ガルヴォルスFangX 第17話「親友」
リオを追いかけてマンションの近くに来ていたサクラ。しかし兵士の銃の銃声と火薬の悪臭が、サクラの耳や鼻に伝わってきていた。
(もしかしてリオちゃん、兵士っていうのに狙われてるんじゃ・・・!?)
危機感と不安を感じたサクラが、ガルヴォルスとしての高い感覚を研ぎ澄ませて、リオの行方を探る。
(リオちゃん、どこ!?・・何か声を出して・・何か力を使って・・・!)
リオの居場所を必死に見つけようとするサクラ。
「走りながら見つけていくしかないかな・・・!」
焦りを浮かべながら、サクラはリオを追い求めて走り出した。ガルヴォルスや兵士たちに警戒を傾けながら。
兵士たちの一方的な攻撃で左肩を撃たれたリオ。彼女は必死に兵士たちから離れようとしていた。
(あの人たち、私の話を全然聞いてくれない・・私がガルヴォルスだから・・・)
リオの心の中に不安と混乱が駆け巡っていた。
(話を聞いてくれてもいいのに、聞こうともしなかった・・ガルヴォルスじゃなく、人間なのに・・・)
込み上げてくる不安のあまり、体を震わせるリオ。移動していくこともままならなくなり、彼女はたまらず自分の体を抱きしめる。
(どうしたらいいの・・・私、どうしたら・・・!?)
「リオちゃん!」
そのとき、リオは呼び声を耳にして顔を上げた。彼女を探していたサクラが駆け込んでいた。
「あなた・・どうして・・・!?」
「エヘヘ・・リオちゃんが心配になってきちゃって・・・」
困惑を見せるリオに、サクラが苦笑いを見せる。
「ナオミは!?ナオミと一緒にいなくちゃダメじゃない!」
リオが憤りを感じてサクラに詰め寄る。
「あの兵士やガルヴォルスが、ナオミを狙わない保障なんてない!1人にしておくのは危険なんですよ!」
「そんな・・そんなこと・・・」
「とにかく1度ナオミのところへ戻るわ!私に捕まって!一緒に行きますよ!」
リオがサクラを抱えて、ソードガルヴォルスとなって走り出した。
「あ、あの、ちょっと・・移動しながらでもいいから、話を聞いて・・・」
サクラが深刻さを込めて、リオに話を切り出した。
「ガルヴォルスを憎んでるリオちゃんにこういうことを話すのは気が重いんだけど・・あたし・・」
サクラがリオに自分のことを打ち明けようとしたとき、2人は待っていたナオミのところへ到着した。
「ナオミ!・・ナオミ・・無事だったんだね・・・!」
人の姿に戻ったリオが、ナオミの無事を確かめて安堵の笑みを浮かべる。
「リオ・・マンションの様子は、どうだった・・・?」
「うん・・兵士たちが隠れていた・・有無を言わさずに私を撃ってきた・・」
ナオミが問いかけると、リオが深刻な面持ちを見せて答える。
「私が怪物だから・・あの人たちは私を敵だと思って・・」
「そんなの、いくらなんでも横暴じゃない!」
リオが困惑を浮かべると、サクラが兵士たちに対する不満を口にしてきた。
「それは人間とかガルヴォルスとか関係ない!身勝手な人だから許せない!・・って、ハルならきっとそう考えるはずだよ・・」
「ハル・・ハルって、まさか・・・!?」
サクラの言葉を聞いて、リオがハルのことを思い出して緊迫を覚える。
「ここにみんないたんだね・・」
そこへリュウキが現れて、リオたちに悠然さを見せてきた。
「あなた・・・!」
「さっきは邪魔が入ったけど・・今度は邪魔されずに遊べそうだよ・・・」
緊迫を覚えるリオの前で、リュウキがキラーガルヴォルスに変貌する。ナオミを守ろうとリオが戦意をむき出しにする。
「リオちゃんはナオミちゃんを連れて逃げて!」
するとサクラがリオに呼びかけて、リュウキの前に立つ。
「サクラさん、それだとあなたが危険に・・!」
