連絡して来ればいいのに・・・!」
「ゴメン、汐ちゃん・・ 僕も無事に合流するのが精一杯だから・・」
心配のあまりに不満の面持ちを浮かべる汐に、時雨が素直に謝る。
「文句言うならわざわざ僕まで呼び出さないように。僕はヒーローというわけじゃないんだから・・」
そこへ亮平がため息混じりに口を挟んでくる。
「もう亮平も意地悪いわないでって・・亮平にも感謝しているって・・・」
「取ってつけたような言い方だな・・」
笑顔を見せる汐に、亮平が呆れて肩を落とす。
「こっちは本気で心配して来ているんだ。ふざけているんだったら呼ばないでちょうだい。」
「ゴメン、亮平・・安心したらからかいたくなっちゃって・・・」
「相変わらずだよ、姉さんのそういうところ・・・でもあんまりやりすぎると、愛想つかすよ。」
亮平に念を押されて、汐はただただ頷くばかりだった。
「それじゃ僕は帰るよ。渚ちゃんも心配していたんだからね・・」
亮平は言いかけると、バイクを止めてあるほうへ歩き出していった。
「亮平くんも本気で心配しているみたいだね・・本当に済まないことをしたと思う・・」
時雨が亮平に対して申し訳ない気持ちを抱える。
「あ、あたしがふざけたのが悪いのよ・・時雨は全然悪くないから・・」
「ありがとう・・・とにかく僕たちも帰ろう。またさっきみたいな怪物が出てこないとも限らないから・・」
弁解する汐に、時雨は笑みをこぼしてから呼びかける。
「そうだね・・ホント、どうなってるのかな、最近の世の中は・・・」
一抹の不安を抱えたまま、汐は時雨とともに家路に向かった。
時雨を仕留められず、さらに亮平の逆襲にも撤退を余儀なくされ、シードは憤慨していた。彼が今まで感じてきた中で、指折りの怒りだった。
「どいつもこいつもなめたマネをしてくれる!・・必ずその息の根を止めてやる・・・!」
2人への憎悪を膨らませていくシード。
「だが、さすがに2人がかりではけっこう面倒だ・・同士討ちさせるのが1番か・・・」
怒りの表情を変えて不敵な笑みを浮かべるシード。彼は亮平、時雨を倒そうと策を巡らせていた。
「邪魔者2人を始末して、次はあの小娘を調べてやる。何かあるような気がしてならない・・・」
渚にも狙いを向けて、シードは再び行動を起こす。自分の邪魔をするものは何であろうと葬り去らなければ気が済まない。それが彼の性分だった。
汐から亮平への連絡は、渚の耳にも入っていた。彼女は不安を抱えながら、亮平たちの無事を祈っていた。
(汐さん・・亮平さん・・・大丈夫でしょうか・・・?)
何度目かの不安の呟きをしたときだった。家のドアが開く音を耳にして、渚が慌しく駆けつける。
亮平が家に戻ってきた。だが汐の姿はなかった。
「亮平さん・・汐さんは・・・?」
「姉さんも時雨さんも無事だよ。からかってくるぐらい元気だったんで、僕は先に帰ってきたんだ・・」
不安を隠せずにいた渚に、亮平が淡々と答える。その言葉を聞いて、渚が安堵を浮かべる。
「そんなスラスラと答えなんでください・・私、心配していたんです・・・」
沈痛の面持ちを浮かべる渚に、亮平が戸惑いを覚える。またしても悲しませてしまったことに、彼は困惑していた。
「心配かけてゴメン、渚ちゃん・・・また渚ちゃんを悲しませちゃったみたいだね・・・」
「いいんです、亮平さん・・亮平さんは優しい人だってことは、私も分かっています・・・」
謝る亮平に渚が弁解する。
「とにかくもうすぐ姉さんも帰ってくる。時雨さんが心配して、ムリにでも帰してくるさ。」
「そうですか・・それでは私、あたたかくなるものを作ってきますね・・」
亮平の言葉を受けて、笑顔を取り戻した渚がキッチンに向かった。明るさを募らせていく彼女に、亮平は安らぎを感じていた。
汐はその後、時雨とともに帰路に着き、東家の前にたどり着いていた。
「時雨・・あたしのために・・・いつもいつも・・・」
「だからそれは気にしなくていいって。汐ちゃんを守りたい。僕はこの力をそのために使っているんだ・・」
突然感謝の言葉を投げかけてきた汐に、時雨が自分の心境を打ち明けた。
「この力がどういうものなのか、全部分かってるわけじゃない。とんでもない副作用が出てくるかもしれない・・だからできるだけこの力を使いたくない・・」
