ガルヴォルスForce 第2話「目覚める力」

 

 

 記憶を失った少女との出会い。亮平と汐が彼女を保護してから、一夜が明けた。

 1番に眼を覚ましたのは汐だった。亮平は夜の間、ずっと少女を見守っていたため、疲れ切って眠ってしまっていた。

「もう・・ホントにしょうがないんだから・・・」

 眠りこけている亮平を見て、汐がため息をつく。すると少女が意識を取り戻し、体を起こしてきた。

「あれ・・・私・・・?」

「気がついたみたいね・・」

 当惑している少女に、汐が笑みをこぼす。

「ここはあたしと亮平の家。亮平があなたをここまで運んできたそうよ。」

「私を、ここまで・・・」

 汐が事情を説明すると、少女は何とか納得したようだった。

「話は少しだけど亮平から聞いてるよ。あなた、記憶をなくしてるみたいね・・」

「うん・・私は誰なの?・・私は何をしていたの・・・?」

「それはあたしが聞きたいんだけどねぇ・・・」

 困惑する少女に、汐が本音をもらす。

「とにかく詳しい話は後。まずは朝ごはんだよ。何か食べておかないと元気が出ないもんだって。」

「でも、私・・・」

「迷惑だなんていわないで。ここまでで十分に迷惑かけてるんだから、あなたからも亮平からも・・」

 言いかける少女の言葉をさえぎる汐。

「亮平、いい加減に起きなさいって。朝ごはん、手伝って。」

「う、うぅ・・体がだるい・・・」

 汐に起こされて、亮平が眼をこすりながら起き上がる。

「シャキッとしなさい、シャキッと!テーブル拭いて、お皿並べて!」

 汐に一喝されて、亮平が慌しく準備に取り掛かる。しかし体までは眼を覚ましておらず、彼は思うように動くことができなかった。

 屈託のない会話を繰り返しながら、亮平と汐は朝食の支度を整えるのだった。

「さ、遠慮しないで。出来栄えがいいといったらウソになっちゃうけど・・」

 汐が少女に言いかけると、テーブルにパンとスクランブルエッグを並べる。2つとも少し焦げ付いており、見た目はあまりいいとはいえない。

「大丈夫だよ。悪いのは見た目だけ。味は抜群だから。」

「今回はたまたまよ。ホントは見た目もいいんだから・・」

 口を挟んできた亮平に、汐が不満げに続ける。2人のやり取りに微笑むと、少女はパンを口にする。

「うん・・おいしい・・とても、おいしいです・・・」

「えっと・・・普通に焼いたパンでそこまで喜んでもらえるなんて・・・」

 賞賛する少女に、汐が苦笑いを浮かべる。少女はかなり空腹だったのか、勢いよく朝食を口に運んでいく。

「そ、そんなに勢いつけて食べたら・・」

 汐が気まずさを感じて言いかけたとき、少女が喉を詰まらせてしまった。亮平が慌ててコップに水を入れて、少女がそれを受け取って飲み干す。

「もう、気をつけなくちゃダメだって・・」

 亮平が肩を落とし、少女が苦笑いを浮かべる。

「そういえばあなた、自分の名前も分からないみたいだけど・・・」

 汐が唐突に訊ねると、少女が表情を曇らせて頷く。

「とりあえず名前を決めておかないとね。いつまでも“あなた”じゃ、お互い腑に落ちないし・・・うーん・・渚(なぎさ)っていうのはどうかな?」

「渚、ですか・・・?」

 汐が提案した名前に、少女が戸惑いを浮かべる。

「あたしが汐だから、それに近いもので渚・・・おかしかったかな・・・?」

「いいえ・・そんなことはないです・・・渚・・・私は渚・・・」

 言いかける汐に、少女が頬を赤らめて微笑む。すると汐が少女に手を差し伸べてきた。

「これからもよろしくね、渚ちゃん♪」

「はい・・・えっと・・」

「あたしは汐。亮平の姉の東汐。よろしくね♪」

 笑顔を見せる汐。少女はその手を取って握手を交わした。今生まれた絆を、亮平も喜んで祝福した。

 これが少女、渚との出会いだった。

 

 渚の力と亮平との介入で、撤退を余儀なくされた男。男は苛立ちを抱えたまま、裏路地を歩いていた。

「あの娘・・このままでは済まさないぞぉ〜・・」

 男が渚を仕留められなかったことに我慢がならなかった。しばらく歩いたところで、男の前に数人の不良が立ちはだかってきた。

「おい、兄ちゃん・・ここはオレらの縄張りなんだよ・・」

「通るんだったら通行料払いな・・」

 不良たちが男に向けて鋭い視線を向ける。男は怯えてそわそわする。

「おい、早く出せって。それとも痛い目にあいてぇのか!?

