ガルヴォルスFangX 第6話「殺し屋」

 

 

 怪物、キラーガルヴォルスとなったリュウキが、ファングガルヴォルスとなったハルに向かっていく。2人が繰り出した拳がぶつかり合って、周囲に衝撃を巻き起こす。

 さらに攻撃を繰り返すハルとリュウキ。2人は互角の攻防を繰り広げていた。

「やるね・・やっぱり遊ぶのはこうでないといけないね・・」

 リュウキがハルの力を確かめて喜びを感じていく。

「それじゃちょっと早いけど、ウォーミングアップを切り上げてちょっと本気出しちゃうかな・・」

 リュウキが言いかけてから、右手から剣を引き出した。息をのんだハルに向けて、リュウキが剣を振りかざしてくる。

「それそれ・・ちゃんとしないと切られちゃうよ・・」

 リュウキが言いかけてさらに剣を振る。その切っ先がハルの頬をかすめた。

「おやおや・・差が出てきちゃったかな・・」

 リュウキが笑みをこぼして剣を突き立てる。剣はハルの左肩に突き刺さった。

「ぐっ!」

 肩に激痛を覚えてハルが顔を歪める。彼は右手に力を込めて、リュウキの剣を殴りつけて弾き飛ばした。

「ホントにやるね・・すぐに終わらせちゃったらもったいないよ・・」

 リュウキがハルの強さに喜びを膨らませていく。自分の遊びが盛り上がっていると、彼は思っていた。

「久しぶりだよ・・こんなに楽しい気分になったのは・・・もっともっと楽しみたいなぁ・・・」

 リュウキがハルとの戦いを遊びとしてじっくりと味わおうとしていた。

(こんなヤツを、アキに近づけてたまるか・・・!)

 いきり立ったハルが肩の痛みをこらえて、リュウキに飛びかかる。

「ムチャしないほうがいいよ・・傷が広がって治らなくなっちゃう・・・」

 リュウキが悠然と言いかけながら、ハルの背中にひじ打ちを叩き込んだ。

「ぐっ!」

 重みのある一撃を受けてハルが怯む。さらにリュウキに殴られて、ハルが川のほうへ突き飛ばされる。

(絶対にアキのところへ行かせるか・・・!)

 ハルが全身に力を込めて、さらに右手に集中させて拳を突き出す。彼の打撃から衝撃波が放たれて、リュウキの顔面に命中する。

 顔を攻撃されたことで、リュウキが苛立ちを覚える。剣を手にした彼が、ハルが落ちた川に向けて剣を振りかざす。

 剣から真空の刃が放たれて、一瞬川を横に切り裂いた。リュウキが視線を巡らせるが、ハルの姿を捉えることができなかった。

「逃げられちゃったか・・でもあの人との遊びは楽しかったなぁ・・・」

 リュウキが苛立ちを抑えて、ハルとの戦いの喜びを思い起こす。

「見つけたらもっと楽しんじゃおう・・今度は逃げられないように、じっくりと・・・」

 人間の姿に戻ったリュウキが期待に胸を躍らせる。彼はハルもアキたちも探そうとせずに気ままに歩き出していった。

 

 ハルがリュウキの相手をしている間、サクラはアキとナツを連れて河川敷から離れていた。その途中、アキはハルが心配になって足を止めた。

「アキちゃん・・・!?

「ハルが心配で・・やはり私、戻ります・・・!」

 サクラが声をかけると、アキがハルのところへ戻ろうとする。

「ダメだよ、アキちゃん・・まだハルが戦ってるかもしれないよ・・アキちゃんが行って、何かあったら・・・!」

「でも・・ハルに何かあったら、私・・・」

 呼び止めるサクラだが、アキはハルへの心配を抑えられない。

「どうしても行きます・・ハルがそばにいないと・・・」

「アキちゃん・・・だったらあたしが行くよ・・あたしがハルを連れ帰ってくる・・」

 アキの気持ちを汲み取って、サクラが意を決する。

「でもサクラさん・・・」

「あたしだってガルヴォルスなんだから。ハルをアキちゃんの前に連れ帰ってくることぐらいできるんだから。」

 戸惑いを見せるアキに、サクラが笑顔を見せた。

「ナツさん、アキちゃんをお願いね。」

 サクラはナツに言うと、キャットガルヴォルスになってハルのいる河川敷に向かった。

 

