ガルヴォルスFangX 第13話「途切れない殺意」
硬い体のスタッグガルヴォルスの前で、リオが刺々しい姿へと変貌した。
「何だ、これは・・力がすごく上がっている・・・!?」
リオが発揮している力を感じて、スタッグガルヴォルスが緊張を覚える。リオがスタッグガルヴォルスに鋭い視線を向けて、手を強く握りしめる。
「ガルヴォルスは許してはおかない・・お前たちを全滅させるまで、私は死なない・・戦い続ける・・・!」
リオは低い声音で告げると、スタッグガルヴォルスに向かって拳を繰り出す。彼女の拳は速く、スタッグガルヴォルスの体を的確に捉えた。
「ぐおっ!」
リオの打撃を受けたスタッグガルヴォルスが激痛を覚えてうめく。リオの拳を受けた彼の体に傷ができていた。
「そんな・・・オレの体に・・・!?」
自分の硬い体に傷をつけられて、スタッグガルヴォルスが驚愕の声を上げる。リオが彼にさらに鋭い視線を向ける。
「このままじゃきっと角も折られる・・そうなったらもう、2度とあの味と感触を味わえなくなる・・・!」
恐怖したスタッグガルヴォルスがリオから逃げ出す。
「逃がさない!」
リオが右手に力を込める。折れたはずの刃が一瞬にして再生、復元された。彼女がその刃を力を込めて振りかざした。
その刃から真空の刃が放たれた。真空の刃はスタッグガルヴォルスに向かって飛び、地面や電線を切り裂いた。
真空の刃に切り裂かれた場所からは土煙が舞い上がっていた。断ち切れた電線の先からは電気が火花のように発せられていた。
リオが視線を巡らせてスタッグガルヴォルスの行方を追った。しかしこの場にスタッグガルヴォルスの姿はなかった。
「逃げるな・・・逃げるな、ガルヴォルス!」
怒りの叫びを上げるリオ。激情に駆り立てられたまま、彼女は人の姿に戻った。
リオのことを気にしていたハルとアキ。しかしハルは自分たちの安息を求めるようになっていた。
「もうリオのことを深く気にしないほうがいいと思う・・僕たちが安心できる場所は、リオのいる場所とは限らない・・・」
「でもハル・・このままリオさんを放っておくのは・・・」
ハルが言いかけると、アキが不安を浮かべる。しかしハルは考えを変えない。
「僕たちは心から安心したいんだ・・それを踏みにじろうとする敵は、いてもいけない・・だから僕は戦う・・その敵を叩き潰すために・・・!」
「ハル・・・」
「もしもリオが僕たちのことを気にしてくれているなら、向こうから僕たちに会いに来てくれる・・向こうもガルヴォルスなんだから・・・」
ハルが口にしていく言葉に、アキが戸惑いを感じていく。ハルの真っ直ぐな心情に自分もついていきたいと、アキは心に決めていた。
「そうだね・・・リオさんが私たちを気にかけているなら・・・」
「僕たちは僕たちのやることをやってしまおう・・やることは、まだあるんだから・・・」
「うん・・私も行くよ、ハル・・これからも・・・」
ハルの呼び掛けにアキが答える。2人は自分たちの意思のままに、街に向かっていった。
リオに向けて何度も電話をするナオミ。しかし何度電話をかけてもリオと連絡が取れない。
「リオ・・ホントにどこに行っちゃったのよ・・・!?」
リオを心配して辛さを膨らませていくナオミ。
「こうなったら、リオが通ってるカレー屋さんに行ってみよう・・!」
思い立ったナオミがヘブンに向かうことにした。彼女は支度をして部屋のドアを開けた。
するとその先にリオがいた。
「リオ!?」
ナオミがたまらずリオに詰め寄って、彼女の両肩をつかんだ。
「リオ、どこに行ってたのよ!?携帯に連絡してもつながらないし、何かあったんじゃないかって心配になって、あなたのバイト先のカレー屋に行こうとしてたんだから!」
「ナオミ・・・ゴメン・・心配かけちゃって・・・」
心配の声を上げるナオミに、リオが元気のない様子で謝る。
「さっき、リオの知り合いだって人が来てたよ・・あなたのことを探してたみたいだけど・・・」
