ガルヴォルスFangX 第4話「再会」
冷気を放つ女性と対峙していたハルの前に、サクラが現れた。
「サクラさん・・どうしてここに・・・!?」
「ふぅ・・やっとハルとアキちゃんを見つけられたよ〜・・」
驚きを見せているアキの前で、サクラが安心の笑みを浮かべていた。
「やっぱりハルとアキちゃんが気になっちゃって・・ずっと探し回って、やっと見つけられたんだよ・・」
「サクラ・・わざわざ僕たちを・・・」
気さくに事情を説明するサクラに、ハルがため息をつく。
「あなたも楽にしてあげるわ・・辛い思いをしないように・・・」
そこへ女性が妖しく微笑んできて、冷気を発してきた。ハルが彼女と戦おうとするが、その前にサクラが出てきた。
「ここはあたしが体を張るよ。ハルはアキちゃんのそばにいてあげて・・」
「サクラ・・・礼は言わないよ・・・」
サクラに促される形で、ハルがアキと一緒に離れる。
「悪いけど、今のあたしは楽になりたいとも辛いとも思ってないから・・」
笑みを崩さないサクラの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼女もガルヴォルスの1人である。
サクラが猫の姿に似たキャットガルヴォルスへと変わった。
「あなたもガルヴォルスなのね・・だったらなおさら、楽にしてあげないと・・・」
女性がサクラに向けて吹雪を放つ。同時にサクラが素早く動いて女性に突っ込んできた。
サクラの突進を受けて、女性が大きく突き飛ばされた。足を止めたサクラが見据えるが、女性は飛ばされたまま戻ってこない。
「もしかして・・やりすぎちゃったかな・・・」
ハルとアキに振り返って、サクラが照れ笑いを見せた。気さくな彼女にアキは唖然となり、ハルは憮然としていた。
女性がこの場からいなくなったことにより、あふれていた冷気が徐々に消えていった。
「やっと会えた・・また会えたよ・・・」
サクラがハル、アキとの再会を喜んで涙を浮かべる。彼女が2人に飛びつこうとするが、ハルによけられて前のめりに倒れてしまう。
「オレはお前とまた会ったのを喜ぶ気にはならない・・お前だって、オレを振り回していたんだから・・」
ハルがため息まじりに言いかけて、人間の姿に戻る。
「う〜、ひどいよ、ハル〜・・」
ハルによけられてサクラが声を上げる。彼女は立ち上がって、服のほこりをはたく。
「でもホント・・やっと会えたよ〜・・よかった〜・・」
サクラは改めて、ハルとアキに会えたことを喜んだ。
「私も・・サクラさんとまた会えたことが、嬉しいです・・」
肩を落としているハルのそばで、アキはサクラとの再会を喜んでいた。
「話はとりあえず、ここから離れてからのほうがいいみたいだね・・」
サクラが路地の外の様子を気にして苦笑いを浮かべる。ハルとアキも1度この路地から移動することを決めた。
サクラの突進で路地から突き飛ばされた女性。街中の別の場所にいた彼女は、路地のほうを見つめていた。
「楽にしないまま、離れてしまった・・・見つけたら、今度こそ楽に・・・」
女性はハルとアキ、そしてサクラを凍らせて、何も感じさせない楽を与えようとしていた。
「彼らに会うまでに、辛い思いをしている人が出てくるかもしれない・・見つけたら、その人から先に・・・」
次に凍らせる相手を求めて、女性はゆっくりと歩き出した。
ハル、アキ、サクラは街外れの道まで移動してきた。そこで3人は気分を落ち着かせて呼吸を整えていた。
「ここまで来ればひと安心かな・・」
サクラがハルとアキに安堵の笑みを見せた。しかしハルは笑みを見せていない。
「ナツさんもマキさんも、やっぱり心配してたよ・・心配しないほうがおかしいってことだね・・」
サクラがハルとアキに落ち着きを見せて言いかける。
ハルの兄であるナツと、彼のガールフレンドである文月マキ。2人ともハルやサクラがガルヴォルスであることや、彼らの素性を知っている。
