ガルヴォルスFangX 第23話「石化」
激しい攻防で、ハルもリオも傷だらけになり、体力も大きく消耗していた。それでも2人とも、互いを倒すことを諦めていなかった。
「倒れない・・オレは倒れるわけにいかない・・・!」
「ここで倒れたら、みんなの死が報われなくなってしまう・・・!」
声と力を振り絞って、ハルとリオが立ち上がる。しかし2人とも疲弊したままで、立っているのがやっとだった。
「ダメ・・ハルもリオさんも、これ以上戦えない・・・!」
アキがハルとリオを心配して、恐る恐る近寄ろうとした。
「アキ・・まだ、リオを倒していないんだ・・来たらダメだ・・・」
「でも・・このまま戦ったら・・リオさんだけじゃない・・ハルも・・・!」
呼びかけてくるハルだが、アキは退かずに彼に寄り添う。その2人にリオが鋭い視線を向ける。
「どうして・・私を騙したお前に、どうして信頼が寄せられる・・・!?」
リオがハルだけでなく、ハルに心を寄せているアキにも憤りを感じていた。するとアキが悲しい顔を見せてきた。
「ハルは誰かを騙すようなことはしない・・そんなことをする人を嫌っているから・・ただ、単にすれ違ってしまっただけ・・・」
「すれ違っただけ!?・・それで許してもらえると・・・!」
「話を聞けば、こうして戦って、傷つけあうこともなかったのに・・・!」
鋭くにらみつけてくるリオに、アキが涙を見せながら呼びかける。
「そうやって私たちを陥れて・・・!」
リオが怒りのままにハルとアキに刃を突き出そうとした。
“リオ!”
そのとき、リオの頭の中にナオミの声が響いてきた。その声を聞いて、リオは攻撃することに躊躇を覚えてしまった。
「ナオミ・・・どうして・・・!?」
リオが困惑して、後ずさりしてハルとアキから離れていく。彼女の目にナオミの悲しい顔が移っていた。
「そんな顔を見せないで・・ナオミ・・・ナオミ!」
絶叫を上げたリオが、人の姿に戻る。心を揺さぶられた彼女は、ガルヴォルスの姿を維持できなくなった。
「えっ!?・・リオさん・・・!?」
リオの異変にアキが戸惑いを覚える。ハルもリオに対して困惑を感じていく。
「私は・・これ以上・・あなたみたいに、自分勝手に傷つけられる人を増やしたくないだけなのに・・・!」
困惑しているリオが平静でいられなくなり、その場に膝をついて震える。困惑している彼女を、ハルもアキもただ見守るしかなかった。
「私は・・私はこれから、どうすればいいの・・・!?」
「もう怖がることはないよ、リオ・・」
そこへ声がかかって、リオがうつむいていた顔を上げる。ハルとアキも声のしたほうに振り返る。
ハルたちの前に白髪の少女が現れた。
「ま・・まさか・・・本当に・・・!?」
リオはその少女を目の当たりにして、驚きを隠せなくなる。困惑を募らせる彼女に、少女が視線を向ける。
「ごめんなさい・・帰って来れなくて、本当にごめん、リオ・・・」
「お・・お姉ちゃん・・・!?」
声をかけてきた少女に、リオが戸惑いを見せる。少女はリオの姉、ミサだった。
「ミサお姉ちゃん・・無事だったの・・・!?」
「うん・・なかなか見つけられなくてごめんね・・・」
声を振り絞って問いかけるリオに、ミサが謝ってくる。
「でももう心配しなくていいよ・・リオは少し休んでいて・・・」
リオに声をかけると、ハルとアキに向かって振り返ってきた。
「リオをこれ以上傷つけさせない・・・私がリオを守る・・・」
ミサが意思を口にして近づいてくる。ハルはアキを抱えて、力を振り絞ってミサから離れる。
しかし軽い足取りで疾走してきたミナに、ハルとアキはすぐに回り込まれてしまう。
「は、速い・・!?」
アキがミサに対して緊迫を募らせる。
「あなたたちはリオを追い込んでいる・・あなたたちは放っておけない・・いろいろな意味で・・」