「私の知り合い?・・レンさん、じゃないよね・・・」
「うん・・高校生か大学生ぐらいの男と女だった・・きっとあたしたちと同じぐらい・・何かとんでもないことに、リオが巻き込まれてるんじゃないかって、あたし思えてきちゃって・・・」
リオに事情を説明して、ナオミが不安を募らせていく。
「リオ、ホントに何があったの・・・!?」
ナオミは改めてリオに問い詰めてくる。彼女がガルヴォルスの戦いをしている自分のことを聞こうとしているのだと、リオは思い知らされていた。
「ゴメン、ナオミ・・ナオミには話せないよ・・・」
「リオ、いい加減にして!」
話そうとしないリオにナオミが怒鳴りかかる。
「何か危なっかしいことに首突っ込んでいるとしか思えないのに、全然話してもらえないなんてないよ!あの2人は関わるなって言ってきたけど、あたしはリオが・・!」
「なら言う通りにしたほうがいいかもしれない・・関わるなって言われたのなら、やはり関わらないほうがナオミのためだよ・・・」
リオに冷たい眼差しを向けられて、ナオミが困惑を覚える。今、自分が関わろうとしていることがリオのためにならないと、ナオミは思い知らされた。
「何も話せなくて、本当にゴメン・・ナオミ・・・」
リオは謝ってから、ナオミの横をすり抜けて部屋に入っていった。
「リオ・・・」
自分の部屋で休むリオに、ナオミは困惑するばかりになっていた。
それからまた一日がたった。ヘブンではレンを中心にカレー作りと接客が行われていた。
(リオちゃん、本当にどうしてしまったんだろう・・・)
リオへの心配を募らせていくレン。彼はそれを表に出さないようにして、ヘブンでの仕事を続けていった。
「あ、あの、すいませーん・・」
そこへ声をかけられて、レンが振り返る。ヘブンに訪れたのはナオミだった。
「君は・・?」
「あたし、リオと一緒のマンションにいる京野ナオミっていいます。リオ、来てないんですか・・?」
リオのことを聞いてきたナオミに、レンが当惑を覚える。リオのことを話したほうがいいのかどうか、レンは迷った。
「あぁ・・ここ数日来てなくてね・・どうしちゃったのか、僕も心配していてね・・」
「そうですか・・リオ、最近ホントに様子がおかしくて・・問い詰めても全然話してくれなくて・・・」
「リオちゃん・・・本当にどうしたというんだろう・・・」
ナオミからも話を聞いて、レンは不安とリオへの心配を募らせていく。
「ちょっと奥で話をしよう。ここだとお客様に聞こえてしまうから・・」
「えっ・・あ、はい・・」
レンの呼びかけにナオミが戸惑いを見せながら答える。2人はヘブンの奥の休憩室に移動した。
「本当は口止めされていたことだけど・・・君も秘密にしてくれるなら、話すことにするよ・・・」
「あの・・何か知っているんですか・・・!?」
話を打ち明けようとするレンに、ナオミが息をのむ。
「リオちゃん、怪物が起こしている事件に関わっているみたいなんだ・・」
「怪物!?・・・怪物って、まさかそんな・・・」
レンが口にした言葉に、ナオミは信じられない気持ちを感じていた。
「僕は関わっていないから何とも言えないけど、リオちゃんを助けてくれた2人の男女が関わっているから・・」
「2人?・・もしかしたら、あの2人かも・・・!」
レンの話を聞いて、ナオミがハルとアキのことを思い出した。
「その2人って、暗い雰囲気じゃなかったですか・・・!?」
「うん、その通りだよ・・もしかしてナオミちゃん、ハルくんとアキさんに会ったことがあるのかい・・?」
「あの2人、ハルとアキっていうんですね・・あたしに関わるなって言ってきて・・関わるなら死ぬかもしれないって覚悟をしろって・・」
「そんなことが・・・もしかしたら、僕たちにはとても手に負えないことなのかもしれない・・・」
ナオミの話を聞いて、レンが物悲しい笑みを浮かべた。
「ハルくんとアキさんの言う通り、僕たちは関わらないほうがいいかもしれない・・」
