ガルヴォルスFangX 第12話「孤独」

 

 

 ハルはガルヴォルスだった。その事実を知ったリオは、逃げるように森を走っていた。

(ハルさんもガルヴォルスだった・・・そんな・・・!)

 受け入れられない事実を突きつけられて、リオは愕然となっていた。

(ハルさんは騙していたというの!?・・ガルヴォルスであることを隠して、ガルヴォルスとして私を陥れようとして・・・!)

 リオの心の中で疑心暗鬼が膨らんできていた。

(きっと、私が今こうして辛い思いをしているのを喜んでいるんだね・・私のことを・・・!)

 リオへの感情は、ハルに対する憎悪を膨らませる。彼女は信じる気持ちを失おうとしていた。

 

 走り去っていったリオを探すハルとアキ。しかし森やその周りを探し回っても、2人はリオを見つけることができなかった。

「リオさん・・・ハルがガルヴォルスだってことを知って、ショックを受けて・・・!」

「多分、それだけじゃないんじゃないかな・・・」

 リオを心配するアキに、ハルが自分の正直な気持ちを口にしてきた。

「僕とアイツが正体を知られる前から、僕たちは敵同士として戦ってきた。僕は僕たちを追い込もうとしてきたから戦ったんだ・・」

「でも、リオさんは本当は、ガルヴォルスが憎んでいたから、ハルを・・ハルだと知らずに・・・」

「向こうが何を考えていたとしても、僕は向こうに攻撃された・・その相手を簡単に許すなんてできない・・・」

 アキが語りかけるが、ハルは自分の考えに頑なだった。

「理由は何であっても、僕たちを襲ったんだから・・・」

「ハル・・・」

 リオのしたことに納得していないハルに、アキは戸惑いを感じていた。

 

 絶望を感じたまま、リオはマンションに帰ってきた。このときにはもうナオミが帰ってきていた。

「おかえり、リオちゃん♪・・リオちゃん?」

 挨拶をするナオミだが、リオは答えずに自分の部屋に向かっていく。

「リオ、どうしたの?・・具合、悪いの・・・?」

「ううん・・・何でもない・・・何でも・・・」

 ナオミが心配の声をかけるが、リオはちゃんと答えようとしない。

「リオ・・・」

 困惑するナオミだが、リオを追及することができずに黙ることにした。

(どうしたらいいの!?・・・私は・・いったいどうしたら・・・!?

 ベッドに横になったリオが、震えながら心の声を上げる。

(夢なら・・悪夢なら・・・覚めて・・・!)

 ひたすら自分に言い聞かせていくリオ。絶望と不安を弱めようとしながら、彼女はいつしか眠りについていた。

 

 森にてリオを見つけることがでいなかったハルとアキは、街に戻ってきていた。

「リオさん、どこに行ってしまったの?・・このままじゃ、とても辛い・・・」

「気にすることはないよ・・アイツは僕たちのそばにいるのをイヤだったんだから・・・」

 辛さを浮かべるアキに、ハルが自分の考えを口にする。

「アキも分かってるはずだよ・・僕はイヤなものをとことん拒絶するってこと・・・」

「分かっているよ・・でもリオさんが・・・!」

 ハルの気持ちを理解しながらも、アキは彼に呼びかけていく。

「リオさんは何も信じられなくなり始めている・・ガルヴォルスだけでなく、私たちもみんなも・・・今のリオさんは、1人になったときのハルそのもの・・・」

「それを言わないで・・辛いのを植え付けないで・・・!」

 アキの言葉を、ハルが声を振り絞るようにさえぎってきた。

「周りなんて関係ない・・僕たちを苦しめるようなものに関わるつもりはない・・・僕は僕たちの安心を守る・・それだけだよ・・・」

「ハル・・・」

 頑なに自分の意思を示すハルに、アキは戸惑いを募らせるばかりになっていた。

「とりあえずヘブンに行ってみよう・・気分を落ち着かせないと・・・」

「アキ・・・うん・・そうだね・・・何か食べたら、落ち着くかな・・・」

 アキの提案にハルが頷く。2人はひとまずヘブンに行くことにした。

 

