ガルヴォルスFangX 第16話「正義の狩人」
交戦をしていたリオとリュウキを、突然兵士たちが取り囲んで銃を構えてきた。
「ねぇ・・せっかく楽しい遊びをしてるんだから、邪魔しないでよね・・」
リュウキが兵士たちに不満を見せて、剣を構える。
「撃て!」
兵士たちがリュウキに向けて発砲した。放たれた弾丸がリュウキの体に命中して破裂する。
兵士たちがリュウキの様子を警戒して見据える。
「痛いじゃないか・・イヤな気分になっちゃうじゃないか・・」
リュウキが再び不満を口にして、兵士たちに向かって飛びかかる。兵士たちがとっさに銃を撃つが、弾丸を剣で弾かれて斬りつけられる。
「ぐあっ!」
兵士が悲鳴を上げて、血しぶきを上げながら昏倒していく。
「怯むな!集中して狙え!」
兵士たちが呼びかけて、リュウキに向けて発砲する。しかし弾を当てられても、リュウキは平然としている。
「しつこいと嫌われちゃうよ・・どうなっても知らないよ・・・」
リュウキは笑みを消して、一気にスピードを上げた。彼が振りかざす剣に斬られて、兵士たちが次々に倒されていく。
「くっ!・・このままでは陣形が・・・!」
「撤退だ!1度ここから離れろ!」
兵士たちが発砲を続けながら、リュウキから離れていく。しかし兵士の数人がリュウキに追いつかれる。
「勝手なことやって逃げるなんて、ずるいじゃないか・・」
リュウキはため息をついてから、捕まえている兵士を剣で突き刺した。仲間が殺されるのを目の当たりにして、そばにいた兵士たちが後ずさる。
「やめろ・・来るな・・来るな!」
兵士が悲鳴を上げながら発砲するが、リュウキには通じず、腕をつかまれてしまう。
「だったら最初から邪魔しなければよかったんだよ・・分かんないもんかなぁ・・?」
リュウキは不満を口にしながら、兵士に剣を振り下ろした。斬られた兵士の鮮血が周囲にまき散らされた。
「僕の邪魔をするからいけないんだよ・・僕は楽しい遊びをしてたんだから・・・」
文句を言うリュウキが人の姿に戻る。この場には彼の他は、兵士たちもリオの姿もなくなっていた。
「あ〜あ・・せっかく面白くなってたのに・・・」
リュウキは肩を落としてから、この場を後にした。
兵士たちの登場による混乱から抜け出してきたリオ。人の姿に戻った彼女に、サクラが駆けつけてきた。
「リオちゃん、大丈夫!?ケガとかしてない!?」
倒れかかったリオを支えて、サクラが呼びかける。
「また・・私はアイツを・・お父さんとお母さんの仇を・・・!」
「リオちゃん・・・」
リオが無意識に口にした言葉を耳にして、サクラが当惑を覚える。
「今は戻ろう・・ナオミちゃん、心配してるよ・・・!」
サクラは呼びかけてから、リオを連れてナオミのところへ戻っていく。
(リオちゃん、ホントにガルヴォルスを憎んでる・・ガルヴォルスになった自分さえも、きっと許せていないと思う・・)
リオの心境を察して、サクラを不安を感じていた。リオがこのまま暴走の道を進み続けていくことを。彼女がハルとアキにまで牙を向けることを。
(何とか・・何とかリオちゃんを落ち着かせないと・・・)
ハルたちを守るため、またリオ自身のため、サクラは彼女を思いとどまらせることを心に決めていた。
「あっ!ナオミちゃん、お待たせー!」
ナオミのところへ戻ってきたサクラが、声をかけて手を振る。
「リオ!・・リオ、無事だったんだね・・・!」
「ナオミ・・今はもう少し離れよう・・大変なことになっているよ・・・!」
喜びと安心を見せるナオミに、リオが深刻な面持ちを見せて呼びかけてきた。
「大変なことって・・どういうことなの・・・!?」
「移動しながら説明するよ・・私自身、どいういうことなのかよく分からないけれど・・・」
疑問を投げかけるサクラにも、リオが声をかける。3人は1度移動をして、リュウキや兵士たちの追跡から逃れることにした。
