ガルヴォルスFangX 第7話「荒れる心」
アキを襲ってきたリュウキに、ハルが憤りをあらわにする。これに対し、リュウキはハルが相手してくれることを喜んでいた。
「もっと遊んで・・もっともっと楽しませてよ・・・」
「お前の思い通りになんてさせない・・アキを追い込もうとするお前を、オレは許しはしない・・・!」
悠然としているリュウキにハルが飛びかかる。彼が繰り出した拳がリュウキを殴り飛ばした。
殴られたリュウキがその先の壁に叩きつけられる。しかしリュウキは痛がる様子を全く見せていない。
「へぇ・・この前よりも強くなってるね・・もっと楽しくなりそうだね・・・」
体を起こしたリュウキが笑みをこぼして、ハルに目を向ける。
「オレたちに構うな・・2度とオレたちの前に現れるな・・・!」
「イヤだね・・こんなに楽しそうなの、初めてなんだから・・・」
声を振り絞るハルだが、リュウキは彼の言葉を聞こうとしない。
「お前も理解力がないのか・・オレたちに構わなければ、お前には何もしないというのに・・・!」
「理解力がないのはそっちだよ・・遊んでくれればいいのに、何でイヤそうにするんだい・・?」
「お前も自分勝手になりたいのか・・お前も死なないと分からないとでもいうのか!?」
リュウキの態度にハルが怒りを爆発させた。彼が牙を引き抜いて刃として手にする。
「剣の勝負か・・それも面白そうだね・・」
リュウキはさらに笑みをこぼして、剣を具現化させて手にする。飛びかかるハルが振りかざしてきた刃を、リュウキが剣を振りかざして迎え撃つ。
刃と剣がぶつかり合って、立て続けに金属音が強く響いていく。
「やっぱり前より強くなってるね・・それじゃもっと本気になっちゃおうかな・・・!」
リュウキが目を見開いて、剣を持つ手に力を込める。ハルが刃を振りかざすが、リュウキの剣に跳ね返される。
「ぐっ!」
押されたことに毒づくハル。踏みとどまろうとする彼に、リュウキが迫ってきた。
「油断しないほうがいいよ・・あっという間に終わっちゃうよ・・」
リュウキが次々に剣を振りかざしていく。その刃がどんどんハルの体に傷をつけていく。
「ハル!」
追い込まれていくハルに、アキが悲鳴を上げる。傷だらけになったハルが、押されて壁に叩きつけられる。
「そろそろ終わりかな・・それなりに楽しめたからよしとするかな・・・」
リュウキがハルの眼前に剣の切っ先を向けてきた。憤りを募らせるも、ハルはすぐに反撃に出ることができない。
リュウキがハルに向けて剣を突き出す。しかしそのとき、彼の剣が突然弾かれた。
「えっ・・?」
リュウキが声を上げた直後、ハルが抱えられて運ばれる。キャットガルヴォルスとなったサクラが、彼を助けたのである。
「ハル、大丈夫!?アキちゃんも無事でよかった・・!」
「サクラ・・来ていたのか、こっちに・・・!」
安堵の笑みを見せるサクラに、ハルが困惑を膨らませていく。
「ナツさんから連絡もらってね。合流しようとしたら、こんなことになってたからね・・」
「サクラさん・・・ナツさん、知らせてくれたのですね・・」
サクラの説明を聞いて、アキが笑みをこぼす。
「あのガルヴォルス・・この前ハルたちの前に現れたヤツだね・・」
サクラがリュウキに振り返って、真剣な面持ちを浮かべる。
「また新しいガルヴォルスが現れたね・・まだまだ楽しめそうだよ・・・」
「アンタ、ハルだけじゃなくてアキちゃんにも襲い掛かってきたんだね・・・!」
悠然さを見せてくるリュウキに、サクラが怒りを感じていく。
「ハルだけじゃないよ・・アキちゃんを守るため、あたしも戦うからね!」
「サクラ・・アキを守るのは僕のやることなんだから・・・!」
言い放つサクラもハルが不満げに言い返す。臨戦態勢に入っている2人を見て、リュウキが喜びを膨らませる。