 人気のない小道の突き当りに、1人の女性が追い込まれていた。彼女の目の前には、クワガタの姿をした怪物がいた。

「もう逃げられないぞ・・ここからはオレの楽しみの時間だ・・・」

「来ないで!近寄らないで!助けて!」

 怪物、スタッグガルヴォルスに恐怖して、女性が悲鳴を上げる。

「どんな味と感触なのか・・確かめてみたいなぁ!」

 スタッグガルヴォルスが目を見開いて、女性に襲い掛かった。スラッグガルヴォルスの牙が女性の体に食らいついた。

 女性の絶叫の直後に肉が食いちぎられる鈍い音が響いた。スタッグガルヴォルスが女性の体を食い尽くした。

「この感触・・この味・・これがあるからやめられないんだよなぁ〜・・!」

 スタッグガルヴォルスが喜びを感じていく。美女を口にする感触をスタッグガルヴォルスは楽しみとしていた。

「この味をもっともっと味わいたい・・我慢できない・・・!」

 欲求と狂気を膨らませたまま、スタッグガルヴォルスは歩き出していった。彼に襲われた女性は1週間で10人を超えていた。

 

 夜の書き入れ時に入り、ヘブンはにぎわいを見せていた。そこへハルとアキが訪れた。

「いらっしゃいませ。お、ハルくん、アキさん。」

「レンさん、こんばんは・・」

 挨拶をしてきたレンにアキが答える。

「おや?リオちゃんは一緒じゃないの?」

「そ、それが・・・」

 レンに訊ねられて、アキが口ごもる。

「リオは・・僕たちの前からいなくなった・・・」

 ハルが辛さを噛みしめて、リオのことを口にした。彼の言葉に驚愕して、レンは目を見開いた。

「・・・話は・・休憩室でしよう・・・」

 レンが言いかけると、アキは困惑を浮かべたまま頷く。3人は1度休憩室に足を運んだ。

「どういうことなんだい?・・リオちゃんに何があったんだ・・?」

 椅子に腰を下ろしてから、レンが真剣な面持ちでハルとアキに訊ねてきた。

「とても信じられない話に思えるでしょうけど、信じてくださいとしかいえません・・それと、このことは他言しないでほしいです・・」

「アキさん・・・わ、分かった・・・」

 アキからの呼びかけにレンが小さく頷いた。

 それからアキは自分たちのこと、ガルヴォルスのことを話した。リオもガルヴォルスであることを知り、驚きと困惑を隠せないでいることも。

「そんな・・・リオちゃんが・・・!?

 アキの話を聞いて、レンも困惑を隠せなくなった。

「でもこれだけは分かってください・・ハルは何も悪くない人を無差別に襲ったりしません・・きっと、リオさんも・・・」

「でも、リオは僕たちのことを嫌ってしまった・・だから、僕はアイツとこのまま仲良くなるのは・・・」

 レンに呼びかけるアキと、リオに対する疑念を口にするハル。2人の言葉を聞いて、レンも苦悩を感じ出していた。

「君たちの話は何とか分かった・・とにかく、今はリオちゃんを見つけるのが先決だね・・」

 レンは言いかけて、椅子から立ち上がる。

「私たちも探してはみますが・・もしかしたら、リオさん、私たちに攻撃してくるかもしれないです・・・」

 アキも言いかけて、リオのことで不安を感じていく。

「今のリオさんは何もかもに疑心暗鬼になりかけています・・少なくても私たちを許せなくなっています・・」

「そんな・・・リオちゃんに限って、そんなことはないよ・・僕はそう信じている・・・」

「・・・リオさんはいいですね・・あなたみたいな人に支えられているのですから・・・」

「そんなことはないよ・・今は彼女のそばにいないし、何もしてやれていない・・・」

 リオに幸福を感じるアキと、リオに対して自分の無力を痛感するレン。ハルもリオに対して困惑を感じていた。

「僕・・アイツにどうしたらいいんだ・・どうすることが、アイツや僕たちの納得できることになるんだ・・・」

「ハル・・・」

 苦悩を見せるハルに、アキが戸惑いを募らせる。レンもリオにだけでなく、ハルとアキに対しても苦悩を感じていた。

「・・では私たち、そろそろ失礼します・・もしリオさんを見つけたら、すぐに知らせますから・・・」

「ありがとう、アキさん、ハルくん・・僕のほうも、見つけたら君たちにも知らせるよ・・」

 後にしようとするアキに、レンが微笑んで言いかけた。

「ホントに帰ってきてほしい・・リオに・・レンさんにあんまり心配かけてほしくない・・・」

 再び本音を口にするハル。彼はリオのために胸を締め付けられる気分を拭えないでいた。

 