「何を見間違えているんだ・・オレたちを追い込んできているのはリオのほうだ・・・!」
言いかけるミサにハルが不満を込めて言い返す。
「アイツがオレたちに何もしなければ、放っておいてくれれば、オレたちもアイツも何にもならなかったのに・・!」
「そんな言い訳で、リオの傷が治ったりはしない・・」
「そうやってオレたちを悪者にするな!」
冷たく言葉を投げかけるミサに、ハルが怒号を放つ。彼はその勢いで両足に力を込めて、地面に衝撃を与える。
「お前もオレとアキを追い込もうとするのか・・・!」
ハルはアキを引き離してから、ミサに鋭い視線を向ける。
「すぐにオレたちの前からいなくなるなら何もしない・・だが何かしてくるなら、オレは容赦しないぞ・・・!」
「そういうならそうしたいけど・・私があなたたちを放っておけない理由は他にもある・・・」
敵意を向けるハルに対して、ミサは悲しい顔を見せてきた。
「これは私の自己満足と欲求・・リオには関係のないこと・・・」
ハルたちに言いかけるミサの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の異変にハルたちが緊張を膨らませて、リオが驚愕を覚える。
「お姉ちゃん・・・まさか・・・!?」
リオが息をのんだ瞬間、ミナが異形の怪物、メデューサガルヴォルスに変化した。
「お前もガルヴォルスだったのか・・・!」
ハルがミサに対して警戒を強めていく。
「でもオレは、ガルヴォルスだろうと何だろうと関係ない・・オレたちの敵かどうか、それだけだ・・・!」
ハルがミサに向かって飛びかかり、拳を繰り出す。しかしミサに軽々とよけられる。
「速い!?・・ううん、それだけじゃない・・ハルが・・・!」
アキは気づいていた。ハルがリオとの戦いで体力を大きく消耗していて、パワーもスピードも落ちていることを。
「私も、人間もガルヴォルスも関係ない・・私は私のため、リオのためにこの力を使っているの・・」
ミサがハルに向けて自分の気持ちを口にする。
「それがどうした・・それでオレが納得すると思っているのか・・・!?」
ハルは憤りを募らせて、ミサに再び飛びかかる。立て続けに拳を繰り出す彼だが、ミサにことごとくかわされていく。
「オレは安心したいんだ・・一方的に攻められたまま、オレもアキも倒れるわけにはいかないんだ!」
ハルは持てる力を振り絞って、体から刃を引き抜いた。彼がミサに向かって刃を振りかざす。
しかしこの一閃もミサにかわされてしまう。
「オレは・・オレはアキと一緒に・・いつまでも!」
ハルが感情をむき出しにして、刃を前に突き出した。しかしその攻撃もミサにかわされる。
「これは私の強さの問題ではない・・今のあなたは疲れ切っている・・きっとリオと戦って、かなり消耗したんだと思う・・」
ミサがハルの状態を見て言いかける。
「その今のあなたが、私をどうにかできると・・」
そのとき、ミサの右肩をハルの左手がつかんできた。ハルは改めてミサ目がけて刃を構えてきた。
「当てられるようにするだけだ!」
ハルがミサに刃を突き出した。しかしミサに左手で刃を受け止められる。
「なっ!?」
「疲れているあなたの相手をしても、私は本気を出す必要もない・・・」
驚愕の声を上げるハルに低く告げると、ミサは彼から刃を引き寄せて後ろに放り投げた。
「もうムリをしないで・・リオに手出しをしなければ、私はあなたを傷つけない・・」
ミサは言いかけて、ハルの肩に手をかけて軽く引き倒す。体力を消耗していたハルは、力なく地面に倒れる。
「ハル!」
アキが悲鳴をあげてハルに駆け寄ろうとする。その彼女の前にミサが立ちはだかった。
「あなたの体、確かめさせてもらうわ・・私が満足できるかどうか・・・」
