ガルヴォルスForce 第5話「野獣の猛威」
突如亮平に襲い掛かってきた野獣の姿をした怪物。亮平はとっさに異形の姿に変身して、迎撃に出る。
怪物の猛攻を押さえようとする亮平だが、怪物の力は強く、そのまま押し込まれてしまっていた。
「何て力だ・・僕のこの力でも止めることができない・・・」
力の差を痛感して、亮平が毒づく。怪物は荒々しく吐息をもらして、亮平に襲い掛かってきた。
亮平が反撃の拳を繰り出すが、怪物はそれを受けても勢いを止めない。怯んだ亮平が突き倒されて、怪物にのしかかられる。
「ダメだ・・これじゃ力不足だ・・・!」
「どうした?この程度じゃまだまだ物足りないぞ・・」
うめく亮平に怪物が高らかに言い放つ。しかし亮平は怪物の足を払いのけることができない。
「参るのが早すぎるぞ。もっと楽しませてくれよ!」
怪物は言い放つと、亮平を強く蹴り飛ばす。激しく横転して、亮平が倒れ込む。
「本気にさせてやる!こっちも本気になりゃいいんだよ!」
怪物がいきり立ち、亮平に向かって飛びかかる。危機感を覚えた亮平が意識を集中する。
亮平の体が金色になり、速度が一気に速まる。怪物の猛攻をかわし、彼はそのままこの場から離れていった。
「ちっ!・・逃げたか・・・」
怪物は舌打ちをすると、人間の姿へと戻る。
「実につまらない・・こんなのがあの人の言っていたすごいヤツとは到底思えない・・」
亮平の力に落胆を覚える青年。彼は亮平を追うことはせず、きびすを返して立ち去っていった。
速さを高めて難を逃れた亮平。だがバイクの止めていた場所に戻った彼は、左肩を痛めていた。
「ぐっ!・・・骨は折れていないみたいだが・・・」
肩からの激痛に亮平が顔を歪める。
「それにしても、またとんでもないのが出てきた・・僕のこの力でも、止めることができなかった・・・」
突如襲ってきた野獣の怪物に脅威を感じて、亮平が毒づく。次に遭遇したときにどうしたらいいのか分からず、彼は困惑していた。
そのとき、携帯電話が振動していることに気付く亮平。彼は携帯電話を取り出して、連絡の相手を確かめる。
「あ、姉さんだ・・」
連絡をしてきたのは汐だった。亮平が電話とメールをしてきたことに気付いたのだ。
「もしもし、姉さん?・・ふぅ、やっとつながった・・・」
“もしもし、亮平?こっちもこっちでいろいろあってね。連絡するのが遅くなっちゃった・・ゴメンね・・”
亮平が出ると、汐の声が響いてきた。いつもの彼女だと感じて、亮平は内心安堵する。
「渚ちゃんが心配してるよ。おかげで僕が探しに出る羽目になったんだからね。」
“だから謝ってるじゃない・・あたしが悪かったって・・今度、2人におごるから。ね。”
「別におごってもらわなくてもいいから・・それよりも早く家に帰ろうよ。渚ちゃんが待ってるから・・」
“おやおやぁ?ずい分と渚ちゃんの心配するんだねぇ。”
「どこにいるんだい?時雨さんはそこにいるの?」
からかってくる汐の言葉をさらりと流して、亮平が話を続ける。
“それならもう大丈夫。時雨さんが送ってくれることになったから。だから渚ちゃんには心配ないって伝えてもらえる?”
