ガルヴォルスForce 第7話「2つの力の対決」

 

 

 渚を守ろうと懸命になる亮平と、苛立ちをあらわにするシード。シードが振り下ろしてきた刃を、亮平は拳を突き出して迎え撃つ。

 2つの力の衝突。シードの刃が食い込み、亮平の拳から血が出る。

「ぐっ!・・こんなことで、負けている場合じゃないんだ・・・!」

 いきり立った亮平が力を込めて、刃を押し返す。

「何返してきてんだよ、このヤロー!」

 苛立ちを膨らませたシードが、再び刃を振り下ろす。その一閃が亮平の左肩を切り裂いた。

「ぐあっ!」

「亮平さん!」

 声を上げる亮平に、渚がたまらず駆け寄ろうとする。そこへシードが彼女に視線を向ける。

「今度こそ調べさせてもらうぞ、お嬢さん。」

「渚ちゃん・・・!」

 痛みをこらえて渚に駆け寄る亮平。彼は渚を抱えて、全速力でこの場を離れた。

「逃げるな、腰抜け!」

 怒鳴ったシードが刃を投げつけるが、亮平と渚には当たらなかった。

「くそっ!」

 2人を逃がしたことに毒づくシードが、人間の姿へと戻る。

「まぁいいか・・あんな腑抜け、遅かれ早かれオレに始末されることに変わりはねぇ・・」

 シードは呟きかけると、亮平と渚を追うことなく、振り返ってこの場を立ち去る。

「それにして・・あの娘、やはり何かあるな・・」

 渚への興味を募らせていくシード。彼の殺気はまだ2人に向けられたままだった。

 

 シードの猛襲から辛くも逃げ延びた亮平と渚。だがシードの攻撃で傷だらけになった亮平は、人間の姿に戻った途端に倒れ込んでしまう。

「亮平さん!」

 渚が亮平を支えて、悲痛さを込めて呼びかける。

「亮平さん・・私のために・・・」

 自分を守るために傷だらけになった亮平に、たまらず涙を流す渚。そのとき、亮平が彼女に手を差し伸べてきた。

「渚ちゃん・・よかった・・無事だったんだね・・・」

「亮平さん・・・本当に、大丈夫なんですか・・・?」

 微笑みかけてくる亮平に、渚が戸惑いを覚える。

「大丈夫・・とはいえないかな、今は・・だけど、すぐに元気を取り戻せるって思ってる・・・」

「・・本当に、心配させないでください・・・」

 一命を取り留めている亮平に、渚が涙ながらに微笑んだ。

「アイツが追いかけてきてる様子はないし・・少し休憩したら、姉さんのところに戻らないと・・」

「そうですね・・すみません。亮平さんが心配になって、汐さんを置き去りにしてしまって・・」

「僕は気にしてないよ・・ただ、姉さんには謝っておいたほうがいいかも・・」

 謝意を見せる渚に、亮平は苦笑いを浮かべた。2人は汐の待つレストランに向かうことにした。

 

 レストランで置き去りにされて、汐は不満を膨らませていた。

「もうー。あたしだけ置いてけぼりにしちゃってー。愛の逃避行だったら、他の状況でやってほしいってのー。」

 文句を言いながら、パフェをどんどん口に入れていく汐。そこへようやく亮平と渚が戻ってきた。

「ちょっと2人ともー。あたしを置いてどこまで行ってたのよー。」

「悪かったよ。ちょっといろいろあって・・途中で渚ちゃんに会えてよかったよ・・」

 不満を口にする汐に、亮平が苦笑いを見せる。渚も照れ笑いを浮かべるばかりだった。

「あたしを心配させた罰よ。あと2、3個買って帰るから、全部持って帰ること。」

「いくら心配かけたからって、何でオレだけ・・・」

 睨んでくる汐に、亮平は肩を落としていた。シードとの戦いで負った傷は、ここに戻るまでにほとんど消えて見えなくなっていた。

(いつまでも姉さんに内緒にできないかな・・それでも最後まで内緒にしておくかな・・・)

 亮平は胸中で呟いて、気持ちを落ち着けることにした。

 