妖しい笑みを見せるミサに、アキが恐怖を感じて後ずさりする。
「やめろ・・アキに手を出すな・・・!」
ハルが声と力を振り絞って、ミサを呼び止める。
「ハル・・!?」
ゆっくりと立ち上がるハルを目の当たりにして、アキが戸惑いを覚える。
「アキを追い込むな・・絶対に叩き潰すぞ・・・!」
「追い込むことはないよ・・追い込まれているなら、むしろ私が救ってあげたい・・・」
「そんな言葉で、オレとアキを陥れるつもりか・・・!」
ミサが言いかけるが、ハルは彼女の言葉を聞き入れない。
「それなら、あなたもこの子と一緒にいればいい・・・」
ミサは言いかけて、アキの背中に優しく手を当てる。
「あなたの体も確かめたい・・・そのためなら・・・」
ミサがアキを押して、ハルに抱かせる。
「これで、あなたたちの安心につなげられるなら・・・」
ミサが続けて右手を伸ばして、念力を放つ。彼女の念力でハルとアキが動きを止められる。
「うっ!」
「体が動かない・・お前、オレたちを・・!」
うめくアキと、憤りを感じていくハル。リオとの戦いに加えてミサの念力による束縛のために体力を消耗して、ハルは人の姿に戻ってしまう。
「これでいい・・ガルヴォルスの姿のままでいるのは辛くなると思うから・・・」
「お前・・僕たちに何を・・・!?」
微笑みかけるミサにハルが声を振り絞る。
「もういいよ、ムリしなくて・・私があなたたちを安心させてあげる・・」
ミサが言いかけて、ハルとアキに意識を傾けていく。
カッ
ミサの全身の目から光がきらめいた。
ドクンッ
眼光を受けたハルとアキが強い胸の高鳴りを覚える。
「この感じって・・まさか、あなたも・・・!?」
ピキッ ピキッ ピキッ
アキが不安を感じた直後だった。ハルとアキの上着が引き裂かれて、石になった体があらわになる。
「お前も・・石化を使えるのか・・・!?」
「そう言ってくるということは、前に石にされたことがあるみたいね・・・」
声を上げるハルに、ミサが微笑みかけてくる。
「前がどのようなのかは分からないけど・・私ならあなたたちを安心させることができる・・」
「ふざけるな・・そうして僕たちを思い通りにしようとして・・・!」
「でもこうしておけば、あなたたちは傷つくことはない・・老いてしまうこともない・・このまま一緒にいれば、本当にいつまでも一緒にいられる・・・」
憤りを見せるハルだが、ミサは妖しく微笑みかけてくるだけだった。
「あなたたちも私もリオも満足できるなら、こんなに嬉しいことはない・・あなたたちが憎み合って、争い合うこともなくなる・・・」
ピキッ ピキキッ
ミサが語りかける前で、ハルとアキにかけられた石化が進行していく。2人の衣服がさらに引き裂かれて下半身もあらわになる。
「そ・・そうやって、僕たちを自分のものにしようとして・・・!」
「それでも、あなたたちが傷つかなくて済むなら、これ以上あなたたちが追い込まれなくなるなら・・」
抵抗の意思を示すハルに、ミサが表情を変えずに言いかけていく。ハルが力を込めるが、ガルヴォルスになることもできなくなっていた。
「逆らうことはないよ・・もうムリをする必要はないから・・・」
ミサがさらにハルとアキに妖しく微笑んでいく。
ピキキッ パキッ
石化がさらに進んで、ハルとアキは互いを抱き合ったまま、手足の先まで石にされてしまう。
「このままじゃ・・このままじゃ僕とアキは・・・!」
「ハル・・・私もこのまま石になってしまうのはイヤだよ・・・ハル・・・!」
ハルに続いてアキも感情をあふれさせる。2人は膨らんでいく感情に突き動かされるように、互いの唇を重ねた。
パキッ ピキッ
口づけを交わしているハルとアキの石化が進んで、2人の頬や髪を固めていく。
(アキ・・・僕は・・・)
(ハル・・・このまま、あの人のいいようになるなんて・・・)
