ガルヴォルスFangX 第21話「決闘」

 

 

 レンに促される形で、リオは街の中に逃げ込んでいた。人の姿に戻っていた彼女は、街の広場のベンチに腰を下ろしていた。

(レンさんが・・私のために・・命を投げ出して・・・)

 リオがレンのことを気にして悲しみに暮れていく。

(ガルヴォルスなのに、私のために・・ヘブンのみんなのために・・・)

 レンの戦う姿と心境を捉えて、込み上げてくる感情を噛みしめていくリオ。

(私も・・ガルヴォルスなのに・・ナオミを助けようとした・・・)

 そのとき、リオは今までの自分の気持ちと行動を思い返した。

 ガルヴォルスでありながらナオミと友情を交わし、ガルヴォルスであるにもかかわらずに彼女や人々を守るために戦ってきた。そうすることが自分の安息であると、リオは何度も実感させられていた。

(私も・・レンさんと同じような気持ちで、戦っていた・・そのはずだったのに・・・)

 自分とレンの姿と心境を重ねて、リオが悲しみを膨らませていく。彼女の目から涙があふれ出してくる。

(そのレンさんを憎んで・・傷つけて・・・私・・私、なんてことを・・・!)

 後悔と絶望を一気に膨らませて、リオが頭を抱える。絶望感にさいなまれて、彼女は体を震わせていく。

(どうしてなの?・・こういう大切なことは、失うまで気付けないの・・・!?

 冷静さを取り戻すことができず、リオはおもむろに歩き出す。彼女は夢遊病者のように道を進んでいった。

 

 リオを探し続けているサクラ。彼女はリオとレンがぶつかり合った強い気配を感じ取っていた。

(さっきの感じはあの子供じゃない・・あの気配は消えてなくなっちゃった・・別の強いガルヴォルスが現れたのかな・・・)

 不安をさらに膨らませて、サクラはリオを追ってさらに走り出していく。彼女はいつしか街の中に飛び込んでいた。

「こんな人込みじゃ、さすがに見つけられそうに・・」

 可能性がないと思って、サクラが肩を落としたときだった。彼女の視界にリオの姿が入ってきた。

「リオちゃん!?

 サクラが声を上げて、リオの姿を追っていく。サクラは感覚を研ぎ澄ませて、リオを見失わないように注意する。

「リオちゃん、待って!止まって、リオちゃん!」

 必死にリオを呼び止めようとするサクラ。街を抜けたところで、サクラはリオに追いついた。

「リオちゃん!お願い、止まって!」

 サクラが肩をつかんでリオを呼び止めた。ゆっくりと振り向いてきたリオの目には、輝きがなくなっていた

「リオちゃん・・・!?

 サクラがリオの様子を目の当たりにして一瞬当惑する。しかしサクラはすぐに落ち着きを取り戻して、真剣な面持ちでリオに声をかけた。

「リオちゃん・・とりあえず帰ろう・・あなたのマンションに帰って休もう・・」

「帰る?・・帰ってどうするの?・・ナオミはもう笑顔を見せてくれない・・それなのに帰っても・・・」

 サクラが呼びかけるが、リオは不安と絶望を込めて言い返すだけである。

「まずは気持ちを落ち着かせよう・・でないと、体も心も疲れちゃうよ・・・!」

「もう疲れ切っている・・もう治せない・・治すことはできない・・」

 励まそうとするサクラだが、リオは希望を持つことができないでいる。

「私には何も残っていない・・お父さんもお母さんも、ナオミもレンさんもいない・・私には、怒りや憎しみしかない・・心から守りたいって気持ちを、私は持てない・・・」

「リオちゃん・・・」

 絶望しているリオに、サクラは困惑を感じるようになっていく。

「・・違う・・私がやらないといけないことは、まだあった・・・」

 リオはふと思い出したことを口にして、再び歩き出した。

「リオちゃん?・・どこへ行くの、リオちゃん・・!?

