ガルヴォルスFangX 第20話「守りたいもの、失ったもの」
リオの前に、兵士たちとともにレンが現れた。兵士たちと一緒に現れたことに、リオは目を疑った。
「レンさん!?・・・本当に、レンさんなの・・・!?」
リオが声を振り絞って、レンに問いかける。するとレンが閉ざしていた重い口を開いた。
「リオちゃん・・僕は元軍人・・いち部隊の指揮官だった・・このことは君やヘブンのみんなには話していない・・」
「レンさん・・何を言って・・・!?」
「今の僕は部隊の任務で行動している・・ガルヴォルス討伐のための・・・」
困惑しているリオに、レンが自分の素性を明かす。
「そしてリオちゃん・・君もガルヴォルスとして認識されている・・・」
「レンさん!?」
平静を装って言いかけるレンに、リオは動揺を膨らませて後ずさりする。
「ここは私が1人で相手をする。下がっていてくれ。」
「了解。」
レンの言葉に答えて、兵士たちが少し離れていく。
「レンさん・・どうして・・・!?」
「こうするしかなかった・・やらないと、ヘブンのみんなまで巻き込むことになる・・危害が及んでしまう・・・!」
問い詰めるリオに、レンが感情をあらわにしていく。
「リオちゃんにこんなことはしたくなかった・・・でも、ヘブンのみんなが危険にさらされるのは耐えられない・・・!」
レンは揺れる気持ちを落ち着かせてから、改めてリオに目を向けた。
「リオちゃん・・君の心を裏切ってしまったことを、許してくれ・・・」
謝罪の言葉を口にするレンの頬に異様な紋様が浮かび上がる。この変化にリオは目を疑った。
そしてレンの姿がトラのような怪物へと変わった。彼もガルヴォルスの1人だった。
「レンさんも・・・ガルヴォルス・・・!?」
レンがタイガーガルヴォルスとなったことに、リオは驚愕する。
「レンさんが・・あのレンさんがガルヴォルスだったなんて・・・!?」
「このことも君にもみんなにも話していない・・この姿と力を頼らない、普通の人間として過ごしたかった・・だが世の中は私を放っておいてはくれないようだ・・・」
彼女を追い込んでしまったことを辛く感じて、レンが顔を歪める。
「ヘブンのみんなを守るためなんだ・・・リオちゃん・・・本当にゴメン・・・!」
レンがリオに向かって飛びかかり、爪を構える。
「レンさん!」
リオがとっさにソードガルヴォルスとなって、レンの爪をかわす。しかしリオはレンに攻撃を仕掛けることができない。
「やめてください、レンさん!どうしてレンさんがこんなことを!?」
「私にはこうするしか道はない!これはもう、私1人を犠牲にすればいいということではない!」
呼び止めるリオだが、レンは攻撃の手を止めない。
「ダメ・・レンさんと戦うことはできない・・・!」
リオは悲痛さを募らせて、レンから逃げ出していく。
「リオちゃん!」
レンがリオを追いかけて飛び出していった。2人の様子を兵士たちは注視していた。
“2人を見失うな。もしも天童レンが裏切りを見せるようなら、ともに処分しろ。”
「了解しました。」
通信を受けた兵士が答えて、リオとレンを追っていった。
レンから必死に逃げていくリオ。リオを追っていくレン。
身を隠そうとしてもガルヴォルスとしての感覚ですぐに見つけられてしまうと思い、リオはひたすらレンから逃げようとしていた。
(私には、何の希望も幸せもないというの・・・!?)
リオが心の中で不安を募らせていく。
(家族を失い、ナオミを失い、レンさんにも裏切られた・・もう私には何も残っていない・・私には、小さな幸せをつかんでもいけないというの・・・!?)
一縷の望みもないと思い込んで、リオは絶望していく。この絶望感は、彼女自身にこの不条理への激しい憎悪を呼び起こしていた。
(まずはナオミを殺した連中を殺す・・1人残らず、私が斬る・・・!)
