ガルヴォルスFangX 第9話「牙の衝突」
自分勝手な人たちの断罪のため、ハルとアキは再び家を出た。2人は1度ヘブンに立ち寄ろうと、街に繰り出した。
「ナツさんが作ってくれた食事もよかったけど、レンさんのお礼の意味も込めて、ヘブンへカレーを食べに行ってもいいかも・・」
「そうだね・・そこの人たち、心優しいし・・行ってもいいかも・・・」
アキが投げかける言葉にハルが小さく頷く。彼は気分を落ち着かせていた。
「家以外での、落ち着けそうな場所かもしれない・・・」
「それが決定的になったら、それほど嬉しいことはないね・・・」
ハルとアキが微笑み合って頷く。2人はヘブンに向かうことにした。
ハルとアキはヘブンのそばにたどり着いた。ところがヘブンの前には長い列ができていた。
「す・・すごい行列・・・」
「この前はそんなに混んでいなかったのに・・・」
ハルもアキも長い列を見て唖然となる。
「ハルは、長い列を待つのは嫌だよね・・・?」
「うん・・ヘブンには悪いけど、こうも長いと他のお店に行ったほうがいいかなって思うようになるよ・・・」
アキが聞くと、ハルは肩を落としながら答える。2人は場所を変えて、ヘブンの列が減るのを待つことにした。
ヘブンから少し離れた場所から、ハルとアキは街の人が行き交うのを眺めていた。
「みんな、平和そうだね・・ガルヴォルスとかが潜んでいるのがウソみたい・・・」
「でもこうしている間にも、ヤツらが勝手をやってるんだ・・ガルヴォルスも、思い上がっている人間も・・・」
微笑みかけるアキに、ハルは困惑を浮かべて言い返す。平和そうに見える街の光景を見せられても、ハルは今の世界で落ち着くことができないでいた。
「あ・・あなたたちは・・・」
そのとき、ハルとアキが声をかけられた。2人の前をリオが通りがかった。
「君は・・・」
「来てくれたんですね、ヘブンに・・でも混んでいるみたい・・」
戸惑いを見せるハルに、リオが微笑みかける。
「この前はありがとう・・君たちにすっかり助けられちゃったよ・・・」
「いいですよ・・放っておけなかっただけですから・・」
感謝するハルにリオが優しく言葉を返す。
「あなたがハルを助けてくれたんですね・・ありがとうございます・・」
「いえ・・私もあのとき、あなたたちに助けられましたし・・・」
アキも感謝して、リオも笑顔を返した。
「自己紹介をしていませんでしたね。私は剣崎リオです。」
「僕はハル・・伊沢ハル・・・」
「私は三島アキです。改めてよろしくお願いします、リオさん・・」
互いに自己紹介をするリオ、ハル、アキ。
「もしかして、ヘブンのカレーを食べに来たのですか・・?」
「はい・・そのつもりだったんですけど・・・」
リオの問いかけに答えて、アキがヘブンの前で並んでいる人たちに目を向けた。
「昼食の時間帯はよく混むんです・・それも今日は多いほうです・・」
「これじゃ、今はしばらく食べるのは難しいかも・・・」
リオの言葉を聞いて、ハルが肩を落とした。
「食事はできないけど、裏口から入ることはできると思います・・レンさんも分かってもらえると思うし・・」
「すみません、リオさん・・私たちのためにそこまでしてくれて・・」
「いいですよ。私にとってあなたたちは恩人ですから・・・」
謝意を見せるアキに、リオが弁解する。ハルとアキはリオに連れられる形で、改めてヘブンに行くことにした。
「お待たせしましたー!・・あ、リオちゃん!」
接客を続けているレンが、リオたちが来たことに気付いて声をかけた。
「店長、すぐに着替えて仕事に入ります!・・ハルさん、アキさん、ちょっと待っていてください・・!」
リオはハルとアキに呼びかけてから、更衣室に向かった。2人はひとまず休憩室に行って待つことにした。
「私たちだけ、特別なところでくつろぐことになっちゃったね・・・」
