ガルヴォルスFangX 第8話「怒りの刃」
リュウキを目にした瞬間、リオは怒りを一気に膨らませた。彼女は激情に駆り立てられて、リュウキに飛びかかる。
「へぇ・・今度は君が遊んでくれるの・・・?」
リュウキが笑みを見せて、剣を構えてリオを迎え撃つ。リオが刃を振りかざして、リュウキが構えた剣にぶつける。
「お前が・・お前が私をムチャクチャにした・・・!」
「何を言っているの?・・何か面白いことなの・・?」
怒りを見せるリオだが、リュウキは悠然さを崩さずに言葉を返す。彼のこの態度がリオの怒りを逆撫でする。
「面白い・・面白いだと!?」
リオが刃を振りかざして、さらにリュウキの剣を叩いていく。ところがリュウキは平然としている。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!お前が来なければ、お前たちがいなければ!」
リオが突き出した刃を、リュウキは軽い身のこなしでかわした。リオはこれに反応して、即座に体を回転させて刃を振りかざす。
「お前が、お父さんとお母さんを・・・!」
剣に刃をぶつけた瞬間に言い放ったリオ。彼女のこの言葉を耳にした一瞬、リュウキが笑みを消した。
「お父さん・・お母さん・・・何それ・・・」
リオの言葉にリュウキが眉をひそめる。彼は疑問ではなく、不快感を感じていた。
「何だかイヤな気分になってきちゃったなぁ・・もう帰ろうかな・・」
リュウキはため息をつくと、リオの前から去っていく。
「逃げるな!」
リオが怒号を上げてリュウキを追うが、彼の姿を見失う。
「くっ!・・逃げるな・・逃げるな!」
リオの怒りの叫びが夕暮れの空に響いていた。
求人の本を読み終えて、ナオミは小休止に入っていた。彼女は退屈を紛らわせようとTVを見ていた。
TVでは奇怪な事件のニュースが映されていた。それが異形の怪物の仕業であると、ナオミは知る由もなかった。
「ホント、最近おかしなことばっかりね・・」
おかしな事件の連続を聞いて、ナオミはため息をついた。
そのとき、リオが買い物から帰ってきた。
「ただいま・・」
「あ、リオ、おかえり〜・・遅かったね・・」
元気のない挨拶をするリオに、ナオミが気のない返事をする。
「うん、ちょっとね・・慌てちゃったかな・・・」
リオがナオミに向けて苦笑いを見せた。それを見てナオミも笑みをこぼす。
「これから夜ご飯の支度をするね。ナオミ、少し待っていて・・」
「あたしも手伝うよ、リオ。これじゃリオをこき使ってるみたいになっちゃうから・・」
「そう思うんだったら、少しは料理の腕を上げるようにね。」
「ちょっと、リオ〜・・」
リオに言われてナオミが気落ちする。彼女の反応を見て笑みをこぼしてから、リオは夜ご飯の支度を始めた。
(ナオミと一緒にいると、辛いのを忘れられそうな気になってくる・・・)
リオがナオミとの日常に安らぎを感じていく。しかしそれが束の間のものでしかないことも痛感していた。
(私も、何もなければ、心から今を喜べたのかな・・・?)
リオは続けて、自分が体感した悲劇を思い出していた。
リオはガルヴォルスに襲われた。家に押し入ってきたガルヴォルスが、彼女の両親を手にかけたのである。そのガルヴォルスこそがリュウキだった。
(私たちは何も悪いことをしていなかった・・ガルヴォルスがいなければ、私たちはいつまでも安心して暮らせていた・・・)
リュウキだけでなく、全てのガルヴォルスへ怒りと憎しみを感じていくリオ。
(私はガルヴォルスの存在を許さない・・1人残らず、私が切り刻む・・・!)