「ガルヴォルスにやられただと!?」
兵士たちからの報告を聞いて、政治家が怒号を上げる。
「ガルヴォルスの体には、通常の銃火器では歯が立ちません!」
兵士がガルヴォルスの脅威を報告する。
「さらに強力な兵器を投入するにしても、国の混乱を招くことになります!」
「いかがいたしますか・・・!?」
政治家の指示を仰ぐ兵士たち。政治家が彼らに向けて、表情を変えずに指示を出す。
「ガルヴォルスをより多く、1つの地点に集めるのだ。最低でも、お前たちが先ほど遭遇したガルヴォルスだけでも構わん。」
「ガルヴォルスを1つに・・・!?」
「その地点を完全封鎖する。そこで集中砲火を浴びせて、ガルヴォルスを一網打尽にする。」
「了解です!直ちに各部隊に手配します!」
政治家の指示を受けて、兵士たちが行動を開始した。
「我々が力を駆使すれば、ガルヴォルスは人知れず滅びることになる・・」
ガルヴォルス滅亡という野心を抱いて、政治家は不敵な笑みを浮かべていた。
次々と国や世界の上層部への攻撃を行ってきたハル。彼はアキと一緒に街の様子をうかがっていた。
「これだけやっているのに、全然おとなしくならないね、悪い人たち・・・」
「それどころか、最近動きが活発化してるよ・・きっと何か企んでるよ・・・」
不安と深刻さを口にするアキとハル。
「どうしてそんなに僕たちを追い込むんだ・・おとなしくしてくれたら、それで終わりなのに・・・」
「自分が上だと思っていて、それが覆るのを認めたくないんじゃ・・・」
「バカバカしいよ、そんなの・・そんなことを思い込んでる時点で、自分が負けを認めてることなのに・・・」
「それが分からないから、ハルの敵に回っていくんだね・・・」
不快感を募らせていくハルと、彼の心配をして物悲しい笑みを浮かべるアキ。
「とにかく、僕は僕たちの敵を倒すだけだ・・アキをこれからも、僕が守っていくよ・・・」
「ハル・・私、このままハルに守られてばかりでいいのかな?・・ハルにばかり重荷を背負わせて、卑怯じゃないかって思うことがある・・・」
「そんなことない・・アキは僕を助けてくれているよ・・アキは、僕の心の支えだ・・アキがいなかったら、僕は僕でなくなってる・・」
自分を責めるアキにハルが呼びかける。彼はアキがそばにいることを1番の希望としていた。
「いつまでも僕のそばにいて、アキ・・僕は君がいるだけでやる気が出てくる・・・」
「ハル・・・ありがとうね・・本当に、ありがとう・・・」
言いかけるハルに、アキが笑顔を見せて感謝した。彼女の目からはうっすらと涙が流れてきていた。
「1度街から離れよう・・次にどこに行くにしても、少し休んでから・・」
「ハル・・うん・・・」
ハルの言葉にアキが頷いた。2人は休息の場所を求めて、1度街を離れた。
リュウキと兵士たちから逃げたリオ、ナオミ、サクラ。彼女たちはリオとナオミのマンションに向かっていた。
しかしその途中、リオは不安を感じて、ふと足を止めた。
「リオ・・?」
「ナオミ・・今は家に帰らないほうがいいんじゃないかって思えてきた・・・」
声をかけるナオミに、リオが不安を口にしてきた。
「リオ、またそんな・・・!」
「そうじゃないの・・家に帰りたくないわけじゃない・・でもさっきの兵士が、マンションで待ち構えていないとは思えない・・それにみすみす飛び込んで、攻撃されたら・・・」
声を荒げるナオミに、リオが頭によぎったことを語りかけた。彼女の言葉にサクラも納得する。
「だったらあたしが先に様子を見に行ってくるよ。大丈夫そうだったら一緒に帰ろう。」
そこでサクラが提案を持ちかけてきた。するとリオが首を横に振ってきた。
「ううん・・様子を見るのは私がやる・・」
「リオ・・・!」
リオが口にした言葉にナオミが戸惑いを見せる。
「私なら、周りに気付かれないようにうまく確かめられる・・だって私は・・」