「いいよ・・2人まとめて相手をするよ・・そのほうが楽しくなりそうだからね・・・」
リュウキが目を見開いて、ハルとサクラに向かって飛びかかる。サクラが彼を迎え撃ち、素早く爪を繰り出して命中させていく。
「速いね・・でも速くても当たっても、痛くもかゆくもないんじゃ同じだよ・・」
リュウキはサクラの攻撃を苦にせず、反撃に出る。彼が振りかざした剣が、素早く動いているサクラの左腕にかすり傷を付けた。
「速い!?」
リュウキの速さに驚きを覚えるサクラ。
「君もそれなりに強いみたいだけど、僕には敵わないね・・」
リュウキがサクラに向けて剣を振り下ろそうとした。そのとき、ハルが拳を繰り出して横からリュウキを殴り飛ばした。
「どこまでもオレたちに構うな!」
怒号を言い放つハル。踏みとどまったリュウキが、彼に視線を向けてくる。
「そうそう・・そのぐらいのほうがやりがいがあるってもんかな・・僕も本気になれるし・・・」
リュウキがハルとサクラに対して戦意を募らせる。ハルもサクラもリュウキに敵意を向けて、アキが彼らの戦いを困惑を感じながら見守る。
そのとき、ハルたちのいる場所に近づいてくるパトカーのサイレンが響いてきた。
「ゲームオーバーってことかな・・また今度遊ぼうね・・・」
リュウキはため息をついてから、ハルたちの前から去っていった。
「あたしたちも行ったほうがいいみたいだね・・」
サクラが声を変えると、ハルはアキを連れてこの場を離れた。警察がこの場に駆けつけたときには、ハルたちもリュウキも姿が見えなくなっていた。
ハルたちの帰りを家で待っていたナツ。無事であると信じていたナツだが、同時に心配も感じていて、いても立ってもいられなくなっていた。
「分かってても気にせずにいられないってことか・・」
独り言を口にしながら、ナツがハルたちの帰りを待つ。
そのとき、家の玄関のドアが開く音がした。
「ハルたちか・・・!?」
ナツが慌ただしく玄関に向かう。ハル、アキ、サクラがなだれ込むように家の中に入ってきた。
「ハル!アキちゃん!サクラちゃん!」
「イタタタ・・ナツさん、ただいま・・ハルとアキちゃんも一緒だよ・・」
声を上げるナツに、顔を上げたサクラが苦笑いを見せる。
「兄さん、やっと帰れたって感じになってるよ・・」
「そうだな、ハル・・お前に任せて逃げた感じになってるな・・悪かった・・」
ハルが安心を口にすると、ナツも苦笑いを見せた。
「いいよ、兄さん・・兄さんは僕とアキを助けてくれているんだから・・・」
ハルがナツに自分なりの励ましを送る。
「ハァ・・とんだ気晴らしになっちゃったな・・今日はもう休むか・・」
「その前に夜ご飯にしようよ、兄さん・・僕も少し手伝うから・・・」
ため息をついてから呼びかけるナツに、ハルも声をかける。彼のこの発言にナツもサクラも、アキも驚きを感じていた。
「どうしたの、兄さん・・・?」
「う、ううん、何でもない・・それじゃ、ハルのお言葉に甘えるかな・・」
疑問符を浮かべるハルに、ナツが苦笑いを見せて答える。2人は夜ご飯の支度のため、キッチンに向かった。
「ハル、ちょっと変わったかな・・自分から手伝うって言い出すなんて・・・」
「はい・・多分、ハル自身も気づいていないのかもしれません・・でもハルには、誰よりも優しいって気持ちがあるんです・・今のは、その優しさの1つなのかも・・」
驚きを感じているサクラに答えて、アキが落ち着きを取り戻していく。常にハルのそばにいたアキは、彼自身も気づいていなかった変化を1番理解していた。
「でもまだ、ハルは本当に安心しているとは思っていません・・まだ世界には、自分勝手な人がいますから・・」
「アキちゃん・・・うん・・ハルはそのために、アキちゃんと一緒に街を回ってたんだよね・・・」
