ガルヴォルスFangX 第10話「鎖の糸」
スパイダーガルヴォルスを迎え撃つハルだったが、ソードガルヴォルスとなったリオが乱入。ハルとリオが感情のままにぶつかり合う。
「ガルヴォルスは野放しにしない・・全員私が倒す!」
「オレたちを追い込もうとするなら、どんな理由でも・・・!」
怒りの言葉を言い放つリオとハル。ハルが角を引き抜いて刃を剣として持ち、リオが右手の甲から刃を出した。
ハルが突き出した刃を、リオも刃を振りかざして迎え撃つ。2本の刃がぶつかり合って、火花を散らしていく。
「私はお前たちを許さない・・お前たちをガルヴォルスを!」
怒号を放つリオの体から、禍々しいオーラがあふれ出してきた。
「これは・・!?」
彼女の異変を目の当たりにして、ハルが緊張を覚える。リオが体からオーラを発しながら、右手の刃を振りかざしてきた。
「ぐっ!」
リオの刃を持っていた刃で受け止めるハルだが、彼女の攻撃の重みを痛感してうめく。
(力が、上がっている・・・!)
手にしびれを感じて、ハルが焦りを覚える。彼はリオの力が上がっているのを感じていた。
リオがさらに刃を振りかざす。ハルが持っていた刃をはじき飛ばされる。
「くっ・・このまま、やられるか!」
ハルがいきり立って全身に力を込めて踏みとどまる。リオが突き出してきた刃を紙一重でかわして、ハルが拳を彼女に叩き込んだ。
「ぐっ!」
ハルの一撃を受けて、リオが大きく吹き飛ばされて、その先の家の屋根をも飛び越えていった。
リオへの反撃を成功させたハルだが、力を消耗してこの場に膝をついた。
「やばいね、このガルヴォルスたち・・わざわざ相手することもないね・・・」
ハルとリオの力を見て、スパイダーガルヴォルスがこの場を離れていった。
リオを追いかけていたアキ。彼女もハルのいる場所にたどり着いた。
「ハル!」
駆け寄ってきたアキに気付いて、ハルが振り向いた。同時に彼は人の姿に戻る。
「ハル、大丈夫!?・・あのガルヴォルスは・・!?」
「アキ・・・アイツはいつの間にか逃げたみたいだ・・でも他にもう1人、この前のガルヴォルスが割り込んできて・・・」
心配の声をかけるアキに、ハルが深刻さを込めて答える。
「あのガルヴォルス・・前より強くなってる・・・体から不気味なオーラみたいなのを出してた・・・」
「オーラ・・・それ、ハルのときと同じ・・・」
ハルの言葉を聞いて、アキが不安を覚える。
「えっ!?・・僕と、同じ・・・!?」
「ハルも感情を爆発させて、ガルヴォルスの力を強くしたとき、オーラみたいなのを出していた・・今のハルは力をコントロールしているけど・・・」
驚きを見せるハルにアキが説明する。
ハルはガルヴォルスとなって、感情のままに力を暴走させたことがある。そのとき自分がオーラをあふれさせている自覚が、彼にはなかった。
「ところで、リオさんは来ていない!?こっちに来たはずなんだけど・・」
「リオが?・・来ていなかったけど・・・」
アキがリオのことを訊ねて、ハルが不安を感じながら答える。
「もしかして、あのガルヴォルスに襲われたんじゃ・・!?」
ハルが口にした言葉を聞いて、アキが不安を膨らませる。彼女が周りを見回して、リオを探していく。
「リオさん・・リオさん!」
アキがリオに向けて叫び声を上げる。ハルの体に力を入れて、リオを探しに向かった。
ハルの一撃で大きく吹き飛ばされたリオは、空き地の真ん中に落ちて倒れていた。
「あのガルヴォルス・・強い・・私の意識が吹き飛びかけるなんて・・・!」
人の姿に戻ったリオが体を起こす。
(急いで戻らないと・・もしかしたら、ハルさんとアキさんに、アイツらが襲いに行っているかもしれない・・・!)
