ガルヴォルスFangX 第11話「囚われの蝶」
糸を吐いてアキを固めて連れ去ったスパイダーガルヴォルス。彼は街外れの森の中に来て、彼女を置いた。
「ここまで来れば、連れ出されることはないだろう・・」
スパイダーガルヴォルスが周りを見回して、誰も来ていないことを確かめる。
「あのガルヴォルスは本当にしつこいなぁ・・今度また出てきたら、追い払うんじゃなくてやっつけちゃおうか・・」
スパイダーガルヴォルスはハルやリオを含めた邪魔者を始末することを心に決めていた。
「こうしてきれいな蝶を捕まえるのは気分がよくなる・・本当に快感だ〜・・・」
スパイダーガルヴォルスが美女を糸で固めて捕まえることに喜びを感じていく。彼は不気味な笑みを浮かべたまま、アキに振り向く。
「お前もこうして捕まえた・・その姿を見ていると、喜びが抑えられなくなる〜・・」
さらに興奮を募らせて、スパイダーガルヴォルスが森から歩き出す。
「次の蝶を探して、また捕まえないと・・まだまだ蝶がたくさんいるからね〜・・」
スパイダーガルヴォルスが人の姿に戻ってから街に向かう。森の奥に、アキが固まったまま置かれることになった。
アキを助け出そうと、ハルはひたすら歩いていく。彼はスパイダーガルヴォルスの気配を頼りに進んでいた。
その彼についていくように、リオも歩いていた。彼女はアキだけでなく、ハルも心配していた。
(このままハルさんをガルヴォルスに関わらせるわけにいかない・・何とかしないと・・・)
ハルを止める方法を考えるリオ。しかしハルはアキを助けることしか考えられなくなっていて、どんな呼びかけや制止でも足を止めない。
(こうなったら、私が先にアキさんを見つけて、助け出すしかない・・・!)
思い立ったリオが1度足を止めた。彼女が止まったことも気づかずに、ハルは歩き続ける。
(ごめんなさい、ハルさん・・一緒に行けなくて・・・でもこの力はみんながいいとは思わない、私自身が許せない力だから・・・)
ハルに謝意を見せてから、リオは横道にそれる。
(私が憎んでいる力で、誰かを守る・・皮肉だね・・・)
物悲しい笑みを浮かべるリオがソードガルヴォルスとなる。彼女は感覚を研ぎ澄ませて、アキとスパイダーガルヴォルスの居場所を探っていく。
(この感じはあのガルヴォルス・・アイツを倒すことが、アキさんやみんなを守ることになる・・・!)
スパイダーガルヴォルスの居場所を捉えて、リオは走り出した。彼女は男のいる森へ急いだ。
森の入り口まで歩いてきた男。彼はその出入口から街を見下ろし、次の獲物を見定めていた。
「あの辺りに蝶が群がっているな・・たまには見境なしに捕まえるのも悪くないかな・・」
男は帰りがけの女子たちがそろっている街中に飛び込もうと企んでいた。その街に向かって飛び込もうとしたとき、彼は自分に近づいてくる気配を感じ取った。
「この感じ・・あのとき出てきたガルヴォルスだね・・せっかく蝶をたくさん見つけたのに・・・」
男が不満を感じながら振り返る。彼の前にソードガルヴォルスとなったリオが駆けつけてきた。
「ガルヴォルス・・アキさんはどこ・・・!?」
「邪魔しないでほしいよ、ホント・・今度こそ始末しないとね・・」
問い詰めるリオだが、スパイダーガルヴォルスは不気味な笑みを浮かべるばかりである。
「アキさんはどこかと聞いている!」
リオが激高をあらわにして、スパイダーガルヴォルスに飛びかかる。彼女が繰り出した拳を、スパイダーガルヴォルスは後ろに飛んでかわす。
「ホントにしつこいねぇ・・ホントに始末しないとダメだね、もう・・・」
スパイダーガルヴォルスは不満を呟いてから、口から糸を吐き出す。リオは素早く動いて糸をかわす。
(こうなったら先にこのガルヴォルスを倒す・・倒せばリオさんが助かるかもしれない・・!)
