ガルヴォルスFate 第19話「砕かれた心」
「ちょっと、由記、いい加減おきなさい。」
眠りについている由記に声がかかる。由記はその声に意識を揺さぶられるが、眼を覚ますには至らない。
しばらくすると、彼女は胸元に奇妙な感覚を覚える。その感触でついに彼女は眼を開ける。
その直後、由記は思わず赤面してしまう。誰かの手が彼女の胸を背後からわしづかみにしていたのだ。
「キャッ!」
由記がたまらずベットから跳ね起きた。唖然となった彼女の前には、満面の笑みを浮かべている黎利と、呆れ果てている天音が立っていた。
「せ、先輩たち!?・・もう、黎利先輩!いきなりそういうことしないでって何度言ったら分かるんですか!?」
「いいじゃないの。由記のは私にはいい感じなんだから。」
赤面しながら抗議の声を上げる由記に、黎利は気さくな笑みを浮かべる。
「由記のいうとおりよ、黎利。相変わらずハレンチな・・・って、由記の人のこと言えないわよ。」
「えっ・・?」
天音の言葉に由記が目線を下ろす。そこで彼女は自分が全裸であることに気付く。
たまらずベットのシーツをつかんで自分の体を包み、その場で座り込んでしまう。黎利が再び笑みをこぼし、天音はため息をついていた。
「とにかく、まさか寮に戻ってきていたなんてね。だけど、ちはやはどうしたの・・・?」
「えっ・・・?」
天音に聞かれて、由記は部屋の中を見回した。部屋にはちはやの姿がない。
「ちはや・・・!?」
当惑を覚えながら、由記がシーツをまとったまま部屋中を駆け回る。だが部屋のどこを探してもちはやの姿がない。
「黎利先輩、天音先輩、ちはやは・・!?」
「わ、分からないわ・・私たちもさっき来たばかりで、由記しかここにはいなかったわよ・・」
問い詰めてくる由記に、黎利が戸惑いを見せながら答える。
「ねぇ由記、ちはやとは一緒にこの寮に戻ってきたのよね?」
天音の質問に由記の小さく頷く。
「実は前日、ちはやを助けようとして怪物たちと戦って、傷ついて意識がなくなって、気がついたら寮の前にいて・・ちはやが連れてきてくれたみたいで・・・」
「どういうこと・・・!?」
由記の言葉に、黎利と天音は一抹の不安を覚え始めた。迷いを振り切った由記は、彼女たちに打ち明けることを決める。
「もう隠し事はしないって心に決めています・・・落ち着いて、聞いてください・・・」
深刻な面持ちを浮かべる由記の話を、黎利と天音は固唾を呑みながら耳を傾けた。
由記は自分の知りうることを全て話した。ちはやがフェイトとして覚醒したことを。
しかし黎利も天音も驚いたり困惑する様子はなく、落ち着いた面持ちを見せていた。
「そうか・・ちはやまでフェイトになったのね・・・こりゃまた、問題の種が増えたわね。」
「おどろか、ないんですか・・・!?」
2人の反応に由記のほうが動揺を見せていた。すると黎利が頭を軽くかく。
「んん〜・・驚いていないっていったらウソになるけど、由記でもう慣れたわ。」
苦笑いを浮かべる黎利に、由記も思わず笑みをこぼした。
「もうここまで乗り込んじゃったんだもの!こうなったらとことん深入りするんだから!」
天音も妙な意気込みを見せる。その様子に笑みをこぼしていた黎利だが、突然深刻な面持ちを浮かべる。
「由記、実は今、とんでもないことが起きているのよ。」
「とんでもないこと・・・!?」
黎利の言葉に由記が再び緊迫を覚える。閉じていたカーテンに手を伸ばし開けると、朝日の光が差し込んできて、由記は思わず眼を細める。
その窓越しの光景に、由記は眼を疑った。街のところどころから淡い煙が立ち上っていた。
「詳しくはよく分からないんだけど、ニュースでは怪物がやったという目撃証言もあるって。」
「怪物・・・あっ・・・」
黎利の報告に由記は一抹の不安を覚えた。これほどの強大な被害を及ぼすことのできる力の持ち主は、フェイトかそれに近い怪物以外に考えられない。
「もしかして・・・もしかして、全部ちはやが・・・!?」
「えっ・・・!?」
とうとつにもらした由記の言葉に、天音が顔を強張らせる。
「もしかしてアンタ、これがちはやの仕業だと思ってるの!?」
「ま、まさかそんな!・・いくらフェイトになったからって、ちはやがこんなバカなことをするはずないですよ!」
