ガルヴォルスFate 第24話「絶望」
ちはやの気配を察知した由記は、黎利の邸宅の前に来ていた。ちはやの力は依然として発動されていない。
「ここからちはやの力が・・ここにいるのは間違いなさそうだけど・・・」
由記がちはやと黎利に対して困惑を感じていた。
もしかしたら、黎利がちはやを連れ去ったのではないか。そんなことが脳裏によぎったが、由記はそれを認めたくなかった。
黎利は由記にとってもちはやにとっても信頼できる人である。ハレンチな行為はしてきても、自分のためだけに感情を見せる人ではない。彼女はそう信じていた。
不安を振り払い、信頼を胸に秘めて、由記は正門の扉を開けて敷地内に踏み込んだ。
玄関のドアに手をかける由記だが、鍵がかかっていないことに気付き、眉をひそめる。少し力を入れて押してみると、ドアは簡単に開いてしまった。
そのことに疑問を感じながらも、由記は邸宅へと足を踏み入れる。
「黎利先輩・・ちはや・・・?」
由記は呼びかけながら廊下を進んでいくが、黎利やちはやはおろか、人の気配がまるで感じられなかった。
(おかしい・・これほどの屋敷に、人1人いないなんて・・・)
次第に不審さを募らせていく由記。そして彼女は地下へ通じる階段を見つける。
(感じる・・この下に、ちはやがいる・・・でも、ちはや以外に、強い力を感じる・・・)
期待と緊迫を感じながら、由記は階段を下りていく。
「ちはや、黎利先輩、どこですか?」
由記が呼びかけてみるが、返ってくる声はない。やがて扉が眼の前に立ちはだかり、彼女は足を止める。
(ここからだ・・ちはやと、もうひとつの強い力・・でもやっぱりおかしい。フェイトは怪物の中でも特殊で強い力を持ってるって、フォースの人たちが言ってた。そのフェイトは私とちはやの2人だけ。私たち以上の力を持ってる怪物がいるなんて・・・)
さらなる不安を感じながら、由記は扉に手を伸ばす。だが扉を押そうとしたところで彼女は手を止める。
(黎利先輩・・!?)
由記は確信していた。この扉の先に、ちはやだけでなく、黎利がいることを。扉を開けないでいると、扉が勝手に開きだした。
その扉の先、部屋の中に黎利の姿があった。そして妖しく微笑んでいる彼女の横には、
「ちはや・・・!?」
由記はちはやの姿を見て驚愕していた。ちはやの衣服は全て剥がされ、さらけ出された体は首から上を除いて白く冷たい石になっていた。
「待っていたわ、由記。あなたがここに来るのを、ずっと待っていたわ・・」
「黎利先輩・・どうして・・・!?」
語りかけてくる黎利に、由記が声を振り絞って訊ねる。
「やっぱりあなたも驚いたみたいね。そうよ。私もあなたやちはやと同じ怪物の1人。まぁ、フェイトとは違うんだけどね。」
「怪物!?・・・黎利先輩が・・・そんな!」
黎利の言葉に由記が愕然となる。すると呆然としていたちはやが我に返り、由記に眼を向ける。
「ゆ・・由記・・・」
「ちはや・・・!?」
弱々しいちはやの声を聞いて、由記が顔を上げる。
「ちはや・・大丈夫なの、ちはや!?」
「ゴメンね、由記・・・あたし、黎利先輩にムチャクチャにされちゃった・・・」
たまらず呼びかける由記に、ちはやが物悲しい笑みを浮かべる。その言葉に由記はさらなる驚愕を覚える。
「もしかして黎利先輩、ちはやを・・・!?」
「由記、あなたにも私の気持ちを教えておくわ。あなたとちはやを、私はほしくてたまらなかったのよ・・・」
本心を、自らの欲情を打ち明けた黎利に対し、由記は憤りを覚える。
「あなたたちと学校での生活を送っているうちに、私はあなたたちを自分のものにしたいと思い始めていた。いけない気持ちだと分かっていて、あなたたちの気持ちを踏みにじることになるとも分かっていたけど、私はこの気持ちを止められなかった・・・」
黎利は物悲しい笑みを浮かべると、部屋の片隅に並んでいる裸の女性の石像たちに近寄り、その1人の胸を優しく撫でる。