 この日のヘブンでの仕事を終えて、リオは寄り道して買い物に行こうとしていた。スーパーに向かっていた彼女は、下に川が流れている橋を渡っていた。

(こうして川は静かに流れている・・私の荒々しい心と対照的に・・・)

 穏やかに流れていく川を見つめて、リオは自分自身の悲しみを思い出していた。ガルヴォルスによる悲劇は早く終わらせないといけないと、彼女は願っていた。

「えっ?・・・あれって・・・」

 そのとき、リオは川を流れてくる何かを見つけて目を凝らす。流れてきたのはリュウキとの戦いで川に落ちて気絶したハルだった。

「あの人・・・!?

 リオが慌てて川沿いに向かって、流れてきたハルを引き上げた。ハルは意識を失いながらも、飲んでいた水を吐き出した。

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 ハルに呼びかけるリオ。彼女は彼を抱えて橋の上に出た。

(ここからじゃ、病院よりもヘブンのほうが近い・・レンさんにも相談して・・・!)

 リオはハルを1度ヘブンに連れていくことにした。ハルは意識が戻らないまま、リオに連れられた。

 

 ハルを連れ帰るために河川敷に戻ってきたサクラ。しかし河川敷にもその周辺にも、ハルもリュウキもいなかった。

「ハル・・どこにいるの、ハル・・・!?

 サクラが見回してハルに呼びかける。しかしハルは姿を見せることなく、返事もない。

「ハルが簡単にやられるなんてことはない・・きっと近くで休んでるはず・・・!」

 サクラが意識を集中させて五感を研ぎ澄ませて、ハルの居場所を探っていく。彼が声を出したり動きを見せたりすれば、その声や音を聞き取ることができる。

 しかしサクラはハルの居場所をつかむことができない。

「もしかして、どっかに隠れてる!?・・・入れ違いになっただけならいいんだけど・・・」

 さらに周りを見回していくサクラ。彼女はハルを追い求めて、河川敷を探し回った。

 

 意識を失っていたハルが目を覚ましたのは、見覚えのある部屋。ヘブンの店員の休憩室だった。

「あれ?・・・ここは・・?」

「おぉ、気が付いたみたいだね・・」

 ハルが体を起こしたところで、レンが休憩室に入ってきた。

「リオちゃんが君を抱えてここにやってきたときはビックリしたよ・・でも意識が戻ってよかったよ・・」

「・・ここは、あのカレー屋・・・」

 レンの話を聞いて、ハルが記憶を思い返していく。

(僕はあのガルヴォルスにやられて、川に落ちて・・・そこを助けられたわけか・・・)

 自分が体感したことを思い返して、ハルが納得する。

(いけない!・・アキのところに戻らないと・・・!)