「姉さんが伝えてよ。そこまで世話する義理は、僕にはないから・・」
亮平が言いかけると、汐の落ち込みの声が電話から聞こえてきた。
「それじゃ僕は戻るから。時雨さんによろしくって伝えておいてよ。」
亮平はそういうと、汐との連絡を終えた。彼はそのままバイクに乗って家に戻っていった。
亮平を追い詰めた青年は、街中にあるホテルのロビーにやってきた。大金持ちや資産家が訪れるような高級ホテルである。
青年はそこである人物と待ち合わせていた。長い銀髪と長身をした紳士服を身につけた男である。
シード・ブランディ。いくつもの企業を牛耳る青年実業家。冷静沈着が第1印象とされており、部下や同業者との信頼関係は強いものとなっている。
「こういう高級なところはオレには似合わないって・・」
「すまないね。これが私の性分になってしまったものでね・・」
肩を落とす青年に、シードが悠然とした態度で答える。
「それでどうでした、東亮平は?なかなかの力の持ち主だったでしょう?」
「そいつのことなんだが、どうやらアンタの見込み違いだったようだ・・」
シードが訊ねると、青年が呆れた素振りを見せる。
「せいぜい褒めるところといったら、逃げ足の速さぐらいか・・」
「君は彼を侮っているよ。彼の力は君が思っているようなものではない。次に会ったときに確かめるといい。」
「そうかい?ま、次に会ったときはもう逃がさない。確実に始末してやるけどな。」
青年は不敵な笑みを浮かべると、ホテルから立ち去ろうとする。
「東亮平を甘く見るな。自分の首を絞めることになるぞ。」
「甘く見るな、だと?アンタこそオレを甘く見るなよ。」
忠告を送るシードだが、青年は聞く耳を持たずにホテルを後にした。
「バカなヤツだ・・力はあるくせに知恵がない・・・」
青年の背中を見つめて、シードは周囲に聞こえないほどの声をもらした。その態度は先ほどの落ち着きようのかけらもない、冷徹なものとなっていた。
亮平が家に戻ってきたとき、丁度汐が時雨とともに家に帰ってきていた。
「あ、時雨さん・・」
「亮平くん・・悪かったね。姉さんをこんな時間まで・・」
メットを外す亮平に、時雨が謝罪の言葉をかける。
「いや、時雨さんは気にしなくていいですよ。僕も時雨さんも、姉さんのおてんば振りには手を焼いてるんですから・・」
「それってどういう意味なのかな、亮平く〜ん?」
気さくに言いかける亮平に、汐が眼を吊り上げてきた。しかし亮平はそれに動じない。
「文句を言う前に自分の学力を上げないとね。」
「うぅ〜・・それは言わないでよ〜・・」
亮平に言いとがめられて、汐が気落ちしてしまう。
「あまりいじめないであげてもらえないかな、亮平くん。仮にも君の姉さんなんだから・・」
そこへ時雨が弁解を入れてくる。
「気にしなくても大丈夫ですよ。姉さんにはこのくらい言っておいたほうが丁度いいんです。それに姉さんならしばらくすればケロッとしてますから。」
「まぁ、確かにそうかも・・」
「時雨も納得しないで〜・・」
亮平の言葉に納得する時雨に、汐は涙目になる。
そこへ玄関のドアが開き、渚が顔を見せてきた。
「亮平さん、汐さん・・戻っていたんですね・・・」
「あ、渚ちゃん・・ゴメンね、心配かけちゃって・・」
声をかけてくる渚に、汐が苦笑いを見せる。そこで渚が時雨に眼を向けた。
「あの、この人は・・・?」
「あ、初めてだったね。この人は西沢時雨。あたしの彼氏なの。」
「彼氏・・・?」
汐が時雨を紹介するが、渚は疑問を浮かべる。
「平たくいえばボーイフレンド、男友達のことよ。」
「男友達、ですか・・・」
汐が補足を付け加えると、渚が何とか納得した。
「はじめまして、渚さん。西沢時雨です。」
時雨が微笑みかけて、渚に手を差し伸べる。
「はい・・よろしくお願いします・・」
渚も微笑みかけてその手を取り、時雨との握手を交わした。広がっていく絆に、亮平も汐も喜びを感じていた。