「やっぱり心配してるんだね、兄さんたちは・・・」
ここでハルがサクラに気持ちを込めて言葉を投げかけてきた。彼もナツのことを気にしていた。
「そろそろ帰ろうかなって思っていたけど・・ガルヴォルスや権力者のことを気にして、そうできないでいたんです・・」
「そうだったんだ・・ハルとアキちゃんらしいね・・・」
アキから事情を聞いて、サクラが納得して頷く。
「これからどうするつもり?・・このまま街を回り続けていくの・・?」
「分かんない・・でもとりあえず、あの女の人を叩いてから、決めることにする・・・」
サクラの問いかけにハルが自分の考えを口にする。
「だったらあたしも一緒に行ったら・・まずいかな・・・?」
「まずいよ・・」
サクラが気まずさを感じながら問いかけると、ハルが即答する。
「そう言われちゃうか、また・・それもまたハルらしいけど・・」
するとサクラが苦笑いを見せてきた。
「それじゃ何かあったら連絡ちょうだい。ちゃんと出るから・・アキちゃん、これからもハルをお願いね・・」
「サクラさん・・・はい・・・」
サクラに言いかけられて、アキが小さく頷く。サクラは大きく手を振りながら、ハルとアキから離れていった。
(やっぱりあたし、ハルにはどうしても受け入れてもらえないんだね・・・)
2人が見えなくなったところで、サクラが目から涙を流した。自分の想いがハルには絶対に届かないと思い知らされて、彼女は辛さを感じていた。
サクラと別れたハルとアキは、再び街に向かって歩き出していた。
「ハル、サクラさんと別れてよかったのかな・・・?」
「いいんだよ・・アイツは僕を振り回した・・それなのに信じられるわけがないじゃないか・・・」
アキが心配の声をかけるが、ハルは考えを変えない。
「僕は僕の納得できる場所を探し続けているんだ・・その場所からサクラは離れてしまった・・僕がアキと出会う前から・・」
「ハル・・・ハルの納得できる場所にいるのは、ハルの他に誰がいるの・・・?」
「分からない・・今は僕とアキ、他は兄さん・・・」
アキが投げかけた問いかけに、ハルは複雑な気持ちを感じて、うまく答えることができない。
「でもその場所に、みんながいられるようになったらって、心のどこかで思っているのかもしれない・・」
「でもみんなが、その場所から離れるようなことをしている・・分かり合えるのが1番いいのに・・・」
「そうなのに・・そのはずなのに・・みんな分かろうとしない・・絶対に間違ってるって誰でも分かることを平気でやって、それが正しいことにされてる・・そんなムチャクチャなのがあるから、僕たちは安らげないんだ・・・」
物悲しい笑みを浮かべるアキに答えて、ハルが手を強く握りしめる。未だに解消されない不条理に、彼は苦しめられて憤っていた。
「行こう・・またあの女の人が狙ってくるかもしれない・・・」
「ハル・・・うん・・・」
ハルの呼びかけにアキが頷く。2人は街に向かって歩いていく。
自分が納得できなければ、安らぎが訪れるはずもない。それがハルの頑なな意思で、彼自身を保つ源ともなっていた。
街で倒れたリオは、ヘブンで小休止してから、レンに言われてマンションに帰ってきた。部屋にはまだナオミは帰ってきていなかった。
(こうなってしまったら、レンさんの言うとおり、部屋でじっと休んだほうがよさそう・・)
困惑を拭えないままでいるリオは、着替えてから自分の部屋のベッドにもぐりこんだ。寝ようとした彼女だが、静寂のために寝付くことができない。
(寝たいのに・・イヤなことばかり、頭の中に浮かんでくる・・・)
辛さを思い出してしまい、リオがうずくまる。静寂が彼女にイヤな記憶を思い出させていた。
(寝たいのに眠れない・・ガルヴォルスが起こしたイヤなことが・・頭から離れない・・・!)
