ガルヴォルスFangX 第19話「親」
僕は楽しい遊びがしたかっただけ。
ゲームとかネットとかを楽しくやれたらそれでよかった。
でも僕の親はそれを邪魔した。
いつもいつも勉強しろって言ってきた。
最初はそれが正しいことかなと思った。
でもそうじゃなかった。親は自分が満足したいだけだった。
自分が満足するためなら、アイツらは僕をいじめて喜ぶことも平気でやる。
そんなヤツらに僕の遊びを邪魔されてばかりなのは我慢できない。
僕にあの力が入ったのはラッキーだった。
僕は遊ぶのに邪魔な親を始末した。
邪魔者がいなくなって、僕はとっても嬉しくなった。
でも1人でゲームやネットばかりやっていても、少ししたら飽きちゃった。
僕は外に出て新しい遊びをするようになった。
それは手に入れたこの力を使って、強い相手と勝負すること。
でも同じ力を持っているヤツでも、僕と比べたら弱いヤツばかり。
僕を楽しませてくれるヤツはずっと出てこなかった。
だけど今、やっとその相手が見つかったよ。
あの子と遊んで倒すのが、僕の今の最高の楽しい遊びとなった。
そして僕は、心から満足する。
ハルとアキの前にも、リオとリュウキは姿を現した。
「こっちに来るな・・アキを怖がらせるな・・・!」
「お前たち・・ガルヴォルスの指図は聞かない・・・!」
ハルが声を振り絞るが、リュウキと交戦するリオは聞こうとしない。
「怖がらせるなって言うのが分かんないのか!」
激高したハルがアキを引き離して、ファングガルヴォルスとなる。アキがハルとリオを見て不安を募らせていく。
「アキはオレの心の支えだ・・それを壊そうとするのは、何だろうとどんな理由だろうと、オレは許さない!」
ハルは憤りをあらわにして、体から刃を引き抜いて手にして、リオとリュウキに飛びかかる。2人の間にハルが刃を振り下ろす。
「やはり私の邪魔をするのか!」
「ちょっと・・せっかく楽しい遊びをしてるのに・・」
リオがハルに憤り、リュウキも不満を感じていく。
「まぁ、君も遊び相手としては十分すぎるからね・・君も倒して、もっと満足するかな・・」
リュウキは笑みをこぼして、ハルに向かっていって剣を振り下ろしてきた。刃で迎え撃ったハルだが、強くなっているリュウキの剣に簡単に刃を折られてしまう。
「ぐっ!」
リュウキの一閃の衝撃で、刃を持っていた右手にしびれを覚えるハル。リュウキが彼に向かって再び剣を振りかざしてきた。
「オレは、お前たちにやられるつもりはない!」
怒号を放ったハルの体が刺々しいものへと変わった。ハルは一気にスピードを上げてリュウキの剣をかわして、彼の体に拳を叩き込んだ。
「うっ!」
体に痛みを覚えてうめくリュウキ。彼はさらにハルに強く蹴り飛ばされる。
さらにハルがリオに向かっていく。彼は再び体から刃を引き抜いて、リオに振りかざして引き離そうとする。
「アキに近づくな!傷つけるな!」
「お前たちガルヴォルスの言うことは聞かないと言っている!」
声を張り上げるハルとリオ。2人が刃を激しくぶつけ合っていく。
「言っても聞かない・・そこまで物分かりが悪くなったのか・・お前は!」
激高したハルが禍々しいオーラを全身から発しながら突進する。リオが突き出した両手の刃を突き立てられてもものともせず、ハルは彼女を力任せに突き飛ばした。
「これで・・これでアキを守れる・・・」
「ハル・・・!」
おもむろに笑みをこぼしたハルに、アキが駆け寄ってきた。ハルは人の姿に戻って、アキに振り返る。
「リオさんを傷つけて、よかったの・・・?」
「アキをリオに傷つけさせるわけにはいかない・・僕は、どんな理由があっても、落ち着くのを壊されたくないんだ・・・」
アキが問いかけると、ハルが歯がゆさを浮かべて自分の考えを口にする。
