ガルヴォルスFate 第7話「フォース」

 

 

「ついに始まったよー♪あたしたちの文化祭がー♪」

 ちはやが満面の笑みを浮かべて大喜びをして、それを見た由記が半ば呆れていた。

 この日、福音大付属高校は文化祭を迎えていた。由記とちはやのクラスはハロウィン風の装飾を装ったカレー屋である。

 その興奮に浮かれて、ちはやは喜びを抑えきれないでいたのだ。

「よーし。今年の文化祭は、絶対成功させるぞー♪」

「すごい意気込みだね、ちはやちゃん・・」

 りはやの様子に、水希も苦笑いを浮かべていた。

 

 文化祭は各クラス個性的な出し物を展開して、大きく賑わいを見せていた。喫茶店や展覧会といったものにひとつひねりを入れており、それが客たちに好評を受けているところが多かった。

 そして由記たちのクラスも好評にあり、来客に忙しくなっていた。そんな中、クラスのハロウィン喫茶の店番を交代してもらった黎利がやってきた。

「おやおや。頑張っているようだね、お二人さん。」

 気さくに声をかけてきた黎利に、由記とちはやが振り向く。

「あ、黎利先輩。先輩のクラスの調子はいかがですか?」

「まぁ、ぼちぼちってところね。ここほどじゃないけど。」

 由記の声に黎利が淡々と答える。

「せっかく来たんだ。何か食べていかないと損だね。何がお勧めなの?」

「はい。かぼちゃのカレーなんてどうでしょう?」

 黎利がメニューを眺めると、ちはやが勧める。2人の姿を見て、由記は安らぎを感じていた。

 

 フェイト打倒のため、街を詮索していたフォースの4人。しかし力を発動されて気配が現れることがなく、彼女たちは途方に暮れる形となっていた。

 彼女たちは怪物としての姿、能力、考えはそれぞれだが、倒すべき敵と人間を渇望の代価にしているという点は同じだった。

「全く、あの夜以来、全然力を使用していない。これでは探しようがないわ。」

 千夏がため息混じりに愚痴をこぼす。

「しかしこの街とその周辺から感じたのは確かだ。もしもこの辺りのどこかを拠点としているのなら、必ずこの辺りにいるはずだ。」

 姫女が淡々と千夏に語りかける。すると千夏は再びため息をつきながら苦笑を見せる。

「といってもね・・私はあまり騒がしいのは苦手なのよね。」

「だが、白昼堂々と力を発動させるのは滑稽なことだ。分かっているか?」

「分かってるわ。私はそこまで見境なしじゃないわ。」

 姫女の指摘に千夏は微笑みながら答える。

「でも、1回は騒動を起こしてみるのも面白いかもね。」

「軽率だぞ、千夏。」

「軽率ではないわ。むしろ効率のいい手段と呼ぶべきものよ。安心しなさい。騒ぎになっても私たちの仕業だとは気付かないから。」

 いぶかしく感じる姫女に、千夏が笑ってみせる。

(少なくとも、フェイトには私たちのことを知らせられるし・・)

「そうね。学校でも狙ってみようかな。固めがいがありそうだし。」

「ほう?お前は騒がしいのは苦手なんではなかったのか?」

「そうよ、苦手よ。でも、騒がしいのを静かにさせるのは大好きなの。」

 姫女の言葉に、千夏が野心的な笑みを浮かべた。

 