「でもカレーを食べに来たお客様ってことにはならないね・・もっとも、そのことに不満は感じてないんだけどね・・・」
今の自分たちに苦笑を浮かべていくアキとハル。2人はヘブンでの忙しさを耳にして、だんだんとやりきれない気持ちになっていく。
「レンさん、私、手伝います!」
「ぼ、僕も!」
アキがレンに仕事の手伝いを進言して、ハルも彼女に続く形で申し出た。
結果、ヘブンでの仕事をすることとなったハルとアキ。2人が手伝ったことで、リオたちは混雑の危機を乗り越えることができた。
「ふぅ・・ありがとう、ハルくん、アキさん。助かったよ・・」
「いえ。困っているのを黙って見ていられなかっただけです・・」」
感謝の言葉をかけるレンに、アキが笑顔で返事する。
「僕がちゃんとできたのは皿洗いだけだったよ・・カレーもうまく盛りつけられたか、自信がないし・・」
「いや、皿洗いもみんなのためになってるよ。特に今日みたいに忙しいときはね。」
不安を口にするハルに、レンが続けて励ましの言葉を投げかけた。
「2人ともバンバン仕事をこなしていましたね。私もビックリしてしまいました・・」
リオもハルとアキの仕事ぶりに驚きと感心を感じていた。
「もしよかったらこのままここで仕事してみたら?今日みたいなときは、本当に猫の手も借りたいところだし・・」
レンがハルとアキに仕事をしてほしいという申し出をしてきた。
「でも・・僕は・・その・・・」
突然の申し出をされてハルが困惑する。
「少し考えてもいいですか?・・いきなりだったので・・・」
「いや、すまない・・いきなりそういうこと言われても動揺するよね・・」
言葉を返すハルに、レンが苦笑いを見せた。
「でも気が向いたときにでも声をかけてね。いつでも大歓迎だから。」
「うん・・・」
レンに優しく声をかけられて、ハルも微笑んで小さく頷いた。
「さて、お店も落ち着いてきたし、ハルくんとアキさんの分のカレーも用意しないとね。」
「そんな・・レンさん、そこまでしてもらわなくても・・」
レンがカレーを出すと、アキが戸惑いを見せる。
「2人を手伝わせておいて、何のお礼もしないのはよくないから・・」
「そこまでいうなら食べようかな・・元々そのつもりで来たんだから・・・」
レンのお礼をハルは受け入れることにした。
「店長、私も手伝います。ハルさんとアキさんには私もお世話になりましたので。」
リオもカレー作りに乗り出した。ハルとアキが顔を見合わせて、笑みをこぼしていた。
裏路地に逃げ込んでいた1人の女子。彼女はその先の突き当りに追い込まれて、逃げてきたほうを見て恐怖を募らせる。
「来ないで・・来ないでよ・・・!」
女子が迫ってきた不気味な影に対して悲鳴を上げる。影が不気味な笑みを浮かべると、口から糸を吐き出してきた。
「キャアッ!」
悲鳴を上げる女子が糸に全身を包まれていく。糸はそのまま固くなって石膏のようになって、女子を真っ白な像に変わった。
「いいぞ・・また1匹、糸に絡まれた蝶を捕まえた・・・」
影が固まった女子を見つめて、不気味な笑みを浮かべる。
「この調子でどんどん蝶を捕まえていくぞ・・きれいな蝶たちを・・・」
影は人の姿となって裏路地から立ち去る。女子は固まったまま路地に置き去りにされてしまった。
レンとリオが作ったカレーを食べて、ハルもアキも喜びと安心を感じていった。ヘブンを後にする2人を、リオも送るためについてきた。
「本当にありがとうございました。いつもカレーをごちそうさせていただいて・・」
「いいえ。ヘブンのカレーをおいしくいただいてもらって、私たちも嬉しい限りです・・」
感謝の言葉をかけるアキに、リオが笑顔を見せて答える。
「これからどうするんですか?・・やはり家に帰りますよね・・」