 不良が苛立ち、暴力を振るおうとしてくる。それを見た男が、逆に苛立ちをあらわにする。

「僕は今機嫌が悪いんだよぅ〜・・邪魔するなよぅ〜・・・」

「コイツ!生意気な口叩きやがって!」

「そんな態度が命取りになることを、十分に分からせてやる!」

 男の態度に腹を立てた不良たちが拳を唸らせる。だが次の瞬間、男がムカデの怪物へと変身する。

「な、何だ!?

「バケモン!?

 不良たちが怪物となった男に驚愕する。彼らは血相を変えて、一目散に逃げ出す。

「こうなったらストレス発散だぞぉ〜!」

 いきり立った怪物が数本の手の爪から針を発射する。その針に体を貫かれた不良たちが、鮮血をまき散らして昏倒する。

 血まみれになった不良たちの体が、砂のように崩れて消失していく。男が怪物から人間の姿に戻り、安堵の吐息をつく。

「少しは気分がよくなったかなぁ〜・・それじゃそろそろ、あのお譲ちゃんのところに行こうかなぁ〜・・」

 男は不気味な笑みを浮かべると、再びゆっくりと歩き出していった。彼の標的は渚、ただ1人だった。

 

 記憶を失った少女、渚。一切の手がかりがつかず、亮平も汐も困り果てていた。

「どうしたものかなぁ・・せめて身寄りが分かればうまくいきそうだったんだけど・・・」

「それよりも何か着るものを出さないと・・いつまでも同じ服だとかわいそうだって・・」

 試行錯誤をする2人。その様子に渚は当惑するばかりだった。

「あー、もう分かんなーい!こうなったら破れかぶれよ!」

 突然絶叫を上げた汐が、渚に詰め寄ってきた。

「渚ちゃん、よかったらここに住んでもいいよ!」

「え、ええっ!?

 汐の突拍子のない発言に、渚も亮平も声を荒げるしかなかった。

「待ってって、姉さん!いきなりそんなこと言われたって、渚ちゃんが困るって!」

「何言ってるのよ。今だって十分に困ってるじゃない。そうでしょ、渚ちゃん?」

 声を荒げる亮平に言い返すと、汐が渚に話を振る。どう答えたらいいのか分からず、渚が口ごもる。

「ほらぁ。どう答えたらいいのか分かんなくて困ってるじゃないか・・」

「亮平は黙ってて。あたしは渚ちゃんと話をしているんだから。」

「これは渚ちゃんと姉さんだけの問題じゃない!僕にも十分関わることなんだから!」

「ほう?例えば?もしかして亮平、何かやましいことでも考えてるのかなぁ?」

 屈託のないやり取りをする亮平と汐。それを見て渚が思わず笑みをこぼした。

「ゴメンなさい・・でも楽しそうですね、亮平さん、汐さん・・」

「えっ?・・ちょっと渚ちゃん・・・」

 渚の反応に亮平も汐も唖然となる。

「お言葉に甘えてもいいですか?・・亮平さんと汐さんとなら、私のことが分かるかもしれませんし・・」

「・・・ほ、ほら。渚ちゃんもこう言ってくれてることだしさ。アハハハ・・・」

 渚の答えを聞いて、汐が照れ笑いを浮かべながら納得する。

「もうしょうがないんだから・・好きにしてちょうだい・・」

 何を言ってもムダだと諦めて、亮平は肩を落としていた。こうして渚の東家での生活が始まるのだった。

 

 その後、汐が渚を散歩と称して街の紹介をしに連れ出してしまったため、亮平はツーリングに出る羽目になった。

「もう、姉さんったら・・女の子だからって強気になっちゃってるんだから・・」

 ため息をつくばかりの亮平。彼は渚のことを思い返していた。

(それにしても、渚ちゃん、かわいいなぁ・・あんな子とデートとかしてみるのもいいかなぁ・・・)