 突然現れた青年と、亮平との関連。それらのことを汐は気にしていた。

(亮平、あたしの知らないところで何かやってるのかな・・でも今までだってそういうのは何度かあったし、そんなに勘繰ることのほどでもないと思うんだけど・・)

 割り切ろうと考えても、心のどこかで疑問が残っている。汐の疑問は解消されないでいた。

「東さん・・東さん。」

 そこへウェイトレスから声がかかり、汐が我に返る。

「12番テーブルのお客様のオーダーを聞いてきて。私、別のお客様の対応をしなくちゃいけないから・・」

「え、あ、はい。すみません・・」

 汐が慌てて注文を取りに行く。その彼女の様子を、時雨は気にかけていた。

 

 その日のバイトの仕事が終わり、肩を落としながらレストランを後にする。そこへ時雨が追いかけてきた。

「どうしたの、汐ちゃん?何か悩み事かな?」

「時雨・・・」

 時雨が訊ねると、汐が戸惑いを見せてきた。

「うん・・最近、亮平の様子がね・・今までも自由気ままなところがあったから、そんなに気にしなくてもいいと思いたいんだけど・・」

「亮平くんが?・・でも亮平くんはしっかりしているんだから、僕から見ても大丈夫だとは思うんだけど・・」

 汐が打ち明けた心配に、時雨も戸惑いを覚えていた。

「とりあえず、しばらく様子を見たほうがいいかもしれない・・変に心配をかけたら、逆に心配されてしまうから・・」

「時雨・・・そうは思うんだけど、それでも心配でたまらなくなってくるのよね・・」

「・・・弟に何かあると、姉としては心配でたまらない、か・・」

 汐の心配を痛感して、時雨が物悲しい笑みを浮かべる。

「もう立派な年なんだから、あたたかく見守るのも家族というものだよ・・」

「そうよねぇ・・特にあたしたちの場合、あたしのほうが亮平に迷惑をかけちゃってるからね・・」

 時雨に励まされて、汐が照れ笑いを見せる。

「ところで亮平くんは今日はどうしているのかな?」

「亮平もバイトよ。男だから体力仕事を任されるのが多くてね・・」

「そうかい・・たまには亮平くんにために手料理でもしてみるのもいいかもね。」

「ダメダメ。料理がそんなにうまくないことは、時雨も分かってるはずでしょ。亮平のほうがうまいくらいなんだから・・」

「腕前の問題じゃないよ。大切なのは、気持ちを込めて作ることだよ・・」

「そういうの、裏を返せば“あなたは下手です”って言ってるようなもんだよ。」

 汐の返事に苦笑いを浮かべる時雨。その反応を見て、汐が笑みをこぼす。

「ありがとう、時雨。時雨がいると、いつも勇気と元気が持てるよ・・」

「そんな大げさな・・でも、そういってもらえると嬉しいよ・・」

 汐からの感謝を受けて、時雨が喜びを感じた。

「ずい分といちゃついてるじゃねぇかよ・・」

 そこへ1人の中年の男が現れ、時雨と汐に声をかけてきた。

「何、この人・・・?」

 男の異様な雰囲気に不安を覚える汐。

「そういうのがイラつくんだよ・・イライラするんだよ!」

 怒鳴ってきた男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「もしかして、この人も・・・!?

 驚愕する汐の見つめる先で、男がゴリラのような怪物へと変貌を遂げる。怪物は鋭い視線を2人に向けていた。

「カップルなんてクソ食らえだ!この腕で叩き潰してやる!」

「汐ちゃん、逃げるんだ!」

「時雨!」

 叫ぶ怪物と対峙して、時雨が汐に呼びかける。時雨が騎士の怪物へと変身し、剣を手にする。

「ここは僕が食い止めるから、汐ちゃんは早く!」

 時雨が怪物に飛びかかり、そのまま道をなだれ込んでいく。横転したところで、時雨は怪物の豪腕に跳ね飛ばされる。

 再び距離を取った時雨と怪物。時雨は怪物の力を警戒していた。

(力は向こうのほうが上・・ならば速さで・・・!)