 サクラがまた呼び止めるが、リオは立ち止まろうとしない。

「行かないといけない・・どうしても、倒さないといけない相手がいる・・・」

「倒さないといけないって・・それってあの兵士たち・・・まさか、ハルとアキちゃんのことじゃ・・・!?

 リオが口にした言葉を聞いて、サクラがハルとアキに危害が及ぶと不安を覚える。

「ダメ!ハルたちを傷つけるなんて、そんな!」

「邪魔しないで・・ハルは私を騙して、私に攻撃もしてきた・・だから、認めるわけにいかない・・」

 呼び止めるサクラだが、リオは意思を固くしていた。

「ハルは自分が許せないものと戦っているだけ・・自分たちが心から安心できる場所を探しているだけなんだよ・・・!」

「その行動が、私の心を傷つけることになってしまった・・だから、私には認められない・・・」

 リオがハルとアキのところへ行こうとすると、サクラが彼女の前に立ちふさがった。

「行かせない!ハルとアキちゃんのために、リオちゃんを行かせるわけにいかない!」

「どいて・・邪魔をするなら、誰だろうと容赦しない・・・!」

 声を張り上げるサクラに鋭い視線を向けるリオ。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「リオちゃん・・・!?

 目を見開くサクラの前で、リオがソードガルヴォルスに変わる。

「すぐにどいてくれるなら何もしない・・邪魔をするならここで切る・・・!」

「リオちゃん・・本気なの・・・!?

 右手から出した刃の切っ先を向けてきたリオに、サクラが一気に緊迫を膨らませる。

「でもこれは、絶対にさせちゃいけない・・ハルとアキちゃんのためにも、リオちゃんのためにも・・・!」

 退こうとしないサクラもキャットガルヴォルスとなって、リオを止めようとする。

「ハルを倒すことが、今の私のためになる・・・」

 リオが低く告げた直後、彼女の突き出した刃がサクラの左のわき腹に刺さった。

「うっ!」

 激痛を覚えてサクラが顔を歪める。彼女は体勢を崩して、その場に倒れて横たわる。

「あたしが・・反応もできなかった・・・!」

 力の差を見せつけられてうめくサクラ。リオは彼女に目を向けてから、ゆっくりと歩き出していく。

「待って、リオちゃん・・行かないで・・・!」

 必死に手を伸ばすサクラだが、人の姿に戻ったリオは立ち去ってしまった。力を入れられなくなって、サクラも人の姿に戻る。

「このままじゃ、ハルとアキちゃんが・・・せめて・・2人に連絡して、注意させないと・・・!」

 サクラが力を振り絞って、携帯電話を取り出してハルとアキへの連絡を試みた。

(ハル・・お願い・・出て・・・)

 揺らいでいる意識の中、サクラはハルたちに知らせようと必死になっていた。

 