「その気持ちを心の片隅にしまっておこうとしたけど、その気持ちがどんどん膨らんで、自分でも止められなくなってしまった。周りが、世界がどうなっても構わない。そう思えるくらいに・・・」
「先輩、何を言って・・・!?」
「あなたたちを手に入れたい気持ちと、あなたたちを傷つけたくない気持ちが、私の中で葛藤していた・・だから私は、他のかわいい子をきれいなオブジェに変えて、それで心を埋め合わせようとしたのよ・・」
女性の石の体を抱擁して、黎利が由記とちはやに語りかける。
「でも私の心は全然埋まらなかった。最後まで強気でい続けた天音でさえ・・」
「天音先輩まで・・・黎利先輩・・・!」
さらなる憤りを覚える由記。黎利が女性から体を離し、再びちはやに近づいた。
「由記とちはやに対しては、人間として接していきたかった。でも私のそばから離れていってしまうくらいなら・・・」
語り続ける黎利から笑みが消える。
「ちはやは石化をかけてしまったけど、由記にはそんなことしないわ・・ちはやから得た力で、私はあなたを奪ってみせる。」
自分の欲望を告げた黎利の髪が揺らめく。その動きを目の当たりにして、由記も動揺を振り切る。
「黎利先輩の気持ち、正直うれしかったです・・でもあなたは、私に対してやってはいけない過ちを犯した・・・」
低く告げる由記の頬に紋様が浮かび上がる。
「私からちはやを奪ったことよ・・・!」
言い放った由記の姿がフェイトへと変わる。その直後、黎利が再び妖しい笑みを浮かべる。
「あなたが怪物でも、フェイトであっても、世界に存在してはいけないものでも構わない。私は由記がほしい・・由記が!」
感情をあらわにした黎利が、由記に向けて髪を伸ばす。由記はその髪をかいくぐり、黎利の横をすり抜けてちはやの眼前で立ち止まる。
「ちはや・・・」
沈痛さを込めた声を口にして、由記はフェイトから人間の姿に戻る。ちはやを見つめる彼女の眼から涙があふれてきた。
「ゴメンね、ちはや・・私、あなたの気持ちを、もっと早く気付いてあげればよかった・・・」
「由記・・・」
悲しみを見せる由記に、ちはやが声を振り絞る。
「もっとあなたの気持ちを受け入れていれば、こんなことにならなかったのかもしれないわね・・・」
由記がちはやの石の体を抱きしめて、唇を重ねる。柔らかな感触が2人の口元を伝わっていく。
(ちはや、あなたは必ず助けてみせるから・・たとえこの世界が滅びても、黎利先輩を手にかけることになっても・・・)
ピキッ ピキキッ
想いを伝える由記の眼前で、ちはやにかけられた石化が進行を再開する。
(由記・・あたしこそゴメンね・・・あと・・ありがとう・・・)
フッ
由記に対する感謝を秘めて涙するちはやの瞳が石に変わった。黎利の力を受けて、彼女は完全な石像と化した。
悲痛さを噛み締めながら、由記はちはやから唇を、体を離した。
「ちはや、少しだけ待ってて・・あなたを必ず、元に戻してみせるから・・・」
ちはやに優しく語りかけてから、由記は真剣な面持ちになり、妖しく微笑んでいる黎利に振り返る。
「お願いです、黎利先輩・・・ちはやを元に戻してください・・・」
「それはできないわ。私はちはやをほしいと思い、手に入れた。ここまできて解放するつもりはないわ。」
「そんなことは言わせません・・・ちはやを・・ちはやを、返して!」
由記が憤慨を放ち、フェイトへと変身する。具現化した剣を手にして、その切っ先を黎利に向ける。
「もしも元に戻さないというなら、あなたの命を奪ってでも・・・!」
「由記・・・」
「それほど私は、ちはやがほしい・・ちはやを奪い返す!」
いきり立った由記が先に飛び出した。
「あなたもけっこう意固地なところがあるのね。私も分かっていたはずなのに・・・」
微笑む黎利が髪を伸ばし、由記を狙う。髪の襲撃をかいくぐり、由記は黎利を見据える。
(先輩はちはやのフェイトとしての力を取り込んでいる。固めようとしても効果はない・・だから!)