口づけの中、ハルとアキが心の中でミサに石化されていくことに辛さを感じていた。
ピキッ パキッ
2人の唇も石に変わり、彼らはただただ互いの顔を見つめ合うだけだった。
フッ
その瞳も石になり、ハルとアキは完全に石化を包まれた。2人は抱きしめ合ったまま、一糸まとわぬ姿で動かなくなった。
「これでこの2人もオブジェになった・・もう傷つくことも年を取ることもない・・・」
石化したハルとアキを見て微笑むミサ。彼女は振り返って、リオに視線を移す。リオはミサがガルヴォルスだったこととその能力に驚愕と困惑を隠せなくなっていた。
「ゴメンね、リオ・・もうあなたが怖がったり怒ったりすることはないよ・・」
「お姉ちゃん・・・」
歩み寄ってきたミサに、リオは返事をするのもままならなくなっていた。
「もうあの2人があなたに襲い掛かることもない・・2人も傷つかずに、ずっと自分たちの愛と安心を感じていられる・・」
「でもお姉ちゃん・・お姉ちゃんが使ったのも、ガルヴォルスの力・・・!」
「それでも・・私が納得できるなら・・リオを助けられるなら・・・」
「それでも・・私はガルヴォルスを、どうしても受け入れられない・・・」
「ガルヴォルスとなっている、自分自身も・・・?」
ミサに指摘されて、リオは困惑を膨らませて言葉を返せなくなる。
「ガルヴォルスかどうかはきっかけでしかない・・あなたが憎んでいたのは、そのガルヴォルスの中にあった身勝手な心・・」
「身勝手な心・・・」
「私のリオを助けたい、自分が満足したいっていうのは、どうしても身勝手になってしまうかもしれない・・それでも、私は・・・」
戸惑いを感じていくリオを、ミサが優しく抱きしめる。彼女からの抱擁にリオは逆らうことができなかった。
「これからあの2人の心の中に入る・・彼女が私の求めているものかどうかを確かめる・・」
ミサは言いかけると、ハルとアキに視線を移す。
「お姉ちゃん・・お姉ちゃんの求めているものって・・・!?」
「そうね・・リオには話しておかないとね・・・」
リオの問いかけに返事をして、ミサが彼女から離れてハルとアキに近づいていく。
「私が求めているのは、お母さんのぬくもり・・・」
「お母さんのぬくもり・・・!?」
「赤ん坊が母親に抱かれている・・そのときの感じを、私は他の人と比べて全然少ない・・だから・・」
「それって結局・・お姉ちゃんの自己満足・・・!?」
ハルとアキに向けて妖しい笑みを浮かべてくるミサに、リオはさらに心を揺さぶられていく。
「そんなの・・身勝手だよ・・私たちを苦しめてきた身勝手な人たちと同じだよ・・・!」
「それで私たちが満足できるなら・・・」
「そんなことで満足しても・・誰かを困らせることになる・・・許されることじゃない・・・!」
「誰も、許してもらうために生きていないよ・・みんな身勝手なんだよ・・私も、リオも・・」
「私はあんなのとは違う・・ガルヴォルスとも、身勝手な人たちとも・・・!」
「それを憎んで潰していくのもまた身勝手だよ・・・」
「違う!私は違う!それを身勝手だと認めてしまったら、私は今まで何のために・・・!」
自分を身勝手だと認めたくないリオに、ミサも困ってしまう。それでも自分の満足を果たさずにいられなかったミサは、石化したハルとアキを優しく抱きしめて、意識を傾けた。
「私を身勝手だとあなたが嫌っても、私は・・お母さんのぬくもりをまた感じてみたいの・・・」
リオに自分の気持ちを言いかけて、ミサはハルとアキの意識の中に自分の意識を傾けた。
次回
「せめてあなたたちが幸せでいられるなら・・・」
「やめろ・・僕たちをこれ以上、追い詰めるな・・・!」
「ハル・・・ダメ・・私・・・!」
「私はもっともっと求めていく・・」
「あのぬくもりを確かめるためなら、どんなことだって・・・」