辛さを膨らませる一方のリオ。彼女は音を出して気を紛らわせようと、TVを付けようとした。
「ただいま〜。」
そのとき、ちょうどナオミが帰ってきて声を上げてきた。
「ナオミ・・帰ってきたんだね・・・」
リオがベッドから起きて、ナオミに姿を見せた。
「あれ?リオ、どうしたの?具合悪い?」
「うん・・今日はそれでレンさんに早退するように言われて・・」
ナオミが問いかけると、リオが微笑んで答える。
「そうだったの・・だったらあたしが料理作るね♪おかゆぐらい作ってみせるんだから♪」
「大丈夫だよ・・料理ぐらいなら私が・・」
「いくらなんでも病人に料理を作らせるあたしじゃないって。今回はあたしに任せて♪」
「ナオミ・・・それじゃ、お任せするね・・」
ナオミに明るく声をかけられて、リオは苦笑いを見せながらも、彼女のやる気を聞き入れることにした。
ところがナオミが料理を始めてほどなくして、悲鳴と焦げ臭いにおいがしてきた。
「やっぱり私がやらないといけないみたい・・」
「う〜・・リオ、ゴメ〜ン・・」
互いに肩を落とすリオとナオミ。リオは改めて料理を作ることにした。
「自分が自分のおかゆを作るとはね・・」
冷気を出している女性を探して、ハルとアキは街から離れていた。ハルは人気のない場所のほうが相手が狙いやすくなると思っていた。
「アキ、このままついていっても大丈夫?・・また寒くなってしまうんじゃ・・?」
「大丈夫・・ハルだけに寒い思いをさせたくない・・だから私も一緒に行くよ・・」
ハルが心配の声をかけるが、アキは彼についていくことを口にする。
「ありがとう、アキ・・アキといつまでもどこまでも一緒にいたいのが僕の願いだから・・僕がアキを守るよ・・・」
「ハル・・・ありがとう、ハル・・・」
自分の気持ちを口にするハルに、アキが感謝を返した。
「見つけた・・あなたたち・・・」
そのとき、街外れの通りを歩いていたハルとアキの前に、白い髪の女性が現れた。
「やっぱり僕たちが人込みから離れたところで会いに出てきたね・・」
「今度こそ・・あなたたちを・・楽にしてあげる・・・」
笑みを消したハルに、女性が妖しく微笑んで手を差し伸べてきた。
「2度と現れることができないようにしないと分からないのか・・お前は・・・!」
いきり立ったハルの頬に紋様が走る。アキが少し離れたところで、ハルの姿がファングガルヴォルスとなる。
「お前は2度とオレの前に現れないようにすべきだった・・もうお前は、オレに叩き潰されるしかなくなった・・・!」
「あなたたちを楽にする・・何も感じなくなれば、あなたたちは幸せになれる・・・」
鋭い視線を向けるハルに、女性が笑みを強めて吹雪を放つ。ハルの体に氷がまとわりついていく。
「そう・・このまま何も感じなくなっていけば・・・」
「オレは、こんなところで止まるつもりはない・・・!」
凍てつかせていくことを喜んでいた女性の前で、ハルが全身に力を込める。彼に張り付いていた氷がはじき飛ばされていく。
「どうして・・・どうして楽にならないの・・・?」
笑みを消した女性が吹雪を強める。それでもハルは止まることなく前進していく。
だが強まっていく吹雪は、アキの体温を下げていた。
「さ・・寒い・・私のところにまで、冷たい空気が・・・!」
「アキ!?」
震えだすアキに気付いて、ハルが声を荒げる。彼はアキに近寄って、吹雪から守ろうとする。
「耐えることなんてないわ・・このまま何も感じなくなれば、辛いことも苦しいこともない・・楽になれるのよ・・・」
「お前・・アキを苦しめて・・ただで済むと思っているのか・・・!?」
微笑みかける女性に、ハルが鋭い視線を向ける。
(すぐに倒したいけど、オレが離れたらアキが・・・!)