 いつしか渚との時間を過ごす妄想を思い描いていく亮平。

(そういえば姉さんに言われてた通り、僕、彼女とかデートとか考えてなかったなぁ・・・)

 いろいろと妄想を膨らませていくと、亮平はいつしかにやけていた。

(これからは将来のことも考えないといけないかな・・・)

 亮平はいつしか真面目に考えるようになっていた。今後渚とどういう風に付き合っていけばいいのかも含めて。

(さて、そろそろ渚ちゃんと合流するかな・・)

 亮平は気持ちを切り替えると、街に向かってバイクを走らせた。

 

 同じ頃、渚は汐に連れられて街に繰り出していた。記憶を失っている渚にとって、何もかもが新鮮に感じられた。

「これが、ケーキですか・・・?」

「うん♪女の子にとってなくてはならない食べ物よ。どんなに食べても食べられる。まさに別腹♪」

 戸惑いを浮かべる渚に、汐が上機嫌に答える。

「わ、分かりました・・食べてみます・・」

 渚は緊張を膨らませながら、ショートケーキを口に運ぶ。すると彼女は、口の中に甘味が広がっていくのを感じた。

「甘い・・それで、とても美味しいです・・・」

「アハハ・・ケーキでそこまで感動するなんて・・・」

 笑顔を見せる渚に、汐が苦笑いを浮かべる。

「これから時間があるときにでも食べに行こうね・・あ、お金に余裕があるときでね・・」

 汐が渚に言いかけると、自分もとケーキを口に運んだ。渚は笑顔のまま頷き、続けてケーキを頬張った。

 そこへ1人の男が2人に近寄ってきた。

「この前の借りを返しに来た・・」

 不気味な声をかける男に、汐が眉をひそめる。だが渚は男の顔を見て、驚愕を覚えた。

 それは昨晩自分の前に現れた男だった。自分が怪物に変貌した記憶はなかったが、男に襲われたことは覚えていた。

「あなたは・・・!?

「覚悟はできてるよねぇ、お譲ちゃん・・・」

 声を震わせる渚に、男が眼を見開く。

「逃げて!逃げてください!」

「あっ!ちょっとお金まだ払ってないって!」

 渚は汐の腕をつかむと、慌ててこの場から逃げ出した。

「逃がさないよ、お譲ちゃん・・・!」

 いきり立った男がムカデの怪物へと変身する。

「怪物!?

 周囲にいた人々が、怪物の姿に恐怖し、悲鳴を上げる。その声に気を留めず、怪物が渚と汐を追う。

「渚ちゃん、いったいどうしたの!?

 逃走する中、汐が渚に問いかける。

「あの人、昨日私に襲ってきた人なんです・・!」

 渚の答えを聞いて当惑を覚える汐。そこへ怪物が2人に迫ってきていた。

「逃がさないぞぉ〜・・2人まとめてズタズタにしてやるぞぉ〜・・」

「もう!何なのよ、あのバケモノはーーー!!!

 追いかけてくる怪物に、汐が悲鳴を上げる。標的にされているのが自分だと感じた渚が、ある決断をする。

「汐さん、別々に逃げましょう!」

「えっ!?渚ちゃん!?