ハルたちの危機を感じて、リオが体に力を入れて立ち上がる。彼女はゆっくりと元の場所に戻っていく。
そこにはガルヴォルスの姿はなく、ハルとアキがいた。
「ハルさん、アキさん!」
リオが声をかけると、ハルとアキが振り向いてきた。
「リオさん!」
アキが声を上げながらリオに駆け寄った。
「リオさん、大丈夫ですか!?ケガとかは・・!?」
「アキさん・・私はだいじょ・・うっ・・!」
アキの心配の声に答えようとしたとき、リオが体に痛みを覚えて顔を歪める。
「アキさん、どこか痛いのですか!?」
「大丈夫・・大丈夫だから・・・」
アキに支えれて、リオが答える。しかしアキもハルも、リオが大丈夫そうには見えなかった。
「とりあえずヘブンに行こう・・このまま痛い思いをさせておくわけにいかないよ・・・!」
「それなら・・ヘブンよりもマンションのほうが近いです・・・」
呼びかけるハルに、リオがマンションに行くように言う。
「この道を少し歩けば、マンションの前の道に差し掛かります・・」
「分かりました!・・ハル、行くよ・・・!」
「うん・・・!」
リオの案内を聞いて、アキとハルは彼女を連れてマンションに向かっていった。
リオを連れて行くハルとアキの様子を、スパイダーガルヴォルスの男が見下ろしていた。
「ガルヴォルスたちから逃げても、見つけた蝶を逃がすつもりはないよ・・」
男がハルたちを、性格にはアキとリオを見据えて、狙いを定めていた。
「このまま逃がしはしない・・あの蝶たちは僕が捕まえてやるよ・・必ず・・・」
2人を捕まえるチャンスのときまで待つことにして、男は1度姿を消した。
リオはハルとアキに支えられて、マンションにたどり着いた。ナオミは帰ってきておらず、部屋には誰もいなかった。
「ナオミはまだ出かけているみたい・・でもガルヴォルスのことに巻き込めないから、いないほうが好都合なのかもしれない・・・」
「リオさんも・・ガルヴォルスのこと、知っていたんですか・・・!?」
リオが口にした言葉を聞いて、アキが驚きを覚える。
「何かガルヴォルスとあったの?・・いや、いい・・ムリに聞かれるのはイヤだよね・・」
ハルが問いかけて、リオの心境を察してやめた。
「ううん・・ナオミが今いないから、ここで話します・・」
ところがリオはハルとアキに自分のことを打ち明けることにした。
「私の家族は、ガルヴォルスに殺されているんです・・自分たちの目的だけで、関係ないお父さんとお母さんを・・・」
「リオさん・・・そんなことが・・・」
自分の体を抱いて震えるリオの話を聞いて、アキも困惑を感じていく。
「だから私、ガルヴォルスが許せないんです・・私から全てを奪った、ガルヴォルスが・・・」
「リオ・・・」
ガルヴォルスへの怒りを浮かべるリオに、ハルも困惑を感じていた。彼はリオが自分と似た感情を抱えていることと、自分がガルヴォルスの1人であることを気にしていた。
「リオさん・・復讐とか、そういう気持ちを持ったことはないけど、身勝手な連中に不満や怒りを感じたことはたくさんあるよ・・」
ハルがリオに自分のことを打ち明けることにした。
「それが、今の僕を作ったようなもんなんだけどね・・イヤなことにはどうしても我慢できなくて・・・」
「そんなハルを支えたいと思って、私は今もそばにいます・・・」
ハルに続いてアキもリオに自分のことを話してきた。
「本当に絆が強いですね・・そういうふうに、お互いを支え合っている・・・」
リオがハルとアキを見て物悲しい笑みを浮かべる。しかしすぐに彼女から笑みが消える。
「私は、支えてもらっているのに、誰も支えていない・・情けないですね・・・」
「そんなことないですよ・・人生は人それぞれですし、リオさんもいつか、誰かの支えになるときが来ますよ・・リオさん、優しいですから・・」
