ガルヴォルスForce 第6話「忍び寄る刃」
新たなる力を覚醒させた亮平。力を増大させた彼に、怪物も力で叩き潰そうとしていた。
「お前がどんなに力を出してきても、オレの勝利は変わらない!」
高らかに叫ぶ怪物が、力を込めた両腕を振り下ろす。亮平はこれを両手で受け止める。
「何っ!?」
攻撃を受け止められた怪物が驚愕する。亮平がさらに力を込めて、怪物の両腕を跳ね除ける。
「バカな!?オレの全力が、こうも簡単に受け止められるなんて・・・!?」
「渚ちゃんのために、僕はここで倒れるわけにはいかないんだ!」
愕然となる怪物に、亮平が決意を言い放つ。彼は右手に力を込めて、怪物に歩み寄る。
「もうお前は僕には勝てないぞ・・・!」
亮平は言い放つと、怪物に向けて右の拳を叩き込んだ。怪物は突き飛ばされ、建物の壁を突き破って外に飛び出した。
「ぐっ!・・ぐぅぅぅ・・・!」
激痛にさいなまれてうめく怪物が、人間の姿に戻る。青年は何とか立ち上がって、その場から足早に去っていく。
そのそばにいた渚が戸惑いを浮かべる。そこへ人間の姿に戻った亮平が駆け寄ってくる。
「亮平さん、大丈夫ですか・・・?」
「僕は何とか・・渚ちゃんも無事でよかったよ・・」
心配の声をかける渚に、亮平が微笑みかけて答える。すると渚が亮平に寄り添ってきた。
「本当に無事なんですか?・・・体は、大丈夫ですか・・・?」
「うん。この前と比べたら全然・・でも渚ちゃんに心配させるといけないから、後で手当て、いいかな・・?」
「亮平さん・・・はい。」
亮平からの言葉に、渚が笑顔を見せる。2人は早々に街から出て、家に戻っていった。
新たなる力を発揮した亮平に撃退され、青年は逃げ延びていた。彼の心には亮平への怒りが膨らんできていた。
「バカな!オレが負けるなんて!」
怒りが治まらずに地面を叩きつける青年。
「今度はそうはいかないぞ!必ずオレが叩き潰してやる!」
「いいえ。あなたの出番はもうありませんよ。」
そこへ声がかかり、青年が怒りを治めないまま振り返る。シードが悠然とした態度で、彼を見つめていた。
「出番が終わりって・・このままやられて終われるわけがないだろ!」
「いいえ、終わりです。ここからは私自ら赴かせていただきます。」
苛立ちを見せる青年だが、シードは考えを変えない。
「冗談じゃない!オレは行くぞ!もう油断しない!次は必ずヤツを・・!」
青年がこの場を離れようとしたときだった。シードが突然彼の首をつかんできた。
「あんまり調子に乗るなよ、ガキが・・こっちが穏やかに振舞っていたらいい気になりやがって・・・!」
「い、いきなり何を・・・!?」
鋭く言いかけるシードに、青年が声を振り絞る。シードの口調は先ほどの悠然さが欠片もないほどの荒々しいものとなっていた。
「お前などすぐにでも切り捨てられるゴミでしかないんだよ・・東亮平の力を確かめるために、お前を利用したに過ぎないってのによ・・」
「オ、オレを利用したっていうのか・・・!?」
「それがどうした?私より劣るお前は私に利用される以外に価値がないというのに・・・!」
うめく青年の体を右手で貫き、息の根を止めたシード。鮮血をまき散らして倒れた青年が砂のように崩れて消滅した。
「所詮ゴミはゴミ。利用価値すらないか・・」
シードはそう吐き捨てると、この場から歩き出した。
「東亮平にも興味を持ったが、ヤツのそばにいたあの娘・・・」
シードの関心は渚にも向けられていた。
「もしかしたら、あのとき行方不明になった・・・記憶違いかもしれないが、手を出して損はないだろう・・」
歓喜の笑みを強めていくシード。彼の狙いの矛先が、亮平だけでなく渚にも向けられていた。