 その頃、ハルは兵士たちを動かしている政治家たちの居場所である会議場を突き止めていた。彼は兵士たちを全滅させ、政治家たちも多くを切り捨てていた。

「貴様・・そうまでして、世界を敵に回すつもりか・・・!」

 政治家がファングガルヴォルスとなっているハルに怒鳴る。その彼にハルが鋭い視線を向ける。

「お前たちや世界がオレたちの敵に回っているんだ・・お前たちはそのことも分からず、認めようともせず、勝手にオレたちを悪者扱いして追い込んで・・・!」

「それは事実だろう!貴様らはガルヴォルス!排除されるべき世界の敵だ!それを葬ることの何が・・!」

 ハルの言葉に言い返す政治家。するとハルが体から刃を引き抜いて、政治家の顔に切っ先を向けた。

「だから、お前たちはどこまで行っても愚かなんだ・・・!」

 ハルは冷徹に告げると、政治家の体に刃を突き刺した。

「ぐはぁ!・・貴様は・・貴様らは・・・!」

 うめく政治家がさらにハルに刃で切り裂かれた。鮮血をまき散らしながら、政治家は倒れて動かなくなった。

「その声も聞きたくない・・この世界からいなくなれ・・・!」

 歯がゆさを浮かべたハルが、刃を振って血を振り払う。彼は近くで待っていたアキに向かって歩きながら、人の姿に戻る。

「どうして・・自分たちが正しいと思っている人は、傷ついたり命を落としたりしないと分かってくれないのかな・・・」

「だから自分勝手なんだよ・・何もしてこなければ、僕は何もしなかったのに・・・」

 不安を見せるアキに、ハルは辛さを募らせていた。不条理への不満を、ハルは未だに拭えずにいた。

 そのとき、ハルは自分の携帯電話が着信していることに気付いた。彼は電話をかけてきた相手を確かめる。

「サクラか・・・」

 ハルは電話に出ずに携帯電話をしまった。

「出なくていいの、ハル・・・?」

「いいよ・・サクラに振り回されるのがイヤなのは、もう分かっていることだから・・」

 アキが声をかけても、ハルは電話に出ようとしなかった。

「行こう・・これで連中もおとなしくなると思うから・・・」

「ハル・・うん・・・」

 ハルに呼びかけられて、アキが頷く。ハルと歩いていく中、アキは不安を感じずにいられなかった。

 

 政治家や兵士たちを撃退していたハルの気配を、リオは感じ取っていた。

(いた・・ハルも戦っている・・・)

 ハルのいる方向を見据えるリオ。

(ガルヴォルスだったのに、私と仲良くなろうとして・・・許すことができない・・私を裏切ったハルも、心を許した私自身も・・・)

 揺らぐ気持ちを抱えたまま、リオはハルとアキのいる場所を目指していく。感情のままに動いていく彼女は、ソードガルヴォルスとなってスピードを上げた。

 

 人気のない場所で休息を取ろうと、ハルとアキは街外れに向かって歩いていた。しかしその途中、ハルが突然足を止めた。

「ハル?・・どうしたの・・・?」

 アキも立ち止まってハルに声をかけた。

「来る・・この感じ・・リオだ・・・」

「リオさん・・・!?

 ハルが口にした言葉を聞いて、アキが緊張を覚える。ハルはリオが近づいてきているのを感じ取ったのである。

「どうしても僕たちを・・この際だから、ここで終わらせる・・・」

「ハル・・どうしても、リオさんと戦うしかないの・・・!?

「リオが放っておかない・・それだけで理由は十分だよ・・・」

 ハルの意思を聞いて、アキは不安を募らせていく。

「私としては、リオさんともう1度仲良くなりたいというのが本音・・だけど・・・」

「ムリだよ・・向こうにそのつもりがないんだ・・僕は一方的に受け入れるつもりはない・・・」

 自分の考えを正直に口にするアキとハル。ハルらしい考えだと思って、アキが物悲しい笑みを浮かべた。

「私には、ハルの言葉をはねのけるなんてできない・・ハルを裏切りたくないから・・・」

「アキ・・・ゴメン・・そして、ありがとう・・・」

 アキに対して謝意を示すハル。彼の優しさがアキの心の支えになっていた。

「・・・来るよ・・リオが・・・!」

「リオさん!」

 目を見開くハルとアキ。2人の前にリオが姿を現した。

「やっと見つけた・・・もう私には、お前を倒す以外に希望はない・・」

「やはりリオさん、ハルと・・・」

 自分の意思を口にするリオに、アキが困惑を募らせる。

「やめて、リオさん!そんなことをして、リオさんは満足するんですか!?こんなの、ハルのためにもリオさんのためにもならないです!」

「私のためにならない?・・そうやって、私は何もかも否定されてきた・・・」

 声を張り上げて呼びかけるアキだが、リオは心を閉ざしていた。つかもうとしてきた希望を何もかも砕かれて、リオは絶望にさいなまれながら、それでも希望を求めることにすがっていた。