自分たちの気持ちを口にするアキに、サクラも戸惑いを感じながらも頷いた。
「もう少しここで休んだら、ハルも私もまた出かけるつもりです・・」
「そう・・ならそれまではじっくりと体を休めて、気持ちを楽にしていったらいいんじゃないかな。」
「はい・・そうするつもりです・・今はこれからに備えて、楽しく休ませてもらいます・・少しでもハルが落ち着けたらいいです・・・」
「あたしも同じ気持ちだよ。ハルもアキちゃんも、幸せになってくれたらって思ってる・・」
自分たちの気持ちを伝えあって、アキとサクラが笑みを見せ合う。ハルの幸せが2人の共通の願いだった。
「それじゃ、あたしたちもお手伝いしちゃおうか。」
「はい。」
サクラの呼びかけにアキが笑顔で答える。2人もハルとナツの手伝いに向かった。
ヘブンでの仕事を終えて、リオはマンションに帰ってきた。部屋にはナオミが帰ってきて、本を読み漁っていた。
「ただいま・・ナオミ、どうしたの?」
「おかえり、リオ・・う〜ん・・また新しい働き先を考えようかなって思ってるの・・この際、今やってるのとWワークでもいいかな〜って・・」
声をかけてきたリオに返事するも、ナオミは本に目を通してばかりだった。
「リオの顔パスでヘブンでもいいかなって思ってるんだけど、料理をやると大惨事になっちゃうから、料理系はまずいんだよね〜・・」
「ナオミったら・・それは、ヘブンで事故を起こしちゃったら大変だけど・・・」
「それじゃヘブンじゃなくて地獄だね、アハハ・・」
「えっ・・・!?」
ナオミが口にしたダジャレに、リオは思わず驚きの声を上げた。彼女はすぐに気持ちを落ち着けて、気を取り直してナオミに声をかけた。
「私、買い物に行ってくるね・・ナオミ、何か買ってきてほしいものある・・?」
「えっと、ないよ〜・・後で思い出したらあたしが買いに行ってくるよ〜・・」
ナオミの返事を聞いてから、リオは買い物に出かけた。
1人買い物に出かけたリオ。彼女は人の行き交う街中を歩いていた。
(みんな平和そう・・ガルヴォルスのことも、悪い人たちのことも何も知らないから、平和だって思っていられるんだけど・・・)
リオが心の中で、世界の不条理に全く気付いていない人々への皮肉を感じていた。
(知らないほうが、いいこともあるってことかな・・・)
そして自分自身にも皮肉を感じていくリオ。苦笑をもらしながらも、彼女はさらに歩いて行く。
そのとき、街の人たちの中の1人、スーツの女性が突然倒れた。
「キャアッ!」
女性が倒れたことに、周りにいた人たちが悲鳴を上げた。リオもこの異変に気づいて足を止めた。
「誰か!誰か救急車を!」
周りにいる人が騒ぎ出す中、リオは倒れた女性が既に手遅れであることを察知していた。そして彼女は女性の後ろ首の辺りに針のような細いものが刺さった跡があった。
(この人込みの中で首に針を刺そうとしたら、どうしても人目についてしまう・・遠くから当てるのは、普通の人には難しい・・・)
リオはこの殺人がガルヴォルスの仕業であると予感した。彼女は人込みから離れて、ガルヴォルスの居場所を探ろうと意識を集中する。
(遠くから人を襲うなんて・・ガルヴォルス・・許せない・・・!)
ガルヴォルスへの憎悪に駆り立てられて、リオが犯人の居場所を探っていく。彼女の感覚が、丁度人の姿に戻ったガルヴォルスの気配を捉えた。
(いた・・・!)
リオはガルヴォルスの居場所に向かって走り出す。彼女はビルから外に出ていく人影を目撃する。
(振り切ろうとしてもダメ・・私はもう、お前の気配を覚えている・・・!)
走っていく男の後ろ姿を追いかけていくリオ。ガルヴォルスへの憎悪が、彼女の速度を上げていた。
そしてリオは廃ビルの1つの中に入っていった。
(ここに隠れて陰から狙い撃ちするつもりみたい・・・!)
