ガルヴォルスFate 第8話「運命を変える者」

 

 

 フェイト討伐を狙うフォースの存在を知り、困惑を見せる由記。そんな彼女を狙う美冬が怪魚の怪物へと変化する。

「あなたを倒すことで私たちは報われ、世界も安泰を取り戻すのです!」

 美冬は長柄の槍を振りかざし、由記に飛びかかる。由記も剣を出現させて迎撃に出る。

 由記の振りかざした剣の刀身が美冬の槍の間に挟まれる。

「たとえあなたがフェイトでも、戦いの経験では私のほうが上!だから!」

 美冬が言い放ちながら、由記の剣を槍で跳ね上げる。空中で回転をして、剣は学校の壁に突き刺さる。

「能力としては下の私でも、十分あなたを倒せるのよ!」

 勝ち誇る美冬が由記に向けて槍を突き出す。由記は背中から翼を広げて飛翔して、美冬の攻撃をかわす。

「逃がしませんわよ、フェイト・・・萌、今よ!」

 美冬の呼びかけに、異様な怪物への変身を遂げていた萌が由記に向けて右手をかざしていた。その手のひらから紅の炎が湧き上がる。

 由記はとっさにかわすも体勢を崩され、炎に焼かれた緑の葉が灰色の石へと変わり果てていた。

 萌の放つ炎は、焼き尽くした相手を石に変える効果を備えているのだ。

(4人とも、私だけを狙っている・・私がここにいたら、みんなが・・・!)

 周囲の生徒たち、ちはや、黎利、天音のことを気にかけて、由記は当惑していた。これ以上ここで戦えば、彼女たちも巻き込みかねない。

 由記は再び飛翔して、学校に眼を向ける。裏門では生徒がまだ数人逃げ遅れていて、ちはやたちが避難させていた。

(ちはやたちから離れないと・・私が離れれば・・・!)

 思い立った由記が、フォースの4人に眼を向けてからゆっくりと学校から離れていく。

(逃げていく?・・・いや、これは自分が囮になっている・・・)

 その行動に姫女が眉をひそめる。

 軍事学校での講習、訓練を受けている彼女は、相手の思考を言動からある程度読み取ることができる。由記のこの行動が、自分を囮にしながら別の場所へ誘導しようとしていることを彼女は推測していた。

「どこまでに逃げることばかりで・・・不愉快ですわ!」

「待て、美冬。」

 由記を追いかけようとした美冬を姫女が呼び止める。

「いきなり何ですの!?このまま逃げられたりしたら、私の気が治まりませんわ!」

「熱くなるな、美冬。フェイトはどういうつもりか、私たちをおびき出そうとしている。」

 苛立つ美冬に姫女が淡々と告げる。この言葉に美冬は眉をひそめる。

「このまま逃がせば不愉快だと言っているが、このままヤツの思うがままにされたほうが、さらに不愉快ではないのか?」

 姫女のこの言葉に美冬は返す言葉を失う。苛立ちを覚えるも、美冬は姫女の判断に反論できないでいた。

「お前もフェイトの気配を完全に記憶したはずだ。狙う機会などいくらでもある。」

「・・・分かりましたわよ!ここは引きましょう!」

 姫女の判断に、美冬はふてくされながらも従う。千夏も萌も姫女に同意する。

(必ず我らが葬る・・フェイト、貴様は滅びなければならない存在なのだ・・・!)

 フェイト打倒を見据えながら、姫女は胸中で呟いた。フォースのフェイトに対する挑戦が、ついに幕を開けたのだった。

 

 フォースを学校から引き離そうと考えた由記だが、フォースが退散していくのに気付いて彼女は動きを止める。

(逃げていく!?・・私を追わず、学校からも離れていく・・・どういうつもり・・・!?)

 由記はフォースの行動に疑念を感じていた。フェイトを狙っているのに、彼女を追ってこない。

(とにかく、今は学校に戻ってちはやたちと合流しないと・・・!)