 思い立った時雨が加速して、再び怪物に飛びかかる。怪物が両腕を振り下ろすが、時雨の速さを捉えるに至らなかった。

 時雨が剣を振りかざして、一閃を放つ。その斬撃が怪物の胴体を横に真っ二つにした。

 鮮血をまき散らしながら、怪物が倒れる。剣を降ろして、時雨が吐息をつく。

「汐ちゃん、無事に逃げていればいいんだけど・・・」

「なるほど。君もそれなりの力を持っているようだ。」

 呟いたところで声がかかり、時雨が振り返る。その先には1人の青年が、悠然とした笑みを見せてきていた。

「その力で、私に協力してもらえないかな?君ならとても頼りになるはずなんだ。」

「誰ですか、あなたは?僕の力に何かあるんですか?」

 声をかけてくる青年に、時雨が疑問を投げかける。

「できることなら、この力を使いたくはないんだ・・こういった力を頼りにしているなら、他をあたってください・・」

「君以外に頼れる人がいないのだ。だからこの申し出を受け入れてほしい。」

「だから僕は力を好き勝手に使う気はないんです。ですから僕を頼りにしないでください・・」

「聞き分けの悪いクソガキだ!こっちが下手に出てれば調子に乗りやがる!」

 時雨が頑なに聞き入れようとしないでいると、青年が怒号をあらわにしてきた。

「大人しくオレの言うことを聞いてりゃいいんだよ・・そうすりゃすぐに終わるはずだったのによ!」

 苛立った青年、シードが刃をまとった怪物へと変身する。その姿を目の当たりにして、時雨が緊迫を覚える。

「めんどうくせぇ・・とっととオレにやられてくたばっちまえよ・・・!」

 苛立ったシードが時雨に飛びかかる。時雨もとっさに反応して、シードが振り下ろしてきた刃を回避する。

「よけてんじゃねぇよ、コラ!」

 怒号とともにさらなる一閃を放つシード。時雨が剣を掲げて、横なぎに繰り出された刃を受け止める。

「だからさっさとくらってやられろよ、腰抜けが!」

「いい加減にしろ、お前!」

 怒鳴り散らすシードに、時雨もついに怒りをあらわにした。

「何でも思い通りにならないと気が済まない・・子供みたいな理屈じゃないか!」

「子供だと!?クソガキの分際でオレをガキ扱いしやがって!」

 しかし時雨からの怒りにも、シードは苛立ちを膨らませていた。

「どいつもこいつもオレの言うことをまるで聞きやがらねぇ・・けどな・・・」

 眼を見開いたシードが、手にしている刃に力を注ぎ込む。

「ムダなんだよ・・思い上がったクズどもが、オレを否定することなんかよ!」

 言い放ったシードが2本の刃を振りかざす。彼が注いだエネルギーは光の刃となって勢いよく放たれた。

「くっ!」

 時雨が毒づきながら、その刃を回避する。だが刃の衝撃に巻き込まれて、彼は上空に跳ね飛ばされる。

 そこへシードが飛びかかり、時雨に追い討ちを仕掛けようと刃を振り下ろす。だが時雨は両腕に力を込めて剣を振り下ろし、2本の刃を叩き折る。

「何っ!?

 驚愕の声を上げるシード。時雨が体勢を立て直して、再び刃を振りかざす。

 シードは全身から数本の刃を突き出した。その刃に阻まれて、時雨の剣が跳ね返される。

 その衝撃で2人とも体勢を崩され、そのまま家の敷地内に落下していった。それに紛れて、汐を心配した時雨が戦いを中断してこの場を離れた。

 

 怪物から逃げ延びてきた汐は、すぐに亮平に電話を入れた。それを受けた亮平は、バイクを走らせて彼女のところに向かっていた。

(あの怪物が、姉さんや時雨さんまで襲ってくるなんて・・・急がないと・・・!)

