ガルヴォルスFate 第21話「錯綜する運命」

 

 

 ちはやを追う由記の前に立ちはだかった千夏。運命に抗うことを心に決めた由記は、フェイトとなって千夏と戦うことを決める。

「分かり合うにしても、戦うにしても、私はちはやと会わなければならない・・・誰にも邪魔はさせない!」

「あくまであの子のそばに行きたいのね・・・いいわ。相手になってあげる・・・」

 千夏も笑みを消して戦うことを心に決める。怪物となり、由記に敵意を向ける。

「フェイトであるあなたに私が勝てないのはそれなりの覚悟があるわ。でもね、たとえ私に勝てても、あの子を止められない・・」

「私にも覚悟はある。それでも私はあの子を止める。いいえ、止めなくちゃいけないのよ・・・!」

 鋭く言いかける千夏に対して、由記は具現化した剣の切っ先を向ける。

「私はそう簡単には倒されたりしないわよ・・・美冬と萌の苦痛ぐらいは与えてやらないとね・・・!」

 千夏は体から電流を発して由記を狙う。電撃を受けたコンクリートの地面が金属へと変化していく。

 由記は飛翔して電撃をかわし、剣を振りかざしてかまいたちを繰り出す。千夏もこれをかわしてさらに電撃を放つ。

 飛び散る電流を回避して、反撃の瞬間をうかがう由記。千夏も由記の行動範囲を徐々に狭めていっていた。

 やがて由記の周囲を、金属へと変質させる電流が取り囲んでいた。

「これでもう袋のねずみよ。私が仕掛けてあげようか。それとも自分から網にかかる?」

 千夏が由記に向けて妖しい笑みを見せる。しかし由記の表情に迷いの色はない。

「逃げ道がないなら、まっすぐに突き進むだけ!」

 由記は背中の白い翼を広げて、力を解放する。力は閃光となって、取り囲んでいた電流をその効果をもたらすことなく吹き飛ばした。

「そんな・・!?」

 完膚なきまでに力をはね返された千夏が驚愕を覚える。由記は間髪置かずに千夏に向けて剣を投げつける。

 剣は千夏の胸を的確に捉え、貫いた。胸部から血飛沫が飛び散り、千夏は口から吐血してあえぐ。

 着地した由記がゆっくりと千夏に近づく。それを危惧した千夏は、刺さっている剣の柄に手をかけ、引き抜こうとする。だが力が弱っている彼女は、激痛が伴って剣を引き抜くことができない。

 すると千夏の眼前に来た由記が柄をつかみ、千夏から剣を引き抜いた。さらに血が噴き出し、千夏は脱力してその場に崩れ落ちる。

 人間の姿に戻った千夏を見下ろして、由記は沈痛さを覚える。そんな由記に向けて、千夏が力を振り絞って笑みを見せる。

「これで・・フォース全員がいなくなる・・・もうあなたたちフェイトを・・運命の破壊を止める人がいなくなる・・・」

 言いかける千夏に対し、由記はここでも迷いを見せない。

「私はそんな運命を信じません。私もちはやも、不条理な運命に抗ってみせます・・・!」

「運命に抗う、ねぇ・・あの子を止められるかどうか怪しいのに、そこまでやれるのかしらねぇ・・・」

 由記の決意を千夏は皮肉ってみせる。

「地獄で待っててあげるわよ・・・あなたとあの子、2人が仲良くやってくるのを祈りながらね・・・」

 言い放った千夏の体が固まり、砂になって崩壊する。事切れた彼女の亡骸が風に流れて消えていく。その最期を、人間の姿に戻った由記は歯がゆさを噛み締めながら見つめていた。

「やっぱり。ここにいたんだね、由記・・」

 そのとき、背後からかかった声に由記が眼を見開く。

「ずっと追いかけてきてたんだけど、足止めを受けている間に、ちはやのほうから来るなんて・・」

 少し戸惑いながら、由記は振り返らずにちはやに言葉を返す。背後でちはやが微笑みかけていると、由記はなんとなく理解していた。

 