青年との戦いを終えて、亮平と渚は帰ってきた。家では汐だけでなく、時雨もいた。
「おかえり、亮平くん、渚さん・・」
「あ、時雨さん・・来てたんですか・・」
挨拶をする時雨と亮平。時雨は汐に連れられて、東家に来ていたのである。
「亮平、渚ちゃんとのデートはどうだったかな〜?」
汐がからかってくるが、亮平は無視する。そこへ渚が声をかけてきた。
「汐さん、亮平さんがケガをしてしまったので、救急箱を使ってもいいですか?」
「ケガ?まぁ、亮平のことだから大丈夫だとは思うけど・・よろしくね、渚ちゃん。」
汐にさらりと返されて、渚が唖然となる。だがすぐに気持ちを落ち着けて、亮平への介抱に当たる。
「亮平くん、元気がないみたいだね・・ケガをしたからというより、いろいろと考えているという感じで・・」
そこへ時雨に突然声をかけられて、亮平が当惑を見せる。
「何か思いつめていることがあったら、遠慮なく言ってきてくれ・・僕も相談に乗るから・・」
「時雨さん・・・僕は大丈夫ですよ。気持ちだけ受け取っておきます・・」
亮平は笑みを見せて、心配かけまいとする。
「それじゃ渚ちゃん、お願い・・」
「はい。分かりました・・」
亮平の声に渚が答える。だが時雨は亮平に対して深刻に考えていた。
「どうしたの、時雨?亮平がどうかしたの?」
そこへ汐に声をかけられて、時雨が気持ちを切り替える。
「う、ううん、何でもない・・ちょっと亮平くんを心配しすぎたみたいだ・・」
「亮平を?大丈夫、大丈夫。亮平はあたしよりしっかりしてるんだから・・」
不安を口にする時雨に、汐が笑顔を見せる。
「まぁ、何事もなければいいんだけど・・・」
そういいかけるも、時雨は亮平への心配を拭うことができなかった。
その翌日、汐は渚と一緒に買い物に繰り出していた。亮平も荷物持ちのために連れて来られていた。
「ハァ・・姉さんも人が悪いって・・何で僕が・・・」
「聞こえてるわよー。女の買い物は多いんだからねー。」
亮平がため息をつくと、汐が声を返してくる。
「荷物運びなら時雨さんだっているじゃないか・・」
「時雨は用事だってー。それに時雨を荷物運びになんてできないってー。」
「なぬっ!?何だよ、その差別は!?」
汐の考えに亮平が不満を覚える。しかし汐は上機嫌に、渚との買い物を楽しむ。
「あの、汐さん・・そろそろ買い物を終わらせたほうが・・亮平さん、かわいそうですよ・・」
「大丈夫、大丈夫♪亮平は男なんだから♪」
渚が声をかけるが、汐は上機嫌のままである。
「亮平さんから聞きましたよ。汐さん、亮平さんから勉強を教わっているそうですね。」
「ギクッ!」
渚からの予想外の言葉に、汐が驚きの声を上げる。
「亮平さんからの勉強はもう受けなくても大丈夫、ということですか?」
「そ、そんなこと言わないで〜・・亮平からの勉強がなかったら〜・・・」
渚の計らいに気落ちする汐。
「ここら辺で休憩にしようね。アハハハ・・・」
うまく話を切り替えつつ、笑って誤魔化す汐。すると渚が笑みをこぼし、亮平が安堵を見せる。
こうして近くのレストランで小休止することとなった3人。荷物から解放されて、亮平が大きく吐息をつく。
「やっと楽になれる・・・」
「お疲れ様、亮平さん。次は私もお手伝いしますから・・」
渚の優しい言葉を受けて、亮平が笑顔を取り戻す。
「もう荷物持ちなんてやらないからね。買い物は自分の可能の範囲でよろしく。」
「もう、亮平ったらつれないんだから〜・・」
不満を口にする亮平に、汐がからかってくる。
「だけど、渚ちゃんとのデートのときは、ちゃんとエスコートしてあげなくちゃダメだよ。それが彼氏の大事なところなんだから♪」