「だけど、それじゃリオが・・・」
「大丈夫・・もうナオミに心配かけるのはよくないのは分かってる・・本当に確かめに行くだけだから・・・」
心配してくるナオミに、リオが微笑みかける。戸惑いを感じながらもナオミはリオの言葉を聞き入れることにした。
「それじゃナオミ、サクラさん、行ってくる・・」
ナオミとサクラに声をかけてから、リオはソードガルヴォルスとなって駆け出していった。
(リオちゃん・・やっぱり心配になってきちゃうよ〜・・)
「ナオミちゃん、あたし、リオちゃんを追いかけるよ!リオちゃんに何かあったら大変だからね!」
リオを心配したサクラが、ナオミに声をかけてから走り出していった。
「リオ・・サクラちゃん・・・」
リオとサクラに戸惑いを感じるも、ナオミはただ2人を見送ることしかできなかった。
休める場所を求めて、街とは反対のほうへ向かっていくハルとアキ。2人はだんだんと人気のないほうに向かっていく。
「あんまり人のいないところのほうがいい・・悪いヤツはもちろんだけど、騒がしいとどうしても落ち着かなくなっちゃう・・」
ハルが呟いた言葉に、アキも小さく頷いた。2人はいつしか草原にたどり着いた。
「ここならよさそうかな・・・?」
「そうだね・・あんまり人も来ないし・・」
アキが口にした声に、ハルが落ち着きを見せながら頷く。彼はアキと一緒に大木のそばの茂みに腰を下ろそうとした。
そのとき、ハルはふと動きを止めて周りに注意を向ける。
「ハル、どうしたの・・・?」
アキが声をかけるが、ハルは周りを警戒するばかりだった。
「ハル・・・!?」
「誰かいる・・ガルヴォルスかどうかはまだ分かんないけど、僕たちを取り囲んでる・・それも大勢・・・!」
不安を感じ始めるアキに、ハルが緊張を込めて答える。草原の静寂を打ち破るように、次の瞬間、兵士たちが姿を見せて銃を構えてきた。
「えっ!?」
「アキ!」
声を荒げるアキとハル。ハルがとっさにファングガルヴォルスとなって、アキを抱えて素早く動き出した。
その瞬間に兵士たちが発砲を仕掛けてきた。ハルのとっさの判断で、2人は弾丸を回避することができた。
「アキ、大丈夫!?ケガとかしていない!?」
「うん・・ハルが助けてくれたから・・・」
心配の声をかけるハルに、アキが微笑みかける。その2人に兵士たちが再び銃口を向けてくる。
「どういうつもりだ・・オレたちに何をするんだ・・・!?」
ハルが問い詰めるが、兵士は答えることなく2人に狙いを定める。
「オレたちを放っておいてくれ・・そうすればお互い、イヤな思いをしなくて済むんだ・・!」
さらに呼びかけるハルに対して、兵士たちが発砲してきた。だが全ての弾丸はハルとアキに届く前に突然止まって草地に落ちた。
「これは・・!?」
突然の出来事に兵士たちが動揺を覚える。
「そんなに・・そんなにオレを苦しめたいのか!?」
怒りを現れたハルが全身から衝撃波を放つ。彼は衝撃波で兵士たちが放った弾丸を止めたのである。
「怯むな!2人まとめて射殺だ!」
兵士たちがさらに銃で射撃を行う。するとハルが全身に力を込めて、禍々しいオーラを放出する。
解き放たれたオーラによって、兵士たちの撃った弾丸がかき消された。
「死なないと分からないとでも言いたいのか!?」
ハルが一気にスピードを上げて、兵士たちに迫る。彼が横をすり抜けた直後、兵士たちが切りつけられて昏倒した。
「コイツ、平然と人殺しを・・!」
「貴様、やはり重罪を犯すバケモノだったか!」
兵士たちが怒号を上げる。するとハルが冷徹な視線を彼らに向けてきた。
「お前たちは自分たちが正しいと思い込んで、自分たちと違う考えには耳を貸そうとしない・・ゴミクズの理屈だ・・オレの敵は、どいつもこいつもみんなそうだ・・」
「ガルヴォルス、わけの分からないことを・・・!」
怒りの言葉を口にするハルに、兵士たちがさらに銃を構える。