 由記はひとまず学校に戻ることにした。だが、彼女は校庭の悲惨な光景を再び目の当たりにした。

 千夏の電撃を受けて、生徒の何人かが金属の像に変わっていた。千夏は金属への変化を解かずに学校を後にしていた。

(私のために・・・みんな・・・)

 由記は固められた生徒たちを見下ろして悲痛さを覚え、自分を責めた。自分のために、無関係のはずの生徒たちに危害を加えることになってしまったのだから。

(助けたい・・・みんなを助けたい・・・もし、私にみんなを助けられる力があるなら・・・)

 由記はひたすら願った。みんなを助けたいと。強く欲した。みんなを助けるための力を。

 そのときだった。由記を空に上げている白い翼に淡い光が宿る。その翼が雪のような光の粒を落とし、金属の像たちに降り注がれる。

 光の粒は金属の像に感染し、体中に広がっていく。そしてその体を元の人間のものへと戻していく。

「あ、あれ?・・あたし・・・?」

「ここで何してたんだろ・・・?」

 意識を取り戻した生徒たちが当惑を見せている。無事に金属の束縛から解放された彼女たちを見て、由記は微笑んで身を潜めた。

 人目のつかない学校の裏に着地した由記は、人間の姿に戻る。そして戸惑いを覚えながら自分の両手を見つめる。

(すごい・・これが、私の力・・・固められていた人たちが全員、元に戻った・・・)

 自分が発動した力に脅威を覚える由記。

(もしかして、ケガとか治すことも可能なのでは・・・!?)

 思い立った由記が歓喜を覚える。が、同時に不安を覚える。

 由記が発揮した力は、強大な治癒力をもたらした。だが、それで見返りがないとは思えない。

 力を使うときは何でも、相応の代償が伴ってくる。もしも由記の治癒が蘇生をもたらすほどまでに至っているなら、命を賭けることにもなりうる。

 由記は自分の力を使うことにためらいを覚え始めていた。

 さらに、彼女が思っていた不安はそれだけではなかった。

 フォースがこの力を忌み嫌い、フェイトもろとも破壊しようと目論んでいたとするなら、自分はさらなる危険にさいなまれることになる。

 由記は押し寄せてくる不安に苦悩の連続を強いられていた。

「由記、大丈夫!?」

 そんな由記に黎利が駆けつけ、声をかけてきた。その声に迷うことを中断し、由記は振り返る。

「先輩・・・みなさんは大丈夫ですか・・・?」

「あぁ。みんなは私と天音、ちはやが避難させた。でも、校庭のみんなが金属にされてたのに、元に戻ったみたいだよ・・・」

 由記の問いかけに黎利が深刻な面持ちで答える。そして思い立ったように由記に訊ねる。

「もしかして、これは由記の・・フェイトの力だっていうの・・・!?」

「はい・・・私もさっき気付いたばかりなんですが・・・」

「なるほど・・・それで、この騒ぎを起こしてた犯人はどうしたの?」

「・・逃げました・・・金属のような鉱物を体にまとった怪物で、体の電気でみんなを金属にしていたようです。それと・・」

「それと・・?」

「仲間が3人・・誰もが今までの怪物とは違っていました・・・」

 由記の話に黎利は真剣に話を聞く。

 フェイトを倒すために現れた謎の4人、フォース。彼女たちは自分たちだけでなく、同属の者そのものがフェイトを敵視していることを告げていた。そして彼女たちは、フェイトを倒すことは自分たちだけでなく、世界のためにもなるとも言っていた。