リオが問いかけると、ハルが思いつめた面持ちを浮かべた。
「言いたくないことを聞くのはよくないですよね・・・」
「ゴメン・・ちゃんと言えない・・・でも、やらないといけないことがあるのは確か・・」
気まずさを覚えるリオに謝って、ハルが自分たちの考えを口にする。
「それをやらないときっと、絶対に納得できないんじゃないかって思うから・・・」
「いいですね・・自分のやること、やりたいことがはっきりしているのは・・・」
ハルの話を聞いて、リオが物悲しい笑みを浮かべる。
リュウキをはじめとしたガルヴォルスを倒すことを、リオは最大の目的としていた。しかしそのために何をしたらいいのか、どうすることが目的を達成することになるのか、彼女は悩みを抱えていた。
「僕は単純にイヤなものが許せないだけだから・・・」
「私も、ハルについていきたいと思っています・・それがハルが安心できることになるなら・・・」
ハルに続いてアキも正直な気持ちを口にしていく。リオはこの2人に迷いがないことを痛感させられる。
「リオさんもきっと、やりたいことがはっきりしてくるときが来ますよ・・」
「アキさん・・・ありがとうございます・・そうなれるように私、頑張ります・・」
アキが投げかけた言葉に励まされて、リオが小さく頭を下げた。
「おぉ・・今日はついてる・・1度に蝶が2匹も見つかるとは・・・」
そこへ不気味な声が飛び込んできて、ハルたちが足を止めた。彼らの前に1人の男が現れた。
「誰なの、アンタ?・・僕たちに何か用なの・・・?」
ハルが不満げに問いかけるが、男は不気味な笑みを浮かべてくるばかりである。
「オレの目的はそこの蝶たちだ・・オスの虫はいらないんだよ・・」
言いかける男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。この異変を目にして、ハルもアキも、リオも驚きを覚える。
男の姿がクモのような怪物、スパイダーガルヴォルスとなった。
「ガルヴォルス・・こんなときに・・・!」
ハルがアキと一緒に危機感を感じて後ずさりする。
(ガルヴォルス・・ハルさんとアキさんがいるところに出てくるなんて・・・!)
リオも心の中で焦りを感じていく。
(2人の前でガルヴォルスになるわけにいかない・・怪物の姿を見せたら、きっと2人に嫌われてしまう・・・!)
ハルとアキの前でガルヴォルスになることができず、リオは困惑する。
「さーて・・どっちから捕まえてやろうかな〜・・」
スパイダーガルヴォルスがアキとリオを狙って迫ってくる。するとハルがスパイダーガルヴォルスの前に立ちはだかった。
「アキに近づくな・・僕にイヤな思いをさせるな・・・!」
「ハルさん・・・!?」
ハルの言動にリオが驚きを覚える。彼女は彼が人間だと思い、ガルヴォルスに太刀打ちできるわけがないと直感していた。
「オスの虫に興味ないって言ったよね・・邪魔しないでくれ・・・」
スパイダーガルヴォルスが不満を口にして、左側の爪でハルを横にはじき飛ばした。
「ハル!」
アキがハルに駆け寄ろうとするが、彼女とリオの前にスパイダーガルヴォルスが立ちはだかる。
「どっちから捕まえちゃおうかな〜・・」
迫り来るスパイダーガルヴォルスにアキが恐怖を募らせ、リオも危機感を隠せなくなっていた。
スパイダーガルヴォルスに突き飛ばされ、茂みに投げ込まれたハル。痛みを感じながら彼は起き上がり、茂みから出る。
「アキ・・・アキを追い込もうとするヤツは、許さない・・・!」
スパイダーガルヴォルスへの怒りを覚えたハルの頬に紋様が走る。彼の姿がファングガルヴォルスへと変わっていく。
「アキに手を出すな!」
激高したハルが一気にスピードを上げて走り出した。彼はアキとリオに襲い掛かろうとしたスパイダーガルヴォルスを、横から突き飛ばした。
(ハル・・・!)