「さて、それじゃ僕は先に休ませてもらいますよ。誰かさんがなかなか帰ってこないからくたくたですよ。」
「それは悪かったって・・だからもう文句は言わないでよ〜・・」
亮平が家の中に入り、汐がさらに気落ちする。渚が微笑み、時雨が汐を励ます。
自分の部屋に戻り、ドアを閉めたときだった。今までずっと耐えてきた激痛を感じて、亮平がベットに倒れ込む。
「くっ・・・何とか耐えたけど・・・あの怪物の力はやっぱりすごかったか・・・」
青年との戦いでの痛みに苦しむ亮平。しかし同時に、その激しかった痛みが徐々に和らいでいくのを彼は感じていた。
「治りが早くなっている・・僕の中にある力の効力か・・・」
「亮平さん?・・まだ、起きていますか・・・?」
そこへ渚の声がかかってきた。突然の彼女の声に亮平は緊張を覚えた。
「うん・・何、渚ちゃん・・・?」
一瞬迷った亮平だが、渚の話に付き合うことにした。
「亮平さん、ケガをしていますね・・なぜ、汐さんに打ち明けなかったんですか・・・?」
「・・気付いてたんだね、渚ちゃんは・・・」
渚が告げた言葉を聞いて、亮平が苦笑を浮かべる。彼は部屋のドアを開けて、彼女を中に招き入れる。
「あの怪物絡みだったからね・・姉さんや時雨さんには打ち明けられなかった・・」
「そうだったんですか・・だから我慢していたんですね・・・」
亮平の言葉を受けて、渚も笑みをこぼした。
「でもなぜか痛みが引いてきてるんだ・・自分でも分かるくらいに、傷が治ってきてる・・・」
「でもやっぱり手当てはしておいたほうがいいですよ・・少し待っていてください。救急箱を持ってきますから・・」
「ありがとう、渚ちゃん・・でも大丈夫だよ。1晩寝たら治りそうだ・・それでもダメだったら、そのときはよろしく。アハハハ・・・」
苦笑いを浮かべて明るく振舞う亮平。すると渚が沈痛の面持ちを浮かべて、亮平に寄り添ってきた。
「あまりムリをしないでください・・あなたがケガをして、私たちがどんな気持ちになるか、考えてください・・・」
「渚ちゃん・・・」
悲しみを込めて言いかける渚に、亮平は困惑する。自分の我慢が周囲に迷惑をかけていたことを、彼は痛感していた。
「ゴメン、渚ちゃん・・みんなに迷惑をかけちゃいけないと思っていたことが、逆に迷惑をかけちゃったみたいだね・・・」
「ううん、いいんです・・私は亮平さんが無事だったことだけで、安心できます・・・」
謝罪する亮平に、渚が笑顔を見せる。
「今は休んでください。辛かったら遠慮せずに私に言ってください。もちろん汐さんでもいいですから・・」
「ありがとう、渚ちゃん・・ホントにありがとう・・・」
渚の優しさに感謝する亮平。彼女が部屋を後にしてから、亮平は着替えをしてからベットに横になった。
その翌日、亮平は渚からの誘いを受けて、街に繰り出していた。汐は朝から出かけてしまったため、渚は誘うことができなかった。
「まさか渚ちゃんから誘ってくれるなんて・・」
「あまり亮平さんが思いつめないようにと思いまして・・」
笑みをこぼす亮平に、渚が笑顔を見せる。
「今度は渚ちゃんを連れてツーリングに行きたいな。だけどホントは2人乗りは禁止だからな・・目立たないところを走ることになるかな・・」
「そこまで私に気を遣わなくても・・・」
言葉をかける亮平に、渚は苦笑いを浮かべていた。
「まさかお前とまた会うことになるなんてな。」
そこへ聞き覚えのある声を耳にして、亮平が眼を見開く。彼が振り返った先には、先日交戦した青年がいた。
「あの人の言うとおりになるとはな・・だったら2度と不始末がないように、確実に葬ってやるさ!」
いきり立った青年が野獣の怪物へと変貌を遂げる。その姿を見た周囲の人々が恐怖を覚え、悲鳴を上げる。
「くっ!こんなところまで狙ってくるなんて!」
怪物を見据えて亮平が毒づく。
