ガルヴォルスFangX 第5話「思い出の場所」
ハルはアキ、サクラと一緒に家に帰ってきた。
ガルヴォルスや不条理を振りかざす権力者への反逆に出てから、ハルとアキはこの場所に帰ってきていない。久しぶりの帰宅に、ハルもアキも喜びと不安が入り混じった複雑な気分を感じていた。
「やっと帰ってきた・・僕の家に・・・」
「うん・・ナツさん、私たちをどう迎えてくれるのかな・・・」
ハルもアキも家を見つめたまま、戸惑いを感じていく。
「ここまで来たら入ろうよ。でないとナツさんが先に気付いてドア開けちゃうよ・・」
「うん・・行くよ・・僕たちが決めて、今帰ってきたんだ・・・」
サクラが声をかけると、ハルが小さく頷いて家の玄関のドアを開けた。
「兄さん・・ハルだよ・・帰ったよ・・・」
「ハル!?帰ってきたのか!?」
ハルが声をかけると彼の兄、ナツが転がり込んできた。痛がっている彼を目にして、ハル、アキ、サクラが唖然となる。
「イタタタ・・悪い、ハル、アキちゃん・・みっともないところを見せちゃって・・」
ナツが苦笑いを浮かべながら立ち上がる。
「兄さん・・ただいま・・・」
「ハル・・無事でよかった・・・」
ハルとナツが再会を実感して喜びを募らせていく。
「どこかで何かあったんじゃないかって不安になって・・心配せずにはいられなかった・・・」
「僕もアキも、時間が過ぎれば過ぎるほど、兄さんのことを気にするようになったよ・・でも、それでもどうしてもやらないといけないことだったから・・・」
安心を見せるナツに、ハルが自分の気持ちと考えを口にする。2人のやり取りを見てサクラも安堵を感じ、アキは戸惑いを募らせていた。
「あっ!ハルくん!アキちゃん!サクラちゃん!」
そこへナツに会いに来たマキが、ハルたちを見て声を上げてきた。
「マキさん、ただいま帰りました・・お久しぶりです・・」
「アキちゃん、おかえり・・無事でよかったよ〜!」
微笑みかけるアキにマキが抱き着いてきた。再会の喜びを感じながら、マキはさらにアキと握手を交わしていく。
「2人とも疲れているだろう?休むか?それともおなかすいているから何か食べるか?」
ナツが問いかけると、ハルが自分のおなかに手を当てて、空腹を確かめる。
「それじゃ食べることにするよ・・お兄さんの作るご飯、久しぶりだよ・・」
「ハル・・アキちゃんも遠慮しないで、どうぞ食べてって・・」
安堵の笑みを見せるハルに頷いてから、ナツがアキにも声をかけた。
「ナツさん・・はい。いただきます・・」
アキが笑顔を見せて頷いた。こうしてハルとアキは家に帰ることとなった。
ナツとマキが用意したご飯を食して、ハルとアキは改めて安心を感じていた。
「おいしかったよ、兄さん・・そして、懐かしかった・・・」
ハルがナツたちの料理の味を噛みしめて、喜びと安心を覚える。
「懐かしい、か・・それだけいろいろあったってことか、ハルとアキちゃんは・・」
ナツが口にした言葉に、ハルとアキが小さく頷いた。
「人殺しがいけないことということは分かってる・・本当だったら僕はこんなことしたくなかった・・でもそうでもしなかったら、僕たちはいつまでも安らげないことになってしまう・・・」
ハルがナツとマキに自分の気持ちと考えを口にしていく。
「そうなって、僕が僕でなくなるぐらいなら・・どんなことだって・・・!」
「ハル・・・」
ハルの頑なな意思を見せられて、ナツもマキも戸惑いを隠せなかった。
「あんまり思いつめるな。イヤなことも今は考えるな。うまいメシもうまく感じなくなっちゃうぞ・・」
「兄さん・・ゴメン・・兄さんは僕たちを助けてくれているのに・・その兄さんに八つ当たりするようなことを・・」
「だから気にするなって。しっかり食べて、今日は休めって・・」