 石化が進行していく少女が恥らう姿を目の当たりにして、天音は動揺を隠せなかった。しかし黎利は満面の笑みを浮かべて喜びを浮かべていた。

「もしかして黎利、これって、アンタの仕業だっていうの・・・!?」

 天音が声を振り絞って問い詰めるが、黎利は笑みをこぼすだけだった。その態度を肯定と取って、天音はさらに問い詰める。

「ちはやは、由記はこのことを知ってるの・・2人がこのことを知ったら・・・!」

「2人に話せるわけないでしょ・・」

 ここでようやく黎利が笑みを消して天音に答える。

「もし2人に知られたら、2人は私を快く思わなくなってしまう。そうなったら、もう会えなくなってしまうか・・」

 黎利の長髪がふわりと揺らめく。

「オブジェにしてそばに置いておくしかなくなるじゃない・・・」

  ピキキッ パキッ

 悲痛の声を上げる黎利が意識を傾けると、少女の石化がさらに進行していく。手足の指先まで白く固まり、ついには首筋まで及ぶ。

「あれ?・・どうしちゃったんだろ・・・何だか、気分がよくなってきちゃった・・・」

「ア、アンタ・・・!?」

 少女の反応の変わりように、天音が疑念を覚える。すると黎利が再び微笑みかける。

「やっと感じてきたようね・・そうやってその気分を覚えていったほうがあなたのためよ・・」

「そうかもね・・このまま・・このまま・・・」

 黎利の言葉に惹かれるまま、少女は歓喜の微笑みを浮かべる。

「ちょっとアンタ、しっかりしなさい!こんなことに負けちゃ・・!」

 天音がたまらず呼びかけるが、少女は快楽に浸っていてその声に耳を傾けようとしない。

「これは勝ち負けなんてもので見てはいけないことよ。そうやって心地よくなっていくのが、心のある人にとって最もなことなのよ。」

「ふざけないで!そんなのただの自己満足じゃない!みんなにこんなことして自分に酔ってるなんて・・!」

 憤る天音だが、その言葉を黎利があざ笑う。

「勘違いしないでよ。私だけが満足していることじゃないわ。」

 黎利の言葉に天音は周囲をうかがう。周りで立ち尽くしている石像たちからは恐怖を全く表していない。

  パキッ ピキッ

 頬にまで石化していく少女さえも、快楽を満面に表していた。自分が別の物質のものへと変わっていくにも関わらず喜びを見せている姿に、天音は困惑するばかりだった。

「私・・・私・・・」

 喜びしかあらわにしない少女に、天音はたまらず眼を背ける。

  ピキッ パキッ

 声を発する唇さえも石になり、少女は声を出せなくなる。

    フッ

 その瞳からも生の輝きが消え、少女は完全な石像と化した。それを見て黎利が天音に笑みを向ける。

「みんな私の力を受けて、いろんなことから解放されて気分がよくなったのよ。そういう点でもいいことだと思うんだけど。」

「・・こんなこと、許されるはずがないわよ・・これ以上、私やちはや、由記につらい思いをさせないでよ・・・!」

 黎利に低い声音で言い放つと、天音はきびすを返して部屋を飛び出そうとする。だが彼女の手足を茶色がかった糸状の何かが縛り付ける。

「えっ・・!?」

 驚きを浮かべた天音が動きを止められる。後ろに眼を向けると、黎利が髪を伸ばしてきていた。

「ア、アンタ・・・!」

「悪いけど、私のことを知ってしまったあなたを、このまま行かせるわけにはいかないわ。」

「は、放しなさいよ・・・!」

 声をかけてくる黎利に、天音が必死に髪を振り払おうとする。黎利の顔からは笑みが消えていた。

「怪物の中には、人間の姿のままのものもあるわ。こうして髪を伸ばして相手を縛ることもできる・・」

 黎利は天音を引き上げて、張り付け同然に動きを封じる。手も足も出なくなり苛立ちを見せる天音に黎利が近づく。

「できるなら、あなたにはこんなことをしたくはなかった・・・」

 黎利が天音に向けて沈痛の面持ちを見せる。

「由記やちはやと同様に、私は天音、あなたのことが好きだったの。いつも私に真正面から向かってきてくれるあなたに、私は惚れ込んでしまっていた・・」

「今更こんなこと言ったって、私はアンタに激しく失望させられてんのよ!・・こんな見下げ果てた人をライバル視して、バカみたいに挑戦を繰り返してたんだからね・・・!」

