ガルヴォルスForce 第4話「抜き放たれた牙」
異形の力の新たなる覚醒を果たした亮平。それがもたらした速さは、蝋を使う少年を翻弄していた。
「どうして・・僕の蝋が当たんないよ・・・!」
自分の攻撃が当たらないことに愕然となる少年。彼の眼前に立つ亮平が、彼を鋭く見据えていた。
「渚ちゃんを助けるんだ・・でないと僕は、君を倒さないといけなくなる・・・!」
亮平が少年に向けて忠告を送る。
「冗談じゃない!せっかくいい蝋人形ができたのに!」
少年は苛立ちを見せると、亮平に向けて蝋を振りまく。亮平は素早く動いてかわすが、少年は姿を消していた。
「逃げられた・・・早く渚ちゃんを助けないと・・・!」
亮平が慌てて渚に駆け寄る。だが彼が力を行使する前に、渚を包んでいた蝋が溶けて、彼女は解放される。
「渚ちゃん!大丈夫、渚ちゃん!?」
「亮平さん・・・はい・・私は何とか・・・」
亮平の呼びかけに渚が小さく頷く。
「よかった・・・家に戻ろう、渚ちゃん。もう休んだほうが・・」
「はい・・でも亮平さん、その姿・・・」
亮平が呼びかけると、渚が戸惑いを見せて言葉を返す。それを受けて自分が異形の姿であることを思い出した亮平は、人間の姿へと戻る。
「・・それにしてもすごい力だ・・・僕、怪物の中でもとりわけ強いのかも・・・」
自分の力の脅威に、亮平自身も驚いていた。
「あの、亮平さん・・戻るのですよね・・・?」
「え、あ、うん、そうだった、そうだった・・」
渚に声をかけられて、我に返る亮平。2人は休息のため、ひとまず家に帰ることにした。
休息のため帰宅した亮平と渚。だが汐はバイトに出ていたため、家にはいなかった。
「やっぱり姉さんはいないか・・携帯に電話しても留守電になってるから、もう出ているとは思ってたけど・・」
亮平がため息混じりに呟きかける。
「とりあえず渚ちゃんは休んでて。僕が何か作るから・・」
「でも、それだと亮平さんに迷惑が・・」
言いかける亮平に、渚が困惑する。
「大丈夫だよ。普段やらないだけで、料理の腕は姉さんより上なんだから・・」
亮平はさらに言いかけると、キッチンに向かい、冷蔵庫の中を確かめる。
「昨日のうちにちゃんと買い揃えておいてよかった・・ちょっと待ってて。おかゆでいいかな?」
「そんな気を遣わなくても・・・」
「それじゃせめてスープでも・・・」
遠慮しがちな渚の言葉を受け入れる亮平。しばらくして、彼の作ったコーンスープが、彼女のいるリビングのテーブルに置かれた。
「ちょっと作りすぎちゃった・・僕も飲むとしようかな・・」
苦笑いを浮かべながら、亮平がソファーに座る。
「ありがとうございます、亮平さん・・いただきます・・・」
渚は亮平にお礼を言うと、スープのひとつを口にする。
「おいしいです・・・すごいですね、亮平さん・・・」
「いやぁ、スープぐらいで・・」
笑顔を見せる渚に、亮平は苦笑いを浮かべていた。
「せめてメールでも入れておこうかな・・帰ってきたことぐらいは伝えておかないと・・」
亮平は呟くと、自分の携帯電話を取り出した。
その頃、汐はバイトに精を出していた。だが普段よりも客足が多く、大忙しに疲れが押し寄せてきていた。
その波が治まり、汐はキッチン裏で休息を取っていた。
「ふぅ・・やっと休めるよ〜・・」
「今日はやけに客入りが多い。今日は特にサービス期間でもないのに・・」
汐に続いて、やってきた時雨もため息をつく。
「でもお客様が来てくれることは喜ばしい限りだよ。」
「それはそうだけどね。エヘへ・・」
微笑みかける時雨に、汐が照れ笑いを浮かべる。
「さて、そろそろ小休止は終わりにしないと。店長に怒られる。」