ガルヴォルスの滅亡という誓いを頑なに貫くリオ。彼女の持つ包丁が、人参を強く切った。
次のヘブンでの仕事の日。リオは切実に仕事をこなしていった。ところがレンはリオの様子が普段と違うことに気付いていた。
「リオちゃん、今日はちょっと落ち着きがないかな?何か考え事かい?」
レンに声をかけられて、リオが歩み寄った。
「大丈夫ですよ、店長。考え事をしていたのなら、それはカレーとお客様のことですよ。」
「そうかい?それならいいんだけど、それでもあまり考えすぎると失敗してしまうこともあるからね。その点は気を付けてね。」
「店長・・分かっています。気を遣っていただいて、ありがとうございます・・」
レンからの注意を受けて、リオが微笑んで答えた。
(励ますつもりが逆に励まされちゃった気がするな・・)
仕事に戻っていったリオを見て、レンが苦笑いを浮かべる。
(だけどやっぱり、何か悩みを抱えているみたいだ、リオちゃん・・みんなに言えないことだろうけど・・・)
リオを心配するも迂闊に聞き出すことができず、レンも困惑を募らせる。
(本当に、何もなければいいんだけど・・・)
レンもリオに対して一抹の不安を感じていた。
同じ頃、ハルとアキはまた旅に出ようとしていた。玄関の前に出た2人を、ナツとマキが見送りに来た。
「やっぱり出ていってしまうのか・・ホントにさみしいもんだ・・」
「ゴメン、兄さん・・でも、僕は・・・」
苦笑いを見せるナツに、ハルが気まずい面持ちを浮かべる。するとナツがハルの肩に手を乗せてきた。
「これだけのことをやってるんだから、もうオレたちのことは気にすんな。ハルたちはハルたちの思ったようにすればいいんだ・・」
「兄さん・・・ありがとうね・・・」
ナツに励まされて、ハルが感謝の言葉を返した。
「でもまた必ず帰ってきてね。いつでも待ってるからね・・」
「マキさん・・ありがとうございます・・行ってきます・・・」
マキに声をかけられて、アキが頭を下げた。
「兄さん、行ってくるよ・・兄さんたちも元気で・・・」
「うん・・ハル、アキちゃん、気を付けて・・・」
ハルはナツと声を掛け合って、アキと一緒に家を出ていった。
(本当にまた帰ってきてくれ、ハル、アキちゃん・・・)
ハルとアキを見送って、ナツは2人の無事を見送った。
この日のヘブンでの仕事を終えたリオ。しかし仕事をやりきったという実感が湧かず、リオは気落ちしていた。
「ハァ・・すっかりレンさんに心配されてしまった・・もっとしっかりしないと・・・」
リオがため息をついて落ち込んでいく。
(気を引き締めなおす意味でも、あのガルヴォルスを倒さないと・・・)
リュウキのことを思い出して、リオがガルヴォルスへの憎悪を募らせていく。怒りと憎しみが彼女の中で今でもくすぶっていた。
「今日はナオミが買い物をする番だったね・・・」
リオは買い物をナオミに任せて、1人マンションに帰ることにした。街の人込みを抜けて、彼女は人気のない道を歩いて行く。
だがその途中でリオが突然足を止めた。
(この感じ・・アイツ・・あのときの・・・!)