思い立ったリオはスパイダーガルヴォルスを倒すことに集中する。
「アキさんの居場所を教えないのなら、もうお前を斬ることに何の迷いもない・・・!」
リオは目つきを鋭くして、右手の甲から刃を引き出した。彼女は飛びかかって、スパイダーガルヴォルスが吐き出してきた糸を刃で切りつける。
リオが振りかざした刃が、スパイダーガルヴォルスの爪の1本を切り裂いた。
「痛い!」
爪を切られて血をあふれさせるスパイダーガルヴォルスが絶叫を上げる。
「痛いじゃないか!僕の体を傷つけるなんて!」
彼が文句を言うと、リオが刃の切っ先を向けてきた。
「この程度の痛さ、大切なものをお前たちに奪われた私の痛みに比べたら、痛みのうちに入らない・・・!」
リオが鋭く言いかけて刃を振りかざす。スパイダーガルヴォルスが糸を伸ばして飛び上がって、彼女の刃をかわす。
「こうなったらお前も糸で動けなくしてやるぞ!」
スパイダーガルヴォルスが口から糸をまき散らして、リオの動きを封じようとする。するとリオが刃を振り下ろして、かまいたちを放って糸を吹き飛ばした。
「お前の勝手な遊びに付き合うつもりはない・・これ以上、お前たちのために、罪のない人が苦しむことになるわけにはいかないのよ・・・!」
ガルヴォルスへの怒りを噛みしめるリオ。彼女はスパイダーガルヴォルスを斬ることに専念していた。
アキを探して森へとたどり着いたハル。そのとき、彼は強い気配を感じ取って足を止めた。
「この感じ・・あのクモだけじゃない・・あのガルヴォルスも・・・!」
ハルはスパイダーガルヴォルスだけでなく、ソードガルヴォルスとなっているリオの気配も感じ取っていた。
ハルは再び進んでいって、リオとスパイダーガルヴォルスの交戦を目の当たりにした。
「いた!」
いきり立ったハルの頬に紋様が走る。彼はファングガルヴォルスとなって、リオとスパイダーガルヴォルスの間に割って入った。
「お前は!」
リオが声を荒げた瞬間に、ハルが出した左足に蹴り飛ばされる。ハルはスパイダーガルヴォルスに拳を振るっていく。
「リオはどこだ!?どこにいる!?教えろ!」
ハルが殴りかかりながら、スパイダーガルヴォルスに問い詰める。しかしスパイダーガルヴォルスは答えようとせず、不満を募らせるばかりだった。
「お前までやってくるなんて・・いい加減にしてほしいから、お前も始末することに決めた・・・!」
「リオはどこだと聞いているんだ!?」
敵意を見せてきたスパイダーガルヴォルスを、ハルが殴りかかる。怯んだスパイダーガルヴォルスを、ハルはそのまま押し倒した。
「返せ・・アキを返せ!」
ハルがさらに力を込めてスパイダーガルヴォルスを殴りつける。スパイダーガルヴォルスがとっさに爪を突き出して、ハルを突き飛ばす。
「イヤなんだよ・・僕は僕の思った通りにしたいんだよ〜・・・!」
スパイダーガルヴォルスが不満と欲求を口にしていく。
「もっと蝶を捕まえていくんだ・・これからもオレは、きれいな蝶をどんどん糸で絡め取っていくんだ〜・・」
「それでアキを捕まえていい理由になると思っているのか・・・!?」
彼の言動にハルが怒りを募らせていく。
「お前も自分さえよければ、他の人が苦しもうと関係ない・・そんな身勝手なヤツなのか・・・!」
激情をあらわにするハルの体から禍々しいオーラがあふれ出してくる。彼の体も刺々しいものへと変化していく。
「その姿・・何なんだよ、それは・・・!」
スパイダーガルヴォルスが不満と不安を感じて、口から糸を吐き出す。しかし糸はハルの出しているオーラに触れると、燃えるようにかき消されていく。
「オレはお前には捕まらない・・誰もお前に捕まえさせない!」
ハルが怒号を放って、スパイダーガルヴォルスに飛びかかる。その速い拳を受けて、スパイダーガルヴォルスが大きく突き飛ばされる。
「うわっ!」
大木の幹に叩きつけられて、スパイダーガルヴォルスが声を上げる。怯む彼に近づきながら、ハルが刃を引き抜く。
「お前はここで始末する・・絶対に逃がさない・・・!」
ハルは声を振り絞って、体から刃を引き抜いた。
ハルに割り込まれたリオは、彼とスパイダーガルヴォルスを追っていた。
「あの2人、どこに行った!?・・アキさんに何かしているんじゃ・・・!?」
不安を感じながら進んでいくリオ。その焦りから彼女は森の中をさまようことになっていた。
そのとき、リオは1体の像を発見した。その姿かたちから、リオはそれがアキであるとすぐに気づいた。
「アキさん!」
リオがアキに駆け寄って呼びかける。しかし固まっているアキは全く反応しない。
(下手に手が出せない・・無理やり助け出そうとして、逆にアキさんを傷つけてしまうかもしれない・・・!)