「そうだね・・それじゃもうひと頑張りと行きますか。」
気持ちを引き締めて、時雨と汐はその後の仕事に力を入れるのだった。
その日の仕事が終わり、店を後にする汐と時雨。帰路に着いたところで、汐は自分の携帯電話を取り出した。
「あら。亮平からメール・・なになに?渚ちゃんと一緒に帰ってきた・・・」
亮平からのメールの内容を読み上げる汐。
「渚ちゃんって、汐ちゃんの家にいる女の子かい?」
「うん、そうだけど・・・もしかして時雨、渚ちゃんに興味が湧いたんじゃ・・・?」
時雨が訊ねると、汐がにやけてからかってくる。
「からかわないでよ、汐ちゃん・・僕にそんなやましい気持ちがあると思ってるのかい?」
「冗談だって、エヘへ・・・でも今度紹介するね。いろいろと大変だったから・・」
言い返す時雨に、汐が笑顔を見せる。そして汐は気持ちを落ち着けて、自分の胸に手を当てる。
「そういえばそろそろ・・時雨と出会って、もうすぐ1年になるかな・・・」
「そうだね・・もうそんなになるんだね・・ずっと仕事ばかりの時間で、デートとかうまくしてあげられなくて・・・」
「気にしなくていいよ。あたしもそんなに時間が取れてなかったから・・」
出会った頃を思い返す汐と時雨。
「子供みたいに無邪気で・・そういうところが、僕を放っておけなくさせたんだろうね・・」
「うぅ・・何だか褒められているように感じない・・・」
初対面時の汐を思い返す時雨。その言葉に汐が落胆の面持ちを浮かべる。
「あたしは、時雨の誠実さにひかれたんだと思う・・でもあたし、失敗ばかりで、いつ嫌われてもおかしくないって思ってたこともあったから・・」
「大丈夫だよ。僕が汐ちゃんを嫌うはずないじゃない。」
「ありがとう、時雨・・そういってくれると嬉しいよ・・・」
時雨の弁解に汐が喜びを覚える。
「この1年近くで、お互いのことを分かり合えたよね・・いろいろなことを知ることができた・・・」
汐が唐突に口にした言葉に、時雨が戸惑いを覚える。彼は一抹の不安を感じていた。
「どうしたの、時雨?」
「えっ?・・いや、何でもない・・・」
汐が訊ねると、時雨が我に返って答える。
(あのことを、汐ちゃんに打ち明けるべきか・・・)
時雨が深刻さを胸に宿していた。彼は汐に打ち明けていないあることを隠していた。
もう少しで帰路の分岐点に差し掛かるときだった。
「それじゃそろそろ行くね。亮平と渚ちゃんが待ってるから・・」
「そうか・・時間ができたら遊びに行くから。亮平くんにも伝えておいて。」
笑顔を見せる渚に声をかける時雨。だがそのとき、彼は奇妙な感覚を覚えた。
「ん?どうしたの、時雨・・?」
汐が声をかけるが、時雨は周囲に注意を向けていて何も答えない。
「そっちのお姉さんもかわいいね・・」
そこへ声がかかり、時雨と汐が振り返る。その先には1人の少年が立っていた。
「子供・・・?」
時雨と汐が少年の登場に当惑を覚える。少年は2人を見つめて微笑みかけていた。
「僕が真っ白に飾ってあげるから・・・逃げちゃダメだよ・・・」
言いかける少年の頬に紋様が浮かび上がる。そして彼の姿が白い人型の怪物へと変化していく。
「えっ!?何っ!?」
その変貌に驚きの声を上げる汐。時雨は危機感を覚えて、とっさに身構える。
「逃げるんだ、汐ちゃん!」
時雨は汐の腕をつかむと、怪物の前から逃げ出す。怪物が両手から蝋を放出するが、2人から外れた。
「逃げちゃダメだって言ったよね?・・今の僕はちょっとムカムカしてるんだ・・・!」
いきり立った怪物が2人を追いかけていく。時雨も汐も逃げるのが精一杯だった。
「あの怪物・・前に街に現れたみたいな・・・!」
「えっ!?汐ちゃん、あの怪物を見たことがあるの!?」