天音にたまらず反論する由記だが、取り乱したことに気付いて当惑する。
「ゴ、ゴメンなさい・・先輩もちはやのことをすごく心配しているのに、私は・・」
「い、いいのよ、由記・・アンタもちはやのことが心配でたまらないのよね。それも私以上に・・」
天音の後悔の面持ちを浮かべて一瞬目線を由記から外す。だがすぐに目線を戻して、由記の両肩に優しく両手を添える。
「ちはやはアンタのことをとっても大事にしている。だから、アンタがしっかりちはやを気にかけてあげないと。」
「・・ありがとうございます、天音先輩・・私は信じています。ちはやは人間でいるって。」
「そうね。それより、いい加減何か着なさいよ。いつまでそんな格好でいるつもり?」
天音の指摘を受けて、由記はまたも赤面して自分の体を抱きしめていた。
街で巻き起こっている混乱。1体の怪物が起こしているこの被害を、単独行動を行っている千夏は妖しく微笑んで見守っていた。
(これだけの被害を一晩で行ってしまうなんて、あの子・・・これはすごい展開になりそうね。)
胸中で密かな期待を囁いて、千夏はゆっくりと立ち上がる。
(この騒ぎに紛れてみんなを固めるのは、私の主義じゃないのよね。ここは高みの見物をさせてもらうわ。)
千夏はきびすを返して、騒ぎの治まらない街から離れていく。
(由記と、あのちはやという子・・2人のフェイトが対立するところをね・・・)
ベットのそばに置いていた衣服を身に付けて、由記は何とか気を落ち着ける。天音はやっと安堵の息をついたが、黎利は少しがっかりした面持ちを浮かべていた。
「それで、由記はこれからどうするの?」
黎利が真剣に問いかけると、由記も真剣な面持ちで頷く。
「私はちはやを守りたい。この世界がどうなっても、私はちはやを・・・」
「由記・・アンタの気持ちは分かるけど、フェイトがいると、世界が滅びるって・・・」
決意を告げる由記に、天音が口を挟む。
「そんなこと、私は信じちゃいないけど・・そう考えてる連中が、アンタとちはやを狙ってくるとも思うし・・・」
「それは覚悟しています。多分、ちはやも覚悟を決めてると思います。私は、どんなことになっても、ちはやと一緒に生きていく。人として・・・」
強く手を握り締めて、由記は迷いのない心境を黎利と天音に見せる。彼女の気持ちを目の当たりにして、黎利は静かに頷いた。
「分かった。もう私は止めない。だけど、少しぐらいは頼りにしてもらいたいわね。特に天音がすごく意気込んでるみたいだから・・」
「もちろんよ!よき後輩2人が、世界の命運の中で必死になってるんだから!私が助けてやらないで、誰が・・・!」
黎利の言葉を受けて、天音が再び意気込みを見せる。行き当たりばったりのような雰囲気を発している天音に、由記も黎利も苦笑いを浮かべていた。
「ありがとうございます、先輩・・どうにもならなくなったときは、必ず頼りにさせていただきます。」
黎利と天音に笑顔を見せると、由記はちはやを探すために部屋を飛び出した。彼女を見送ってから、黎利が言葉を切り出す。
「さて、私はいったん家に戻るわ。天音も家に戻るんでしょ?」
「えっ?そうしようと思ったけど、アンタはどうするのよ?」
互いに問いかけ合って、黎利は話を続ける。
「とりあえずそれぞれ家に戻ったほうが、由記とちはやが連絡しやすいと思うのよ。それにこちらの行動範囲も広がるし。」
「そうね・・頭のいいアンタには負けるわ。そういう計画の組み立ては、私には不向きだわ。」
呆れた素振りを見せる天音に笑みをこぼしてから、黎利も部屋を出て行った。
街中はとても悲惨な状況下にあった。ちはやを追って駆け抜けていく由記は、石化や凍結など、様々な形で固められている人々を何人か眼にしていた。
(こんな、ひどい・・・怪物たちが街を襲ったの!?・・でも何かおかしい・・固められている人からは、同じ力の感じがする・・固められ方は違うのに・・・)
周囲を見渡す由記は、そんな違和感を感じていた。もしもその感覚が確かなものならば、複数による仕業とは考えにくい。
(もしかして、ちはやが・・・いいえ、そんなことはない!ちはやは私と一緒にいることを約束してくれた!誰かを傷つけるような子じゃない・・・!)