由記は剣を握り締めて、黎利めがけて一直線に飛びかかる。襲い掛かる髪の包囲網を抜けて、由記は剣を突き立てる。
黎利は身を翻してこの一閃をかわす。由記が突き出した時点から、剣を横薙ぎにして黎利に追撃を繰り出す。
その一閃も、黎利は髪を盾にして受け止める。彼女の髪は力を帯びて強度を増し、由記の剣を受け切った。
「そんな・・!?」
攻撃を受け止められたことに、由記が驚愕を見せる。
「私の力を髪に与えている。その強度はワイヤー以上よ。」
一閃を受け切った髪が剣の刀身を絡め取る。由記はとっさに剣を離して、さらに黎利に迫ろうとする。
「焦りを見せた時点で、あなたの負けよ・・」
黎利が不敵な笑みを浮かべた瞬間、髪が由記の両手両足を縛りつけた。
「ぐっ!」
由記がたまらずうめき声を上げる。手足を拘束された彼女を見て、黎利が妖しく微笑む。
「捕まえた。これでもうあなたは逃げられないわ。」
「は、放しなさい・・・ちはやは誰にも渡さない・・・!」
由記が黎利の前で必死に抵抗を見せる。力を入れるあまり、髪が手足に食い込み、血があふれてくる。
「私はちはやと一緒にいたい・・生きて、ちはやとずっと一緒にいたい・・・!」
背中から白い翼を広げた由記の体が淡く光り、同時に彼女を縛っていた髪が断ち切れる。
「えっ・・・!?」
自分の髪を断ち切れたことに驚きを覚える黎利。肩で息をする由記の体には紅い血が飛び散っていた。
「私たちの未来は、私たちが決める・・誰にも私たちを支配させはしない・・・運命にも、あなたにも!」
由記が黎利に言い放ち、右手をゆっくりと掲げる。持てる力の全てを使って黎利を倒そうとしていた。
だが力を放とうとした瞬間、由記は眼を見開いた。
(ち、力が・・抜けていく・・・どうして・・・!?)
驚愕する由記の姿が人間に戻る。彼女は自分でも気付かないほどに、瞬間的に力を消費してしまっていたのだ。
力を使い果たし、由記はその場に座り込んでしまう。すぐに立ち上がろうとするが、思うように体が動かない。
「どうやらさっきので力を使いすぎたみたいね。ちはやの力をもらった私は、それだけ強くなってたってことね・・」
黎利が由記を見下ろして妖しく微笑む。何とか彼女に眼を向けようと由記だが、視線を向けることさえままならない。
「結局、あなたは私から逃げられない。たとえ世界が滅びる運命から逃げられたとしても・・・」
黎利は身をかがめて由記の頬に手を添える。悩ましい眼差しを向けてくる黎利から、由記は視線をそらすことができない。
「由記、あなたもちはやも私のもの・・ちはやはオブジェに変えてしまったけど、あなたはそうはさせない・・・」
黎利が由記を押し倒し、両腕を押さえる。その手を振り払おうとする由記だが、力が入らず振り払うことができない。
「あなたの心に触れて、あなたの気持ちを共感する。そうすることで、私はあなたを手に入れることができる・・・」
黎利は髪を伸ばし、改めて由記の手足を縛りつける。そして解放した手で黎利は由記の衣服を脱がす。
「私に見せて、由記・・あなたの気持ちを、全部・・・」
上着もスカートも脱がし、由記を下着姿にした黎利。由記の肌を見つめて、黎利は笑みを強める。
「久しぶりに見ることになるかな。あなたの肌を見るのは・・いつも胸を触ってたけど、こうした裸の付き合いは最近してなかったわね・・・」
黎利も自分の衣服を脱ぎ捨て、由記に裸身をさらけ出す。そして当惑している由記の肌に寄り添い、そのぬくもりを確かめる。