「別にそんなんじゃないって・・姉さん、あんまり悪ふざけが過ぎると、もう勉強教えてあげないよ。」
「うぅ・・それだけはやめて・・・」
亮平に言いとがめられて、汐が気落ちする。亮平はため息をひとつつくと、渚に声をかけた。
「渚ちゃん、姉さんといろいろと選んでたみたいだけど、いいのが見つかった?」
「はい。汐さんが親切に教えてくれましたから・・」
笑顔を見せて喜びを浮かべる渚に、亮平も安堵していた。未だに記憶が戻らないものの、徐々に不安を解消させて穏やかになっていく彼女に、彼も安らぎを感じていた。
そのとき、テーブルの上に汐の注文したパフェが運ばれてきた。それはこの店の中でもっともボリュームのあるパフェだった。
「待ってました♪特製デラックスパフェ♪」
「ちょっと、姉さん・・まだおやつだっていうのにそんなに食べて・・夜ご飯食べられなくなるよ・・」
上機嫌になる汐に、亮平が呆れてため息をつく。
「ウフフフ。女の子には別腹があるのよ♪」
「別腹ねぇ・・そういうの、怪しいんだよねぇ・・」
あくまでご機嫌の汐にこれ以上声をかけることができず、亮平は肩を落とすしかなかった。
そのとき、1人の青年が亮平たちの前にやってきた。彼に気付いた亮平たちが視線を移す。
「かっこいい人・・でも時雨には負けるけど・・・」
その青年に一瞬見とれるも、汐はすぐに気持ちを落ち着けた。
「東亮平くんだね?」
「はい、僕がそうですけど・・・」
青年が訊ねると、亮平が当惑しながら答える。
「少し大切なお話があるんだけど・・2人きりでいいかな?」
青年がさらに訊ねてくる。さらに当惑を見せた亮平だが、青年からただならぬ殺気を痛感して、真剣な面持ちになる。
「・・・分かりました・・2人とも、ちょっと待ってて・・・」
汐と渚に声をかけると、亮平は青年と一緒にこの場を離れた。
「亮平、あの人と知り合いなのかな・・・?」
汐が2人の後ろ姿を見つめて、疑問符を浮かべる。
「私、不安になってきました・・見に行ってきます・・・!」
「あっ!渚ちゃん・・・!」
亮平が心配になった渚は、汐の声を聞かずに飛び出してしまった。
店から離れて人気のない通りにやってきた亮平と青年、シード。亮平は真剣な面持ちでシードに声をかけた。
「ここなら何の躊躇もいらないよね・・アンタの狙いは僕なのか?」
「そう話を急ぐなよ・・モタモタされるのは不愉快だが、急かされるのもいい気分がしない・・」
店の中での落ち着きのある態度から一変し、シードの口調が荒くなった。
「オレの目的は2人。1人はお前。もう1人はあの大人しい娘だ。」
「大人しい娘・・渚ちゃんを狙ってるのか!?」
シードの言葉を聞いて、亮平が声を荒げる。するとシードが不敵な笑みを浮かべた。
「オレの記憶が確かなら、あの娘はオレたちにとってとても重要な存在であるはずだ。それが何なのか調べる必要がある。」
「調べるって・・何をするつもりだ・・・!?」
「さぁねぇ・・もしかしたら、少し手荒な調査もするかもしれない・・」
「手荒なことって、何をするつもりなんだ・・・!?」
「たとえば、体の中をいじくりまわすとか・・・」
狂気を宿して笑みを強めるシードに、亮平が憤怒をあらわにする。
「そんなふざけたこと、許されると思ってるのか・・・!?」
「オレが許す。オレが許せば何もかもがオレに許されるんだよ・・」
シードが悠然と言いかけたときだった。亮平が瞬間的に異形の姿へと変身し、シードの顔面を思い切り殴りつけてきた。
後ずさりしたシードが、殴られた顔面を手の甲で拭う。
「そんな自分勝手なやり方で、他人を傷つけてもいいっていうのか!?」
「おい・・テメェ、あんまり調子に乗るなよ・・・!」
怒りをあらわにする亮平に、シードも怒りをあらわにしてきた。彼の頬に紋様が走る。