「私、何となく分かった気がする・・リオさん、支えてくれる人がいなくなって、絶望して、暴走している・・何もかも、私さえも信じられなくなっていた、あのときのハルみたいに・・・」
「それを言わないで・・どんな理由があっても関係ない・・僕はアキといつまでも一緒にいたい・・」
不安を口にしていくアキに、ハルが言葉を返す。彼の言葉にアキが戸惑いを覚える。
「私ばかり守られていて・・本当のいいのかな・・・」
「いいんだよ・・アキがいなかったら、僕はどうかなってしまう・・・」
「今の、リオさんみたいに・・・」
「リオは関係ない・・僕たちは僕たちだ・・・」
困惑を募らせているアキを、ハルが抱きしめてきた。彼との抱擁から、アキは彼の気持ちを受け止めていく。
「行こう・・僕たちにはまだ、やらないといけないことがある・・・」
ハルはアキと一緒に歩き出す。ハルは自分たちの平穏のためなら、リオの戦いに介入しない選択肢も選ぶようにしていた。
ハルの介入でリオとの戦いの邪魔をされたリュウキ。人の姿に戻っていた彼だが、不満を隠せなくなっていた。
「あの子ととことん遊ぶためには、アイツを1度遠ざけないといけないね・・」
ハルが確実に来ないのを狙って、リオとの戦いをしようと考えるリュウキ。
「アイツの感じを確かめながら、あの子をおびき寄せるか・・そうすれば今度こそ、アイツに邪魔されないで思う存分遊べる・・・」
リオとの勝負を思う存分楽しむため、リュウキは一計を案じる。彼は感覚を研ぎ澄ませて、ハルとリオの居場所を探った。
リュウキとの戦いをハルに妨害されて、リオは憎悪をさらに募らせていた。
「どうして・・どうして私の納得する形に全然ならないの・・・!?」
憤りを隠しきれず、リオが握り拳をそばの壁に叩きつける。
「もう私には何もない・・父さんも母さんも、ナオミもいない・・みんなの気持ちに報いることもできないなんて・・そんなの絶対認めない!」
激高したリオが感覚を研ぎ澄ませて、リュウキの気配を探った。彼女はすぐに移動するリュウキの気配を捉えた。
「ハルに邪魔されないように移動している・・都合よくされているのが癪に障るが・・」
腑に落ちない気分を抱えたまま、リオはリュウキを追って歩き出していった。
リオを追い続けていたサクラだったが、彼女やリュウキの気配を感じながらも見つけることができないでいた。
「リオちゃん、ホントにどこに行っちゃったの!?・・さっき、ハルの気配も感じたし・・・!」
サクラが頭を抱えて悲鳴を上げていく。
「えーい、しっかりしろ、サクラ・・絶対にリオちゃんを見つけて、落ち着かせないと・・・!」
自分に喝を入れて、リオ探しを続けるサクラ。
「ハルと反対のほうへ行ってる・・・!」
サクラが慌てて携帯電話を取り出す。が、ハルに電話をかけるのを思いとどまる。
「ダメだよ・・ハルだってきっと気づいてる・・追いかけてないのは、ハルが嫌がってるから・・・」
ハルの心境を察したサクラが、取り出した携帯電話を再びしまった。
「あたしだけでも、リオちゃんを探して止めないと・・・!」
サクラは自分だけでもリオを探そうと思い立って、走り出していった。
わざと自分のガルヴォルスの力を上げて、リオを誘い出そうとするリュウキ。彼はリオが気配を感じ取って近づいてきていることに気付いていた。
「そうだよ・・僕の所へ遊びに来てよね・・僕をもっと楽しくさせてよ・・・」
期待を膨らませて、リュウキが笑みを強めていく。
「もう誰にも邪魔させない・・僕はこの1番の遊びを、思う存分楽しむんだから・・・」
リオとの勝負を待ちわびて、リュウキさらに笑みをこぼしていく。彼がおもむろに立ち上がったところで、リオがその眼前に現れた。
「やっぱり気づいてこっちに来てくれたね・・・」
「お前の誘いに乗ることになったのは納得いかないが・・ここでお前との決着をつけてやる・・今度こそ・・・!」
笑みをこぼすリュウキに、リオが鋭い視線を向ける。