自分を責めるリオにアキが励ましの言葉をかける。
「もしかしたら、リオさんが私たちの支えになることがあるかもしれませんし・・」
「アキさん・・ハルさん・・本当にありがとうございます・・2人に言われて、元気を取り戻せそうです・・・」
アキに言われて、リオが笑みを取り戻していく。
「でも、できることならガルヴォルスに関わらないほうがいいのかもしれない・・危険だよ・・・」
そこへハルが心配の声をかけてきた。するとリオが首を横に振ってきた。
「危険と分かっていても、イヤなものは受け入れたくない・・私はそうですし、ハルさんもそうですよね・・・?」
「それは・・そうだけど・・・」
逆にリオに問いかけられて、ハルが口ごもってしまう。
「私も、イヤなものを黙って受け入れられるほど、気楽というわけじゃないんです・・どうしても、イヤなものには受け入れることはできない・・・」
「そうか・・そうだよね・・僕がそう言われたら、そう返す可能性のほうが高いよね・・ゴメン・・・」
自分の本音を口にするリオに、ハルが肩を落とす。
「いいえ、悪いのは私のほうです・・偉そうなことを言ってしまって・・・」
リオが謝るが、ハルは返す言葉が見つからなくなってしまい、2人とも言葉をかけられなくなってしまった。
「リオさん、あなたは休んでいてください・・何か必要なものを買ってきますから・・・」
この沈黙を破るように、アキがリオに話しかけてきた。
「そんな・・これ以上、2人に迷惑をかけてしまうのは・・」
「こんな状態の君をそのままにしていくなんて、後味悪いよ・・・」
当惑するリオにハルも正直に言いかける。
「ハルさん・・・分かりました・・もしもナオミが帰ってきたら、あなたたちのことも話します・・もちろん、ガルヴォルスのことは秘密にします・・・」
2人の気持ちを汲み取って、リオは自分の部屋に行ってベッドに横になることにした。
「行こう、アキ・・」
「うん・・・」
ハルとアキは買い物のため、マンションを後にした。
「ハルさん・・アキさん・・・」
リオが2人に対して、戸惑いを募らせるばかりとなっていた。
リオのために買い物に出たハルとアキ。2人は歩きながら、リオの心身を心配していた。
「リオさん、大丈夫かな?・・自分で言っているみたいに、大丈夫とは・・・」
「うん・・だからどうしても放っておけない・・放っておいたら、僕たちはきっと後悔する・・・」
アキの問いかけに、ハルは声を振り絞るように答える。2人ともどうしたらいいのか分からず、不安を抱えていた。
「でもホントに、リオさんをガルヴォルスに関わらせるのはよくないと思う・・・」
「うん・・いつか、ガルヴォルスに襲われて・・・」
リオに対する不安を募らせていくハルとアキ。
「やっぱり、ムリにでもリオさんを止めたほうがいいのかな・・・?」
「でも、無理やり押し付けるのは、僕が嫌がっていたやり方じゃないか・・そんなことをしたら、今度は僕が僕でなくなっちゃう・・それだけは避けないといけない・・受け入れちゃいけないんだ・・・」
「ハル・・・」
アキが口にした言葉を頑なに拒絶しようとするハル。彼は自分がイヤだと思っていることを受け入れることを絶対にしようとしなかった。
「いた・・蝶の中の1匹・・・」
そのとき、ハルとアキに向けて声がかかってきた。2人のそばの電柱の上に男がいた。
「お前・・あのときのクモ・・・!」
「またお前か・・お前には用はないんだけどなぁ・・・」
敵意を向けるハルに言いかける男の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼がスパイダーガルヴォルスとなって、ハルとアキに向かって飛び降りてきた。