犯人が不意打ちを仕掛けてくると予測して、リオが注意力を高めていく。ビルの中の暗闇と静寂が彼女を包み込んでいく。
感覚を研ぎ澄ませて意識を集中させているリオに向けて、1本の針が飛び込んできた。その瞬間、リオがソードガルヴォルスとなって、右手から刃を伸ばして振りかざした。
リオの刃が飛んできた針を弾いた。
「闇討ちをしてきても通用しないよ・・出てきたら?それとも私から行ったほうがいい・・?」
リオが冷徹に声をかける。するとビルの部屋の物陰に隠れていた男が、彼女の前に姿を現した。
「お前もガルヴォルスだったか・・オレをここまでつけてくるとは、かなりレベルが高いか・・」
「ガルヴォルスは許さない・・何も悪くない人を傷つけるガルヴォルスは、この手で切り裂く・・・!」
呟くように言いかける男に、リオが刃の切っ先を向ける。すると男の頬に紋様が走る。
「何も悪くない?・・何も知らないヤツのセリフだな・・」
声色を低くする男がハチの姿をしたビーガルヴォルスになる。
「オレを追い込んだのは、お前が悪くないと思っている人間のほうなんだぜ・・悪くなかったオレをはめて、イライラを植え付けて・・・!」
ビーガルヴォルスが苛立ちを見せて右手を構える。右手からリオに向かって針が放たれる。
リオは素早く動いてビーガルヴォルスの針をかわす。ビーガルヴォルスが彼女を狙って、さらに針を飛ばしていく。
「こんなバケモノになっちまったから、オレはさらに周りから白い目で見られるようになった・・オレをとことん陥れる人間のほうが、死んで当然なんだよ!」
「お前たちガルヴォルスの言い分なんて聞く耳持たない・・私から何もかも奪ったガルヴォルスの言うことなんて・・・!」
ビーガルヴォルスの苛立ちの言葉を、リオが冷たく一蹴する。
「私はガルヴォルスを全員切り刻む・・自分たちなら何でもできると思い上がっている考えを、完膚なきまでに叩きのめしてやる・・・!」
リオが右手を構えてビーガルヴォルスに向かっていく。
「真正面から向かってきて、勝てると思っているのか!?」
ビーガルヴォルスが叫んで、両手を構える、右手だけでなく左手からも針が放たれる。
リオが刃を振りかざして、針を弾き飛ばしていく。だが迎撃が間に合わず、針の数本が彼女の体に刺さる。
「ぐっ!」
針を刺されたリオが足を止めてうずくまる。
「オレの針には毒がある。ガルヴォルスでも平気ではいられないぞ。」
ビーガルヴォルスが苦痛を浮かべているリオを見下ろす。
「オレの不満にも耳を貸さないのか・・自分を押し付けるのは、ガルヴォルスでいても心は人間だってことか・・・」
ビーガルヴォルスがため息をついてから、右手をリオに向ける。
「人間に味方するガルヴォルスも、オレは許すつもりはない!」
ビーガルヴォルスが言い放った瞬間だった。彼の右手が切り裂かれて地面に落ちた。
「なっ・・!?」
「許すつもりがないのは私のほう・・ガルヴォルスは全員この手で切り裂く・・・!」
驚愕と激痛を覚えるビーガルヴォルスに、リオが鋭く言いかける。切られた右手から血をあふれさせているビーガルヴォルスが、背中の羽をはばたかせて飛び上がった。
「逃がさない!」
リオが天井を突き破って逃げ出したビーガルヴォルスを追っていく。痛みを感じながら、ビーガルヴォルスがリオから逃げていく。
「くっ・・このままで済まされると思うな・・必ず思い知らせて・・・!」
ビーガルヴォルスが苛立ちを募らせながら、リオへの逆襲を考える。
「ねぇ・・何だか楽しそうだね・・・」
そこへ声をかけられて、ビーガルヴォルスが振り返る。彼の前に現れたのはリュウキだった。
「子供・・・?」
「退屈していたところだったんだ・・僕と遊んでよ・・・」
眉をひそめるビーガルヴォルスの前で、リュウキが笑みをこぼす。彼の頬に紋様が走り、異形の怪物、キラーガルヴォルスとなる。
「ガルヴォルス・・遊び相手なら人間がたくさんいるじゃないか・・・」
「人間もガルヴォルスも関係ないよ・・遊んでくれるなら誰でもいいよ・・・」
言いかけるビーガルヴォルスだが、リュウキは悠然とした態度を崩さない。
「君は、僕を楽しませてくれるかな・・・」
リュウキが目を見開いて、具現化した剣を手にして飛びかかる。彼が振りかざした剣が、負傷していたビーガルヴォルスを切り裂いた。
ビーガルヴォルスが血しぶきをまき散らしながら、この場に倒れ込んだ。
「こんなもんなの?・・つまんなかったなぁ・・」
リュウキがため息をついてから、剣を振って刀身に付いた血を払う。そこへビーガルヴォルスを追ってきたリオがやってきた。
「あれは・・・!?」
リュウキの姿を見たとき、リオは驚愕と激しい憎悪を感じた。
(間違いない・・アイツ・・・!)
ミナの脳裏に、昔に体験した非情な出来事がよみがえってくる。
(私のお父さんとお母さんを殺したガルヴォルス・・・あのガルヴォルスだけは・・必ず・・・!)
リオが激情に駆り立てられて、刃を構えてリュウキに飛びかかった。
次回
「お前が、お父さんとお母さんを・・・!」
「ガルヴォルスがいなければ、私たちはいつまでも安心して暮らせていた・・・」
「もっともっと、僕と遊んでよ・・・」
「遊びの時間は終わりよ・・もう2度とやらせはしない・・・!」