「お前の息の根を止めれば、お父さんもお母さんも、ナオミも浮かばれる・・・」
「親なんて関係ない・・僕は楽しい遊びができればいいんだから・・・」
「お前にも親がいたんだろう・・親からいけないことだと、言われなかったのか・・・!?」
「僕に親なんていらない・・僕の邪魔をする親なんて、いなくなったほうがいいんだよ・・」
リオが投げかけた不満を、リュウキは逆に不満を込めて言い返した。
「親は僕の遊びを邪魔して喜ぶだけ・・だから身の程を分からせるために僕がやっつけてやったんだよ・・」
「お前は、家族や友達の気持ちや大切さを何も変わっていない・・分かろうともしていない・・・!」
リュウキの態度と考えに憤りが頂点に達したリオ。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「そんなお前のようなヤツのために・・私たちやナオミだけじゃない・・他の罪のないみんなも!」
リオがソードガルヴォルスとなって、右手から刃を引き出す。
「やはりお前は、私が殺さないといけないようだ・・お前は体も心も人間じゃない・・・!」
「別に何だっていいよ・・楽しい遊びができるなら・・・」
敵意をむき出しにするリオに対して、リュウキが笑みを消す。彼の頬にも紋様が走り、姿がキラーガルヴォルスとなる。
「それじゃ存分に楽しませてもらおうかな・・最後に僕が勝って、思いっきり満足するんだから!」
リュウキが笑みを強めて、具現化した剣を手にしてリオに飛びかかる。
「お前のようなヤツが、満足するなんてことはない・・私がさせない・・・!」
リオが言い放ち、リュウキに向けて刃を振り上げる。彼女の刃とリュウキが振り下ろしてきた剣がぶつかり合って、周囲に衝撃を巻き起こす。
「この調子・・この調子でどんどん本気になってよね・・・!」
リュウキが力を強くしていって、禍々しいオーラを体から発していく。
「お前に言われるまでもない!」
リオも体からオーラを放って、左手からも刃を引き出して振りかざす。
「おっと!」
リュウキはとっさに後ろに下がって、リオの刃をかわす。リオはすぐに飛び込んで、リュウキに向けて再び刃を振りかざす。
2本の刃を振りかざすリオ。彼女の2本の刃を剣で受け止めるも、リュウキは徐々に押されていく。
「僕は負けない・・勝ったほうが楽しさが全然違うからね!」
リュウキが反撃を仕掛けて、リオに向けて剣を振りかざしていく。リオは刃で剣を受け止めて弾いていく。
「お前だけは絶対に許さない・・今度こそ・・今度こそこの手で・・・!」
リオが左手の刃でリュウキの剣を弾いて、右手の刃を突き出してきた。だがリュウキの左手にはもう1本の剣が握られていた。
リオの右手の刃をリュウキが左手の剣で受け止めて弾いた。
「だから僕は負けないって・・君は僕に倒されて、僕の満足を増やすことになるんだから・・!」
リュウキが目を見開いて左手で持っている剣を振りかざしてくる。
「私は負けない・・お前たちを滅ぼすまでは、絶対に死なない!」
リオは怒号とともに全身から衝撃波を放つ。この衝撃でリュウキが一瞬動きを鈍らせた。
その瞬間にリオが両手の2本の刃をリュウキの体に突き立てた。
「ぐっ!」
体を刺されて苦痛を覚えるリュウキ。彼は痛みに耐えて、リオに2本の剣を振り下ろす。
「僕は、お前にやられるなんてことは・・!」
次の瞬間、リオが突き刺している刃を振り上げて切り裂いて、そのまま剣を弾き飛ばした。
「もう終わりだ・・お前がしている遊びの時間は・・・!」
リオは鋭く言いかけると、上げていた刃を振り下ろした。リュウキの体が切り裂かれて、鮮血をまき散らして倒れていった。
手足を失って動けなくなったリュウキの前に立って、リオが鋭く見下ろしてくる。
「これでお前は何もできない・・ここで私に殺されるしかない・・・」
