ガルヴォルスForce 第1話「少女との出会い」

 

 

こんなこと、誰が望んでいたのだろう・・・

 

最初は、まるで夢のような出会いと思った。

まるで恋愛ゲームの主人公になったような気分だった。

 

だけど、この出会いから幸せと一緒に、悲劇も始まっていたのかもしれない・・・

 

 

 広大な森林。その森の中を、1人の少女が走り抜けていた。

 ボロボロになっている白服を着ており、足は何も履いていない。足が傷つくのもかまわずに、少女はひたすら森の道を駆け抜けていた。

 少女は追われていた。自分を狙う敵が彼女に敵意を向けてきていた。

 少女はひたすら逃げ続けた。捕まれば命を奪われることは火を見るより明らかだったからだ。

 しばらく進めば森を抜けられるはずだった。だが森を抜けた先は崖だった。

 少女は勢いを止めることができず、そのまま崖下に落ちていった。普通だったら確実に死んでいるところである。

 だがその崖下に少女の姿はなかった。死んだなら死体が勝手に消えるはずがない。まだ死んだという確証は出なかった。

 少女を敵視していた者たちは、敵意を消さないまま徘徊することとなった。

 これが、運命の物語の始まりであった。

 

 都会から少し離れた住宅街の中にある東家。そこでは2人の姉弟が暮らしていた。

 (ひがし)亮平(りょうへい)。大学1年生。才色兼備と評されながら、のん気な性格をしている。自らやる気を見せることがほとんどなく、平凡な生活をしている。

 (ひがし)(うしお)。亮平の姉で、彼とは年齢がひとつ上。しかし大学受験に失敗したために1年浪人となり、亮平とともに大学入学を果たすこととなった。

 天真爛漫な性格でリーダーシップのある汐だが、成績はあまりよくなく、弟である亮平に教わることが多々あった。

「あう〜・・この講義、全然ついていけてないよ〜・・」

 復習をするも頭に入らず、汐がため息をつく。

「姉さんはちゃんと予習、復習をしないから頭抱えることになるんだよ。僕みたいに最低限のことをしていれば困ることもなかった。大学受験に失敗して1浪することもなかったんだよ・・」

「何でいつもやる気のないアンタがあたしより勉強ができるのよー・・」

 淡々と言いかける亮平に、汐が愚痴をこぼす。

「それよりも亮平、いい加減にガールフレンドを作ったら?この年になって1人もいないのはどうかと思うわよ。」

「別にいいよ、そういうのは。僕はあまり興味がないんだ・・」

「もう、それだから亮平は・・いつまでもそんなんだと、一生独身になっちゃうよ。」

「僕の心配をするくらいなら、自分の心配をしたら、姉さん?勉強もだけど、時雨さんともちゃんとやらないと・・」

 亮平の指摘に汐が頬を赤らめる。

 西沢(にしざわ)時雨(しぐれ)。汐のボーイフレンド。バイト先であるレストランで2人は出会ったのである。

「アンタにあたしと時雨の心配ができる義理なんてないじゃないのよ。」

「だって、姉さんが失敗すると、僕まで恥ずかしい思いをするんだから・・」

「生意気なこと言うんじゃないの!」

 肩を落として言いかける亮平に、汐が不満を爆発させる。

「はいはい。それじゃ僕は勉強が終わったので、気分転換にツーリングにでも出てくるかな・・」

「あんまりスピード出し過ぎないでよ。それと駐車違反にも気をつけてね。」

「僕がそんな物騒なことをすると思ってるの?」

 汐の注意を軽くいなし、亮平は出かけていった。

 

 亮平はこれまでに多くの資格を取ってきた。自動車、バイクの免許もそれに含まれている。

 学校での成績も良好。どんな職にも就けるとさえ言われた。だが亮平は自分の将来を見出せないでいた。

 しかし亮平は将来に対して焦りを感じていなかった。のん気な性格から、気楽にやっていこうという気持ちが強いのである。

(さぁて、これからどうしていったらもんかな・・)