「今の私に残されているのは、ガルヴォルスを、身勝手な人間を滅ぼすことだけ・・・」

「リオさん・・・!」

「ハル・・ガルヴォルスであるあなたも・・・」

 アキの言葉を聞き入れず、リオはハルに視線を移す。

「ガルヴォルスであるお前を、どうしても許すことはできない・・・」

 ハルに鋭い視線を向けるリオ。彼女の言葉がハルの感情を逆撫でする。

「許すことはできない・・それは僕のセリフだ・・・」

 怒りを込めるハルの頬に紋様が走る。彼の姿がファングガルヴォルスに変わる。

「ハル・・リオさん・・・!」

「誰だろうとどんな理由だろうと、僕とアキを追い込むヤツは許さない・・・!」

 困惑を見せるアキの前で、ハルがリオに憤りを見せる。

「今度こそ・・今度こそあなたとの辛い関係を終わらせる・・・!」

「やめて!やめてください、リオさん!」

 右手から刃を出したリオの前に、アキが立ちはだかった。

「ハルが傷ついても、リオさんが傷ついても、いいことは全然ない!もう2人で争わないで!」

「いいかどうかは私が決める・・あなたたちを倒さないと、私の希望は1つもないことになる・・」

 必死に呼びかけるアキだが、それでもリオは考えを変えない。するとハルがアキの横に並んだ。

「アキは離れていて・・これからはオレがやる・・・」

「ハル・・それだとハルが、リオさんが・・・!」

 言いかけるハルに、アキが困惑を見せる。それでもハルは自分の意思を貫こうとする。

「もうリオはオレたちを完全に拒絶している・・もうオレたちとアイツは、同じ世界にいられない・・・」

「ハル・・・」

「そしてオレは死なない・・アキも死なせない・・そのために、オレは容赦しない・・容赦できない・・・!」

 自分たちの安息を強く願うハルに、アキは心を傾けるしかなかった。

「アキ、離れていて・・そばにいたら、アキが傷つくことになってしまう・・・」

「ハル・・・うん・・・」

 ハルに呼びかけられて、アキは渋々彼とリオから離れていった。

「もう終わりにするわよ、ハル・・あなたたちに裏切られた、私の愚かさを・・・」

「オレたちの前に立ちふさがっている時点で、もう愚かなんだよ・・・」

 敵意を向け合うリオとハル。リオが右手から刃を引き出して、ハルが体から刃を引き抜いて構える。

「ガルヴォルスが・・身勝手な連中がいるから!」

 リオが怒りと憎しみを噛みしめて、ハルに向かって飛びかかっていった。

 

 ハルたちへの連絡が取れず、サクラは焦りを募らせていた。彼女は痛みを感じている体を突き動かして、リオを追いかけようとする。

「行かないと・・このままじゃハルとアキちゃん・・リオちゃんが・・・!」

「リオ・・・!?

 声を振り絞っていたところで突然声をかけられて、サクラは一気に緊張を膨らませる。

「誰・・誰かいるの・・・!?

 サクラが問いかけながら、ゆっくりと立ち上がる。周りを見回す彼女の視界に、長く白い髪の少女の姿が入ってきた。

「もしかして、剣崎リオのこと・・・!?

「あなたは誰・・リオちゃんの知り合い・・・!?

 問いかけてくる少女に、サクラは緊張を抱えたまま逆に問い返す。

「これ以上、リオが追い込まれることになるのは耐えられない・・だからすぐに見つけないといけない・・・」

「あなたは誰なの!?リオちゃんとどういう関係なの!?

 語りかけていく少女に、サクラが問い詰める。少女はサクラの言葉を聞かず、彼女の体を見つめて妖しい笑みを浮かべてきた。

「あなたの体、よさそう・・あなたなら、満足できるかもしれない・・・」

 少女は呟くと指を鳴らした。すると2人のいる場所の空間が歪み出した。

「これって・・・!?

 緊張を高めていくサクラに、少女が近づいてくる。歪む空間の中、少女はサクラに狙いを定めた。

 

 

次回

第22話「牙と刃」

 

「ハル・・リオさん・・・」

「もう私には、この道しかない!」

「オレたちは、どんな理屈にも押しつぶされない!」

「私はもう、見守ることしかできない・・・」

「お願い・・無事でいて・・2人とも・・・!」

 

 

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