「フフ・・・お前との遊びも、ここまでかな・・・」
低く告げるリオに、リュウキが弱々しく笑みをこぼす。
「楽しかったよ・・お前とのあそ・・」
言いかけていたリュウキが、リオの刃で頭を切られた。リオはリュウキの息の根を完全に止めた。
「やった・・やったよ・・お父さん・・お母さん・・・」
両親の仇を討てたことに笑みをこぼすリオ。彼女は空を見上げたまま、人の姿に戻る。
「これで・・お父さんとお母さんが苦しさを一方的に背負い込むことはなくなったよ・・・」
喜びの声を上げていくリオ。彼女の目からは涙があふれていた。それが本当に喜びの涙なのか、素直に喜べない空しさの涙なのか、リオ自身には考えることもできなかった。
リオとリュウキの強い気配は、ハルも感じ取っていた。ハルはそれを察して、2人から遠ざかろうとしていた。
その途中、ハルはリュウキの気配が消えて、リオの気配が弱まっていったことに気づいて足を止めた。
「ハル・・・?」
アキも立ち止まって、ハルに戸惑いを感じていく。
「あの2人の戦い・・決着がついたみたいだ・・」
「リオさん・・・これで、リオさんは安心して・・・」
「それは分からないよ・・今のアイツの敵はガルヴォルスだけじゃなくなってるみたいだから・・・」
アキが口にした言葉に、ハルが不安を込めて言い返す。
「あの兵士たち・・リオさんも、あの人たちのことを恨んでいると思う・・そして、ガルヴォルスだけじゃなく、人間も信じられなくなって・・・」
「だから何もかも敵だと思って戦う・・でも僕は、人間もガルヴォルスも関係ない・・僕の敵に回って、僕たちを追い込もうとするヤツを叩きのめすだけだ・・」
アキが不安を口にすると、ハルが頑なな意思を示す。
「リオが僕たちを敵だと思い込んで攻撃してきても、僕は容赦しない・・僕は僕たちの安心がほしいだけなんだ・・・」
「ハル・・・」
本音を口にしていくハルに。アキは困惑を募らせていた。ハルの思いを尊重したいのが本音だが、リオの気持ちを一方的に踏みにじりたくもないのも確かだった。
「ゴメン、ハル・・私、ハルみたいにすぐに選択できない・・ハッキリしないといけないのに、どうしても迷いが出てきてしまう・・・」
「アキ・・・僕もどうしたらいいのか分からないことばかりだよ・・迷って悩んで、どうするのがいいのか・・そうしていって決めた今だから・・・」
謝るアキに、ハルがハルなりの弁解を入れる。アキはハルに反論することができなかった。
「あれ?・・雨・・・」
そのとき、空から雨が降ってきて、アキが手をかざす。
「少し急ごう・・雨宿りしないと・・・」
「うん・・・」
ハルの声にアキが頷く。2人は雨宿りできる場所に向かって走り出していった。
空から大粒の雨が降り注いできた。その雨をリオは浴びていた。
雨に濡れていたリオは、頬を伝っているのが雨だけなのか、涙も混じっているのか分からなくなっていた。
(私はお父さんとお母さんの仇を討ったのに・・どうして・・どうして素直に喜べないの・・・!?)
だんだんと不安を感じるようになっていくリオ。彼女は込み上げてくる辛さを拭うことができないでいた。
そのリオの前に兵士たちが現れて、銃を構えてきた。
「今の私の前に現れたのは不幸だったな・・他の不幸が幸運と思えるほど・・・」
リオが雨と涙を拭うことなく、兵士たちに振り返る。彼女の頬に紋様が浮かび上がったときだった。
兵士たちをかき分けて、1人の人物が前に出てきた。その人物にリオが目を見開いた。
「そんな・・・レンさん・・・!?」
驚愕を隠せなくなるリオ。彼女の前に現れたのはレンだった。
次回
「レンさん・・どうして・・・!?」
「リオちゃんにこんなことはしたくなかった・・・」
「ヘブンのみんなを守るためなんだ・・・」
「リオちゃん・・・本当にゴメン・・・!」