 文化祭は問題なく続いていた。由記、ちはや、黎利は校舎内を歩き回り、各クラスの出し物や屋台を回り、楽しい時間を過ごしていた。

 途中、ちはやはカレー屋の当番の時間のため別れたが、何件か回ったところで由記と黎利はひとまず生徒会室に戻ってきていた。

「何なのよ、あなたたち。子供みたいに歩き回って・・」

 生徒会室に来るまでの2人の言動に、天音が呆れていた。

「いいじゃないの。せっかくの文化祭だし、楽しむときは思いっきり楽しまないと。」

「生徒会長のアンタがそんなんでどうすんのよ、黎利!」

 気さくに答える黎利に憤慨する天音。2人の様子を見て由記が思わず笑みをこぼす。

「まぁ、今年の文化祭は好調といえば好調ね。みんな活発に作業してるし、客入りもそこそこあるし。」

「そうね。何にしても、楽しくやれればそれで問題なしよ。」

 窓越しに校庭に並ぶ出店を見下ろして天音が微笑み、黎利も喜んでいた。

「でも、来年は今年以上にすばらしい文化祭にしてほしいと思うわ、由記。」

「えっ・・?」

 唐突に黎利に問いかけられて、由記がきょとんとなる。

「そうよ。来年はあなたたちの時代なんだから、その頑張りをしっかり見させてもらうわよ。」

「天音先輩・・・そうですね。来年が私たちが頑張る年ですから。」

 天音にも励ましの言葉をもらい、由記は微笑んで頷いた。

「あ、由記、ここにいたんだ。そろそろ時間だよ。」

 そのとき、ちはやが生徒会室を訪れ、由記に声をかけてきた。

「えっ?もう私の当番の時間?いけない、急がないと。」

 由記が慌てて椅子から立ち上がる。

「それでは黎利先輩、天音先輩、失礼します。」

「おう、頑張れよ、カレー屋の娘さん。」

 一礼して立ち去っていく由記とちはやに、黎利は気さくに声を返した。

 

 それからカレー屋の当番をこなしていった由記とちはや。この日の当番を終えて、2人は校舎の屋上に赴いていた。

「これであたしたちの今日の仕事はこれでおしまい。ふう、疲れたけど楽しかったよー・・」

「そうね。いろいろ見に回れたし、いろいろ食べたし。」

 互いに満足げな笑顔を見せ合うちはやと由記。しばし青空を仰ぎ見ていると、ちはやが由記に声をかけた。

「ねぇ由記、今夜はやっちゃってもいいかな・・・?」

「えっ・・・」

 ちはやが申し出ていることを理解して、由記は沈痛の面持ちを浮かべた。夜に行っている抱擁。裸の付き合いである。

 しかし怪物になってしまって以来、由記はそれを拒み続けていた。抱擁によって自分の怪物としての因子が、ちはやに移ってしまうのでないかと思っていたからだ。

「・・ゴメン、ちはや・・私・・・」

 由記の返答に、ちはやもついに不安を感じてきていた。

「由記、どうしちゃったの、最近・・何か、ヘンだよ・・・」

 聞いてしまうのも心苦しいと思いながらも、ちはやは由記に聞かずにはいられなくなっていた。そんな彼女の問いかけに、由記は黙り込んで答えようとしない。

「前に言ったよね。どんなことでも、辛いことがあったらあたしに話してって・・・」

「ちはや・・・私は・・・」

 切実の思いのちはやに対して、由記は答えることにためらっていた。全てを話せば、ちはやにまで危険が及んでしまうからだ。

 しかしいつまでも何も話さないままでいたら、余計にちはやを心配させることになり、逆に彼女を危険に踏み込ませることにもなりかけない。由記はどうすればいいのか途方にくれていた。

「キャッ!」

 そのとき、校庭のほうから悲鳴が上がり、由記とちはやが血相を変える。屋上から校庭を見下ろすと、生徒の何人かが金属の像に変わっていた。

「な、何なの、これ・・・!?」

(怪物!?・・この学校にまで・・!)

 この現状を目の当たりにして、ちはやが驚愕し、由記も怪物の出現を予感した。しかし校庭の中に怪物らしき姿も影もない。

(どこにいる!?・・この近くにいるはずだけど・・・!)

「ちはや、とりあえず生徒会室に行こう!黎利先輩か天音先輩と合流しないと!」

「えっ!?でも・・・!」

「ここにいたら危険よ!校舎の中に避難しないと!」

 当惑しているちはやに必死に呼びかける由記。2人は騒然となっている校庭を尻目に、ひとまず校舎へと戻った。

 

 フェイトをおびき出すための策略を脳裏に焼き付けながら、千夏は姫女を連れて学校のそばに来ていた。彼女たちはあえて校内に入らず、学校を見つめていた。

「ここもずい分と騒がしいわね。思ってた以上に。文化祭だからね。」

 文化祭の賑わいを耳にして、千夏が笑みを作る。その横にいる姫女は憮然とした面持ちを続けている。

「ここに来ていったい何をするつもりだ、千夏?」

「ウフフ。ひと騒ぎ起こせば、フェイトは必ず姿を見せる。そう言ったはずよ。」

 人気がないことを見計らって、千夏は学校を見据える。彼女の顔に紋様が浮かび、鉄の体の怪物へと変わる。

 そして千夏は両手から電気を解き放ち、学校に向けて送り込む。しばらくすると校内で悲鳴が上がりだした。

「なるほど。これなら回りに見られることなく、ひと騒ぎ起こせるということか。」

 千夏の策略を拝見して、姫女が不敵に笑う。彼女たちがいる場所からはうかがうことはできないが、校内で生徒たちが次々と金属へと変わっていくのが、千夏は眼に浮かべていた。