「うん、ちょっとね・・でも今のとは違う・・また別の怪物だった・・・!」
時雨の問いかけに汐が答える。そこへ怪物が跳躍し、2人の前に回りこんできた。
「逃げちゃダメだって、何度も言わせないでよ・・ホントに怒っちゃうよ・・・!」
怪物が時雨と汐に言いかける。怪物が口から蝋を吐き、2人の足にかけて動きを止める。
「しまった!」
足を固められてしまい、時雨が声を荒げる。
「これでもう逃げられない・・まずはお姉さんから真っ白にしてあげるから・・・」
怪物が悠然さを見せながら、汐に狙いを定めた。
時計は汐が帰ってくるはずの時間を過ぎていた。それでも彼女が帰ってこないことに、渚は不安を感じていた。
「汐さん、遅いですね・・何か、あったのではないですか・・・?」
「姉さんのことだから、時雨さんと長話しているか、どこかで寄り道でもしているんじゃないかな?」
心配の声をかける渚だが、亮平はのん気に答えるだけだった。
「でも、やっぱり心配です・・私、ちょっと探してみます・・・」
「待った。渚ちゃんが行くなら僕が代わりに行ってくるよ。僕のほうがこの辺りには十分詳しいから・・」
席を立つ渚をいさめる亮平。彼の言葉を受けて、彼女は再び腰掛ける。
「でも出る前に連絡してから・・」
亮平は携帯電話を取り出して汐への連絡をする。またも留守電になっていたので、再びメールを送ってから彼は家を出た。
「もう、しょうがないんだから、姉さんは・・」
亮平はため息をつくと、バイクに乗って走り出していった。
怪物の放った蝋に捕まり、その場から動けなくなってしまう時雨と汐。怪物は汐に狙いを定めて、ゆっくりと歩を進めてきていた。
(どうすべきか・・この状況を何とかするにはあの力を使うしかない・・だけど汐ちゃんに知られてしまうことになる・・・)
時雨は胸中で焦りを覚えていた。だが汐を助けるために、彼は背に腹を帰られなかった。
(ここはもう迷っている時じゃない・・汐ちゃんを守るために、僕は・・・!)
「眼をそらさないで、汐ちゃん・・僕の本当の姿から・・・」
「時雨・・・!?」
囁くように言いかける時雨に、汐が戸惑いを見せる。そのとき、時雨の頬に異様な紋様が浮かび上がった。
「時雨・・まさか・・・!?」
汐は一瞬眼を疑った。時雨の姿が全身から騎士を思わせる姿の怪物へと変化していく。
その異様な姿に汐は困惑を覚える。だが時雨への信頼を募らせた彼女は、徐々に気持ちを落ち着けていく。
「君も僕と同じだったとはね・・こうして同じのに邪魔されるのは君で2人目だよ・・」
怪物が苛立ちをあらわにする。しかし時雨は冷静沈着だった。
「汐ちゃんを傷つけるなら容赦はしない・・今のオレは情け容赦が利かないから・・」
怪物に向けて鋭く言い放つ時雨。今の彼は普段と比べて冷徹な態度だった。
「僕はあのお姉さんを真っ白にしてあげるんだ・・だから邪魔しないでって!」
いきり立った怪物が時雨に向けて蝋を放つ。だがその蝋が突然縦に割れて、時雨と汐を避ける形で飛んでいった。
時雨は西洋風の剣を作り出し、一閃を鼻って蝋を切り裂いたのである。
「オレの刃はオレの意思と同じく鋭い・・お前を容赦なく切り刻む・・・!」
時雨は鋭く言いかけると、剣の切っ先を少年に向ける。怪物がさらに蝋を吹きかけるが、時雨が放った剣の一閃で軽々と両断される。
「そうやって何度も同じ手が通用すると思ってるのかな?今度こそ真っ白に・・」
「・・いや、今のでもう終わりだ・・・」
勇み足を踏む怪物に対し、時雨が冷淡に言いかけた。
次の瞬間、怪物の体が突如両断された。何が起こったのか分からず、怪物が唖然となる。
「どうして、こんなこと・・・!?」