 ハルとリオが互いの正体を知ってから一夜が過ぎた。

 ハルとアキはリオの住んでいるマンションを訪れた。アキがリオの部屋の前に来て、インターホンを押した。

「はーい。」

 部屋から出てきたのはナオミだった。初めて会ったハルとアキに、ナオミが疑問符を浮かべる。

「あの・・どちらですか・・?」

「私たち、リオさんの知り合いで・・・リオさん、いますか・・・?」

 ナオミの問いかけに答えて、アキがリオのことを訊ねる。

「リオ?・・リオなら朝起きたときにはもういなくなってたよ・・あの子、仕事がない日でもたまにふらっと出かけちゃうことがあるから・・」

「えっ?それじゃ、昨日はここに帰ってきてたんですか・・・!?

 ナオミの話を聞いて、アキが驚きを覚える。

「昨日はリオの様子がおかしかった・・すごく元気がなかったみたい・・・もしかして、あなたたちと何かあった・・?」

「えっ?・・は、はい、まぁ・・・」

 ナオミに訊ねられて、アキが動揺を見せながら答える。

「だったら、リオのことをちゃんと聞かせて・・何かに巻き込まれてるのは、あたしでも想像つくから・・」

「聞いたら巻き込まれるのと同じになるよ・・・」

 話を聞こうとするナオミに、ハルが忠告を送る。

「アイツや僕たちが関わっているのは、下手をしたら死ぬかもしれないことなんだ・・こういう重要なことは僕たちより、あなたと関わりの深いリオと話し合って決めたほうがいいと、僕は思う・・・」

「死ぬかもしれないって・・そんなのにリオが巻き込まれてるの!?

 ハルの言葉を聞いて、ナオミが血相を変えて詰め寄ってきた。

「死ぬかもしれない覚悟がないなら、もう聞いたり関わったりしようとしないほうがいい・・僕だったら、そうしてる・・・」

「そう・・だったら、あたしも協力はできない・・ここまで一方的に言われて、任せるって気にはなれないよ・・・」

「それでもいいよ・・僕たちだけで探すから・・・」

 ひかないつもりのナオミだったが、ハルの頑なな意思には通じなかった。

「行こう、アキ・・ここにいてもしょうがないよ・・・」

「ハル・・うん・・・あの、リオさんが戻ってきたら、私たちのことをお伝えできますでしょうか・・・?」

 ハルの声に頷いてから、アキがナオミにお願いをする。

「あんまり期待しないほうがいいかもね・・お互いのために・・・」

 ナオミが口にした返事に、アキは悲しい顔を浮かべた。ハルは歯がゆさを抱えたまま立ち去り、アキも歩き出した。

(リオ・・ホントに何があるっていうの・・・!?

 ナオミもリオに対して心配と不安を感じるようになっていた。

(やっぱりリオに電話しよう・・何かに巻き込まれてる気がしてならないよ・・・電話するぐらいなら、あの2人のいったような、巻き込まれるってことにはならないはずだよ・・・!)

 ナオミは携帯電話を取り出して、リオへの連絡を取った。しかしリオの携帯電話につながらなかった。

 

 早朝にマンションを飛び出していたリオ。彼女は携帯電話を持っていたが、電源を切っていた。

「私はどうしたらいいの・・私、もう何を信じたらいいのか分からない・・・」

 リオが不安と苦悩を感じて、自分の体を抱きしめる。

「このガルヴォルスとの戦いに・・レンさんもナオミも巻き込めない・・だからと言って他に頼りにできる人はいない・・お父さんもお母さんも・・お姉ちゃんも・・・」

 自分の家族や大切な人の姿が脳裏をよぎって、リオが懇願を募らせていく。込み上げてくる感情とともに、彼女の疑心暗鬼は膨らむばかりとなっていた。

 夢遊病者のように歩き続けていくリオ。その途中、彼女の前に1人の男が現れた。

「またかわいくてきれいな女を見つけたぞ・・・」

 男がリオを見つめて不気味な笑みを浮かべる。

「お前の味と感触を味わいたいなぁ・・・!」

 目を見開いた男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼がクワガタの怪物、スタッグガルヴォルスへと変貌する。