リオはまず兵士たちを根絶やしにすることを心に決めた。彼ら相手なら何の躊躇も必要ないと思えるからである。
「リオちゃん、待ってくれ!止まるんだ!」
そのとき、追いついてきたレンがリオの前に回り込んできた。
「ダメです、レンさん!私はレンさんをもう受け入れることはできません!かといってレンさんと戦うことも!」
「せめて話ぐらいは聞いてくれ!君も僕も・・!」
「聞きたくありません!私を追い込もうとする人の言葉なんか!」
「君も僕も、人間として生きようとしてきた!」
聞く耳を持とうとしないリオに、レンが言い聞かせてきた。彼の言葉にリオが戸惑いを覚える。
「君まで、人の心を失うことはない・・・!」
「私が・・人の心を失う・・・!?」
「あぁ・・このまま怒りや憎しみのままに戦っていったら、いつしか君も、君が憎んでいたガルヴォルスのようになってしまう・・・!」
レンが投げかける言葉にリオが困惑を募らせていく。
「私は・・ガルヴォルスの言葉は聞かない・・認めるわけにいかない・・・!」
リオはレンの言葉を振り切って飛び込む。彼女はレンを両手で押して地上に落とす。
「リオちゃん!」
去っていくリオに叫ぶレン。落ちた茂みからすぐに飛び出す彼だが、リオの姿は見えなくなってしまった。
「リオちゃん・・このままじゃ、僕は君を・・・!」
リオと戦わなければならないことへの歯がゆさを感じながら、レンは彼女を追いかけていった。
移動を続けるリオとレンの動きを、兵士たちは徹底的に監視していた。
「うまくポイントに向かっているようだ。」
「このままポイントに追い込む。そこでガルヴォルスに対して一斉に爆発させる。」
兵士たちがガルヴォルス打倒のための作戦を口にしていく。
「天童レンもですか?」
「当然だ。ヤツもガルヴォルスだ。世界のために排除されるべきなのだ。ただ厄介なガルヴォルスを打ち倒すため、利用できるものは利用するに越したことはない。」
兵士の問いに部隊長が淡々と答える。
「天童レンにポイントに追い込むように伝えろ。」
「了解。」
部隊長の命令に答えて、兵士たちが動き出した。
(これでまず厄介なガルヴォルスが消えることになる。それも2人も・・ガルヴォルスに生きる権利すらないのだ。)
ガルヴォルス殲滅のために、味方することになったレンを利用することにも、部隊には全くためらいがなかった。
人気のない広場にリオはたどり着いた。彼女は周りに誰もいないことを確かめてから、そばの木陰で休息を取ることにした。
もう誰もが信じることができなくなったリオ。彼女は誰と会うことにも不快に感じるようになってしまっていた。
(もう誰も信じられない・・誰が何をしてくるのか分からない・・・)
リオがさらに不安と疑心暗鬼を募らせていく。
(レンさんもガルヴォルスだった・・そのレンさんに気を許していたなんて・・私・・・!)