「お前の力を察知して、美冬も萌も来るだろう。そのときに、フェイトを・・」

「分かってるわ・・」

 真剣に告げる姫女に、千夏は妖しい笑みを浮かべていた。校内では生徒たちが次々と金属に変わり、騒然となっていた。

 

 突然の異様な事態に、校内は混乱していた。そんな中、生徒会室では黎利と天音が深刻になっていた。

「いったい、何が起こってるっていうのよ・・!」

 状況がなかなか飲み込めず、天音が憤慨をあらわにする。

「とにかく、こんな混乱にさせてはいけないわ!行くよ、天音!」

 天音に指示を送りながら、生徒会室を飛び出そうとする黎利。そこへ由記とちはやが駆け込んできた。

「由記、ちはや!?」

「せ、先輩・・・ちはやと一緒に生徒たちの誘導をお願いします!私は外にいる生徒を誘導します!」

「ち、ちょっと待って、由記!あたしも一緒に・・・!」

「いや、私が行くよ。」

 飛び出していった由記を追いかけようとしたちはやを黎利が止める。

「でも、黎利さん・・!」

「ちはやは天音と一緒にみんなを避難して。私が由記を連れて戻るから。」

 そういって黎利も由記を追って飛び出した。

「黎利・・・ちはや、私たちはみんなの避難よ。」

「天音先輩・・・はいっ!」

 黎利の気持ちを汲んだ天音の指示に頷き、ちはやも彼女とともに生徒会室を飛び出した。

 

 逃げ惑う生徒たちがいなくなり、校庭は金属の像と化した生徒だけが残り、静寂が訪れていた。その光景を目の当たりにした由記は、周囲を細大漏らさず見回した。

 近くにこの現象を引き起こした怪物が潜んでいるはず。彼女はそう思えてならなかった。

「由記!」

 そこへ彼女を追いかけてきた黎利が呼びかけてきた。戸惑いを浮かべる由記が黎利に振り返る。

「先輩・・ダメですよ、先輩。どこに怪物がいるか分からないんですよ。」

「だからよ。そんな危険な状況で、あなただけを置いとくわけにいかないでしょ。」

 互いに小声で呼びかけあう由記と黎利。

「とにかく、ここにいたら危険です。先輩はみなさんと一緒に避難を。」

「・・・分かったわ。だけど、危なくなったらすぐに逃げること。これだけは約束してもらうよ。」

 由記の言葉を受け入れることにした黎利は、ひとまず校舎に戻っていった。それを見送ってから、由記も校舎沿いに駆け出していった。

(学校の外から電気のようなものが入ってきている。それがみんなを金属にしてるのでは・・・!)