ナツに励まされて、ハルは微笑んで食事を続けた。
「アキちゃんも遠慮しないで。さ。」
「ナツさん・・ありがとうございます・・・」
ナツに勧められて、アキも微笑んで感謝した。2人は食事を続けて、料理の味を噛みしめて安堵を感じていった。
食事を終えたハルとアキは、彼の部屋に来ていた。2人はベッドの上に横たわり、安らぎと抱擁を感じていた。
「帰ってきたんだね、ハル・・ハルの家に・・・」
「うん・・やっぱり自分の家がいいよね・・・」
アキの言葉にハルが頷く。ハルは自分の住んでいた家の居心地を確かめていた。
「でもまだ、心から安心できる世界になったとは言えない・・」
「まだ世界に、勝手な人がいるから・・・」
「うん・・勝手な人がいなかったら、僕たちはずっと家にいられた・・手を汚すこともなかった・・・」
「そうさせる人たちがいるから、ハルは戦い続けていくんだね・・・」
自分の意思を貫こうとするハルと、彼に同意していくアキ。
「どういう形であっても、ハルには幸せでいてほしい・・それが、私がそばにいることだということも分かっているけど・・」
「ありがとう、アキ・・アキの幸せが僕の幸せになる・・これからも一緒にいて・・・」
アキとハルが寄り添い合って、互いのぬくもりを確かめていく。家に帰っても、2人にとってお互いが心の支えとなっていた。
「兄さんの言う通り、今日はもう休もう・・」
「うん・・本当に、体も心も疲れているからね、私たち・・・」
ハルとアキはベッドに横たわったまま、眠りについた。
自分たちの安息のためにアキを連れて戦い続けてきたハル。束の間の休息とはいえ、彼らにとって家での時間は安らげるものだった。
ハルとアキの様子をこっそりと伺ったサクラ。彼女は2人のいる部屋を離れて、ナツとマキのいるリビングに戻ってきた。
「ハルとアキちゃん、仲良く眠ったとこだよ・・」
「そうか・・ずっと気を張り詰め続けてきたんだ・・今ぐらい休ませてあげないと・・」
サクラの言葉を聞いて、ナツが微笑んで頷く。
「ハルはもう殺人犯だ・・そのハルを庇ってるオレも、立派な犯罪者だね・・」
「そんなことないよ!ハルはアキちゃんや自分たちの平和な時間と場所を守るために立ち向かってるだけ!ナツさんもマキちゃんも2人を親切に支えているだけなんだから!」
物悲しい笑みを浮かべるナツに、サクラが気持ちを込めて呼びかける。
「それが犯罪になるっていうなら、世界中のみんなが犯罪者になっちゃうよ・・・!」
「サクラちゃん・・・」
目に涙を浮かべるサクラに、マキも戸惑いを感じていく。
「サクラちゃん・・ありがとう・・サクラちゃんの気持ち、僕たちにちゃんと伝わったよ・・」
サクラの気持ちを受け止めて、ナツが笑みを見せる。
「でもハルには、あたしの気持ちは絶対に伝わらない・・あのとき、自分のことばっかりを優先させて他の人の気持ちを考えなかった時点で、あたしはハルに受け入れてもらえる資格をなくしてたんだよ・・・」
「サクラちゃん・・ハルはすっかり、自分を不快にさせるようなものを拒絶する性格になっちゃってるからね・・・」
「それでも、あたしはハルとアキちゃんが安心できればって思う・・想いが伝わらなくても、幸せになればいいって願うことができれば・・」
「サクラちゃん・・それは辛い選択だよ・・・」
「分かってる・・でもそれしか、満足できない選択だから・・・」
「サクラちゃん・・・そこまで、ハルとアキちゃんのことを・・・」
サクラのハルとアキへの純粋な想いに、ナツもマキも戸惑いを感じるばかりだった。
「どっちも引かない状態になっちゃったら、どっちかが負けるか諦めるかするしかないんだよね・・・」
「・・・サクラちゃんも、ホントにガンコだね・・・」