ガルヴォルスであるレンと親しくなっていた自分を、リオは許せなくなっていた。
(ガルヴォルスや身勝手な人間じゃない・・私が1番許せないのは、そんなのに気を許していた私自身・・・)
「リオちゃん・・・」
自分を責めていたリオの前に、追いついてきたレンが声をかけてきた。
「僕のことを許さなくていい・・だけど、怒りや憎しみをリオちゃんの全てにしないでほしい・・・!」
「そんなこと言われても・・私にはもう、怒りや憎しみしか残っていない・・・!」
呼びかけるレンに対して、リオが感情を口にする。彼女は自分の中にある辛さを思い起こしていた。
「今の私には、その気持ちをぶつけていく・・それしかない・・・!」
「自分にはそれしかないと思わないで・・勝手に自分をそうだと思い込まないで・・・!」
「それじゃどうすればいいんです!?身勝手や理不尽の言いなりになっていけというんですか!?」
説得していこうとするレンに、リオが声を振り絞って問い詰める。押し黙ってしまうレンに、リオが歯がゆさを浮かべていく。
「私にそんな生き方はできない・・その生き方を選ぶなら、最初からこんな争いはしていなかった・・・!」
「それじゃリオちゃんは、世界の敵になってもいいというのか・・・!?」
「世界が私の敵になった・・人間にもガルヴォルスにもなりきらない中途半端な私を、誰も受け入れるはずもない・・・!」
問い詰めてくるレンに、リオが世界への憤りを噛みしめていく。
「そんなムチャクチャなのを受け入れられるほど、私はもうおとなしくない・・・!」
「リオちゃん・・・」
「私は戦う・・これ以上、悲劇を繰り返させない・・・!」
困惑を見せるレンに言い返して、リオが右手から刃を引き出す。刃の切っ先を向けてくる彼女に、レンは苦悩を深めていく。
「そこまで意思を固くしているのなら、もう仕方がない・・僕が君を止めるしかない・・・!」
「私は倒す・・ガルヴォルスも、私を陥れようとする人全員!」
リオを止める意思を固めるレンと、レンを含めた敵を倒そうとするリオ。リオがレンに飛びかかって刃を突き出した。
レンが刃をかわして、リオに組み付いて爪を突き立てる。力で押さえつけられて、リオが動きを止められる。
「君はヘブンでお客様にカレーだけでなく、笑顔と幸せも届けていた!そんなみんなまで、君は傷つけたいというのか!?」
レンがリオに対して憤りをあらわにしてきた。
「どんな理由を突きつけても、ヘブンのみんなを裏切るようなことをするなら、僕は君を許さない!」
レンが怒りの言葉を言い放ち、リオに拳を叩き込む。
「うっ!」
重い衝撃に襲われてリオがうめく。レンが彼女にさらに拳を叩き込んでいく。
体に痛みがのしかかって、リオがレンの前で膝をつく。
「もうやめるんだ、リオちゃん・・戦って倒して、命を奪うことが、リオちゃんの本心というわけじゃないでしょ・・・!?」
リオを説得しようと、再び声をかけるレン。しかしそれでもリオはレンの言葉を聞き入れようとしない。
「違う・・これは、私の本心・・私を守るために・・戦って倒して、敵を滅ぼす・・・!」
「リオちゃん・・ちゃんと自分の気持ちを確かめるんだ・・そんなこと、君の家族や友達が喜ぶと思っているのか!?」
「そうしないと・・お父さんもお母さんも、ナオミも浮かばれない・・みんなが死んだのが間違いじゃないことにされるのは、どうしても我慢できない・・・!」
「それが、みんなが願っていないことだとしてもか・・・!?」
あくまで戦おうとするリオに、レンがさらに憤っていく。
「このまま戦っていったら、君はきっと後悔する・・そんなこと、僕は許せない・・・!」
レンが声と力を振り絞って、さらにリオに拳を叩き込んでいく。
「無理やりにでも、僕は君をヘブンに連れ帰る!そしてみんなのことをもう1度目に焼き付けさせる!」
レンにさらに殴り飛ばされて、リオが地面を転がって倒れる。彼女の腕をつかもうと、レンがゆっくりと近づいてくる。
(イヤ・・私は・・これ以上・・身勝手に振り回されたくない・・・)
リオが心の中で不条理への抵抗を募らせる。
(私の生き方は・・私が決める・・お前たちが勝手に決めるな!)
