ガルヴォルスForce 第3話「力の変革」

 

 

 怪物との対立の中、亮平も異形の姿へと変貌した。その驚異の力に彼自身も驚いていた。

「これだけの力があれば、怪物と互角に戦える・・もしかしたら、勝てるかも・・・」

 勝機を見出した亮平が、怪物に対して畳み掛ける。パンチとキックの連続で、怪物を一気に追い詰めていく。

「よし!これでとどめだ!」

 亮平が渾身の力を込めて拳を繰り出す。その打撃が怪物の体を貫いた

「ぐほっ!」

 その痛烈な一撃を受けて、怪物が吐血する。彼は血しぶきを上げて倒れ、動かなくなる。

 そして怪物が突如石のように固くなる。その異変に亮平が眉をひそめる。

 彼がおもむろにその体に触れた瞬間、怪物は砂のように崩れていった。砂の山になった怪物を目の当たりにして、亮平は驚愕する。

「怪物がこんなことに・・・僕も最後は、こういうふうに何もかもなくなっちゃうんじゃ・・・」

 不安の色を隠せなくなる亮平。彼の姿が人間へと戻っていく。

「これが僕の力・・・僕に、こんな力が湧き上がってくるなんて・・・」

 亮平が自分の新たなる力に感嘆する。だが彼は同時に恐怖も感じていた。もし自分が死んだとき、死体も残らずに崩れ去ってしまうのではないかと。

「亮平さん!亮平さーん!」

 そこへ渚の声が飛び込んできた。我に返った亮平が振り返ると、渚が駆けつけてきた。

 彼女の後ろには、眼を覚ました汐の姿もあった。

「姉さん!・・よかった・・眼が覚めたんだ・・・」

「もう、ホントに何がどうなってるのよ・・・あんな怪物が出てくるなんて聞いてないって!」

 安堵を浮かべる亮平に、汐が非現実的な出来事に対する不満を言い放つ。

「それであの怪物はどこ行っちゃったのよ!?

「えっ?何で僕に聞くのさ?」

 問い詰めてくる汐に、亮平が苦笑いを浮かべる。

「渚ちゃんから聞いたよ!自分を囮にして怪物を引き付けたって!その後怪物はどうなったの!?・・まさか、亮平がやっつけたんじゃ・・!?

「バ、バカなこと言わないでって!あんなバケモノ、姉さんや渚ちゃんから引き離すことはできても、やっつけるなんてできるわけがないって!」

 さらに問い詰めてくる汐に、亮平がたまらず声を荒げる。すると汐は納得して頷きかける。

「それもそうね。多分、運よく逃げてくれたのね。うん。」

「1人で納得しちゃってるし・・」

 汐の様子に亮平が呆れて肩を落とす。2人のそばで渚は困惑していた。

「とにかく戻ろう・・ここにいても気まずくなるだけだし・・」

「そうね・・今は帰ったほうがよさそうね・・・渚ちゃん、行こう。」

「はい・・・」

 亮平と汐が声を掛け合い、渚も小さく頷く。3人は不安を抱えたまま、帰宅することになった。

 亮平は汐には自分の身に起きたことを打ち明けなかった。彼自身、信じられないところがあったからだ。

 様々な思惑を秘めたまま、亮平は家へと戻っていった。

 

「イタタタタ!もうちょっと優しくやってって・・・!」

 亮平に包帯を巻かれる汐が悲鳴を上げる。彼女は怪物の襲撃の際、軽い擦り傷を作っていた。

「ダメだよ、姉さん。きつくやらないとほどけてくるんだから・・それ!」

「いったーい!」

 亮平が包帯をきつく縛り、汐がさらに悲鳴を上げた。

「亮平さん、ここは私がやりますから、亮平さんは休んでいてください。」

 そこへ渚が心配の面持ちで声をかけてきた。

「亮平さんは私や汐さんのために、体を張ってくれました・・その亮平さんに、これ以上負担をかけるのは・・」

「渚ちゃん・・・それなら、お言葉に甘えることにするかな・・」

 渚の言葉を受け入れて、亮平は自分の部屋に戻ることにした。

「では汐さん、手当てをしてあげますね。」

「えっと・・お手柔らかにお願いしてね・・・」

 渚の笑顔に影があるように感じて、汐は冷や汗を浮かべた。

 