「やはりガルヴォルスだったのね・・・」

「さぁ、じっくりたっぷり味わってやるぞ、お前を・・・!」

 呟きかけるリオにスタッグガルヴォルスが迫る。しかしリオは逃げようとしない。

「ガルヴォルスは許さない・・・許してはおけない・・・!」

 怒りをあらわにするリオの頬にも紋様が走る。

「ガルヴォルスは許さない・・アイツらを守ろうとする人も・・・!」

 ガルヴォルスだけでなく、その味方をするものも憎む彼女も、ソードガルヴォルスへと変貌する。

「お前もガルヴォルスだったのか・・でも人の姿じゃないと味わえないんだよなぁ・・・」

 スタッグガルヴォルスが不満の声を上げて、リオに飛びかかる。スタッグガルヴォルスが出してきた両手をすり抜けて、リオが拳を繰り出す。

 リオの打撃はスタッグガルヴォルスの体に命中した。だがスタッグガルヴォルスはビクともしない。

「オレの体は強いだけじゃなくて硬いんだ・・いくらガルヴォルスでも、オレを倒すことはできないよ・・・」

 スタッグガルヴォルスがリオに笑みを見せてくる。彼の不気味な笑みが、リオの感情を逆撫でする。

 リオが怒りに任せてさらに拳を繰り出す。しかし彼女の打撃の連続でも、スタッグガルヴォルスは怯まない。

「だから効かないって・・このぐらいの攻撃じゃ・・・!」

 スタッグガルヴォルスが腕を振りかざして、リオを殴りつける。横に突き飛ばされるも、リオはすぐに起き上がる。

「これで効かないというなら・・これで・・・!」

 リオが声を上げて、右手から刃を引き出した。彼女が飛びかかり、スタッグガルヴォルスに向けて刃を振りかざす。

 しかしリオの刃をぶつけられても、スタッグガルヴォルスは平然としており、体にも傷もついていない。

「私は・・私はまだ!」

 リオがさらに刃を振りかざす。しかし何度刃をぶつけても、スタッグガルヴォルスに傷を付けられない。

「それでもダメだって・・お前じゃオレには勝てないよ・・・!」

 スタッグガルヴォルスが頭の角を振りかざしてきた。リオはとっさに動いてかわすが、続けて出してきた腕を体に叩き込まれる。

「うっ!」

 打撃を受けてうめくリオ。スタッグガルヴォルスが怯んだ彼女に追撃をぶつけていく。

「調子に乗るな、ガルヴォルスが!」

 リオが怒りに任せて刃を突き出す。スタッグガルヴォルスの体に命中した途端、彼女の刃の刀身が折れた。

「くっ・・・!」

「これで抵抗もおしまいかな・・」

 目を見開くリオに、スタッグガルヴォルスが笑みを強める。彼の頭の角がリオの体を挟み込んだ。

「うあっ!」

 持ち上げられた体を締め付けられて、リオがうめく。

「早く人間の姿に戻るんだ・・・!」

 スタッグガルヴォルスがさらに力を込めて、リオが絶叫を上げる。

(私は死ねない・・こんなところで死んでたまるか!)

 怒りと激情を爆発させた瞬間、リオから禍々しいオーラが放出された。その衝撃でスタッグガルヴォルスが突き飛ばされる。

「何っ!?

 驚愕の声を上げるスタッグガルヴォルス。リオの両肩と背中から刃が生えて、刺々しい姿となっていた。

 

 

次回

第13話「途切れない殺意」

 

「リオ、ホントに何があったの・・・!?

「関わるなって言われたのなら、やはり関わらないほうがナオミのためだよ・・・」

「また遊んでよね・・・」

「リオ・・これって・・・!?

 

 

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