 渚が口にした言葉に、汐が驚きの声を上げる。

「多分あの怪物が狙っているのは私です!私が注意を引き付けますから、汐さんはその間に逃げてください!」

「バカなこと言わないで!渚ちゃんを置いて、あたしだけ1人で逃げられるわけないでしょ!」

 渚が呼びかけるが、汐はそれを拒む。

「誰かを犠牲にして自分だけ助かったって、全然うれしくないよ!あたしは渚ちゃんと一緒に逃げ切ってみせる!」

「汐さん・・・」

 必死に呼びかける汐に、渚が戸惑いを覚える。そのとき、追いかけてきた怪物が2人の前に回りこんできた。

「もう逃がさないよぅ。大人しくしたほうが、余計な痛みを感じなくて済むよぅ。」

「冗談じゃないって!アンタなんかと付き合ってたら、命がいくつあったって足りないわよ!」

 不気味に言いかける男に、汐が声を荒げる。

「それじゃ痛い思いをしたいってことでいいかなぁ?」

 怪物が汐と渚に向かって飛びかかる。逃げようとする2人だが、怪物の突進に押されて突き飛ばされる。

 痛みを覚えながら起き上がる渚。だが汐は気絶してしまい、動かない。

「汐さん、しっかりしてください!」

 渚が呼びかけるが、汐は眼を覚まさない。そこへ怪物が立ちはだかり、不気味な笑みを浮かべてきた。

「さて、これからがショータイムだ。じっくりと遊んであげるから・・」

 怪物が喜びをあらわにして、渚に迫る。

 そのとき、バイクを走らせる亮平が飛び込んできた。その突進を受けて、怪物が背後から突き飛ばされて、渚と汐の上を飛び越えて横転する。

「亮平さん!?

「渚ちゃん、大丈夫!?姉さんは!?

 声を上げる渚に亮平が呼びかける。

「私は大丈夫です!ですが汐さんが眼を覚まさないんです・・・!」

「姉さんが・・・!?

 渚の言葉を聞いた亮平がバイクから降りて、汐を支える。

「姉さん、しっかりするんだ!姉さん!」

 亮平が呼びかけても、汐は眼を覚ます気配がない。そのとき、起き上がった怪物が彼らの前に立ちはだかった。

「お前、よくもやってくれたなぁ・・この前、お譲ちゃんと僕のところに来たヤツだなぁ。」

 苛立ちを浮かべる怪物に、亮平が緊迫を覚える。今の自分に、怪物を何とかできる力はない。

「こうなったら・・こっちに来い!僕のところに来い!」

 亮平はバイクに乗ると、怪物に呼びかけつつ走り出していく。彼に注意を向けた怪物がそれを追いかけていく。

 自分を囮にして渚と汐を守る。それが自分にできる精一杯のこと。亮平はそう考えていた。

 だが追いついてきた怪物の爪に叩かれて、亮平がバイクから突き落とされる。横転した彼が顔を上げると、不気味な笑みを浮かべる怪物が立ちはだかった。

「今度こそおしまいだ。ここまでやらかしたお礼をしないとねぇ。お前から先に始末して、その後あの2人と遊んでやるから・・」

 哄笑を上げる怪物に、亮平が危機を募らせる。

(ここまでが僕の限界なのか・・こんなところでお陀仏になっちゃうのか・・・!?

 押し寄せる非情の現実に問い詰める亮平。これを認めたくなかった彼の中に、怒りと激情が込み上げてきた。

「こんなの絶対に認めるもんか・・・!」

 声を振り絞る亮平の頬に、異様な紋様が浮かび上がってきた。それは怪物へと変わるときに浮かび上がるものだった。

「僕はまだ死にたくないんだよ!」

 叫びを上げた亮平が異形の姿へと変貌を遂げる。それは青い体色と白い羽が特徴の姿だった。

「お、お前も僕と同じ・・・!?

 声を荒げる怪物の前で、亮平は自分の両手を見つめていた。

「どういうことなんだ・・・僕まで、こんな姿に・・・!?

 変化した自分の驚きを隠せないでいる亮平。だが彼は気持ちを切り替えて、眼前の怪物に眼を向ける。

「もしかしたら、やれるかもしれないぞ・・・!」

 思い立った亮平が、怪物に向かって歩き出す。危機感を抱えながら、怪物が亮平を迎え撃つ。

 振りかざしてきた数本の爪が亮平の体に突き刺さる。だが亮平はその痛みをさほど感じてはいなかった。

 亮平は怪物の爪の2本をつかむと、怪物を大きく放り投げた。勢いよく投げつけられ、怪物が苦痛を覚える。

「ぐぅっ!こんなことが!」

 いきり立った怪物が再び飛びかかる。亮平は拳を突き出すと、怪物は大きく跳ね飛ばされた。

「すごい・・・これが、僕の力・・・」

 次々と湧き上がってくる自分の驚異の力に、亮平は驚きを隠せなかった。

 亮平もまた、運命の中へと身を投じることとなった。

 

 

次回

第3話「力の変革」

 

「あんな怪物が出てくるなんて聞いてないって!」

「まさか僕まで、あんな姿になるなんて・・・」

「真っ白な蝋人形にしてあげるよ・・」

「か、体が、動かない・・・!」

「僕の力は、まだまだ隠されていたってことか・・・」

 

 

作品集

 

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