 ハルがアキのところへ戻ろうと体を起こすが、その瞬間に痛みを覚える。

「あぁ、まだ動いたらダメだって・・」

 レンに呼び止められて、ハルがおとなしくする。

「アキ、きっと心配している・・会って安心させてあげないと・・」

「えっと・・どこか連絡先は知らないかい?携帯電話とか持っていなかったみたいだし・・」

 アキと連絡を取ろうとするハルに、レンが困ってしまう。

「あ、あの・・」

 そこへリオが休憩室に来て、2人に声をかけてきた。

「目が覚めたんですね・・よかった・・・」

「話を聞いたよ・・君が僕を助けてくれたんだね・・・」

 安心の笑みを見せるリオに、ハルも微笑みかけてきた。

「ところで、電話借りていいですか?・・やっぱりアキと連絡を取らないと・・・」

「だからまだムチャしたらダメだって・・」

 また体を起こそうとするハルを、レンが呼び止める。

「放して・・アキを悲しませたら、僕は・・僕は・・・!」

 アキと連絡を取ろうとするハルに、リオが戸惑いを覚える。彼女はハルがアキに対して純粋であると悟った。

「私の携帯電話でいいなら・・・」

 リオがハルに言いかけて、自分の携帯電話を取り出した。

「いいの?・・僕のために・・僕たちのために・・・」

「とても大切な人のようだから・・心配させたくないその気持ち、私も分かるつもりだから・・・」

 戸惑いを見せるハルにリオが微笑みかける。彼女はアキを心配させたくないと思っているハルに心を動かされていた。

「ありがとう・・使わせてもらうよ・・・」

 ハルは微笑んで、リオの携帯電話を借りて家の電話にかけた。しかし電話には誰も出ず、留守番電話につながった。

「もしもし・・僕は大丈夫だよ・・この前のカレー屋さんからかけてる・・少し休んだら家に帰るよ・・・」

 一応留守番電話に声を入れて、ハルは電話を切った。

「ホントにありがとう・・もういいよ・・」

 ハルは携帯電話をリオに返して、椅子に腰を下ろした。

「お言葉に甘えて、ちょっとここで休むよ・・お世話になります・・・」

「遠慮せずにどうぞ。よかったらカレーもどうかな?」

「そこまでしてくれて・・何だか悪い気が・・・」

「気にしなくていいって。お店のカレーをおいしく食べてくれるなら・・」

 レンに親切にされて、ハルが照れ笑いを見せた。彼は休息の間、レンが作ってくれたカレーを食べることにした。

 

 ハルを見つけることができないまま、サクラはアキたちのところへ戻った。彼女の知らせを聞いて、アキはいてもたってもいられなくなっていた。

「ゴメン、アキちゃん・・あたしでも見つけられないなんて・・・」

「サクラさんのせいじゃないです・・ハルはどこかで無事にいる・・無事にいるに決まっているんです・・・」

 謝るサクラに弁解しながら、アキがハルの無事を信じていく。

「1度家に帰ってみよう・・探しに行くにしても、出直したほうがいいよ・・」

 ナツが困惑を感じながら、アキとサクラに呼びかける。

「もしかしたら、ハルが帰っているかもしれない・・アキちゃんを心配させたくないから、その可能性は少ないけどね・・」

「ナツさん・・・はい・・そうします・・・」

 ナツの言葉をアキは渋々聞き入れることにした。

「あたしはもうちょっとだけあの辺りを探してみるよ・・見つかったらすぐに知らせるからね、アキちゃん・・」

「サクラさん・・・本当にありがとうございます・・・」

 再びハルを探しに向かうサクラに、アキが感謝を示した。

「サクラちゃん・・そっちもお願いね・・・」

「うん、任せといて・・」

 ナツの声に笑顔で答えるサクラ。しかし彼女がハルを見つけ出すことに確固たる自信を持っておらず、見せていたのも作り笑顔だったことに、アキは気づいていた。

(私にも、ハルを探せる力があったら・・・)

 アキは自分を責めていた。自力でハルを探し出せないでいる自分を。

 

 先に家に帰ってきたアキとナツ。家にハルが帰ってきた様子はなかった。

「あ、留守電が入ってる・・ハルだといいけど・・・」

 ナツのこの呟きを聞いた途端に、アキが電話の留守電記録を確認した。

“もしもし・・僕は大丈夫だよ・・この前のカレー屋さんからかけてる・・少し休んだら家に帰るよ・・・”

 留守番電話に記録されているハルの声がアキたちに伝わる。

「ハル・・カレー屋さんに助けられたんですね・・・」

 アキが喜びを覚えると、ナツも笑顔を見せて頷いた。

「私がハルを迎えに行きます。ナツさんはここで待っていてください。ハルが入れ違いに帰ってきてしまうかもしれないから・・」

「アキちゃん・・1人で大丈夫かい・・・?」

「大丈夫です・・迎えに行くだけなら・・それに、私もハルのために何かしたいんです・・・」

 心配の声をかけるナツに、アキが自分の想いを真剣に口にする。彼女の言葉を聞いて、ナツは笑みをこぼした。

「分かったよ、アキちゃん。とりあえずサクラちゃんにもこのことを連絡しておくよ。そうすれば途中で合流できるかも。」

「ナツさん・・ありがとうございます・・」

 ナツにお礼を言って、アキは再び外に飛び出した。

「もしもし、サクラちゃん。ハルが見つかったよ。今、アキちゃんが迎えに行ってる。」

 ナツはすぐにサクラに電話を入れた。

 