「時雨・・・あたしのために戦ってくれるのは嬉しいけど、そのために時雨に傷ついてほしくないのも、あたしの気持ちだよ・・・」
「ありがとう、汐ちゃん・・僕も汐ちゃんに心配かけたくないって気持ちがあるからね・・・これはますます使いたくない気持ちが増してくるよ・・・」
汐に励まされて、時雨が笑みをこぼす。異形の存在となっている自分にとって、彼女の優しさが1番の支えとなっていた。
「それじゃ僕はここでお別れするよ。汐ちゃん、亮平くんに優しくしてあげてね。」
「う〜・・あたしはいつだって優しいよ〜・・・」
挨拶をする時雨に涙目になりながらも、汐は挨拶を返して別れた。
カラオケを過ごしてから街中を歩いていた3人の少女たち。彼女たちはいつしか人気の少ない小道に進んでいた。
「すっかり遅くなっちゃったね・・」
「門限あったんだけどね・・大丈夫かな・・・」
「気にしない、気にしない♪ここまで来たら開き直って、とことん遊んじゃおうよ♪」
それぞれの気持ちを口にする3人。彼女たちは会話を弾ませるうちに、暗い道に差し掛かっていた。
「ちょっと街から離れすぎちゃったみたい・・・」
「そうだね・・少し戻ろうかな・・」
少女たちが不安を浮かべて、道を引き返そうとしたときだった。
彼女たちの眼前に広がる闇に、ひとつの眼が出現する。不気味に輝く眼に、彼女たちが恐怖を覚える。
「何、あれ・・・!?」
「眼が・・あんな大きい眼が・・・!?」
「どういうことなの、いったい・・・!?」
声も震わせる少女たち。闇に点在する眼から、不気味な輝きが発せられた。
その光を受けた少女たち3人が動かなくなる。色をなくした彼女たちは、完全に微動だにしなくなる。
少女たちが次々と石にされる奇怪な事件。被害者は続出し、街に恐怖が走った。
その事件の真相を確かめようと、警察は動き出していた。その騒がしさに亮平は滅入っていた。
「これじゃ落ち着かないじゃないか・・ツーリングの場所、変えたほうがいいかな・・・」
呆れながら、亮平はバイクを走らせた。通りを進む中、彼は先日戦った怪物のことを思い出していた。
(それにしても、すごい相手だった・・今まで現れた怪物の中でもすごい・・シードと同じくらいか、それ以上か・・・)
思考を巡らせる亮平は、何とか気持ちを落ち着けようとする。
「キャアッ!」
そのとき、どこからか悲鳴が響いてきたのを、亮平は耳にする。すぐにバイクを反転させて、悲鳴のしたほうへと向かう。
たどり着いた広場では、1人の少女が石に変わっていた。
「これは・・・!?」
石化している少女を目の当たりにして、亮平が緊迫を覚える。そこへ1人の男が姿を見せてきた。
「何だ、男か・・かわいい子にしか興味ないんだよね・・・」
男が亮平を見て落胆の面持ちを浮かべる。
「でもいつまでも石に変えてばかりというのも気分が鈍るものだ・・男をズタズタにするのも、気分がよくなるかもしれないなぁ・・・!」
いきり立った男が怪物へと変身する。その異形に姿に、亮平がとっさに身構える。
「抵抗してもムダだよ。人間に勝てるはずがないんだから・・」
「悪いけど、僕もお前と同じ存在だ・・」
強気に言い放つ怪物に、亮平がため息混じりに言いかける。そして彼の姿も異形のものへと変化する。
「ほう?お前も変身できるのか・・それでもオレには敵わないよ。」
「あんまりこういうのに関わりたい気分じゃないんだけど、お前は見逃してくれそうにない・・・」
「そういうことだ。諦めてやられることだな・・」
いきり立った怪物が亮平を鋭く見据える。怪物の背後に巨大な眼が出現する。
「その眼でみんなを石にしてきたわけか・・・」
亮平は意識を集中して、金色の姿へと変身する。眼から放たれる力を、素早い動きで回避する。
「速いけど、そのくらいでオレの力からは逃げられないよ。」
怪物は淡々と言いかけると、亮平を追って移動をする。しかし亮平は怪物の視界に入ってこない。
「まさかこのまま逃げた、なんてことはないよね・・・?」
怪物が呆れてため息をついたときだった。突如怪物の横にある木が倒れてきた。
怪物はとっさに後退して、その木をかわす。そこへ亮平が怪物の背後から飛び込んできた。
「そんな小細工じゃ、オレは騙せないって・・」