一気に緊張を膨らませていくリオ。彼女は近くにリュウキがいることを感じ取った。
「もしかして、僕を探してくれてるのかい・・?」
声がしたほうにリオが振り返る。彼女の前にリュウキが現れた。
「嬉しいなぁ・・また僕と遊んでくれるんだね・・・」
「お前が現れなければ・・私たちは幸せに暮らしていられたのに・・・お前が・・・!」
笑みを見せてくるリュウキに怒りをあらわにするリオ。彼女の頬に紋様が走る。
「幸せ?・・僕も幸せになれているのかな・・・?」
笑みを見せるリュウキにも紋様が浮かび上がる。2人がそれぞれソードガルヴォルス、キラーガルヴォルスとなる。
「お前は幸せになれない・・私が幸せにさせない・・・!」
リオが言い放つと、リュウキに飛びかかって拳を繰り出す。リュウキは素早く動いて、リオの拳をかわす。
「逃げるな!」
リオが叫んでリュウキを追っていく。彼女が繰り出す拳を、リュウキは軽い身のこなしでかわしていく。
「鬼ごっこはつまんないのかな?・・だったら派手にやっちゃおうかな・・」
リュウキは離れるのをやめて、リオに向かっていって拳を振るう。彼の打撃を受けて、リオが地上に落とされる。
ダメージを感じながら立ち上がるリオの前に、リュウキが近づいてきた。
「それじゃ、本格的に遊ぶとしようかな・・・」
リュウキが笑みを見せてから、具現化した剣を手にして振り上げる。リオが即座に突っ込んで、リュウキを突き飛ばして引き離す。
「お前だけは、私の手で倒す・・・!」
「いいね・・ますます面白くなってきたよ・・・」
鋭く言いかけるリオに、リュウキがさらに笑みを見せる。リオが憎悪を募らせて、右手から剣を引き出す。
リオがリュウキに飛びかかり、刃を振りかざす。リュウキも剣を掲げて、リオの刃を防いでいく。
「もうちょっと力を入れてやってよね・・これじゃ軽くて張り合いがなくなっちゃうじゃない・・」
「ふざけるな!」
悠然さを崩さないリュウキに、リオがさらに怒りを強めていく。力任せに刃を振りかざす彼女だが、リュウキに軽々とかわされていく。
「そうそう、その調子で来てよ。面白くなっていくんだから・・」
「自分が面白くなるために、私のお父さんとお母さんを!」
手招きしてくるリュウキにリオが飛びかかる。彼女が突き出した刃を、リュウキが横に動いてかわす。
リュウキが突き出した剣の先がリオの左肩に刺さった。
「ぐっ!」
肩を傷つけられて、リオが顔を歪める。うずくまる彼女の前にリュウキが立つ。
「これで終わりじゃないよね?・・これで終わったんじゃ、まだまだ物足りないよ・・・」
「お前は・・お前だけは・・・!」
笑みをこぼしていくリュウキに、立ち上がるリオが憎悪をむき出しにしていく。
「そうだよ・・その調子・・もっともっと、僕と遊んでよ・・・」
リュウキがリオに向けて手招きをしてきた。次の瞬間、彼の出していた右腕に切り傷がつけられた。
傷つけられたことに笑みを消すリュウキ。彼の前にいるリオから紅いオーラがあふれ出してきていた。
「遊んで・・そういわれて聞くと思っているの・・・!?」
リオがリュウキに向けて鋭い声を投げかける。
「遊びの時間は終わりよ・・もう2度とやらせはしない・・・!」
リオがリュウキに飛びかかり、刃を振りかざす。リュウキも手にしている剣を振りかざす。
2人の刃と剣が強くぶつかり合う。2本の刀身がその衝撃で折れて、切っ先が宙を舞ってから地面に刺さった。
「あ〜あ・・折れちゃった・・」
リュウキがため息をついて、折れた剣を捨てる。
「今回もここでゲームオーバーかな・・これからも僕と遊んでよね・・君となら楽しくなれるから・・」
「このまま逃げられると思うな・・お前は私がここで殺す・・・!」
笑みを見せてくるリュウキをリオがつかみかかる。彼女が殴りかかるが、リュウキに手で止められる。
「遊びもいっぺんにやっちゃうと後が面白くなくなっちゃうじゃない・・また今度、今日よりも楽しくなれるようにね・・」
リュウキはリオを受け流すように投げ飛ばす。地面に倒れる瞬間に体勢を整えて踏みとどまるリオだが、リュウキは屋根を飛び渡って去っていってしまった。
「逃げるな!これ以上勝手なことをするな!」
声を張り上げるリオだが、リュウキは戻ってこなかった。
「私はアイツを・・お父さんとお母さんを殺したアイツを、倒さないといけないのに・・・くそっ!」
リオが憤りを抑えきれず、地面に手を叩きつける。彼女は怒りを浮かべたまま、人の姿に戻る。
(お父さん、お母さん・・私は・・・!)