女性を倒しに行けばアキを凍えさせることになると思い、ハルは彼女から離れることができない。やがて2人の体を氷が包み始めた。
「このまま・・このまま楽になればいい・・楽になるのが1番いいんだから・・・」
「それはアンタが勝手に決めていいことじゃないよ・・・!」
ハルとアキを凍らせようとする女性に向けて、声が飛び込んだ。吹雪の舞う通りに、サクラが飛び込んできた。
「サクラ・・・!」
「サクラさん・・・」
サクラの登場にハルとアキが戸惑いを覚える。2人に笑顔を見せてから、サクラがキャットガルヴォルスになる。
「これ以上、ハルとアキちゃんにひどいことをしないで・・・!」
「ひどいこと?・・私はみんなを楽にしたいだけなのに・・そのほうがみんないいと思う・・・」
目つきを鋭くするサクラだが、女性は自分の意思を変えない。
「そうやって、自分の価値観を他の人に押し付けないでよ・・・!」
サクラは憤って全身に力を込める。彼女が振りかざした爪が吹雪を切り裂いて吹き飛ばした。
「ハルとアキちゃんが求める幸せ・・それは2人が決めること・・・」
サクラが手を握りしめて、女性に鋭い視線を向ける。
「アンタなんかに邪魔させない!」
サクラが女性に飛びかかり、爪を突き出す。彼女の爪が女性の体に突き刺さった。
「たとえあたし自身が報われなくても、ハルとアキちゃんのためになるなら・・・」
「そんなの、イヤ・・・辛くなるのも、苦しくなるのも・・いいなんてこと・・ない・・・」
自分の気持ちを切実に口にするサクラに、女性がみんなを楽にすることができない悲しさを募らせていく。彼女は絶望したままサクラの目の前に倒れて動かなくなった。
「確かにいいことなんて1つもないかもしれない・・でも自分で決めたことなんだから・・誰かに決められるよりは全然後悔はないよ・・・」
サクラが人間の姿に戻って、ハルとアキに振り返る。
「ハルとアキが安心していられたらそれでいい・・それがあたしが、自分で決めたことなんだから・・・」
2人に向けて微笑みかけるサクラ。しかし彼女に目を向けることなく、ハルはアキの心配をしていた。
(こんな形でも・・あたしは、ハルとアキちゃんのことが・・・)
自分で決めたこととはいえ、ハルに自分の想いが伝わらないことを改めて痛感して、サクラは無意識に涙を流していた。
「あたし、これから帰るね・・ハルとアキちゃんはどうするの・・?」
サクラが問いかけたところで、ハルとアキが彼女に振り向いた。
「そろそろ・・家に帰るとしようかな・・兄さんたちをあまり心配させるのもどうかと思うから・・・」
「ハル・・・私も一緒に行く・・ナツさんとマキさんに会って、安心させたい・・・」
ハルが頷くと、アキも微笑んで頷いた。
「だったらあたしも一緒に行くよ。あたしもナツさんたちに会いたいって思ってたからね。」
「サクラ・・・ついてきてもいいよ・・僕たちにイヤな思いをしなければ・・・」
サクラの申し出に、ハルは笑みを見せずに答える。3人は1度家に戻ることにした。
街の裏路地の行き止まりに、1人の男が逃げ込んでいた。彼を追っていたのは1人の少年だった。
「別に逃げなくたっていいじゃない。僕は遊び相手になってほしいだけなんだから・・」
少年が悠然とした素振りで、怯えている男に声をかけていく。
「でも鬼ごっこと思えば、あなたが逃げてもおかしくないよね・・でもこれでタッチすれば、今度はあなたが鬼だね・・」
「やめてくれ・・助けてくれ・・!」
「助けてって・・僕は別にいじめてるわけじゃないんだよ・・ただ遊んでほしいだけなんだよ・・」
助けを求める男だが、少年は悠然と振る舞うばかりである。
「遊んでくれるよね?・・遊ぶのは楽しいことなんだから・・」
「助けてくれ!殺さないでくれ!オレは死にたくない!」
笑顔を見せて手を差し伸べてくる少年から、男がさらに逃げ出そうとする。すると少年の笑顔が徐々に曇っていく。
「それとも、いじめてるのはあなたのほうなのかな?・・いじめっていうのはよくないことだって、お父さんやお母さん、先生から教わらなかったの・・・!?」
目つきを鋭くする少年に対して、男は恐怖のあまり言葉を出せなくなっていた。
次の瞬間、男の断末魔の叫びが裏路地に響き渡った。
次回
「ハル・・無事でよかった・・・」
「これからもずっといてもいいと思うけど・・・」
「まだ、僕たちに安らぎはやってきてない・・・」
「ねぇ・・遊んでくれないかな・・・?」