倒れた怪物がそのまま息絶える。切り裂かれたその体が石のように固まると、砂のように崩れて風に流されていった。
力を抜いた時雨の姿が人間に戻る。彼は動揺をあらわにしている汐を見て、困惑を覚える。
「汐ちゃん・・・驚かせてゴメン・・これが僕の、本当の姿なんだ・・・」
自分が今まで隠してきたことを改めて打ち明ける時雨。
「こんな僕と一緒にいたら、汐ちゃんはきっと不幸になる・・残念だけど、もう僕たちは・・・」
「そんなことない・・そんなことで、あたしは時雨を嫌いになんてならないよ・・・」
沈痛さを噛み締める時雨に、汐が弁解を入れてきた。その言葉に、時雨が逆に戸惑いを覚える。
「どんな姿になったって、怪物になったって、時雨は時雨じゃない・・時雨は私を守るために、命懸けで戦ってくれた・・・だからあたしは、時雨を嫌いになんてなってない・・・」
「汐ちゃん・・・それでもいいのかい?・・こんな僕と一緒にいたら、汐ちゃんに迷惑がかかっちゃうんじゃ・・・」
「気にしなくていいって。あたしのほうが時雨に迷惑をかけてるから。エヘヘヘ・・・」
困惑する時雨に、汐が照れ笑いを浮かべる。彼女の天真爛漫さを垣間見て、時雨は安堵を覚えた。
「ありがとう、汐ちゃん・・僕を受け入れてくれて・・・」
「あたしは無闇に他人を邪険にする人間ではないんだからね・・時雨も、その点がちゃんと分かってるはずだけど?」
汐が満面の笑みを見せると、時雨もまた笑みをこぼした。彼女が今までと変わらない、明るい性格の彼女であると、彼は改めて実感した。
「ありがとう、汐ちゃん・・・本当にありがとう・・・」
「これからもよろしくね、時雨・・強くて優しいあたしの彼氏・・・」
感謝の言葉をかける時雨に、汐が飛びついた。彼女との抱擁の中、時雨は心のあたたかさを実感した。
(抱えていないで、もっと早く打ち明けてもよかったかもしれない・・・汐ちゃんなら、しっかりと受け止めてくれた・・・)
時雨は胸中で、汐の優しさを感じ取っていた。
汐を迎えるためにバイクに乗って走行していた亮平。しかし彼は汐と時雨の姿を見つけることができないでいた。
「姉さん・・ホントにどこに行っちゃったんだ・・・」
たまらずため息をつく亮平。彼はいったんバイクを止めて、思い当たる節を考え直すことにした。
そんな彼の前に1人の青年が現れた。青年は亮平を見て、いぶかしげな面持ちを浮かべてきた。
「コイツか、あの人が言ってた新入りってのは・・」
「誰なんだい、アンタ?僕に何の用?」
呟きかける青年に、亮平が疑問を投げかける。
「まぁいいや・・お前の力、試させてもらうぞ・・・」
言いかける青年の顔に異様な紋様が浮かび上がる。その変化に亮平が緊迫を覚える。
青年の姿が野獣に似た怪物へと変化する。怪物は吐息をもらして、亮平を見据えていた。
「ア、アンタ、僕と同じ・・・!」
「お前と同じ?確かに人間離れしてるが、お前と一緒にされると困るな・・・」
声を荒げる亮平に、怪物が冷淡に告げる。
「お前も早く変身しろ。でないとお前の力がどんなものなのか、分からないじゃないか・・」
怪物は言いかけると、亮平に向けて爪を振り下ろす。亮平はとっさに横に飛んで、怪物の攻撃をかわす。
「このままやられるわけにいかないっての!」
いきり立った亮平も異形の姿へと変身する。その姿を見て怪物が笑みをこぼす。
「いいぞ・・こうでなくては面白くないというものだ・・」
興奮を膨らませる怪物が、亮平に向かって飛びかかっていった。
次回
「ダメだ・・これじゃ力不足だ・・・!」
「どうやらアンタの見込み違いだったようだ・・」
「もうこれ以上、亮平さんを傷つけないで!」
「僕は決めたんだ・・渚ちゃんを、僕に芽生えたこの気持ちを!」