怪物が勝気を見せて、石化を行使しようとする。だが赤い体に変身していた亮平の重みのある拳を叩き込まれ、怪物が突き飛ばされる。
「おわっ!」
強烈な攻撃で激しく横転する怪物。彼はダメージとともに、亮平の力の大きさも痛感することとなった。
「まさかオレを上回る力の持ち主とは・・だが石にしてしまえば、力の差なんて関係・・」
「石化なんてさせない・・仕掛けてくる前に、今度はお前を倒してやる・・・!」
怪物の言葉をさえぎって、亮平が鋭く言い放つ。畏怖を覚えた怪物が徐々に後ずさりする。
「こ、このまま負けたままだと思わないことだね・・・!」
怪物は捨て台詞を吐くと、亮平の前から姿を消した。敵の脅威が去って、亮平は吐息をついた。
怪物の出現を感知していた時雨も、現場の広場に来ていた。そこで彼は、先日に自分と対峙した怪物を発見する。
「またお前か・・・!」
苛立ちを覚えた時雨も、異形の姿へと変身する。具現化させた剣を手にして、時雨が亮平に飛びかかる。
「何っ!?」
時雨の接近に気付き、亮平が驚愕を見せる。時雨が振り下ろしてきた剣を、亮平が後退して回避する。
「くっ!この前のヤツが出てきたのか・・・!」
毒づいた亮平がとっさに反撃に転ずる。だが攻撃力の高い拳は、時雨の剣さばきによって弾かれる。
「なっ!?」
「力任せの攻撃はオレには通じない。」
驚愕する亮平に、時雨が冷淡に告げる。彼が再び振りかざした剣に叩かれて、亮平が突き飛ばされる。
時雨は間髪置かずに追撃を見舞い、剣を振りかざす。その一閃が亮平の体に傷をつけていく。
(このままだとやられる・・速さを上げるしかない・・・!)
思い立った亮平が、体の色を赤から金に戻す。飛躍した速さを駆使して、亮平は時雨の剣を回避する。
(どんなに速くても、アイツには遠距離攻撃はない・・・)
冷静に考えを巡らせる時雨。彼は亮平が接近して攻撃を加えようとしているのを、細大漏らさずに捉えていた。
「そこだ!」
時雨が突き出した剣が、亮平の右肩を貫いた。
「何っ!?」
右肩から鮮血をまき散らして、亮平が倒れる。彼の体の色が青に戻る。
「これで終わりだ。これではまともに戦うことはできない・・」
時雨が亮平に向けて剣の切っ先を向ける。息を絶え絶えにしながら、亮平も時雨をにらみ返していた。
(このまま負けるわけにはいかない・・僕が死んだら、渚ちゃんや姉さんが、悲しむことになるから・・・)
必死に自分に呼びかけて、傷ついた体に鞭を入れる亮平。
“亮平さん・・・”
そのとき、亮平の脳裏に渚の声が響いてきた。
“私は、亮平さんを信じていますよ・・・”
(そうか・・・僕、分かったかもしれない・・大切な人を守るためだったら、傷つくことも怖くないって・・)
渚からの信頼と優しさに励まされる亮平。彼女のために負けられない。亮平の決意が一気に強まった。
そのとき、亮平の体が緑色を変化する。その変化に彼自身驚く。
「また、変わった・・僕に、新しい力が・・・!?」
「また変身した・・今度は何を仕掛けてくるんだ・・・!?」
警戒心を強めた時雨が剣を振り下ろす。動揺を見せていた亮平は、回避が間に合わない。
痛烈な一閃を受けた亮平。だが彼の体を切り裂くことはなく、逆に時雨の剣の刀身が折れて宙を飛んでいた。
「剣が!?」
驚愕する時雨。強靭な耐久力を見せ付けた亮平が、ゆっくりと立ち上がる。
亮平が発揮した新たなる力。それは強靭な防御力と耐久力だけでなく、従来の怪物をも凌ぐ回復力をも向上させていた。
「すごい・・力がどんどんみなぎってくる・・・!」
活力を取り戻した亮平が、警戒を強めている時雨を見据える。
「今度はこっちの反撃の時間だ!僕も負けるわけにいかないんだ!」
いきり立った亮平が時雨に飛びかかる。時雨が新しく剣を具現化させて、迫る亮平に斬りかかる。
だが時雨の放つ一閃が、亮平の体に弾かれる。高い耐久力は硬さを生み、時雨の剣を跳ね返していた。
「こんな・・こんなことって・・・!?」
愕然となる時雨の前に、亮平が完全と立ちはだかっていた。
次回
「時雨・・こんなに傷だらけになって・・・」
「このお嬢さんにも、石になってもらおうかな・・」
「逃げるんだ・・汐ちゃん・・・!」
「あたしはいつだって、時雨の味方なんだから・・・」
「僕ももう迷いを捨てる・・・汐ちゃんを守るため、オレは鬼になる・・・!」