「いいから早く!アンタがナオミちゃんを守ってあげて!」
声を上げるリオにさらに呼びかけて、サクラがリュウキに向かっていく。彼女がキャットガルヴォルスへと変わる。
「あなたも、ガルヴォルスだったの・・・!?」
リオがサクラに対して驚愕と疑心を覚える。
「あなたもハルと同じ・・私を騙して・・・!」
「リオちゃん、ナオミちゃん、逃げて!」
困惑しているリオに、サクラが呼びかける。彼女が振りかざす爪を、リュウキが軽々とかわしていく。
「ふざけないで・・あなたも、私を陥れようとして・・・!」
「ナオミちゃんを助けられるのは、リオちゃんしかいないんだよ!」
疑心暗鬼に駆られるリオに、サクラが声を張り上げる。この声に突き動かされて、リオがナオミを連れて走り出した。
「僕が遊んでほしいのはあの子なんだけどなぁ・・」
「あたし相手じゃ不満だって言うの!?」
ため息をつくリュウキに、サクラが不満の声を上げる。
「でもいいよ・・そんなに遊んでほしいなら、僕も遊んであげる・・・」
リュウキが目つきを鋭くして、サクラに向かって飛びかかる。サクラが素早く動いて、リュウキの攻撃をかいくぐる。
「速く見せたって面白くないよ・・僕には分かってるんだから・・」
リュウキが笑みを浮かべて、一気にスピードを上げた。彼のスピードがサクラの左腕を捉えた。
「うあっ!」
引き寄せられたサクラが、そのままリュウキに投げ飛ばされる。彼女はすぐに体勢を整えて踏みとどまる。
「やっぱりあの子のほうが楽しいなぁ・・・」
リオへの興味を見せて、リュウキが剣を具現化させる。向かってきた彼にサクラが身構えた。
サクラに促されて、リオはナオミを連れて逃げていた。しかしリオはガルヴォルスだったサクラにも疑念を抱いていた。
(あの子もガルヴォルスだった・・あの子も、私を騙して、私たちを追い込もうとして・・・!)
リオがさらなる疑心暗鬼に囚われていく。
「リオ・・・?」
ナオミに声をかけられて、リオが我に返る。
「リオ、大丈夫?・・サクラちゃんのことも心配だけど・・・」
「あの子もガルヴォルスだった・・私の・・私たちのことを騙していたのよ・・・」
「違うって!サクラちゃんはそんなこと考える子じゃない!リオを一緒に探してくれたし、親切な子だよ!」
「騙されないで!ガルヴォルスは自分勝手!自分たちのことしか考えない悪い連中だよ!」
「それはリオを狙ってる人たちだって同じじゃない!」
サクラへの疑念を口にするリオに、ナオミが感情を込めて怒鳴る。彼女に強く言われて、リオが押し黙る。
「正直怪物だったことにはビックリしたけど、サクラちゃんだってことは変わってない!裏表のある性格をしてるようにも見えなかったし・・!」
「それがガルヴォルスの手口なんだよ・・あの連中は、そうやって私の家族を殺して、私たちを陥れて・・・!」
「じゃあ、リオは何であたしを信じてるの!?」
「それは・・・!」
ナオミに言いかけられて、リオが口ごもってしまう。
「あたしが人間だから!?それだけであたしを信じたっていうの!?」
「違うよ・・ナオミを信じたのは、優しくて明るくて・・ナオミはナオミだから・・・」
「あたしはあたし・・だったら、サクラちゃんはサクラちゃんだよね・・人とか怪物とか関係なく・・・」
「でも・・私は・・・!」
「ガンコだね、リオ・・だったら、万が一あたしが怪物になっちゃったら、リオはそれだけであたしを嫌っちゃうの!?」
ナオミのこの問いに、リオは即答できなかった。肯定すればナオミとの友情を壊すことになり、否定すればガルヴォルスを許すことになってしまう。
リオは答えを出すことができず、苦悩を深めるばかりとなっていた。