 校外からの気配を察知しながら、由記はさらに進んでいく。その校外に出ると、1人の慄然とした女性と1体の怪物を発見する。

 2人の姿に息を呑む由記に気付いて、2人が振り向いてきた。

「あらあら。生徒さんが1人来てしまったようね。」

 怪物が妖しい笑みを浮かべて由記を見つめてきた。

「でも、1人なら固めてしまえばどうにでもなるわ。」

 その怪物、千夏が由記に右手を向ける。その手には対象を金属に変える電流が帯びていた。

「あなたたちが・・みんなを・・・!」

 千夏と姫女を見据えて、由記が憤りを覚える。彼女の顔に紋様が走る。

「この変化は・・・!?」

「みんなを・・みんなを元に戻しなさい!」

 驚きを覚える姫女の眼前で、怒りをあらわにした由記が変身を遂げる。同属の間でも異質の者とされているフェイトの姿に。

「ウフフフフ・・・ここにいたか、フェイト・・・」

 フェイトを発見した姫女が不敵な笑みを浮かべる。

「お前を探していたぞ、フェイト。この場で貴様を始末してやる。」

「私を探していたって言うの!?・・・そのために、関係のない学校のみんなに危害を加えるなんて・・・!」

 低く告げる姫女に、由記がさらなる憤りを覚える。すると千夏が哄笑を上げながら答える。

「それはあなたをおびき出すための私の作戦。姫女はその件には関係ないわ。」

「なら、早くみんなを元に戻しなさい!あなたたちの狙いは私でしょう!?」

 必死に呼びかける由記だが、千夏は笑みを消さない。

「私は騒がしいのが嫌いなの。どうしても元に戻してほしいっていうなら、終わりにしてからよ。」

 千夏は帯電させている右手を握り締め、由記を見据える。

「あなたの息の根を止めてからね。」

 そしてその電流を由記に向かって解き放った。怒れる感情に呼応するように、由記の周囲に淡い光の球状の壁が出現し、電撃を遮断する。

「私の力をはね返すなんて・・やはりフェイトは侮れないわね。」

 右手の指を口元に当てて、千夏が笑みをこぼす。フェイトの力に好感を持っているようだった。

「油断するな、千夏。相手はフェイトだぞ。」

「分かってる。油断なんかしてないわ。ただ、この勝負を楽しんでいるだけよ。」

 真剣に由記を見据えている姫女に、千夏が微笑みながら答える。

「ともかく、貴様だけでは不利だ。確実な勝利を得るために、私も加勢させてもらう。」

「ハァ・・お断りしても、あなたは聞き入れそうにないわね。戦いの経験と知識は、あなたは私より1枚も2枚も上手だからね。」

 腑に落ちない反応を見せながらも、千夏は姫女の意向を受け入れる。戦う意思を見せる姫女の顔に紋様が浮かぶ。

 姫女の姿が透き通った結晶を身にまとった一角の怪物へと変化する。その姿に由記が当惑を見せる。

「私は無益な殺生を好まない。ただ標的を確実に始末するだけ。」

 姫女が言い終わると、頭部から突き出ている角から閃光を放つ。由記はとっさに飛翔してかわす。

 目標を外した閃光がその先の木々に命中する。緑の木々が半透明のダイヤへと変化する。

「これが私の力だ。私が放つ光は、捉えた対象をダイヤモンドへと変質させる。」

 上空へ回避していた由記を見据えて、姫女が鋭く言い放つ。

「さらに・・・」

 彼女は右手を掲げると、手の中でまばゆい光が放たれ、それが半透明の長剣へと具現化される。

「ダイヤの性質を宿した武器を作り出すこともできる。最大の硬度の自然物質のダイヤで形成されている武器、貴様とて打ち砕くことはできない!」

 姫女がダイヤの剣を振りかざして由記を攻撃しようとしたときだった。

「あらあら。あなたたちだけで先に始めないでいただきたいですわ。」

 姫女と千夏に呼びかけながら、美冬と萌が現れた。美冬はフェイトの姿の由記を見て、さらに笑みを強める。

「あなたがフェイトね。なるほど。確かに運命を左右するほどの力の持ち主ではあるようですね。」

「あなたたちはいったい!?・・・なぜ私を狙うの・・・!?」

 由記が問いかけると、美冬は呆れた面持ちを浮かべる。

「あなた、フェイトでありながら何も分かっていないようね・・・フェイト、あなたは私たちに・・いいえ、この世界から忌み嫌われている存在なのよ。」

「どういうことなの・・・!?」

「あなたを倒すことが、私たちのため、世界の運命を救うためになるのよ。」

 美冬の言葉の意味が理解できず、由記は困惑を見せる。その迷いを振り切って、彼女は言い放つ。

「よくは分からないけど・・・私はフェイトなんかじゃない!フェイトだとか言う前に、私は南城由記なのよ!」

「フェイトじゃない?・・アハハ!」

 由記の真剣な気持ちでの言葉を、美冬があざ笑う。それをよそにして、姫女が由記に呼びかける。

「ならば名乗れ。貴様の名、私が心に刻もう。」

 鋭く言い放つ姫女の言葉に、由記はひとまず着地して姫女たちに答える。

「私は由記。南城由記よ・・・」

「由記か・・・私は辻谷姫女だ。」

 自己紹介した姫女が、千夏たちに眼を向ける。すると千夏が微笑んで、

「私は百合野千夏。よろしく。」

「仕方ありませんわね・・・私は夜月美冬ですわ。」

「私は妹の萌だよ。」

 姫女に促される形で、千夏、美冬、萌も自己紹介をする。

「我々はフェイト討伐を目的する部隊、“フォース”だ。」

 姫女の言葉に由記は息を呑む。彼女たち、フォースがフェイト打倒のために、由記に敵意を向けるのだった。

「さて、パーティーを始めましょうか、フェイト!」

 美冬が眼を見開いて、困惑を見せている由記を見据えていた。

 

 

次回

第8話「運命を変える者」

 

「逃がしませんわよ、フェイト・・・」

「相当のお尋ね者というわけか、フェイトってのは。」

「フォークダンスは男女で踊るものじゃないの?」

「それでもあたし、由記と踊りたいなぁ・・」

「フェイト、貴様は滅びなければならない存在なのだ・・・!」

 

 

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