目の前を通り過ぎていったハルを見て、アキが心の中で声を上げた。
(ガルヴォルスが、もう1人・・!?)
リオはガルヴォルスとなっているハルを目にして、感情を揺さぶられる。2人から離れて、ハルがスパイダーガルヴォルスに拳を振るっていた。
「お前はオレを怒らせた!絶対に野放しにしない!」
「ガルヴォルスまで邪魔してくるのか・・せっかく見つけた蝶なんだから・・」
ハルがさらに繰り出した拳を、スパイダーガルヴォルスは横に動いてかわす。彼が振りかざした爪が、ハルの体に傷をつける。
「くっ!」
一瞬うめくも怯まずに反撃に出るハル。彼が繰り出した右の拳が、スパイダーガルヴォルスの体に叩き込まれる。
「ぐおっ!」
重みのある打撃を受けて、スパイダーガルヴォルスがバランスを崩して地上に落ちる。彼はすぐに起きて、追撃を仕掛けてきたハルから逃げる。
「オス相手にこういうことはしたくないんだけど・・・!」
スパイダーガルヴォルスが不満げに呟きながら、口から糸を吐き出した。ハルはとっさに動いて糸をかわしていった。
「同じガルヴォルスなんだから、ちょっとは蝶を譲ってほしいんだけどなぁ・・」
スパイダーガルヴォルスがハルに不満を口にする。するとハルが彼に憤りを募らせる。
「人もガルヴォルスも関係ない・・オレたちの敵かどうかだけ・・・オレたちを苦しめるお前は、オレの敵だ!」
自分たちの意思を感情とともに言い放ち、ハルがスパイダーガルヴォルスに飛びかかっていった。
スパイダーガルヴォルスの魔手から助かったアキとリオ。ガルヴォルスを放っておけず、リオは追いかけようとした。
「アキさんはハルさんのそばに行ってあげてください。私はあの怪物を追いかけます・・」
「あっ!リオさん、待ってください!」
走り出すリオをアキが呼び止める。しかしリオは止まらずに走っていってしまった。
(ハルは今、あのガルヴォルスと戦ってるのに・・・リオさんを止めないと、危険に・・・!)
リオの危険を感じて、アキも焦りを募らせる。彼女はリオを止めようと追いかけていった。
スパイダーガルヴォルスを追っていくリオ。彼女がたどり着いた草地で、ハルとスパイダーガルヴォルスが戦っていた。
「ガルヴォルス・・しかもあのときのアイツも来た・・・!」
2人に対する怒りを募らせていくリオ。
「ガルヴォルス・・お前たちがいるから・・・!」
激高したリオの頬に紋様が浮かび上がる。彼女はソードガルヴォルスとなって、ハルとスパイダーガルヴォルスに向かって飛びかかった。
リオはスパイダーガルヴォルスを突き飛ばすと、ハルに向かって拳を振るってきた。
「お前は、あのときのガルヴォルス・・!」
「私は、お前たちとは違う!」
緊迫を覚えるハルに、リオが怒号を放つ。彼女が繰り出した拳を、ハルが手首をつかんで止める。
「お前も、オレたちを苦しめるつもりか・・・!?」
ハルがリオに鋭い視線を向けて、右手を強く握りしめる。
「オレたちを追い込もうとするなら、お前も!」
ハルが拳を振るうが、リオは彼の手を振り払って拳をかわす。
「追い込んでいるのは、お前たちガルヴォルスのほうだ!」
リオが言い返してハルに反撃を仕掛ける。2人は互いの正体を知らないまま、またぶつかり合おうとしていた。
次回
「あのガルヴォルス・・前より強くなってる・・・」
「あの蝶たちは僕が捕まえてやるよ・・必ず・・・」
「アキ!」
「この蝶はいただいていくよ!」