 由記の話を聞いた黎利が頷いてみせた。

「なるほどね・・・怪物連中からしてみれば、相当のお尋ね者というわけか、フェイトってのは。」

 黎利が和やかになるような言動をするが、由記の沈痛さは消えなかった。

「でも連中は連中。私は由記が滅びなきゃならない存在だなんて、地球が滅びること以上に思ってないことだから。」

 突拍子もないような黎利の例えに、由記は思わず笑みをこぼしていた。

「ありゃ?もしかしてヘンなこと言ってた、私?」

「ウフフ・・いいえ・・でも先輩はすごいですね・・」

「え?何が?」

「だって、こんな不安ばかりなときでも、今のように笑顔を取り戻させるような振る舞いをするから・・・」

「あぁ、なるほどね。でも私だって不安になってないわけじゃないし。落ち着いているわけでもない。ただ、どうしたらいいのか分からなくなると、ついヘンなことを言ってしまう癖が出ちゃうというか・・・」

 黎利に照れ笑いと言動を目の当たりにして、由記も次第に和やかになっていった。

「さて、そろそろちはやたちのところに戻らないと。いつまでもあなたが戻ってこないから、きっと心配してるぞ。」

「分かってます。今は何だか、ちはやの顔が見たくて仕方がないんです。」

 由記がちはやに対する気持ちを告げると、黎利は気さくな笑みを見せた。2人は一路、ちはやたちのいる裏門に向かうことにした。

 

 フェイト討伐から一時手を引いて撤退したフォースの4人。彼女たちは部隊の集合場所としている部屋に戻ってきていた。

「全く。本当なら私がフェイトを始末していたはずでしたのに。」

 由記を倒せなかったことに不満を口にしている美冬。そんな姉の様子を、萌は無邪気そうに見つめていた。

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんの力なら、いつでもフェイトを追い込むことができるよ。」

「お、おだてても何も出ませんわよ、萌。まぁ、私の力と作戦を駆使すれば、自分の力を満足に使えていないフェイトなんて、敵ではありませんわ。」

 萌の言葉に照れ笑いを見せる美冬。

「だったら今度はあなたたけでフェイトを倒しに行ってくるといいわ。」

 そこへ千夏が口を挟むと、美冬が憤りを覚える。

「ずい分な軽口を叩いてくれますわね、千夏さん・・いいでしょう。私と萌が、フェイトを見事に葬って差し上げましょう。」

「ウフフ。期待して待っていてあげるわ。」

 互いに笑みを見せあうも、互いに敵意をも見せ合っていた美冬と千夏。萌はきょとんとした面持ちを浮かべたままだった。

「この様子では、私の出番はしばらくなさそうだな。では私は失礼させてもらうぞ。」

 唐突に姫女が部屋を出て行こうとする。彼女を見やって千夏が笑みを見せる。

「またあのことなの?あなたも見かけによらず心配性ねぇ。」

「大切なものを守っている。それだけのことだ。」

 姫女が千夏に淡々と答えると、美冬があざ笑いを見せる。

「あなたもずい分と甘いですわね。私たちにそのような浅はかな感情など、私たちには必要のないこと・・」

 美冬が言い終わる前に、姫女が彼女の首をつかむ。姫女の姿はダイヤの怪物へと変化していた。

「これ以上つまらぬことを口にするな。さもなくば、私は貴様を敵と見なす・・・!」

 鋭い声音で美冬に言いつける姫女。苦悶の表情を浮かべながら、美冬が笑みを見せる。

「じ、冗談ですわよ。そんなの真に受けないでほしいですわ。」

「冗談でも口にしないことだ。自分の軽はずみな言動で寿命を縮めたくはないだろう?」

 ふざけ半分で告げる美冬だが、姫女は手の力を緩めようとしない。

「わ、分かったわよ!言わなければいいのでしょ!言わなければ!」

 美冬が観念すると、姫女はようやく手を離す。美冬が息を荒げている前で、姫女は人間の姿に戻る。

「全く、冗談の通じない人ですわね・・・!」

 愚痴をこぼす美冬を一瞥してから、姫女はきびすを返して部屋を後にした。

「あの人に対してそのことは禁句。口は災いの元とはまさにこのことよ。」

 千夏が諭すように言いかけるが、美冬は納得してなかった。

「気丈な態度を取る人だと思っていたのですが・・案外大人気ないのですね。」

「今の姫女を突き動かしているのは・・大切なものなのよ・・・」

 あくまで愚痴をこぼし続ける美冬を尻目に、千夏は姫女を気がかりにしていた。

 