 今日ものん気に時間を過ごそうと考えていた亮平だった。

(こういうときは、恋愛ゲームだったらかわいい美少女が現れて、恋物語でも始まりそうな感じだけどな・・現実はゲームやドラマほど、都合よくできちゃいないんだけど・・)

 屈託のないことを考えて、亮平はツーリングを続けた。

 そのとき、突然道の横から何かが飛び出してきて、亮平はたまらず急ブレーキをかけた。

「うわっ!」

 ブレーキの圧力に押されて、亮平がたまらずうめく。彼は恐る恐る前方に視線を戻した。

 彼の眼の前に1人の少女が立っていた。長い黒髪をなびかせていたその少女は、亮平から少し離れたところに立っており、ぶつかった様子はなかった。

「大丈夫、君?・・どこか、当たってない・・・!?

 亮平が声をかけるが、少女は何も答えない。彼に一瞬眼を向けた途端、彼女は突然倒れ込んだ。

「あっ!君!」

 亮平が慌ててバイクから降りて、倒れた少女に駆け寄る。

「君、大丈夫!?しっかりして!」

 亮平が呼びかけると、少女は一瞬微笑むと意識を失った。

「いけない・・早く病院に連れて行かないと・・」

 慌てた亮平は、病院に向かって駆け出していった。

 

 同じ頃、汐はアルバイトのためにレストランに来ていた。スマイルを武器に接客をこなしていくが、時折失敗して涙目になる。

「ホラホラ。僕がやっておくから、汐ちゃんは先に戻ってて。」

 そこへ声をかけてきたのが汐のボーイフレンド、時雨だった。彼は彼女が割ってしまったお皿を代わりに片付けようとしていた。

「あっ!いいよ、時雨!あたしがやるから!」

「いいから、いいから。それよりもお客様を待たせたらダメだよ。」

 慌てる汐に時雨が呼びかける。彼の言葉を受けて、彼女は渋々引っ込むことにした。

「またミスっちゃったね、汐・・」

 他のアルバイト仲間に励まされるが、汐は落ち込むばかりだった。

「ほら、まだ仕事はあるんだからね。接客はスマイルが大事だよ♪」

「そ、そうだね・・スマイル、スマイル。アハハハ・・・」

 作り笑顔を見せて言いかける汐。彼女はその笑顔を見せたまま、接客に向かっていった。

 汐はウェイトレスの仕事は順調にこなしていた。失敗するときはごく稀なことであり、それも時雨と関係したことを考えていたときに限られる。

「いらっしゃいませー♪2名様ですかー?」

 気持ちを切り替えて、汐はこの日も接客に励むのだった。

 

 亮平によって病院に運ばれた少女は、病室で寝かされることになった。少女は未だに意識を取り戻す様子はなかった。

 亮平はその後にやってきた警察に事情を話した。警察は聴取を終えると、病院から去っていった。

 そして亮平は医者から、少女の容態について訊ねた。

「あの、彼女の具合はどうなんですか・・・?」

「心配要りません。身体に異常はありません。脳も正常です。ただ疲労が蓄積されていた様子で、休養が必要です・・」

「そうですか・・よろしくお願いします・・」

「何かありましたら、そちらのほうに連絡しますので・・・では。」

 医者との会話を終えて、亮平は病院を出た。自分のバイクに来たところで、彼は携帯電話を取り出してあえて連絡をやめた。

(姉さんに言うのは今はやめておこう・・姉さんのことだから、きっといろいろと言ってくるだろうから・・)

 汐への連絡を躊躇して、亮平はバイクを走らせた。

 

 少女が療養している病室。その病室は個室になっていて、医師やナースが交代で様子を見ていた。

 そして何度目かの交代が行われようとしていたときだった。

「患者の容態は?」

「以前変わりありません。意識は戻っていません。」

 医者が訊ねると、ナースが報告をする。医者は少女の様子を伺うため、病室のドアを開けた。

 だがそこには少女の姿がなかった。

「いない!?