 自分の部屋に戻った亮平は、明かりをつけないまま窓から夜空を見つめていた。彼は昼間に起きた出来事を思い返していた。

 再び現れた怪物。それと同種の怪物へと変貌した自分。

 日常から大きく逸脱した瞬間に、彼は動揺を感じずにいられなかった。

(まさか僕まで、あんな姿になるなんて・・・)

 変わり行く自分に困惑する亮平。彼はなかなか気持ちの整理をつけることができないでいた。

 そのとき、部屋のドアがノックされ、亮平が我に返る。

「はーい。だれー?」

 亮平が気のない態度を振舞って声をかける。

「渚です・・入ってもいいですか・・・?」

 ドアの奥から返事をしてきたのは渚だった。亮平が了承すると、彼女はドアを開けて部屋に入ってきた。

「渚ちゃん・・姉さんは大丈夫?」

「はい。私がちゃんと手当てしましたから・・・」

 亮平の問いかけに渚が微笑んで答える。リビングでは包帯をきつく締め付けられてぐったりしている汐が横たわっていた。

「ところで亮平さん・・・何かあったのですか・・・?」

 渚が沈痛の面持ちで声をかけてきた。唐突な問いかけに亮平が戸惑う。

「あの怪物が出た後の亮平さん、何か思いつめているようでした・・・余計なことを言っているかもしれませんが・・記憶がないから、かえっていろいろ分かってしまうのかもしれません・・・」

「渚ちゃん・・・姉さんにはまだ、内緒にしてもらえるかな?・・まだ自分でも信じられないところがあるから・・・」

 渚の気持ちを汲み取って、亮平は自分の身に起きたことを打ち明けることにした。

「僕、昼間に怪物になってしまったんだ・・その力があったから、僕はあの怪物にやられずに済んだ・・・」

「怪物・・私たちを襲ってきたあの怪物と同じになったというのですか・・・?」

 問いかける渚に亮平が小さく頷く。

「またあんな姿になるのか、自分の意思でなれるのか、それはまだ分からない・・ただ、いつものように、今までどおりに過ごせるかどうか・・・」

 亮平が深刻な面持ちを浮かべる。非現実的な出来事に遭遇して、彼は迷いを抱かずにいられなかった。

 そんな亮平に、渚が後ろから優しく寄り添ってきた。

「自分のことが分からない不安、私にも分かります・・私は自分も、自分の本当の名前も分かりませんから・・・」

「渚ちゃん・・・ありがとう・・こんな僕に優しくしてくれて・・・」

「気にしないでください・・今の私には、このくらいしかできませんから・・・」

 渚に励まされて、亮平が気持ちを落ち着けることができた。

「今日はもう大丈夫だよ・・安心して眠れる・・・渚ちゃんは姉さんのそばにいてあげて。姉さん、ケガをしていてもムチャするところがあるから・・・」

「亮平さん・・・分かりました。おやすみなさい・・」

 亮平の言葉を受けて、渚は笑顔を見せて部屋を後にした。

(渚ちゃん・・・自分のことが分からなくて不安がいっぱいになっているはずなのに、僕を励ましてきてくれて・・・いくら能天気な僕でも、そんな女の子に心配されるようじゃ情けないか・・・)

 彼女の後ろ姿を見送って、亮平は気を引き締めるのだった。

 