「ゴミは殺しても罪にはならない・・ゴミ掃除が罪じゃないのと同じだし、お前たちがそうなることを望んだんだから・・・」
不満と憤りのあまり、自分だけの解釈を口にするハル。押し付けられることへの不快感から、彼はそう思い込もうとしていた。
「バケモノは野放しにするな!すぐに始末しろ!」
兵士たちがさらに発砲を行う。一方的に始末しようとする彼らの態度に、ハルの怒りは爆発した。
体から刃を引き抜いたハルが、パワーとスピードを一気に高めた。この一瞬で兵士たちが切りつけられて、鮮血をまき散らしながら倒れた。
「ちょっとでも理解力があれば、こうして死ぬこともなかったんだ・・・!」
「ハル・・・」
憤りを噛みしめるハルに、アキが戸惑いを浮かべる。人の姿に戻ったハルが、アキに近寄る。
「アキ、大丈夫・・・!?」
「うん・・ハルが助けてくれたから・・ハルは大丈夫・・・!?」
「僕は・・体のほうは大丈夫だよ・・でも、心のほうが辛い・・そんな気がする・・・」
アキと心配の声を掛け合って、ハルが不安の面持ちを浮かべる。
「移動しよう・・ここだと安心して休めないよ・・・」
「そうだね・・行こう、ハル・・・」
ハルとアキは草原を離れた。2人は別の休める場所を求めて歩き出した。
マンションの様子をうかがって、無事に帰れるかどうかを確かめに行ったリオ。彼女はその近くで五感を研ぎ澄ませて、誰も隠れ潜んでいないことを確かめていく。
(私のために、ナオミに迷惑がかかっている・・私も、ガルヴォルスだから・・・)
リオがナオミのことを気にして、苦悩を深めていく。
(私もガルヴォルスだから、あの人たちは私も・・・!)
自分もガルヴォルスであることを思い知らされて、リオが手を強く握りしめる。彼女はガルヴォルスへの憎悪を募らせていく。
(ガルヴォルスがいなかったら、私も、みんなも・・・!)
そのとき、リオはマンションの近くで何らかの気配を感じ取って足を止めた。彼女は兵士たちがマンションを取り囲んで監視していることに気付いた。
「隠れていてもムダよ・・出てきて話をしましょう・・」
リオが声をかけて、人の姿に戻った。すると物陰に隠れていた兵士たちが姿を現して、彼女に対して銃を構えてきた。
「待ってください!私、話をしたいだけなんです!」
「ガルヴォルスはすぐに始末しろ!容赦するな!」
呼びかけようとしたリオだが、兵士たちは聞こうとすることなく発砲してきた。リオはとっさにソードガルヴォルスになって、弾丸をかわした。
「やめてください!私はガルヴォルスと戦っているんです!」
「撃て!攻撃の手を休めるな!」
リオの呼びかけに耳を貸そうとせず、兵士は彼女を一方的に敵と定める。兵士たちが放つ弾丸をかいくぐるリオだが、その1発が彼女の左肩に命中した。
「うっ!」
激痛を覚えて顔を歪めるリオが、マンションの近くの草むらに落ちていった。
「追え!遠くへは逃げられないはずだ!」
兵士たちがリオを追って駆け出していく。彼らはリオを含むガルヴォルスの打倒だけを考えていた。
ガルヴォルスであるリオを発見、攻撃しているという知らせは、政治家の耳にも届いていた。
「このままガルヴォルスを追い込め。指定の場所に追い込んで、一気に叩け。」
「了解です。」
政治家の指示に答えて、兵士が行動を再開する。
(そうだ。このままガルヴォルスを根絶やしにしてやるぞ。)
政治家がガルヴォルス打倒を強く頭に焼き付けていく。
(ガルヴォルスは世界の異端者。世界のために、ヤツらは滅びなければならない。)
ガルヴォルスの滅亡が至極当然と認識する政治家。彼らの敵意が、リオのようにガルヴォルスに敵対するガルヴォルスにも向けられていた。
次回
「私も何か、リオの力になれたら・・」
「人間とか怪物とか関係ない・・」
「リオだから、あたしは大好きなんだよ・・・」
「いつまでもどこまでも、リオと一緒なんだから・・・」