「さぁ、お前も変身しろ!今度こそ叩きのめしてやる!」
怪物が亮平を挑発して、ゆっくりと近づいていく。そこへ渚が前に出て、怪物の行く手をさえぎる。
「渚ちゃん!」
「亮平さんに手を出さないで!もうこれ以上、亮平さんを傷つけないで!」
声を荒げる亮平の前で、渚が怪物に呼びかける。彼女の言葉を怪物があざ笑う。
「お前こそオレの邪魔をしないでくれ。今のオレは加減も容赦もできないぞ。」
「亮平さんはケガが治りきっていないんです!手荒なことはしないで!」
「それがどうした?オレはそんなくだらない感情は持ち合わせちゃいないんだよ!」
怪物は渚の呼びかけを跳ね付けて、爪を振りかざしてきた。そこへ亮平が飛び込み、渚を抱えて怪物の攻撃をかわす。
「亮平さん!」
「大丈夫、渚ちゃん!?」
声を上げる渚に亮平が呼びかける。亮平はすぐに立ち上がると、怪物を鋭く睨みつける。
「渚ちゃんは関係ないじゃないか!狙いは僕のはずだ!」
「その女が邪魔をしてきたんだ!邪魔をされていい気分をするヤツなどいないだろ!」
怒鳴る亮平を怪物が言い返す。その言葉に亮平は憤った。
「許さない・・お前だけは許さないぞ!」
怪物と同じく異形の姿へと変身する亮平。その変化を見て、怪物が笑みを強める。
「そうだ!もっと力を見せ付けてこい!その力を、オレが叩きのめしてやる!」
怪物が高らかに言い放ち、亮平に飛びかかる。組み付かれた亮平が建物の壁を突き破って、中に押し込まれる。
膝蹴りを繰り出して迎撃する亮平だが、怪物を跳ね除けることができない。さらに顔面をつかまれて、床に叩きつけられる。
「どうした!?力を見せないなら、このまま押しつぶしてやるぞ!」
怪物が言い放つと、亮平の頭をつかんでいる手に力を込める。抗うことができず、亮平は床にめり込んでいく。
(負けるもんか・・僕はやっと、僕をあたたかく包んでくれる人に巡り会えたんだ・・・)
亮平の心の中で、揺るぎない決意が駆け巡っていく。
(渚ちゃんをこれ以上悲しませたくない・・僕がここで死ぬわけにはいかないんだ・・・!)
「僕は決めたんだ・・渚ちゃんを、僕に芽生えたこの気持ちを!」
声を振り絞る亮平が、怪物の腕を押し返そうとする。
「くっ!押し返してきたか・・・!」
彼の力を感じて、怪物が毒づく。
「簡単に砕かれるわけにはいかないんだ!」
言い放つ亮平に、三度変化が起こった。体色が青から赤に変わり、彼の力が一気に増大した。
「何っ!?のあっ!」
その力に競り負けて、怪物が亮平に突き飛ばされる。立ち上がった亮平が、変化した自分に動揺を覚える。
「また変わった・・これが僕の新しい力・・どんどん湧き上がってくる・・・!」
「くっ!・・アイツの力が一気に増した・・どうなってるんだ・・・!?」
亮平の力の強化に毒づく怪物。彼は両腕に力を集中させて、亮平に襲い掛かろうとしていた。
「よしっ!ここから反撃だ!渚ちゃんを守りため、僕は戦う!」
亮平が決意を言い放つと、怪物と同様に力を集中させる。力と力、2つの巨大な力が衝突しようとしていた。
亮平と青年の激しい戦い。その様子を、シードが近くの建物の屋上から見下ろしていた。
「また新しい力を覚醒させたか、東亮平・・」
亮平の変貌を眼にして、シードが不敵な笑みを浮かべる。
「だがこの程度ではまだまだ物足りないぞ。もう少し力を上げてもらわないと困る・・」
亮平の力に対してシードが呟きかける。
「思い通りにならないと気が済まないが、ある程度興奮がないとつまらないからな・・」
シードは言いかけて、亮平と怪物の戦況を見守る。彼の狡猾な策略が開始されようとしていた。
次回予告
「体は、大丈夫ですか・・・?」
「何か思いつめていることがあったら、遠慮なく言ってきてくれ・・」
「そこのお嬢さんを渡してもらえないかな?」
「僕は渚ちゃんを守る・・お前なんかに手は出させない!」