アキの身を案じて、救出に踏み切ることができないリオ。
(やはり、あのガルヴォルスを倒すしかないみたい・・・!)
リオはスパイダーガルヴォルスに対して憎悪と敵意を募らせていった。
禍々しいオーラを放ちながら刃を振りかざすハル。彼の力と殺気に危機感を募らせて、スパイダーガルヴォルスが逃げ出していく。
「もうイヤだ・・こんなの、相手にしたくないよ・・・!」
怯えているスパイダーガルヴォルスが森の中を駆けていく。その彼をハルが回り込んできた。
「絶対に逃がさないと言ったはずだ・・お前はここで、オレが倒す・・・!」
「イヤだ・・僕は捕まえるんだ・・きれいな蝶を捕まえるんだ!」
鋭く睨みつけてくるハルに不満を言い放ち、スパイダーガルヴォルスが飛びかかる。口から糸を吐き出すスパイダーガルヴォルスだが、これもハルが放出しているオーラにかき消される。
そしてハルが突き出した刃が、スパイダーガルヴォルスの体を貫いた。
「痛い・・イヤだ・・僕は・・・僕は・・・!」
「もう黙っていろ・・お前のわがままは、聞かされるだけで嫌気がさしてくる・・・!」
血と涙を流して声を振り絞るスパイダーガルヴォルスに、ハルがいら立ちの言葉を口にする。彼はスパイダーガルヴォルスの体から刃を引き抜いた。
体から鮮血をあふれさせながら、スパイダーガルヴォルスが倒れていった。泣きながら事切れた彼の体が、崩壊して霧散していった。
「これで・・アキが助かる・・助かるんだ・・・」
ハルは自分に言い聞かせて、再びアキの捜索をするのだった。
スパイダーガルヴォルスが命を落としたことで、リオの目の前でアキを包んでいた糸が崩れ出した。さなぎが割れるように、中からアキが出てきた。
「アキさん!」
リオが慌ててアキを受け止める。意識を失ったままのアキだったが、命に別状はなかった。
「よかった・・早くハルさんのところへ連れて行って、安心させてあげないと・・・」
リオは安堵を感じながら、アキを抱えて歩き出そうとした。
そのとき、そんなリオの前にファングガルヴォルスとなっているハルが現れた。
「お前・・・!」
「お前、いなくなったと思ったら・・・何をやっているんだ、お前は!?」
緊迫を覚えるリオと、怒りを覚えるハル。彼は右手を握りしめて、リオに飛びかかる。
リオはすぐにアキを下ろして、ハルが繰り出した拳をわざと受ける。彼女はそのまま彼の腕をつかんで、アキから離れる。よけたらアキが危険にさらされると思ったからである。
リオとハルが距離を取って敵意を向け合う。
「お前・・よくも・・よくも!」
「あの子に手は出させない・・お前には手出しさせない!」
怒号を放つハルとリオ。2人が同時に拳を繰り出してぶつけ合う。
アキを守ろうとするリオと、アキを助けようとするハル。同じ人の無事を思いながら、2人は互いの正体を知らないまま攻防を繰り広げる。
「やっとあのガルヴォルスを倒したのに・・お前などに手をかけさせてたまるか!」
「やっと助け出したのに・・お前になんか邪魔させない!」
ハルとリオが言い放ち、拳をぶつけ合う。アキを思う気持ちが2人に互いへの怒りを植え付けることになっていた。