 学校での騒動が沈静化していく中、由記と黎利はちはやと天音と合流した。

「由記・・・由記!」

 心配になっていたちはやが、戻ってきた由記に飛び込んできた。由記はちはやの体を抱きとめる。

「ちはや・・・ゴメンね・・心配かけて・・・」

「もうっ!由記のバカ!心配したんだからね!」

 優しく微笑む由記に、ちはやが眼に涙を浮かべて彼女に寄り添う。2人の抱擁に黎利と天音が笑みをこぼす。

「とにかく、これでみんな落ち着くかな。どういうわけか、騒ぎは治まりの方向に向かってるみたいだし。」

 黎利が気さくな言動を見せ、由記とちはやが微笑んで頷いた。

「それじゃ、私たちはみんなをまとめるわよ。由記、ちはや、行くわよ。」

「あ、はい。」

 天音が騒動の沈静化のために動き出し、由記とちはやは頷いた。

 

 その夜、学校は体育館にてダンスパーティーが行われていた。全校生徒全員が参加可能のものである。

 今はフォークダンスが行われていて、校内でも有力という見方のあるカップルが多く、それ以外はなかなか踏み込めないのが現状だった。

 由記もちはやも体育館の入り口でダンスを見ているだけだった。

「あぁ、あたしも踊りたいなぁ・・由記、一緒に踊ってよ〜・・」

「何言ってるのよ。フォークダンスは男女で踊るものじゃないの?」

 ため息をつくちはやに、由記が気のない返事を返す。それでもちはやは諦めきれない様子だった。

「それでもあたし、由記と踊りたいなぁ・・」

「ハァ・・・仕方がないわね・・ちはや、ちょっとこっちに来て。」

「えっ?あ、由記?」

 唐突に由記がちはやの腕を取って体育館を離れていく。その行為にちはやが戸惑いを覚える。

 2人がやってきたのは、今は誰もいない生徒会室だった。由記は明かりをつけて、ちはやとともに中に入る。

「ここに来ていったい何なの、由記?」

 疑問符を浮かべるちはやに、由記が振り返って微笑む。

「ここだったら誰も見てないし、たっぷりとダンスができるよ。」

 由記の言葉に、ちはやはようやく笑顔を見せた。

「2人だけのダンスパーティーだね。」

「そういうこと。」

 互いに頷き合うと、手を取り合って見つめ合うちはやと由記。少し狭いながらも、2人は2人だけの時間を過ごしていた。

 そんな生徒会室の様子を、黎利と天音がこっそりとのぞいていた。

「やれやれ。すっかり2人だけの世界に入り込んじゃって・・・」

「いいじゃないの。こういう時間こそが大事なんだから。」

 小声で語り合う天音と黎利。

「それじゃ私たちもレッツダンスかな?」

「バカ言わないでよ!どんないきさつで私がアンタと踊らなくちゃなんないのよ!」

 黎利のからかいの言葉に天音が思わず憤慨し、自分の口を手でふさぐ。だが由記もちはやもダンスに夢中になっているのか、2人に気付いていないようだった。

「とにかく、ダンスや舞踏会は男女1組と決まってるの。由記とちはやは特別なのよ。」

「そうかもね。私たちはあの2人のダンスでも見守りましょうか。」

 小さな語り合いを続けながら、黎利と天音は由記とちはやを見守った。由記とちはやは今宵の2人だけの舞踏を心行くまで楽しんだ。

 

 

次回

第9話「心の在り処」

 

「こんなの少し休めば何ともないですよ。」

「お姉ちゃんにはとても感謝してるよ・・・」

「私は辻谷姫女だ。君は?」

「あたしは沢北ちはやです。」

「お前だけが・・私の心を支えているんだ・・・!」

 

 

作品集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system