 真夜中の通りは静寂に包まれていた。その闇から何が出てくるか分からないことが不安を生み出している。

 その通りをひた走る1人の少女がいた。彼女は自分を追ってくるものから必死に逃げていた。

 しばらく走ったところで、少女は自分を狙う影がいないことに気付いて立ち止まり、後ろに振り返る。そこにはその影どころか、人1人いなかった。

 危機が去ったと少女が安堵したときだった。

 突如上から白い液体が降り注ぎ、少女が飲み込まれる。その液体に抗おうとする少女だが、液体は徐々に固まっていき、彼女の自由を奪っていく。

「さぁ・・真っ白な蝋人形にしてあげるよ・・きれいなきれいな蝋人形に・・・」

 その少女をまじまじと見つめる少年が呟きかける。少女は白い液体、蝋の凝固によって微動だにしなくなる。

「イヤ・・やめて・・・助けて・・・」

 声を振り絞る少女。だがその声も発することができなくなり、彼女は蝋に完全に包まれた。

「これでまた、きれいな蝋人形ができあがった・・・」

 少年は淡々と言いかけると、音もなく姿を消してしまった。その場には蝋に包まれて動かなくなった少女だけが取り残されていた。

 このように、美少女が蝋人形にされる事件が多発していた。

「やっぱり蝋人形はすばらしい・・気分がよくなってくるよ・・・」

 

 美少女が蝋人形になる事件のニュースは、亮平たちの耳にも入っていた。

「またおかしな事件が起きたね・・」

 TVのニュースを見ていた汐が呟きかける。

「もしかして、昨日みたいな怪物の仕業なのかな・・・?」

「どうだろうね・・・」

 汐に話を振られて、亮平がとぼけてみせる。

「そういうのは警察が何とかしてくれるんじゃないの?もしかしたら、軍隊でもつれてくればさすがにやっつけられるだろうし・・」

「そうあってくれればいいんだけど・・」

 亮平が気のない態度で言いかけると、汐が不安を浮かべる。

「さて、それじゃ散歩にでも出かけるかな・・」

「えっ?最近散歩ばかりじゃない・・」

 立ち上がる亮平に汐が口を挟む。すると渚も立ち上がり、声をかけてきた。

「あの・・私も一緒に行っていいですか・・・?」

「えっ?・・どうしたんだ、渚ちゃん・・・?」

「いえ・・いろいろと知っておきたいんです・・私、亮平さんと汐さんの恩返しがしたいから・・・」

「そうか・・分かった。一緒に行こうか・・」

 渚の頼みを亮平が受け入れる。それを聞いた渚が微笑みかける。

「ホントはツーリングのつもりでいたんだけど・・歩きでもいいかな・・・」

「ヒューヒュー♪あついねー、亮平くーん♪」

「からかわないでよ、姉さん・・」

 上機嫌に言いかける汐に、亮平はため息をついた。

 

 渚とともに出かけた亮平は、街に繰り出した。街では以前に怪物が現れたことへの警戒が解かれて、いつもの平穏さと賑わいを取り戻していた。

「実は僕、あまり街に行くことはないんだよね・・いろいろと絡まれるのは好きじゃないから・・ケンカとか勧誘とか・・」

「亮平さんは、ケンカは強くないのですか・・・?」

「強くないってことはないんだけど・・少し前に姉さんに勧められて柔道と空手を習わされたことがあったんだ・・すぐに飽きたけどね・・」

 声をかけてきた亮平の話を聞いて、渚が微笑みかける。

「僕、自分の将来について、あんまり考えたことがなかったんだ・・自分に似合いそうな仕事が思い浮かばないし・・」

「でも、亮平さんもいつか、その将来が見つかるときが来ますよ・・・」

「見つかるときが来る、か・・そういうものなのかな・・・」

 優しく言いかける渚の言葉を受けても、亮平はのん気さを崩さなかった。そんな彼を、渚はあたたかく見守っていた。

 そのとき、亮平の腹の虫が突然鳴り出した。おなかを押さえる亮平を見て、渚がたまらず笑みをこぼす。

「ゴメンなさい・・そんなつもりは・・・」

「いいよ・・それより、どっかで休憩でもするかな・・」

 互いに弁解する渚と亮平。2人は休憩のため、どこかの飲食店に立ち寄ろうとした。

 そのとき、どこからか突如悲鳴が響き渡り、亮平と渚が立ち止まって振り返る。その先の通りから、人々が逃げ込んできていた。

「ど、どうしたんだ・・・!?

「亮平さん、もしかしてまた怪物が・・・!?