 危機感を募らせて、バイクを加速させる亮平。

 バイクで向かうよりも、怪物に変身してから駆けつけたほうが速いのではないかと、亮平はふと思い浮かべた。だが怪物にどんな負担がかかるか分かりかねていたため、彼は極力変身しないことを選んだ。

(僕に何かあったら、姉さんや渚ちゃんたちが悲しむからね・・)

 家族や想いの相手を思いやり、亮平は現場へと急いだ。

 しばらく走行すると、亮平はシードを発見した。時雨との戦いの後、シードは彼を見失っていた。

 亮平はバイクを止めてメットを外し、シードに近づいていく。そのバイク音と足音に気付いて、シードが振り返る。

「東亮平・・こんなときに現れやがって・・・!」

 憤りをあらわにして力を集束するシード。彼を見据える亮平の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「渚ちゃんだけじゃなく、姉さんや時雨さんまで・・・お前だけは、絶対に許さないぞ!」

 怒りをあらわにした亮平が異形の姿へと変身する。

「許さないだと?・・相変わらずのクソガキのようだな!」

 シードも苛立ちをあらわにして飛びかかり、2本の刃を手にして振り下ろす。亮平は横に飛んでそれを回避する。

「だからよけるなってんだよ!」

 シードが感情をむき出しにして、闇雲に刃を振りかざす。だが時雨との戦いで体力を消耗していたシードは、動きが鈍っていた。

「くそっ!体が思うように動かないとは・・!」

 疲弊した自分の体にも苛立つシード。彼の様子に亮平は気付いていた。

(グズグズしていられない・・一気に決着を着けないと!)

 亮平は意識を集中して、自分の体を金色に染め上げる。速さを一気に増して、亮平はシードをかく乱させる。

「チョロチョロしやがって・・いつまでも逃げてんじゃねぇよ!」

 怒号を放つシードが全身から刃を発射していく。だがその刃のどれもが亮平には命中していなかった。

 亮平が素早い動きのまま、シードの懐に飛び込んだ。眼を見開くシードに、亮平の拳が叩き込まれる。

「ぐうっ!」

 速さを込めた一撃に耐え切れず、シードがうめいて突き飛ばされる。何とか踏みとどまるも、彼は立っているだけで精一杯になっていた。

「くそっ!くそくそ!ちくしょうが!」

 怒号を放つシードがたまらず後退する。亮平はあえて追うことはせず、基本の姿へと戻る。

「急いで時雨さんを探しに行かないと・・・」

 時雨の行方を追うべく、亮平は再び駆け出そうとした。

 その彼の前に、また別の怪物が現れた。

(また、怪物が・・・!)

 その姿を見据えて、亮平がいきり立つ。

(シードから逃げ延びてきたのに、また怪物が・・・やるしかないのか・・・!)

 一方、その異形の存在、時雨も亮平を見据えていた。2人が同時に飛び出し、拳を繰り出す。

 自分の生存と大切な人への想いを胸に宿して、2人の青年が立ち向かう。2人ともお互いの正体を知らないまま。

 2人の拳が衝突し、爆発のような衝撃を巻き起こす。2人は弾き飛ばされ、しりもちをつく。

 だが2人はすぐに起き上がり、再び飛びかかる。互いの腕をつかみ、力比べに持ち込む。

 2人の力は互角で、勝負は拮抗していた。純粋な力ではなく、大切なものを守ろうとする気持ちがそれぞれの力を上げていた。

 2人は同時に膝蹴りを繰り出す。荒々しい衝撃が巻き起こり、亮平と時雨が突き飛ばされる。

 亮平が再び飛びかかり、時雨が剣を具現化させて振りかざす。拳と刃が衝突し、先ほどとは比べ物にならないほどの衝撃と爆発が巻き起こった。

「うわっ!」

「おわっ!」

 その爆発に巻き込まれて、亮平と時雨が吹き飛ばされる。爆発は通りに及び、震撼を及んでいた。

 これが2人の青年の、宿命の対立の始まりだった。

 

 

次回

第8話「壮絶なる宿命」

 

「時雨・・あたしのために・・・」

「心配かけてゴメン、渚ちゃん・・・」

「またお前か・・・!」

「僕、分かったかもしれない・・大切な人を守るためだったら、傷つくことも怖くないって・・」

 

 

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