脳裏によぎった不安を払拭して、由記はちはやの捜索を続ける。
そして彼女はビル街に足を踏み入れた。その中心のビルの数件は、安藤グループの管轄下に置かれている。
そのビルのいくつかも、ガラスが散乱して破損がひどかった。その悲惨さに、由記は心を痛めていた。
「許せない・・誰が・・誰がこんなことを・・・!」
街を脅かした襲撃者に対して、由記はついに憤りを覚えた。一瞬彼女の頬に紋様が浮かび上がるが、それはすぐに消える。
(そうだ・・フェイトになって力を使用すれば、ちはやが気付いてくれるはず。でも、他の怪物が気付かない保障もない・・それでもやるしかない・・・)
思い立ち覚悟を決めた由記は、一路このビル街を立ち去った。そして人気のない裏路地を選んで、彼女はフェイトに変身する。
(ちはや、お願い・・気付いて・・・私はここよ・・・!)
由記はちはやに対する想いと呼びかけを強く念じた。他の怪物が接近してこないか注意を払いながら。
そしてひとまず人間の姿に戻り、ちはやがやってくるのを祈る。
しばらく待っていると、ついに由記の前にちはやが姿を現した。本来なら喜びをあらわにしたかった由記だが、ちはやが以前と何かが違うような気がしてならなかった。
「ちはや・・ちはや、だよね・・・?」
「由記、何言ってるの?あたしはあたし、ちはやだよ。」
当惑を見せる由記に、ちはやが笑顔を見せて答える。いつものちはやと思い、由記は安堵の笑みをこぼした。
「ちはや、どこに行ってたのよ!?・・いきなりいなくなったから、ビックリしたじゃない・・・!」
たまらず悲痛の面持ちを浮かべて声を荒げる由記。するとちはやが苦笑いを浮かべて答える。
「ゴメンね、由記・・由記に迷惑をかけたくないと思ったんだけど、逆に迷惑をかけちゃったね・・・」
「何言ってるのよ、ちはや・・もう隠し事はしないって、どんなことでも一緒に乗り切っていこうって・・・!」
詫びるちはやに切羽詰る由記。するとちはやが物悲しい笑みを浮かべる。
「ちはや、どういう状況なの・・怪物が、街を次々と襲撃してるって聞いて・・・とにかく、その怪物を見つけて、何とかしよう。そして今度こそ2人で一緒に暮らして・・」
「あたしだよ・・・」
由記の呼びかけをさえぎって、ちはやが唐突に声をかける。その声に由記が再び当惑を見せる。
「あたしが、みんなを固めて回ってるんだよ・・・」
「ちはや・・・あなた・・何を言って・・・!?」
ちはやの言葉に由記が動揺を見せる。ちはやの言っている言葉の意味が一瞬分からなくなったのだ。
「さっき、イブキさんを固めて壊してきたよ・・あの人、あたしたちをおもちゃとしか見ていなかったのよ・・・!」
ちはやから次第に笑みが消えていき、憤りが浮き彫りになる。
「ちはや・・どうして!?イブキ先輩は、あなたが憧れていた人じゃない!それに、たとえ彼があなたのいうとおりの人だったとしても、人間の彼を手にかけるなんて・・・!?」
「だってあの人、姫女さんとケンくんを、何のためらいもなく殺したのよ!・・・普通の人間として生きていこうとしていた2人を・・・!」
由記の声にちはやが怒りの声を返す。
「あたしはもう、人間を信じることができない・・みんな、怪物だからって理由で殺して、それが当たり前のような顔して・・・ホントの怪物はあたしたちじゃなくて、人間のほうだよ・・・!」
「そんな・・・ダメよ、ちはや・・あなたがフェイトになるまでは、あなたは人間であってほしかった・・そのあなたが、みんなにあんなことをして・・・」
人間を見限ったちはやと、その言動がやるせなくなる由記。しかし由記の気持ちは、ちはやには届いてなかった。
「あたしは由記がフェイトだって知ってからだったと思う。あたしも由記みたいになりたいと思い始めたのは・・・世界がどんなことになったって、由記と一緒にいたい。あたしはそうありたかった。その場所を守るために、あたしは人間を滅ぼす・・・」
「ちはや!」
「由記・・あたし、もう人間には戻れないよ・・・」
たまらず叫ぶ由記に物悲しい笑みを見せるちはやの顔に紋様が走る。そして漆黒の翼を広げたフェイトへと姿を変える。
「ゴメンね、由記・・由記は人間を守りたいと思ってるけど、あたしは違う・・違うから・・・」