「これだからガキは気に食わないんだよ・・理解度がなくてオレの気分をすぐに悪くするからな!」
叫ぶシードが異形の姿へと変貌を遂げる。その姿は全身が刃物で覆われたものだった。
「すぐにズタズタにしてやるから、大人しくじっとしていろ・・・!」
シードは言い放つと、体から生えている刃の2本を引き抜いて、剣として握り締める。そしてシードが亮平に向かって飛びかかり、2本の剣を振り下ろす。
「くっ!」
毒づいた亮平がとっさに回避する。
「誰がよけていいといった!?」
だがシードが剣を横に振り抜いてきた。その一閃が亮平の体をかすめてきた。
「ぐっ!」
痛みを覚えてうめく亮平。そこへシードが飛びかかり、容赦なく追撃を繰り出してくる。
亮平はとっさに身を引いて、その攻撃をかわしていく。
「逃げるな!」
「逃げるって!」
怒鳴るシードに対して、必死に逃げようとする亮平。シードの攻撃は荒々しく、刃の一閃をかわせても、その衝撃で吹き飛ばされてしまうほどだった。
(こんなのを食らったら、本当にひとたまりもない!何とか隙を突いて倒さないと・・!)
打開の糸口を探ろうとする亮平。シードが放った一閃の爆発に紛れて、彼はそばの壁に身を潜める。
煙の中を進んで、シードが亮平に迫る。彼を警戒しつつ身を潜める亮平だが、その壁をすぐに破壊されてしまう。
「逃げてんじゃねぇよ・・ちゃんとオレにやられろよ・・・!」
シードがさらに言い放って、亮平を狙う。放たれた一閃で、亮平が空高く吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられる亮平。力を振り絞って立ち上がる彼だが、疲弊し、傷だらけになっていた。
「どうしたらいいんだ・・早く何とかしないと、確実にやられてしまう・・・!」
焦りが頂点に達していた亮平。彼の眼前に、不敵な笑みを見せるシードが立ちはだかっていた。
「いい加減諦めろ・・オレの殺されることは既に確定事項なんだよ・・・!」
シードが言い放ち、亮平との距離を詰めていった。
「亮平さん!」
そこへ渚が駆けつけ、亮平に声をかけてきた。だが彼女の登場が彼にさらなる危機感を植えつけることになった。
「ダメだ、渚ちゃん!すぐに逃げるんだ!」
亮平が渚に叫ぶが、彼に気付いたシードの刃が飛び込んできた。
「がはっ!」
激痛を覚えた亮平が、吐血して倒れる。
「亮平さん!」
たまらず悲鳴を上げる渚。2人の前にシードが立ちはだかり、哄笑を上げる。
「まさか向こうからわざわざここにやってくるとは・・そこのお嬢さんを渡してもらえないかな?」
シードが亮平に視線を向けて言いかける。亮平は体の痛みをこらえて、力を振り絞って立ち上がる。
「冗談じゃない・・お前のようなのに、渚ちゃんを渡せるわけがないじゃないか・・・!」
「テメェ・・オレに叩きのめされてるくせに・・・!」
声を振り絞る亮平に、シードが苛立ちを見せる。
「僕は決めたんだ・・渚ちゃんを守っていくって・・そのためなら、僕は鬼にでも悪魔にでもなる・・・!」
強く握り締める亮平の手から血がにじみ出る。
「僕は渚ちゃんを守る・・お前なんかに手は出させない!」
「亮平さん・・・」
決意を言い放つ亮平に、渚が戸惑いを覚える。
「いつまでもいい気になってんじゃねぇぞ、ガキが!」
苛立ちをあらわにしたシードが、亮平に飛びかかる。渚を守るため、亮平はシードを迎え撃とうとしていた。
次回
「亮平さん・・私のために・・・」
「あの娘、やはり何かあるな・・」
「できることなら、この力を使いたくはないんだ・・」
「ムダなんだよ・・思い上がったクズどもが、オレを否定することなんかよ!」