「そんな・・・あたし、リオのことをどうしてもほっとけなくて・・・」
レンからの注意も聞こうとせず、ナオミはリオを探そうと考える。
「本当に命がけになってしまうよ・・君がリオちゃんのためにしようとしていることが、逆にリオちゃんを傷つけることにもなりかねない・・」
レンが深刻な面持ちを浮かべて、ナオミにさらに注意を投げかける。
「君にも分かっていると思うけど、リオちゃんは親切で優しいけど、とても繊細でもある・・励ますには本当に気を付けないといけない性格だよ・・」
「分かっているよ・・だからこそ、リオを助けなくちゃって・・・!」
リオのことを気遣うレンだが、ナオミは彼以上にリオを心配していた。
「ごめんなさい・・親切にしてくれたのに、わがままを言っちゃって・・・」
「ナオミちゃん・・・」
謝るナオミにレンは困惑を覚える。
「あたし、行きます・・やっぱりリオを探さないと・・・!」
「ナオミちゃん!」
休憩室を飛び出していくナオミ。呼び止めようとするレンだが、ナオミは去ってしまった。
「大変だ・・連絡したほうがいいんだけど、リオちゃんにはつながらないし、ハルくんとアキさんとは連絡を取っていないし・・・!」
ナオミを止めようとするも、レンはリオたちへの連絡の手立てが見つからず困ってしまう。
「みんな、ちょっと外すね!その間お店をお願い!」
レンは店員たちに呼びかけてから、ナオミを追ってヘブンを飛び出した。
ナオミがヘブンへ向かう少し前、リオはまた1人で外に出ていた。部屋にいると不安に駆られてしまうと思ってしまったからである。
(ナオミは巻き込めない・・レンさんも巻き込めない・・他に頼りにできる人を知らない・・・)
リオが心の中で悲痛さを募らせていく。不安から逃れるために外に出た彼女だが、逆に不安を膨らませていた。
(私、どうしたらいいの?・・もう私には、1人で戦っていくしかないの・・・?)
「また会ったね、お前・・」
そこへ声をかけられて、リオが足を止めた。彼女の前に先ほど襲ってきた男が現れた。
「お前・・あのときの・・・」
「お前の味と感触・・味わいたくて仕方がないんだ・・・!」
緊張を覚えるリオの前で、欲求をむき出しにする男の頬に紋様が走る。彼がスタッグガルヴォルスへと変貌する。
「もう私は、1人で戦っていくしかない・・私しか、ガルヴォルスの勝手を止められる人がいないから・・・!」
リオも怒りと使命感を覚えて、ソードガルヴォルスに変貌する。するとスタッグガルヴォルスが笑みを浮かべてきた。
「今のお前なら、オレの体が傷つくことはないなぁ・・」
「なめるな!」
笑みを強めるスタッグガルヴォルスに激高して、リオが飛びかかる。力を込めて拳を繰り出してぶつける彼女だが、スタッグガルヴォルスはビクともしない。
「あの怖い姿にならないうちに人の姿に戻してから、たっぷり味わってやるよ・・・!」
スタッグガルヴォルスが笑みを強めて、右手を伸ばしてきた。リオは素早く後ろに飛んで、スタッグガルヴォルスの拳をかわす。
「この前の勢いがなくなっちゃったね・・まぁ、そのほうがオレはいいんだけど・・!」
スタッグガルヴォルスがさらに手を伸ばしていく。リオが彼の両手の間をすり抜けて、その勢いでジャンプして、落下の勢いで膝蹴りを頭に叩き込む。
「体は硬くても、他は・・!」
手ごたえを感じていたリオ。だが直後、スタッグガルヴォルスが頭を上げて、角でリオをつかんできた。
「うっ!」
「他の部分も打たれ強くてね・・頭や首もこのぐらいじゃ効かないよ・・!」
苦しむリオに悠然と言いかけるスタッグガルヴォルス。彼の頭の角に締め付けられて、リオが苦痛に襲われる。
「さぁ、早く人の姿に戻れ・・女の味と感触を味わいたいんだから!」
「ぐあっ!」
スタッグガルヴォルスに締め上げられて、リオがさらにあえぐ。力を入れられなっていく彼女だが、同時にガルヴォルスへの憎悪を募らせていく。
(私は・・私はお前たちを・・・!)