「そこまでだ、ガルヴォルス!」
そこへ兵士たちが現れて銃を構えてきた。彼らの登場にリオもナオミも緊迫を一気に膨らませた。
「いけない!ナオミ、逃げよう!」
リオがナオミを抱えると、ソードガルヴォルスとなってジャンプする。
「逃がすな!撃て!」
兵士たちがリオに向かって発砲をしてきた。彼らはナオミがそばにいるのも気に留めずに、リオを狙撃してきた。
たまらず目をつぶるナオミを目の当たりにして、リオは兵士たちへの疑念を強めた。
「あなたたちの狙いは私でしょう!?ナオミは関係ないじゃない!」
リオが叫ぶが、兵士たちは聞くことなく発砲を続ける。リオはとっさに動いて、ナオミを守りながら逃げていく。
「ナオミは私と違って人間なのよ!あなたたちは人殺しをするつもりなの!?」
「ガルヴォルスは滅ぼさなければならない。」
「我々の任務の目撃者も始末しなければならない。」
怒りの声を上げるリオに、兵士たちが冷徹に告げる。彼らが目的を果たすためならナオミや関係のない人たちを巻き込むこともいとわないと痛感して、リオはさらなる疑心暗鬼に襲われる。
「どうしたらいいの!?・・・このままじゃ私・・私たち・・・!」
困惑を募らせていたときだった。兵士たちの撃った弾丸が、リオの左腕と左足に命中した。
「ぐっ!」
「リオ!」
痛みを覚えて顔を歪めるリオに、ナオミが悲鳴を上げる。撃たれた手足から血が流れながらも、リオは止まらずに進もうとする。
「ムチャしないで、リオ・・これ以上ムチャしたら、リオが・・・!」
「私自身の体の痛みなんて、ナオミに何かあったらっていう不安の痛みに比べたら・・・!」
悲痛の声を上げるナオミだが、リオは痛みに耐えて進もうとする。その2人を兵士たちが取り囲んできた。
「そこまでだ、ガルヴォルス!」
「まずはお前から始末するぞ!」
兵士たちがリオとナオミに向けて銃を構える。
(ナオミを守らないと・・でも相手は人間・・人間を傷つけたら、私は本物のガルヴォルスになってしまう・・・!)
兵士たちを傷つけることをためらい、リオが苦悩する。彼女は自分の感情だけで人を襲うガルヴォルスと同じになってしまうのを恐れていた。
(ナオミを連れて逃げないといけないのに・・体が・・・!)
撃たれた痛みで思うように動くことができないリオ。
「やれ!一気にガルヴォルスを葬るのだ!」
兵士たちがリオに向けて発砲をしてきた。だがその弾丸はリオには当たっていなかった。
兵士たちに撃たれたのは、リオを庇ったナオミだった。
「ナオミ・・・!?」
リオはこの一瞬に目を疑った。彼女の前でナオミが力なく倒れていく。
「ナオミ!」
リオがたまらず人の姿に戻って、倒れたナオミを受け止めた。
「ナオミ!しっかりして、ナオミ!」
「リオ・・よかった・・リオには当たらなかったんだね・・・」
呼びかけるリオに、ナオミが微笑みかけてくる。
「ナオミ・・どうして・・・!?」
「私も何か、リオの力になれたら・・そう思ったら・・体が動いて・・・」
困惑しているリオに、ナオミが声を振り絞る。
「リオを助けられて・・あたし、とっても嬉しい・・」
「しゃべらないで、ナオミ!すぐに病院に・・!」
「あたしのことは気にしないで・・リオ・・もう悩みや復讐っていうのを抱えないで・・・」
慌てふためくリオに、ナオミが必死に呼びかけていく。
「リオが誰だって構わない・・人間とか怪物とか関係ない・・・リオはリオ・・リオだから、あたしは大好きなんだよ・・・」
ナオミが力を振り絞って、リオに手を伸ばす。
「いつまでもどこまでも、リオと一緒なんだから・・・」
「ナオミ・・・私も、ナオミが大好きだよ・・ナオミはナオミだから・・・!」