「アキ!」
ハルがアキを抱えて飛んで、スパイダーガルヴォルスの襲撃をかわす。その直後、スパイダーガルヴォルスが口から糸を出して、ハルの左腕に巻きつけた。
「なっ!?」
声を荒げるハルがスパイダーガルヴォルスに引っ張られて、反対のほうへ投げられる。
「ハル!」
ハルに駆け寄ろうとしたアキの前にスパイダーガルヴォルスが立ちふさがった。
「さぁ、じっくりと絡めてやるぞ・・・!」
スパイダーガルヴォルスがアキに向けて糸を吐き出した。
「キャアッ!」
「アキ!」
糸をかけられて悲鳴を上げるアキと、激情を募らせるハル。ハルの頬に紋様が走り、彼はファングガルヴォルスとなる。
「やめろ!アキから離れろ!」
ハルがスパイダーガルヴォルスに飛びかかるが、その糸に完全に包まれてアキは固められてしまった。
「これで捕まえたよ・・きれいな蝶を・・・」
「お前・・よくもアキを!」
不気味な笑みを見せるスパイダーガルヴォルスに、ハルが怒りを爆発させる。彼が力を込めた右の拳を繰り出して、スパイダーガルヴォルスを殴り飛ばした。
「お前、本当に厄介でイヤだね・・」
スパイダーガルヴォルスは文句を言いながら、口から糸を出して即興の網を作り出した。彼は網をクッションにすると、その反動でハルを飛び越えてアキのそばに着地した。
「アキ!」
「ハハハ!やったよ!この蝶はいただいていくよ!」
振り返ったハルをあざ笑い、スパイダーガルヴォルスがアキを抱えて飛び上がっていった。
「待て!」
ハルが追いかけるが、スパイダーガルヴォルスはアキをさらって姿を消してしまった。
「アキ・・アキ!」
人間の姿に戻ったハルが、虚空に悲痛の叫びをあげていた。彼は今、これまで感じたことのない絶望を痛感していた。
スパイダーガルヴォルスに襲われたアキの悲鳴を、リオは鋭い聴覚でかすかに捉えていた。
「もしかしてハルさんとアキさん、ガルヴォルスに襲われたんじゃ・・・!?」
2人の危機を感じてベッドから飛び起きるリオ。体が痛みを訴えるが、リオは耐えて歩いていく。
「ただいま〜・・あ、あれ?リオ?」
丁度ナオミが帰ってきた。彼女が声をかけるが、リオは立ち止まることなくマンションを飛び出していってしまった。
体がふらつくのにも耐えながら、リオはアキの声がしてきたほうに向かっていく。しばらく歩いていくと、彼女はハルが歩いていくのを目にした。
「ハルさん!」
リオが声を上げてハルに近づいた。
「ハルさん、大丈夫ですか!?・・アキさんは・・!?」
リオが問いかけるが、ハルの耳に彼女の声は入っていない。彼は夢遊病者のように歩き続けていく。
「アキさんに・・何かあったんですね!?・・もしかして、この前のクモのガルヴォルスが・・・!」
ハルは何も答えないが、リオはアキがスパイダーガルヴォルスに捕まったことを悟った。
「待って、ハルさん!私がアキさんを探しに行きます!」
リオが呼びかけるが、それでもハルは立ち止まらない。
「だから、ハルさんは少し休んでください!こんなんじゃ、アキさんを見つける前に、ハルさんが・・!」
「放して・・・僕は・・アキを助ける・・・」
リオが伸ばしてきた手を、ハルは払いのけて前進していく。
「ハルさん・・・」
アキを助けることしか頭にないハルに、リオは困惑する。
(助けないと・・アキさんを、ハルさんを・・私が・・・!)
アキとハルを助けたいという気持ちを膨らませるリオ。彼女も痛みの残る体に鞭を入れて、ハルを追いかけていった。
次回
「返せ・・アキを返せ!」
「これからもオレは、きれいな蝶をどんどん糸で絡め取っていくんだ〜・・!」
「まさか・・あなたが・・・!?」
「お前・・・!?」