「あったかい・・なんてあったかいんだろう、由記・・・」
「れ、黎利、先輩・・・」
「今までいろんな子たちのあたたかさに触れてきたけど、やっぱりあなたが1番気持ちがよくなる・・・私の狙いに間違いはなかった・・・」
由記のぬくもりに快楽を覚えていく黎利。次第に感情が高まっていった黎利は、由記のブラジャーを外す。
身動きがとれず胸をさらけ出された由記が頬を赤らめる。彼女の動揺を見つめて黎利が笑みを強める。
「いい感じの胸・・いつも触ってみて分かってた。心地よくさせてくれるって・・・」
黎利が由記の胸の谷間に顔をうずめる。彼女の息遣いに、由記が強い衝動に駆られる。
「やめて・・私に、そんな・・・!」
「口では否定しても、体は正直ね。あなたは私に抱かれることを望んでいないわけじゃない・・」
「違う・・・私が望んでいるのはあなたじゃなく、ちはやよ・・・!」
「確かに本命はちはや・・でもちはやだけが全てというわけじゃない・・少なくとも、私はあなたを求めてるし、あなたも私を・・」
「違う!」
あくまで否定しようとする由記の胸を、黎利が手を当て撫で回していく。その感触に由記が眼を見開くあえぎ声を上げる。
「そうよ、由記。私を受け入れなさい・・あなたの体も心も、全て私だけのものなのよ・・・」
「いや・・そんな・・・!」
顔を離して微笑む黎利に声を荒げる由記。黎利はさらに由記の下着を脱がし、由記は一糸まとわぬ裸身となる。
黎利は由記の下腹部に手を伸ばし撫でていく。由記の秘所からあふれていた愛液が黎利の指差しにつく。
「これが、あなたが私を受け入れている・・受け入れようとしている何よりの証拠・・・」
黎利の口にする言葉に、由記は完全に困惑してしまい反論できなくなっていた。
「でも恥ずかしがることじゃないわ。あなたが私に正直でいてくれたことが、私は何よりうれしいの・・・」
黎利は優しく囁きかけると、由記の下腹部に顔を近づけ、秘所に舌を入れる。その瞬間、由記の感情が最高潮となる。
かつてない刺激にさいなまれてさらにあえぐ由記。眼を大きく見開き、声は言葉になっていなかった。
(イヤッ!・・私、ここまで攻められたくない!・・壊れちゃう・・私の心が・・気持ちが・・・!)
心の中で必死に訴えかける由記。それは黎利に対してだけではなく、彼女の眼に映っているちはやに対するものでもあった。
(ちはや・・ゴメン・・・私も黎利先輩に、ムチャクチャにされてしまったよ・・・)
石化して佇んでいるちはやを見つめて、由記は涙していた。黎利の抱擁で心が壊れ、彼女の瞳から生の輝きが消えた。
完全に絶望しきってしまっていた由記。顔を離し立ち上がった黎利が、生きる気力を失って動かなくなった由記を見つめる。
「由記、もうあなたは私のもの・・これからはずっと、私があなたのそばにいるから・・・」
黎利が由記の手足を縛っていた髪をほどく。
「あなたも心配することはないわ。ここにはあなたが欲しているちはやがいるから・・どうしてもっていうなら、いつでもそばにいってもいいよ・・・」
黎利は立ち上がり、かすかに見える天井の窓の先の空を見上げる。フェイトの力に導かれて、赤色巨星の接近の影響が肥大化していた。
「でも由記、ちはや、あなたたちは、私の手の中にいるのよ・・・」
次回
「ちはや、もうどうしていいか分からないよ・・・」
「こんなあたしを求めてくれて、あたし、とってもうれしかったよ・・」
「どうして、こんな・・・!?」
「私はどんなことになっても、ちはやをあなたから奪い返す・・・!」