 黎利の告白に天音が皮肉を言い放つ。

「確かに周りの評価は私のほうが上だった。でもあなたは私の沈んでいた心に刺激を与えてくれたのよ。私にとってあなたは、なくてはならない人の1人となった。」

 黎利が天音の頬に優しく手を添える。

「だから、あなたとは人として接したかった・・・」

 顔を上げた黎利の額に切れ目が現れる。

「オブジェにはしたくなかった・・・」

 その切れ目が開かれ、眼が開かれる。その眼からまばゆいばかりの光が放たれる。

    ドクンッ

 その光を受けた天音が強い胸の高鳴りを覚える。その衝動に彼女はしばらく呆然となっていた。

「何、今の光・・・!?」

 天音が動揺を感じていると、手足を縛っていた黎利の髪が力を緩める。

「これでもうあなたは私のもの。私の考えひとつであなたの体は石に変わる。」

「何言ってるの!?私がアンタの思い通りになるなんてこと・・!」

  ピキッ ピキッ ピキッ

 妖しく微笑む黎利に抗議しようとした瞬間、天音の着ていたシャツが弾けるように引き裂かれた。さらけ出された左胸、そして左腕が白く固まり、ところどころにヒビが入っていた。

「ち、ちょっと・・これって・・・!?」

「だから言ったでしょ?あなたは私のもの。もうあなたは私から逃げられない。」

 驚愕する天音に、黎利が笑みを崩さずに語りかける。

「やっぱりいい体してるわね、あなた。同年代の中であなたが1番私と合う気がするわ。」

「冗談じゃないわよ!私はこんなことじゃ負けない!アンタなんかにいいようにされるくらいなら、裸になってでも・・!」

  ピキッ パキッ パキッ

 あくまで黎利に抵抗を見せる天音だが、両足を石化されて動けなくなってしまう。

「私をどうしても受け入れないっていうならそれでもいい。でももうあなたはここから動けない。」

 歯がゆさを見せる天音に、黎利がゆっくりと近づいていく。

「私にただ体を弄ばれるだけ。今回は今まで以上にじっくり、そしてたっぷりと楽しませてもらうわ。」

 黎利はおもむろに手を伸ばし、石化していない天音の右胸を撫で始める。滑らかな接触に天音が顔を歪める。

「いつ触ってみてもいいわね、天音の胸は。お互い気分をよくしてくれる・・・」

「アンタ、こんなことを・・・!」

 歓喜を覚える黎利に、天音が必死に抗う。しかし押し寄せてくる快感に、天音はたまらず声を荒げる。

「ウフフフ。強がってみせても体は正直ね。私をしっかりと受け止めてくれる。」

「わ、私はアンタなんかに負けない・・ちはやも由記も、アンタの思い通りにはならない・・アンタの代わりに、私があの子たちを・・・!」

 あくまで抗うことをやめない天音だが、快楽の強まりによって次第にあえぐようになる。そして半壊していたシーツが染み出し、足元へ愛液が滴り落ちてきていた。

「もう放さない。あなたのその強がりが消えるまで、私が包んであげる。もうムリすることがないくらいに・・・」

 黎利の抱擁と裸のオブジェへの石化。それらがもたらす快楽に、天音は次第に堕ちていこうとしていた。

 

 ちはやとの対面を果たした由記は、思い出の海辺へとやってきていた。

「懐かしいわね、ここは・・・」

「そうね・・ここはあたしと由記が、初めて会った場所だから・・・」

 由記の言葉にちはやが微笑んで頷く。その笑みが物悲しいものであることに由記は気付いていた。

「もしもあのとき、ちはやが声をかけてきてくれなかったら、私はずっと独りよがりになってた・・・ちはやがいたから、今の私がいる・・・」

「それはあたしも同じだよ・・・もし由記がいなかったら、あたし、どうしたらいいのか分からなくなっちゃってたよ・・・」

「お互いがお互いのなかったものを埋め合わせてたんだね。だから互いの気持ちを分かり合えたりしたんだよね・・・」

「うん・・あたし、今の由記がどう思ってるのかなんとなく分かるよ・・あたしを止めようとしているんだね・・・?」

 ちはやの問いかけに由記は小さく頷く。

「私もちはやのそばにいたい。たとえこの世界がどうなろうと・・・でも私、ちはやがこんなことまでしていいとは思っていない。ちはやはこんなことをする人になってほしくない・・・」