「そんな!?私が見たときには確かに・・病室とその前からは離れていません!出て行ったはずは・・!」

 声を荒げる医者とナース。2人の眼に、開けられた窓と風になびくカーテンが映った。

「まさか、外に!?・・いや、そんなはずはない!ここは3階だぞ!」

 医者は窓をのぞき込み、下を見据える。しかし少女のいる気配はなかった。

「いったいどうなっているんだ・・・!?

 深刻さを隠し切れなくなる医者。手の空いているナースたちが、少女の行方を求めて院内の捜索を開始した。

 

 病院を抜け出した少女は、夜の道をさまよっていた。彼女は夢遊病者のように力なく歩いていた。

 どこに向かっているのか、何をしようとしているのか。彼女自身にも分からなかった。

「おいおい、お譲ちゃん。こんな時間にこんなところにいると危ないよぅ〜・・」

 そこへ声をかけられて、少女は足を止めて振り返る。すると1人の男が不気味な笑みを浮かべてきていた。

「あなたは誰?・・・私に何か・・・?」

 少女が弱々しく声をかける。しかし男は笑みを浮かべたままだった。

「別に知らなくていいよぅ〜・・お譲ちゃんは僕のおもちゃになるんだからぁ〜・・」

 言いかける男の頬に、突如異様な紋様が浮かび上がる。

「な、何・・・!?

 その変化に少女が恐怖を募らせていく。その男の姿が、ムカデの姿に似た怪物へと変貌する。

「か、怪物!?これって・・!?

「さ〜て、お譲ちゃんは僕をどういう感じで楽しませてくれるのかなぁ〜・・」

 後ずさりする少女に、怪物が不気味な笑みを浮かべる。体から生えている数分の爪がカタカタと動く。

「イヤ、来ないで・・近づかないで・・・」

 体を震わせる少女に、怪物がゆっくりと近づいていく。

「やめて!来ないで!」

 悲鳴を上げたときだった。少女から突如、閃光がほとばしった。

「何っ!?

 驚きの声を上げる怪物が、閃光の衝撃で吹き飛ばされる。倒れるもすぐに立ち上がる怪物が、消失していく光の中から現れる人影を目撃する。

 その姿は少女ではなかった。怪物と同じく異質の姿だった。

「な、何だぁ!?お前も僕と同じだったのかぁ!?

 怪物が声を荒げる。少女は無表情で、怪物を見つめていた。

「すぐに私の前から去れ。刃向かうならこの場で葬る・・」

 少女が怪物に向けて冷徹に告げる。その異様な狂気に、怪物が逆に畏怖を覚えていた。

 

 少女が突如発した閃光に、亮平も気付いていた。彼は家路から外れて、光の発したほうにバイクを走らせた。

 亮平はその地点に到着すると、その先の異様な光景に息を呑んだ。2体の怪物が対峙していた。

「な、何なんだ、こりゃ!?・・・バケモノ・・・!?

 亮平が声を荒げると、怪物たちが彼に振り返る。

 そのとき、怪物の1人が動揺を覚え、それを目の当たりにしたもう1人の怪物が後退し、去っていった。

 残った怪物が亮平を見つめたまま、困惑の色を浮かべている。やがて怪物はふらつき、たっているのがままならないほどになっていった。

 倒れていく怪物。その姿が少女の姿へと戻っていく。

「君は・・・!?

 亮平は眼を疑った。怪物が、先ほど自分が保護した少女の姿となったのである。

 亮平が恐る恐る少女に近づいていく。少女は倒れたまま、動きを見せなくなった。

「君・・・しっかりするんだ、君!」

 亮平が呼びかけると、少女はゆっくりと眼を開けてきた。

「あ・・あの・・私、何を・・・?」

「どうしたんだ・・ここで何が・・・!?