笑みを見せながら肩を落とすサクラに、マキは苦笑いを見せていた。
「サクラちゃんも休んでいったら?君も疲れているはずだよ・・」
「ありがとう、ナツさん・・でもあたしは自分の家に帰ります。休むのはそこで・・」
ナツに答えてから、サクラが家を出ようとする。
「ハルとアキちゃんによろしくね・・」
「うん。サクラちゃん、ありがとうね・・」
ナツからの感謝を受けて、サクラは家を出た。
それからハルとアキは夜ご飯を食べる以外は睡眠を続けていた。何日も張りつめた時間を送っていた2人は、ゆっくりと睡眠をとって体と心を休めることが難しくなっていた。
今、家にいる時間がハルとアキの束の間の休息だった。
ハルたちが久しぶりの帰宅をしてから一夜が明けた。ハルもアキも表面上は元気を取り戻していた。
「ハル、アキちゃん・・もう大丈夫かい・・?」
「うん・・今は気分は落ち着いてるよ・・」
ナツが声をかけると、ハルが微笑んで答える。アキも彼と同じく落ち着いている様子を見せていた。
「ハル・・まだ家にいるのか・・・?」
「うん・・まだどうしたらいいのかハッキリしていないから、しばらくいるかな・・・」
「そうか・・だったらその間の時間、楽しい時間にしないとね・・」
「うん・・僕も楽しいほうがいいよ・・・」
ナツとハルが会話を交わしていく。兄弟である2人のやり取りを見て、アキは安心を感じていた。
「今日、調子がいいなら外に散歩にでも出かけないか?天気もいいし、気晴らしになるんじゃないか?」
「うん・・3人で出かけようかな・・・」
ナツの誘いを受けて、ハルはアキに目を合わせて頷き合った。3人は朝ごはんの後に外に散歩に出ることにした。
ハルたちが出かけたのは河川敷。彼らは草地の坂に寝そべって体を伸ばした。
「んー、こうして寝て空を見上げるのも気持ちがよくなる気がしてくるー・・!」
ナツが深呼吸をして気分をよくしていく。
「そうだね・・でもホントに気分がよくなるのはまだまだ先かもしれない・・・」
ハルが深刻な面持ちを浮かべて、先の不安を感じていく。
「まだ世界には身勝手な連中がいる・・自分の都合で人を襲ってるガルヴォルスだっている・・そいつらが野放しになっている限り、僕は・・」
「その怪物の姿と力で戦っていく、か・・」
ハルの考えを聞いて、ナツが複雑な心境を感じてひとつ吐息をつく。
「ハル、オレとしてはこのまま家にいてほしいっていうのが本音だ。アキちゃんと一緒に明るく楽しく、気分よく過ごしていってほしいんだ・・」
「兄さん・・・確かに・・これからもずっといてもいいと思うけど・・・」
ナツに唐突にお願いされて、ハルが戸惑いを見せながらも自分の考えを口にしていく。
「まだ、僕たちに安らぎはやってきてない・・・つかみ取れていない限りは、僕は家でじっとしてるなんてできないよ・・」
「ハル・・・ハルはどこまで行ってもハルだな・・」
ハルの話を聞いてナツが苦笑いを見せた。
「ハルがいなくなるのはさみしいな・・だけど、ハルが自立してくれるのはいいことか・・・」
「ゴメン、兄さん・・わがままばっかりで・・・」
「何を今さら。ハルのわがままなんて、今に始まったことじゃないだろ?」
謝るハルにナツが気さくに答える。彼に笑顔を見せられて、ハルとアキも笑みをこぼした。
「あっ♪ハルたちだー♪」
河川敷を通りがかったサクラが、ハルたちに声をかけてきた。
「サクラさん、こんにちは。今日は気分転換にと散歩に出てきたんです・・」
「えー!?だったらあたしも誘ってくれればよかったのに〜!」
アキが答えると、サクラが散歩に連れて行ってもらえなかったことに不満を見せる。するとハルが逆に不満を見せてきた。
「ゴメン、ハル・・ハルに文句を言ったんじゃ・・・」
「何も言わないでよ・・聞けば聞くほど嫌気がさしてくる・・・」