両親への思いとリュウキへの憎悪に苦しめられるリオ。激情のあまり、彼女の目から涙があふれてきていた。
リオとの対決を中断して、場所を離れたリュウキ。人の姿に戻った彼は、リオとの戦いを思い出して喜びを感じていた。
「この街は退屈しないね・・面白い遊び相手が2人もこの辺りにいるなんてね・・・」
リュウキがリオとハルとの戦いに胸を躍らせていた。しかしすぐに彼の顔から笑みが消えた。
「でもあの人・・お父さんとお母さんのことを言っていたな・・何だか、腹が立ってくる・・・」
リュウキが喜びから一変、不満を募らせて手を握りしめていく。
「お父さんもお母さんも、僕にはいらない・・僕の遊びの邪魔をするから、2人ともいらない・・・」
不快感を募らせながら、リュウキが歩き出す。彼の視界に男の子と両親の姿が入ってきた。
その瞬間、リュウキの頭の中に自分の両親の記憶がよみがえってくる。
リュウキの両親は彼が見ている親子とは全く違う性格だった。それが彼に親への憎悪と拒絶を植え付けることになった。
「イヤだなぁ・・ああいうのを見せられると・・イライラしてくるなぁ・・・」
リュウキが目を見開いて、キラーガルヴォルスになる。彼の異形の姿を目の当たりにして、親子が悲鳴を上げる。
「悪いけど・・僕の遊び相手になってもらうよ・・・」
リュウキが笑みを見せて言いかけると、父親の首をつかんで持ち上げる。母親は恐怖を膨らませて、男の子は目から涙を流したまま動けなくなっていた。
父親は抵抗もままならずにリュウキに地面に叩きつけられる。彼の体からの流血が地面に広がっていく。
「次はお前だね・・これじゃ物足りないなぁ・・」
「逃げて!急いでここから逃げなさい!」
リュウキが近づいてくると、母親が男の子を逃がそうと背中を押した。同時にリュウキが剣を具現化させて振り上げてきた。
「ホント・・そういうのを見せられると、イヤになってくる・・・」
リュウキは呟いてから剣を振り下ろした。剣に切り裂かれて、母親の体から血しぶきがあふれ出す。
母親からの返り血を受けるリュウキと男の子。
「パパ・・ママ・・・うわあっ!」
男の子が悲鳴をあげながら、死にもの狂いに逃げ出していった。リュウキが彼を見据えて、剣を構えた。
だがリュウキは男の子を追いかけようとせず、剣をゆっくりと下げた。
「遊び相手にもならない親なんて、やっぱりいらない・・僕がほしいのは、楽しい遊びをしてくれる人だけだよ・・それはあの2人・・」
リュウキがため息をついて、人の姿に戻ってから歩き出す。
「少し休んでから、2人を見つけようかな・・・」
ハルとリオと戦うのを楽しみにしながら、リュウキはその次の機会を待つことにした。
リュウキとの戦いで心身ともに悲鳴していたリオ。彼女はふらつきながら、マンションに帰ってきた。
「あ、リオ、おかえりー♪」
ナオミがリオに向けて明るく挨拶をする。彼女は料理の勉強をしていた。
「う〜・・やっぱりリオみたいに料理うまくいかないよ〜・・何かコツがあるんだろうな〜・・」
料理の勉強に悪戦苦闘して、ナオミが肩を落とす。ところが彼女のこの様子を気にすることなく、リオは部屋に行ってしまった。
「リオ・・・?」
リオの様子がおかしいと思って、ナオミも部屋に入る。
「リオ?・・大丈夫・・・?」
「ゴメン、ナオミ・・疲れたから少し休むね・・・」
ナオミが心配の声をかけると、リオはベッドに突っ伏したまま答えた。疲れ切っていた彼女は、そのまま眠りについた。
リュウキをはじめとしたガルヴォルスへの憎悪に、リオはさらに苦しむことになった。
次回
「君たちならいつでも大歓迎だよ。」
「人もガルヴォルスも関係ない・・オレたちの敵かどうかだけ・・・」
「ガルヴォルス・・お前たちがいるから・・・!」
「オレたちを追い込もうとするなら、お前も!」