ガルヴォルスFang 第22話「2人の牙」
イブにかけられた石化から脱したハルとアキ。2人は互いへの想いを伝えあって、自分たちの意思での抱擁を交わした。
自分たちだけの快楽を募らせていたハルとアキは、大部屋の床に横たわっていた。
「これでもう・・僕たち・・後戻りできなくなっちゃったね・・・」
「うん・・・でも後悔しない・・ハルくんと一緒だから・・・」
ハルが声をかけると、アキが微笑んで頷いた。
「私たちの意思で、私たち、この時間を過ごしたのよね・・・」
「うん・・・」
「いやらしいって思う勇気もなかったはずだったのに・・・勇気が持てたってことなのかな・・・」
「それが勇気かどうか、僕には分かんないけど・・・」
互いに苦笑いを浮かべるアキとハル。少し笑みをこぼすと、2人が表情を曇らせていく。
「まだ抱き足りない・・ハルくんと、もっと抱き合いたい・・・」
「僕もだよ・・これからもアキちゃんのぬくもりを感じたい・・アキちゃんの気持ちを感じ取りたい・・」
「でも・・今はここから出ないと・・・」
「うん・・あのイブっていうのは2度と手を出させないようにしないとだけど・・」
大部屋から、イブの手から脱しようと考えて、アキとハルが真剣な面持ちを浮かべる。
「僕たちはこれからも、いつでもどこでも一緒だよ・・そしてもう、後戻りはできない・・・」
「ナツさんのところにも?・・・ハルくんはそれでも大丈夫・・・?」
「大丈夫って言うとウソになっちゃう・・兄さんは、僕を支えてくれた1人だから・・・」
「私も・・ナツさんにたくさん支えられた・・・でももう、私たち、甘えることができない・・・」
「僕たちは、僕たちの思うように生きる・・僕たちを苦しめるものは、どんなことをしてでも・・」
「私も安心がほしい・・ハルくんが安心しているのも含めて・・・」
自分たちの気持ちを伝えあってから、ハルとアキが立ち上がる。
「ねぇ・・・これからは・・“ハル”って呼んでもいいよ・・・」
「うん・・・それじゃ私も、“アキ”って・・・」
ハルとアキは声をかけて微笑むと、大部屋から出ていった。
新しく石化をかけた女性を連れて大部屋に戻ってきたイブ。彼女はその女性を置いて、石化した裸身を見つめる。
「これでまた、苦しさを抱えていた人が解放された・・あなたの心が幸せになっているのを感じているわ・・」
人を苦しさから解放したことで、イブはさらなる喜びを感じていた。
「あなたたちの幸せも、これからもずっと続いていくわ・・それも私の安心につながる・・・」
イブが周りを見回して、石化して恍惚を感じ続けている女性たちを見渡していく。
「あれ・・・?」
イブがハルとアキがいないことに気づいて、笑みを消す。
「いない・・いないはずは・・・!?」
イブが大部屋を見渡してハルとアキを探していく。しかし2人の姿が見当たらない。イブが徐々に不安を膨らませていく。
「もしかして・・私の力から抜け出した!?・・・ありえない・・・!」
2人がいないことをどうしても信じることができないイブ。
「私が与えた解放で、誰もが苦しさや辛さから抜け出して幸せになったのに・・それから抜け出してしまうなんて、絶対にありえない・・・!」
今起こっている現実を必死に否定しようとするイブ。彼女はハルとアキを確実に幸せでいさせたいという気持ちが強くさせていく。
「連れ戻さないと・・これ以上、2人が苦しんでいくのは耐えられない・・・!」
自分の思いを募らせて、イブは大部屋から外に出た。大部屋では今でも石化された女性たちが快感を感じ続けていた。
サクラに続いてハルとアキもいなくなってしまい、ナツだけでなくマキも心配を隠せなくなっていた。
「ハル・・アキちゃん・・どこに行っちゃったって言うんだ・・・!?」
「3人に何かあったんじゃ・・・!?」
「そんなことないよ!・・そんなことない・・ハルたちに何かあるなんて・・・!」
マキが口にした不安に思わず声を荒げて、ナツは困惑を浮かべる。
「オレ、ハルたちを探しに行く・・マキちゃんはここにいて、もしハルたちが戻ってきたらオレに知らせて・・・!」
ナツがマキに言いかけて、ハルたちを探しに外に出ようとした。そのとき、家の玄関のドアの音が響いてきた。
「何だろう・・・!?」
「もしかして、ハルたちが帰ってきたんじゃ・・・!?」