激高したリオの姿が刺々しいものへと変わった。その衝撃でレンが吹き飛ばされる。
「これは・・・!」
刺々しい姿となったリオを目の当たりにして、レンが緊迫を膨らませた。
「これが、リオちゃんの本気の姿と力・・・!」
「私の生き方は私が決める・・誰にも勝手に決めさせはしない・・・!」
息をのむレンにリオが鋭い視線を向ける。リオは両手から刃を出して、レンに迫っていった。
リオとレンの動きと攻防は、兵士たちによって監視されていた。リオたちは兵士たちの指定したポイントに踏み入れることになってしまった。
「民間人の避難は完了しています。いつでも爆破できます。」
「よし。すぐに爆破だ。一気に吹き飛ばせ。」
兵士たちがレンもろともリオに対して爆弾を一斉に爆発させた。2人のいる場所で爆発が巻き起こった。
爆破に巻き込まれて、リオが空中に跳ね上げられた。レンも紙一重で爆発を避けるのが精一杯だった。
「アイツら・・僕も一緒に吹き飛ばすつもりだったのか!?」
レンが兵士たちへの疑念と憤りを覚える。
「くっ!・・また、私を陥れようとして・・・!」
地上に落とされたリオが、体に痛みを覚えてうめく。彼女はさらに憎悪を募らせて、体から禍々しいオーラを発していた。
「リオちゃん、君は逃げるんだ!部隊は私もともに、ガルヴォルスである君も始末しようとしている!」
「ふざけるな・・そうやって私を追い込もうとしても・・・!」
呼びかけるレンだが、リオは聞き入れようとしない。
「死にたいのか!?」
するとレンがリオに怒鳴りかかった。声を振り絞ったレンに、リオが思わず息をのむ。
「生きてくれ・・それも、心優しい人間として・・・!」
「レンさん・・・」
呼びかけてくるレンに、リオは戸惑いを感じていく。
「君も人の優しさや笑顔の素晴らしさを分かっているはずだ・・怒りや憎しみをぶつけるよりも、笑顔と幸せを分かち合うことのほうがずっといいと・・君も知っている・・」
レンはリオに微笑みかけて小さく頷いた。
そこへ兵士たちが駆けつけて、リオとレンに銃を向けてきた。
「まだ生きていたとは、しぶといヤツらだ・・!」
「だがダメージは大きいはずだ!ここでとどめを刺してやる!」
兵士たちがリオに対して発砲する。リオは力を振り絞って、刃を振りかざして弾丸を弾く。
「撃ち続けろ!防御が間に合わなくなる!」
兵士たちがさらに発砲を続けていく。リオは弾丸の対処が追いつかなくなっていく。
さらある弾丸がリオに向かって飛び込んできた。だがその弾丸が命中したのはリオではなくレンだった。
「ぐっ!・・・リオちゃんを・・心ある人間に・・・!」
「レンさん・・どうして・・・!?」
うめくレンにリオが目を疑う。倒れそうになるのをレンはこらえる。
「コイツ、我々を裏切ったか・・!」
「どの道ヤツも葬られる対象だ!2人まとめてやれ!」
兵士たちがさらに発砲していく。レンは爪を振りかざして、弾丸を弾いていく。
「生きるんだ、リオちゃん!生きて、ナオミちゃんのような心のある人を守ってあげて・・!」
「レンさん・・何を言って・・・!?」
「君は心まで怪物になってはいけない・・間違いを犯すのは、僕だけでいい・・・!」
声を荒げるリオにレンが呼びかける。レンは兵士たちに鋭い視線を向けて、手の爪を構える。
「行くんだ、リオちゃん!振り向かずに走れ!」
「レンさん!」
レンに怒鳴られて、リオが力を振り絞って走り出した。同時にレンが兵士たちに向かって飛びかかった。
(リオちゃん・・ガルヴォルスであっても、人間として生きてくれ・・・!)
リオが平穏に生きていくことを心から願い、レンは命を捨てて兵士に立ち向かった。彼はガルヴォルスでありながら人間の心を失うことはなかった。
(リオ・・・!?)
暗闇の中を歩く1人の少女が、突然一抹の不安を感じた。
(リオ・・もう、私が助けに行かないといけないみたい・・・)
少女は不安に駆り立てられて、きびすを返して走り出していった。
次回
「どうしても、倒さないといけない相手がいる・・・」
「やはりリオさん、ハルと・・・」
「ガルヴォルスであるお前を、どうしても許すことはできない・・・」
「誰だろうとどんな理由だろうと、僕とアキを追い込むヤツは許さない・・・!」