 声を上げる亮平と、不安を口にする渚。

「渚ちゃん、ここから離れたほうがいい。危ない感じがするんだ・・」

 亮平が渚に逃げるように促したときだった。2人の前に1人の少年が現れ、視線を向けてきた。

「そこのお姉さん、とてもかわいいね・・真っ白になったらもっときれいになるかな・・・」

 少年は淡々と言いかけると、渚に向けて右手をかざす。その瞬間、亮平は少年が敵意を抱いているのを感じた。

「危ない!」

 亮平がとっさに渚を抱えて駆け出す。その直後、少年の右手から白い液体が吹き出された。

「大丈夫、渚ちゃん!?

「は、はい・・」

 亮平が呼びかけると、渚が小さく頷く。

「逃げるなんてずるいよ・・僕は別に悪いことをしようとしているわけじゃないんだから・・」

「子供なのにボケをかますなっての!あんなことされて、逃げないわけないだろうが!」

 声をかけてくる少年に、亮平がたまらず声を荒げる。

「でも気にしなくていいよ。今度は外さないから・・」

 少年は笑みをこぼすと、再び液を放射する。

「亮平さん!」

 渚が亮平を横に突き飛ばす。彼を庇って彼女が蝋を浴びてしまう。

「渚ちゃん!」

 起き上がった亮平が声を荒げる。蝋を浴びた渚が体の自由を奪われていた。

「か、体が、動かない・・・!」

「ムダだよ。僕の蝋はすぐに固まるし、固まったら簡単には抜け出せないよ・・」

 うめく渚に少年が言いかける。固まった蝋は、彼女の動きを完全に封じていた。

「待ってて。すぐにきれいな蝋人形にしてあげるから・・」

「やめろ!」

 渚に近づこうとした少年の前に、亮平が立ちはだかった。

「渚ちゃんに手は出させない・・そのためなら、僕は悪魔にでもなる!」

 言い放つ亮平の頬に紋様が走る。彼の姿が異様な怪物へと変貌する。

「へぇ。君も僕と同じだったんだ・・でも、それでも僕は止められないけど。」

 少年は余裕を見せて、亮平に向けて蝋を吹きかける。亮平は跳躍してその蝋をかわし、反撃に転ずる。

 だが少年の素早い身のこなしに、亮平はことごとく攻撃をかわされていく。

「は、速い・・・!」

「どうしたの?そんなに遅かったら僕に当てられないよ?」

 毒づく亮平に、少年が淡々と言いかける。亮平がさらに加速して攻撃を繰り出すが、それでも少年にかわされてしまう。

「こんなに速いんじゃ、いくら強い力でも・・・!」

「この程度じゃ僕に勝てないよ。せっかくだから、君も蝋人形にしてあげるよ・・」

 うめく亮平と、悠然さを見せる少年。

「このままだと、僕も蝋をかけられておしまいだ・・・!」

 危機感を覚える亮平。打開の糸口を見つけようとするが、なかなか策が見出せない。

 少年が蝋を吹き出してくる。亮平は回避を続けていくが、徐々に追い詰められていく。

「もらった!これでおしまい!」

 少年が放った蝋が亮平を捉える。

(まずい!よけられない!・・でもこれを受けるわけには・・・!)

 蝋からの回避に意識を集中させる亮平。そのとき、彼の体に変化が起こった。

 青みがかった体の色が金色に変化する。その瞬間、亮平の動きが一気に加速し、蝋への回避を可能とした。

「えっ!?

 突然のことに少年が驚きの声を上げる。さらに蝋を吹き付けるが、亮平は軽々とかわしていく。

「もう!チョロチョロ逃げないでよね!」

 不満を言い放つ少年が、亮平を追いかける。そこへ亮平が飛びかかり、少年に打撃を見舞う。

「うっ!」

 眼にも留まらぬ速さの攻撃に、少年がうめく。怯んで後ずさりする彼に眼を向ける亮平。

「僕の力は、まだまだ隠されていたってことか・・・」

 自分の新たなる力を実感していく亮平。彼の力は様々な形へと派生を広げていた。

 

 

次回

第4話「抜き放たれた牙」

 

「僕、怪物の中でもとりわけ強いのかも・・・」

「時雨と出会って、もうすぐ1年になるかな・・・」

「そっちのお姉さんもかわいいね・・」

「眼をそらさないで、汐ちゃん・・僕の本当の姿から・・・」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system