 由記の切実な願いにちはやは一瞬戸惑いを見せる。だがすぐに皮肉めいた笑みを浮かべる。

「ムリだよ、由記・・だって、人間がみんな自分勝手だから、みんながあたしたちを傷つけるから・・・あたしたちは何もしてないのに・・・」

「だからって・・傷つけられたからって傷つけたら、キリがなくなるよ・・傷つけることに意味はない。何の解決にもならない・・・」

 ちはやの言葉に由記が悲痛さをあらわにする。

「私以外にあなたを支えてくれた人がどういう人なのかは分からない・・でもこれだけは言える。あなたに、誰かを傷つける人になってほしくないことを!」

「あたしは・・姫女さんとケンくんを思えばこそ!・・・このまま何もしなかったら、2人は・・・」

「その人たちの声をしっかり聞いて!私の声を聞いて!」

 互いに自分の気持ちを伝えようとするあまり感情さえもあらわになるちはやと由記。

「あたしはやめない!あたしたちの邪魔をするものは、何でも壊す!あたしたちを守るために!」

「壊すことと守ることは違う・・ちはや、あなたには本当に大切なものを理解してほしい・・・」

 互いの気持ちはすれ違い、由記とちはやは打ちひしがれる思いでいっぱいになっていた。

「もう、戦うしかないのね・・・」

 物悲しい笑みを浮かべたちはやの顔に紋様が浮かび上がる。

「できるなら、由記とは戦いたくなかった・・・」

 一滴の涙を流した直後、ちはやはフェイトへと姿を変える。その変貌に由記も覚悟を決める。

「私も、ちはやとは戦いたくない。でもこれ以上、ちはやが誰かを傷つけるのも見たくない・・・」

 由記の顔にも紋様が走る。

「だから私はちはや、あなたを止める!」

 由記もフェイトへと姿を変える。白と黒の翼を持った2人のフェイトが、思い出の海辺を舞台に対峙していた。

 ちはやが剣を具現化して、その切っ先を由記に向ける。

(迷っていないといったらウソになる。でも、ここで迷ったら、ちはやは2度と私のところに戻ってこない。そんな気がする・・・)

 自分に言い聞かせながら、由記も剣を出現させて握り締める。

 互いに剣を振りかざして飛びかかる由記とちはや。振り下ろした2つの刀身はぶつかり合い、2人は踏みとどまって振り返る。

 そして間髪置かずに再び飛び出し、剣を振りかざす。火花が散る中、またも2人はすれ違う。一撃目と違う点は、2人の頬にかすり傷ができたことだった。しかし2人はこれに動じず、振り返って互いを見据える。

「やっぱり強いね、由記。あたしも由記みたいになって、少しは強くなれたかなって思ってたんだけど・・・」

「ちはや、私は決して強くないよ。フェイトになったとき、自分を保つことができなかったときは、本当に自分が弱くなったと思ったくらいだから・・・」

 互いに微笑みかけて語りかけるちはやと由記。2人とも剣を持つ手を緩めてはいない。

「でも自分のこの姿や力を恐れず受け止めて、それでも前に向かって進んでいこうと思ったとき、初めて自分が強くなれたような気がした。どんなことにも決して恐れない。それが本当の強さだと思う。」

「由記・・・」

「ちはや、あなたは何を恐れているの・・・?」

 戸惑うちはやに問いかけながら、由記は剣を構える。ちはやも負けてはならないと胸中で意気込み、同様に剣を構える。

「あたしは恐れない・・怖がるものをなくすために、あたしは・・・!」

 由記の問いに答えようとしながら、ちはやも由記を見据えていた。

 

 

次回

第22話「全ての終わり」

 

「待っていたわ・・・」

「私がそばにいる。だから何も恐れることはないよ。」

「由記、あたしはみんなのために!」

「ちはや、あなたの気持ち、全部私が受け止めてあげる・・・」

 

 

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