 弱々しく声をもらす少女に、亮平が問いかける。

「・・・分からない・・・私は誰?・・何がどうなってるの・・・?」

「・・覚えてないの?・・今、自分が何をしてたのか・・・?」

 震える少女に、亮平が困惑を覚える。

「分からない・・・私は誰・・私は何なの・・・?」

 さらに疑問を投げかけてくる少女。彼女はここで起こったことばかりか、自分が誰で、今まで何をしてきたのかさえも記憶になかった。

「とにかくここから離れよう・・休まないと・・・」

 亮平は言いかけると、少女を連れてこの場を離れた。彼女が彼のバイクの後ろに乗る。

「大丈夫?しっかり捕まってるんだよ・・」

 亮平の呼びかけに少女が頷く。2人を乗せたバイクは、東家に向かって走り出していった。

 

 この日のバイトが終わり、汐と時雨は岐路に着いていた。

「ゴメンね、時雨・・あたし、またドジっちゃった・・」

 時雨に謝る汐が苦笑いを浮かべる。だが時雨は気にしてはいなかった。

「大丈夫だよ。僕がいるうちは、僕がサポートするから・・でも僕がいないときは大丈夫かな・・」

「もう・・あたしのことを心配しているのか不安になってるのか、どっちなのよ・・」

 時雨の言葉に汐が不満の面持ちを浮かべる。

「ゴメン、ゴメン・・どんなときだって、僕は君のそばにいるから・・」

「それじゃ、今回はその言葉で許してあげようかな・・」

 謝る時雨に汐が笑顔を取り戻す。

「それじゃ、あたしはそろそろ曲がらないと・・またね、時雨・・」

「うん・・また明日、汐ちゃん・・」

 汐と時雨が十字路で別れる。次の日も楽しい2人の時間を過ごせると信じて。

 自分の家へとたどり着いた汐。玄関の前で1度足を止めて、彼女は時間を確かめる。

「もうこんな時間か・・亮平はもう帰ってきてるね・・」

 汐は苦笑いを浮かべると、家のドアを開けた。

 だが玄関には亮平の他に、見知らぬ人の靴が置かれていた。ボロボロになっているが女性の靴である。

「あれ?・・もしかして亮平、彼女がいるんじゃ・・・」

 疑問を浮かべるも、すぐににやけ顔を浮かべる汐。からかってやろうと考えた彼女は、リビングに赴いた。

「ちょっと、亮平ったらー♪彼女がいるならいるって最初から言ってくれればいいのにー♪」

 上機嫌に声をかける汐。だがリビングにいた亮平は、ソファーに横たわっている少女をじっと見つめていた。少女は疲れ切って眠りについていた。

「ちょっと・・どうしたのよ、その子・・・!?

「信じられないけど・・正直僕も信じられないけど・・・この子、怪物に変身してたんだ・・・」

 息を呑む汐に、亮平が深刻な面持ちで説明する。当然汐には鵜呑みにすることができなかった。

「いくら彼女のことを秘密にしたいからって、そんな丸分かりなウソを・・」

「だから言ったじゃないか・・信じられないけどって・・」

 苦笑を浮かべる汐に、亮平がさらに言いかける。汐がたまりかねて笑みを消す。

「いい加減にしなさいよ、亮平!いくらなんでもこれは悪い冗談だよ!」

「ホントだって!夢でも幻でもない!確かに怪物が、僕の眼の前でこの子に・・・」

 叱りつけてくる汐に、亮平もたまらず声を荒げる。その深刻さを痛感して、汐は戸惑いを浮かべる。

「とにかく、この子が起きてから話を聞くことにしよう・・」

「それが・・・」

 汐が言いかけるが、亮平は再び困惑を浮かべる。

「彼女、記憶がないみたいなんだ・・・」

「えっ・・・?」

 亮平が告げた言葉に、汐が再び困惑する。

 異形の怪物への変身能力を持つ、記憶を失った少女。彼女の登場で、亮平たちの運命が大きく変わろうとしていた。

 

 

次回

第2話「目覚める力」

 

「渚、ですか・・・?」

「これからもよろしくね、渚ちゃん♪」

「この前の借りを返しに来た・・」

「逃げて!逃げてください!」

「これが、僕の力・・・」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system