激情を爆発させたリオの体から、禍々しいオーラがあふれ出した。その衝撃でスタッグガルヴォルスの頭の角が吹き飛んだ。
「ぐああっ!」
角を折られて絶叫するスタッグガルヴォルス。彼が激痛に襲われて昏倒する。
苦しんでいるスタッグガルヴォルスの前に、リオが降り立った。彼女は刺々しい姿へと変わっていた。
「その姿・・またとんでもないことに・・・!」
「今度は逃がさない・・ここでお前を斬る・・・!」
危機感を覚えるスタッグガルヴォルスに言いかけて、リオが右手から刃を出して振り上げる。
「ヤバい!逃げないと・・!」
慌てて逃げ出そうとするスタッグガルヴォルスだが、リオに左手で右腕をつかまれる。
「やめろ!放せ!放してくれ!」
「逃がさないと言ったはずだ・・・!」
悲鳴を上げるスタッグガルヴォルスにリオが鋭く言いかける。彼女がスタッグガルヴォルス目がけて刃を振り下ろした。
スタッグガルヴォルスは逃走できないまま、絶叫を上げてリオに切り裂かれた。リオの周辺に血と肉片が飛び散った。
リオが刃を下ろして、真っ二つになったスタッグガルヴォルスを放す。彼の亡骸が崩壊して消えていった。
「ガルヴォルスは、1人も逃がさない・・・!」
「見つけた・・この前のだ・・」
憤りの声を口にしたところで声をかけられて、リオが視線を移す。彼女の前に現れたのはリュウキだった。
「お前・・・!」
「また遊んでよね・・・お前と遊ぶの、すっごく面白いから・・・」
鋭い視線を向けるリオの前で、リュウキの頬に紋様が浮かび上がる。彼がキラーガルヴォルスへの変貌を遂げる。
「お前もこの手で消す・・お前たちガルヴォルスに、これ以上いいようにされてたまるか!」
リオが激高してリュウキに飛びかかる。彼女が振りかざしてきた刃を、リュウキは軽やかにかわす。
「へぇ・・前より全然動きがすごくなってるね・・倒しくなってきた・・・!」
リュウキが笑みを浮かべて反撃に出る。彼とリオの繰り出す拳がぶつかり合って、衝撃を巻き起こす。
「お前もここで私が倒す!もう逃がしはしない!」
「鬼ごっこをするつもりないし、僕は倒されたりしないよ・・」
憎悪をあらわにするリオに、リュウキが悠然と声をかけてくる。彼のこの言葉と態度が、リオの感情を逆撫でする。
「ガルヴォルスは私が倒す・・お前も、アイツも、1人残らず!」
リオが怒号を放って刃を突き出す。刃はリュウキの右肩を捉えた。
「くっ・・!」
肩を刺されて顔を歪めるリュウキ。押された彼に対してリオが追い打ちを仕掛ける。
「終わりだ!」
「キャアッ!」
そのとき、聞き覚えのある声がリオの耳に入ってきた。振り向いた彼女の視界に、ナオミの姿が入ってきた。
「か・・怪物・・・!?」
「ナオミ・・・!?」
体を震わせるナオミを目の当たりにして、リオが驚愕する。動揺を植え付けられた彼女が後ずさりして、思わずリュウキから離れる。
さらにリオが無意識にソードガルヴォルスから人の姿に戻ってしまった。
「えっ・・・!?」
今度はナオミが目を疑った。怪物の1人がリオだった現実を、ナオミは受け止められなかった。
「リオ・・これって・・・!?」
「ナオミ・・・!」
驚愕を募らせるナオミとリオ。リオはナオミにガルヴォルスのこと、自分がガルヴォルスであることを知られてしまった。
次回
「こういうことだったんだね・・リオが関わってたの・・」
「ナオミを巻き込んでしまった・・巻き込みたくなかったのに・・・!」
「もう私に関わらないで、ナオミ・・・!」
「あなたを、危ない目にあわせたくない・・・!」