リオが目に涙を浮かべながら、ナオミが差し伸べた手を取った。
「リオ・・・ありがとうね・・・」
リオに向けて感謝を口にした直後だった。ナオミの手がリオの手から滑り落ちた。
「ナオミ・・・!?」
目を見開くリオの前で、ナオミが動かなくなった。
「ナオミ!」
ナオミの死に直面して、リオが悲痛の叫びをあげた。彼女は無二の親友を失った悲しみを膨らませていた。
「死なないで、ナオミ・・あなたまでいなくなったら、私は独りに・・独りに・・・!」
ナオミを失った悲しみで、リオが絶望を感じて苦しんでいく。彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちてくる。
「お願い・・ナオミ・・目を開けて・・また、笑顔を見せて・・・」
「今度こそ終わりだ、ガルヴォルス!」
そこへ兵士たちが銃を構えて、リオにとどめを刺そうとする。彼らの言動がリオの感情を逆撫でした。
「あなた・・人殺しをしておいて、何も感じないの!?・・私からナオミを奪ったお前たち・・・!」
怒りを膨らませるリオの頬に紋様が走る。
「お前たちは人間じゃない・・ガルヴォルスと同じ、身勝手な悪魔と同じだ!」
激高したリオがソードガルヴォルスになり、一気に刺々しい姿へと変わった。
「ガルヴォルスが!」
「撃て!完全に息の根を止めるのだ!」
兵士たちがリオに向けて銃を連射する。しかし放たれた弾丸はリオに命中する前に、彼女から発せられているオーラにかき消される。
「効かない、だと・・!?」
「お前たちもガルヴォルスと同じ・・自分たちのためなら、他のヤツも平気で虐げる・・・!」
驚愕する兵士たちに、リオが憎悪の視線を向ける。
「逃がさない・・ここで全員、私が始末する!」
怒号を放つと同時に、リオが素早く動く。とっさに銃を構えた瞬間、兵士の大半が体を切り裂かれて、血しぶきを上げながら倒れていった。
「これほどまでの力があるとは・・・!」
「ここは撤退だ!体勢を立て直す!」
危機感を覚えた兵士たちがリオから離れようとする。だがすぐにリオに回り込まれる。
「逃がさないと言ったはずだ・・お前たちはここで全員、私が殺す・・・!」
リオが鋭く言いかけて、両手から刃を引き出す。
「おのれ・・おのれ、ガルヴォルス!」
兵士たちがひたすら銃を連射する。しかし放った弾丸がリオに命中することはなかった。
リオが目にもとまらぬスピードと振りかざした刃で、残りの兵士たちが切り刻まれた。
リオを狙っていた兵士たちは、彼女の手にかかって一部隊が壊滅することになった。
「ナオミ・・ゴメン・・・こんなことをしても、ナオミが喜ぶはずがないのに・・こうしないと・・自分が壊れてしまいそうだった・・・」
ナオミへの謝意を口にして、リオが人の姿に戻る。彼女は絶望を感じて、体を震わせていた。
「ゴメン、ナオミ・・本当にごめんなさい・・・私、ナオミを守れなかった・・ナオミを助けられなかった・・・」
ナオミを失った悲しみがこみあげてきて、リオが大粒の涙を流す。彼女はそのまま力なくその場に膝をついた。
「もう私には何もない・・何も、信じることができない・・・」
一気に疑心暗鬼に囚われていくリオ。彼女はガルヴォルスだけでなく、人間に対しても敵意を抱くようになっていった。
「私は全てが許せない・・ガルヴォルスも人間も・・自分のことしか考えない連中は、全て・・・!」
リオの疑心暗鬼と敵意は頂点に達していた。彼女はナオミを抱えると、ゆっくりと歩き出していった。
次回
「いいね・・気合入ってて・・・」
「ナオミさんが・・そんな・・・こんなことって・・・!」
「もう・・私の周りの全てが敵・・・」
「私は・・お前たちの存在を許さない・・・!」