 レンのカレーを食べながら、ハルは小休止を取っていた。気分を落ち着けようとする彼に、リオが声をかけてきた。

「あの・・本当に何かあったんですか?・・川に落ちて流されるなんて・・・」

 リオが質問を投げかけるが、ハルは答えようとせず黙り込む。

「話したくない・・話せない理由があるんですね・・・」

「うん・・ゴメン・・」

 ムリに聞こうとしないリオに、ハルが謝る。

「いいですよ・・自分が辛くなるようなことは、口にするだけでもイヤになりますよね・・」

「うん・・みんなが安心していられるのが1番いいのに、誰かが僕たちを安心させない・・何でそんな馬鹿げたことをしてくるんだ・・・」

 リオが励ましの言葉をかけると、ハルが不条理への不満を口にしていく。

「やっぱり、イヤなことをイヤだって言えるんですね・・私も、そういうところがあったりするんです・・・」

「君も・・・?」

「私も、イヤなことを経験してきましたから・・・」

 自分の気持ちを切実に打ち明けようとしてくるリオに、ハルは戸惑いを感じていく。彼は彼女が自分と同じ境遇と性格をしているのだと感じだしていた。

「そろそろ帰ることにするかな・・いい加減に回復したと思うから・・」

 ハルが帰ろうと立ち上がる。

「まだ休んでたほうが・・どうしても帰るというのでしたら、せめて送らせてください・・」

「ううん・・1人で大丈夫だよ・・これ以上、僕たちのために迷惑をかけるのは・・・」

 一緒に行こうとするリオに、ハルが首を横に振ってきた。

「また食べに来てもいいかな?・・アキと一緒に行くから・・」

「は、はい・・待っていますね・・・」

 部屋を出ていくハルを、リオは戸惑いながら見送るだけだった。

 

 ハルを迎えにヘブンへ急ぐアキ。彼女はハルに会いたい気持ちに完全に突き動かされていた。

(ハル・・急いで会いに行って、ハルを安心させないと・・・)

 アキはハルへの想いを募らせながら、さらに走っていく。

「ねぇ・・何をそんなに急いでるの・・?」

 その彼女の前に人影が飛び込んできた。リュウキが現れて悠然とした態度と笑みを見せてきた。

「君・・あのときいたよね?・・一緒に遊んでくれないかな・・・?」

「あなたは・・・!?

 手招きをしてくるリュウキに、アキが緊迫を覚える。彼女は恐怖を感じながらリュウキから逃げ出す。

「鬼ごっこかい?・・それも面白そうかも・・・」

 リュウキが笑みをこぼして、アキを追いかけていく。彼はほどなくしてアキを追い越して回り込んできた。

「こんなんじゃ鬼ごっこは面白くないよ・・張り合いがなくて・・・」

 笑みをこぼしてくるリュウキに、アキが恐怖を募らせて後ずさりする。

「鬼に追いかけられるのがどういうことなのか、ちゃんと思い知らせないとね・・」

「アキ!」

 そこへハルが駆けつけて、アキとリュウキの間に割って入ってきた。アキの悲鳴とリュウキの気配を頼りにして、彼は駆けつけてきたのである。

「アキ、大丈夫!?ケガとかない!?

「ハル!・・う、うん・・・!」

 心配の声をかけてくるハルに会えて、アキが喜びを感じて頷いた。

「これは・・生きてたんだね・・よかった・・・」

「お前が、アキを追い込んだのか・・・!?

 笑みを強めるリュウキに、ハルが鋭い視線を向ける。

「楽しいのは、中途半端じゃいけないよね・・」

 目を見開いたリュウキがキラーガルヴォルスとなる。同時にハルもファングガルヴォルスとなる。

「オレたちに構うな・・・これ以上しつこくするなら、オレは容赦しないぞ・・・!」

 リュウキに憤りをあらわにしていくハル。彼はアキを守るため、リュウキに挑もうとしていた。

 

 

次回

第7話「荒れる心」

 

「アキちゃんを守るため、あたしも戦うからね!」

「ハルもアキちゃんも、幸せになってくれたらって思ってる・・」

「間違いない・・アイツ・・・!」

「あのガルヴォルスだけは・・必ず・・・!」

 

 

作品集

 

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