そう告げてから、ちはやは羽ばたかせて飛翔していく。
「ちはや、待って!」
由記の制止の声も聞かずに、ちはやは虚空へと飛び去ってしまった。追いかけることができず、由記はこの場に立ち尽くしてしまう。
「ちはや・・本当に人間じゃなくなってしまったの・・・人間を本気で滅ぼそうとしているの・・・!?」
ちはやの言動が信じられず、由記の悲痛さを隠せなくなっていた。
屋敷内のとある大部屋。淡い明かりしか灯っていないこの部屋には、数体の裸の女性の石像が立ち並んでいた。
いずれも快楽に身をゆだねているかのような表情で、恐怖や不安などまるで感じられない。
その部屋の中で、1人の少女の声が響いていた。背中にかかるほどの長髪をしたその少女は、上着が全て引き裂かれ、上半身が白く冷たい石になっていた。
その石の肌を撫で回す女性の姿があった。女性は妖しい笑みをこぼして、少女の反応をうかがって喜んでいた。
「いい体してるね・・人の肌のまま撫で回したくらい・・・」
「やめて・・・このまま気持ちよくなっちゃったら・・あたし・・・」
微笑みかける女性の言動に、少女は思わずあえぎ声を上げる。石化した少女の胸を、女性は舌で舐め回していく。
「ダメ・・そんなこと・・・あはぁ・・・!」
「もう我慢することはないわ・・このまま私に全てを委ねなさい・・・」
声を荒げるも、女性に言われるがままに少女は快楽を覚えていく。
「そうよ。その感じ。あなたは私の石化を受けた時点で、もう私のもの。頭のてっぺんから手足の先まで全て私の手の中のもの・・」
ピキッ ピキッ ピキッ
女性が意識を向けると、少女がはいていたスカートが引き裂かれる。さらけ出された下半身も、同様に白く固まり、ところどころにヒビが入っていた。
「ほら。私が思っただけで、あなたは裸に、完全なオブジェに変わっていく。あなたは私にただ弄ばれるだけ・・」
女性は微笑みかけて、さらけ出されている少女の秘所に手を伸ばす。その接触に少女がさらにあえぐ。
「イヤッ!そんなとこ、触られたら・・あたし、どうかなっちゃいそうだよ・・・!」
「どうかなってしまう?それでいいのよ。あなたはこの喜びに、私に抱かれてこの永遠を生きていくのよ。どんな辛いことも感じない永遠をね。」
少女の叫び声に、女性はさらに喜びを浮かべ、さらに秘所をまさぐっていく。もうどうなっても構わないと言わんばかりの安堵の表情を浮かべ、少女は脱力する。
「もういいよ・・このまま・・あたしを・・・」
「ウフフフフ・・それでいいのよ。私に任せておけば、あなたにつらい思いはさせないわ。このままこの心地よさを堪能するといいわ・・」
女性は少女の秘所から手を離し、少女からも少し距離を取る。
パキッ ピキッ
立ち尽くしたままの少女にかけられている石化が進行し、手足の先まで固まる。その変化にも少女は快感と刺激を覚えていた。
ピキッ パキッ
そして石化は少女の首筋に、頬に及び、やがて弱々しく声を発していた唇さえも石に変える。快楽に彩られた瞳にも亀裂が生じ、少女は完全な石像となった。
「これでまた1人、かわいい子がきれいな裸のオブジェになった・・でも、この子でも私の心を満たすには十分とはいえないわね・・・」
一瞬満足げに微笑む女性だが、すぐに落胆の吐息をつく。
「やっぱりあの2人じゃないと満足できないわね。でもできるならあの2人はオブジェにはしたくないわ・・・」
女性は少し考え込むが、すぐにたまらず首を横に振る。
「ダメ!我慢できない・・あの感覚、あの感触、どうしても忘れるなんてできない・・・!」
悲痛さを噛み締めて、女性は再び妖しく微笑む。
「そう。もう我慢する必要なんてない・・世界がどうなろうと構わない・・私は私の心を満たすために、この力を使う・・・」
迷いを振り切って、女性は部屋を出た。
「心を満たす快楽こそが、あの2人をものにすることこそが、今の私の全て・・・」
次回
「ちはやが、本気で・・・!?」
「私だって信じたくないです・・・でも・・!」
「あたしたち、もう分かり合えないのかな・・・」
「私は私とあなたのために、あなたを止めるわ・・・」
「あなたは決して逃れられない・・運命からも、この現実からも・・・」