謝るサクラだが、ハルに対して火に油を注ぐことにしかならないと悟って、ただただ苦笑いを見せるしかなかった。
「でもここ、気分転換をするにはいい場所かも。だって青空が見渡せるし、寝そべるには丁度いい坂の角度だし。」
サクラが再び笑顔で言いかけて、ハルたちと同じように草地の坂に寝そべった。
「こうして気持ちを落ちつけられる場所と時間があってほしい・・みんな思ってることだけど、みんな叶えられないでいるんだよね・・」
「だから僕はやる・・やらないといけないんだ・・やらないと、僕たちがムチャクチャになってしまう・・・」
サクラの言葉に言い返して、ハルが体を起こす。
「僕自身のため・・アキのため・・僕は戦うよ・・僕たち以外のみんなが敵に回るなら、その全員を倒すことも迷わない・・・!」
「ハル・・・そこまで安心を感じたいってことか・・・」
ハルの意思が頑なであると痛感して、ナツがため息をついた。
「自分たちの気持ちでこれから過ごしていくっていうなら、絶対にアキちゃんを悲しませないことだ。これからも2人仲良くな・・」
「兄さん・・・うん・・もちろんだよ・・・」
気さくに振る舞ってみせるナツに、ハルも笑みを見せた。
「楽しそうだね、君たち・・・」
そこへ声をかけられて、ハルたちが振り向く。1人の少年が立っていて、悠然とした態度を見せていた。
「君、誰だい?1人なのかい?」
「うん、そうだよ・・遊び相手がいなくて困ってたんだよ・・・」
ナツが声をかけると、少年が笑みを見せたまま答える。
「ねぇ・・遊んでくれないかな・・・?」
手を差し伸べてきた少年に対して、ハルが緊張を覚える。
「アキたちはここから離れて・・・!」
「ハル・・・?」
ハルの呼びかけにアキが戸惑いを見せる。
「アイツ、ガルヴォルスだよ・・・!」
「なっ・・・!?」
ハルが口にした言葉を聞いて、ナツが緊張を覚える。すると少年が笑みを強めてきた。
「ガルヴォルス?・・もしかしてこの姿になる人のことかな・・・?」
少年の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿が異形の怪物へと変わっていった。
「やっぱりガルヴォルス・・・!」
サクラが毒づきながら、ナツとアキを連れて離れていく。
「ハル、ナツさんとアキちゃんを連れて、ここから逃げるからね!」
サクラがハルに呼びかけて、ナツとアキを連れて逃げていった。少年はアキたちを追いかけずに、ハルに目を向ける。
「君だけでも遊んでくれるのかな・・・?」
「その姿になった時点で、もう遊びにならないじゃないか・・・」
少年が聞くと、ハルが不満を口にしていく。しかし少年は気にした様子を見せない。
「とりあえず自己紹介しておくね・・僕はリュウキ。よろしくね・・」
少年、佐津間リュウキが悠然と言いかけていく。
「それじゃ始めようかな・・楽しそうな遊びになりそうだよ・・・」
「僕は君と遊ぶつもりなんてないよ・・だって君が、アキやみんなを傷つけるかもしれないと思っているから・・・!」
喜びを見せるリュウキに憤るハルの頬に紋様が走る。彼もファングガルヴォルスへの変貌を果たした。
「へぇ・・君もガルヴォルスだったんだね・・だったらホントに楽しめそうだね・・・」
「遊ぶのも楽しむこともしない・・アキたちを傷つけるお前の好きなようにはさせない・・・!」
笑みをこぼしていくリュウキに、ハルが憤りをあらわにしていた。
次回
「久しぶりだよ・・こんなに楽しい気分になったのは・・・」
「自分が辛くなるようなことは、口にするだけでもイヤになりますよね・・」
「楽しいのは、中途半端じゃいけないよね・・」
「これ以上しつこくするなら、オレは容赦しないぞ・・・!」