そしてハルとリオの繰り出した拳が、互いの体に直撃した。
「ぐっ!」
「うっ!」
2人が体に痛みを感じて怯む。だが2人は痛みに耐えて、力を振り絞って立ち上がる。
「アキには近づけさせない・・・ここでお前を!」
ハルが声を振り絞って、体から刃を引き抜く。
「これ以上お前たちに、私たちの大切なものを奪わせるわけにはいかない!」
リオも叫んで、右手の甲から刃を引き出す。2人が力任せに刃を振りかざして、激しくぶつけ合う。
それから何度もぶつかり合う2人の刃。そして2人の刃は、やがて互いの体に傷を付け始めた。
絶叫を上げるハルとリオがさらに力を込めて刃を振るった。リオの刃がハルの左肩に刺さり、ハルの刃がリオの左肩に突き刺さった。
「ぐっ!」
肩を刺されたことに激痛を覚えるハルとリオ。リオの右手の刃が勢い余って折れる。
「うっ!」
勢い余って前のめりに転ぶリオ。傷ついた彼女は起き上がるのもままならなくなっていた。
「お前にこれ以上・・オレたちの安息をムチャクチャにされてたまるか・・・!」
ハルも消耗しながらも、リオに追撃をしようとして、ゆっくりと歩を進めようとする。
「待って!」
そこへ声が飛び込んで、ハルが足を止めた。彼とリオの前にアキが現れた。
「落ち着いて、ハル!私、大丈夫だから!」
「アキ・・助かったのか・・・!」
呼びかけてきたアキを見て、ハルが安堵を感じた。
「アキさん・・・ハルさん・・・!?」
ファングガルヴォルスがハルだと聞かされて、リオは驚愕を覚える。
「まさか・・あなたが・・・!?」
絶望に襲われた彼女は一気に脱力して倒れて、ソードガルヴォルスから人の姿に戻った。
「えっ・・・!?」
「お前・・・!?」
この瞬間にハルもアキも目を疑った。リオもガルヴォルスだったことに、2人も驚愕する。
「リオさんが・・ガルヴォルス・・・!?」
「それだけじゃない・・・オレを襲ってきた・・・!」
アキが困惑してその場に膝をつき、ハルが愕然となって人の姿に戻る。
「あなたもガルヴォルスだったのね・・ガルヴォルスとなって、罪のない人をその手で・・・!」
リオがハルに対して鋭い視線を向けてくる。
「待って、リオさん!ハルはそんな人じゃない!」
するとアキがリオに呼びかけてきた。
「ハルが手をかけるのは罪のない人じゃない!自分や私を自分勝手に追い込もうとしてくる人を・・!」
「やめて!・・私を・・騙していたんだね・・・!」
アキの言葉を聞かず、リオが力を振り絞って立ち上がる。
「私はガルヴォルスを許せない・・ガルヴォルスになってしまった、私自身も・・・!」
リオは言いかけると、ハルとアキの前から去っていった。
「リオさん、待って!」
アキが呼び止めるが、リオは立ち止まらずに去っていってしまった。
「リオさん・・・」
アキがリオへの困惑を募らせていく。彼女の隣でハルはリオへの疑念を抱き始めていた。
次回
「私は・・いったいどうしたら・・・!?」
「今のリオさんは、1人になったときのハルそのもの・・・」
「僕は僕たちの安心を守る・・それだけだよ・・・」
「ガルヴォルスは許さない・・アイツらを守ろうとする人も・・・!」