マキとナツが慌てて玄関に向かう。玄関では戻ってきたハルとアキが裸のまま倒れていた。
「ハル!」
「アキちゃん!・・な、何で裸!?」
ナツとマキが2人に驚きの声を上げる。
「と、とりあえず毛布を持ってくる!」
マキが急いで毛布を持ってきて、ハルとアキにかけた。
「少し体を冷やしてるみたいだけど、ケガも病気もしてないみたい・・」
「そうか・・よかった・・・」
2人の状態を見たマキの言葉を聞いて、ナツが安堵を覚える。しかし彼はすぐに表情を曇らせる。
(体よりも心のほうが心配だ・・ハルとアキちゃん、ホントに何にもなければいいんだけど・・・)
ハルとアキが取り返しのつかない心境に陥っていないことを、ナツは心から願っていた。
帰ってきたハルとアキを部屋のベッドに寝かせたナツとマキ。しばらくしてハルとアキが意識を取り戻した。
「ここは、僕の家・・帰って、これたんだ・・・」
ハルが体を起こして部屋を見回していく。彼は自分たちが何とか家に戻ってこれたが、その直後に意識を失ったことを思い出した。
「ハル・・帰ってこれてよかった・・・」
アキも毛布で体を覆ってから体を起こす。
「少し前までのことが夢かウソじゃないかって思うことがある・・でもこれはホントのこと・・イヤなことだけど、僕たちはもう受け入れちゃってる・・・」
「今の状態がいいことなのか悪いことなのか分からないけど・・・」
皮肉を口にしていくハルに、アキが苦笑いを見せる。
「それでも、僕は僕たちが安心できる形を作っていく・・でないと僕たちは僕たちでなくなってしまうから・・・」
「私も同じ気持ち・・ハルと比べたら、できることなんて全然ないけど・・・」
「そんなことない・・アキがそばにいるだけで、僕は僕でいられる・・」
「そういってもらえるなら、私はハルのそばにいるよ・・・」
気持ちを伝えあって、ハルとアキが寄り添う。2人は自分たちにとってお互い離れ離れになれないと思っていた。
「ハ・・ハル・・アキちゃん・・・!?」
そこへナツがやってきて、寄り添いあっているハルとアキを目の当たりにしてしまい、赤面して廊下に隠れてしまう。
「兄さん・・それは、その・・・」
「と・・とりあえず服を着てくれないかな・・オレやマキちゃんが恥ずかしくなっちゃうから・・・!」
戸惑いを浮かべるハルに、ナツが声をかけた。自分たちが裸であることを確かめて、ハルとアキも頬を赤らめた。
自分たちの服を着たハルとアキは、ナツとマキから話を聞かれていた。
「何があったんだ、ハル?・・2人ともあんな格好で帰ってきて・・・」
「うん・・アキが言ってた、サクラを連れてったヤツに、僕たちも・・・」
ナツが聞くとハルが自分たちに起こったことを話した。マキだけでなく、ナツも鵜呑みにできない心境になっていた。
「石化されて裸にもされて・・・」
「しかもエッチな気分になったなんて、絶対おかしいって・・・!」
ナツもマキも困惑して声を上げる。
「僕だってよくは分かんないよ・・でもホントに石にされて裸にされて・・」
「その石化のせいで気分がおかしくなって・・ハルと一緒にいること・・ハルと触れ合うことしか考えられなくなって・・・」
ハルとアキも戸惑いを浮かべながら答えていく。
「そんなおかしなことを・・それもガルヴォルスっていうのの力なのか・・・」
ナツがハルたちを連れて行った犯人、イブを懸念する。
「それじゃ、サクラちゃんはその人に・・・」
「はい・・私を助けようとして・・私の前で、石にされて、裸にされて・・・」
マキが言いかけると、アキが悲痛さを感じながら答える。
「サクラさん、まだ石化されたまま・・あの人の家にいるまま・・・」
「サクラを助けたいわけじゃない・・でもアイツが僕たちを捕まえようとしてくるなら・・・」
アキが不安を口にすると、ハルが自分の考えを言う。今のハルは自分とアキを守るための言動を貫いていた。
「それでハル、アキちゃん・・これからどうするつもりなの・・・?」
ナツが真剣な面持ちを浮かべて、ハルたちに問い詰めた。戸惑いを見せていたハルだが、落ち着きを取り戻して真剣に答えた。
「もう家にはいられない・・もう兄さんたちに甘えることができない・・・」
「家を・・出ていくってことなのか・・・!?」
「うん・・・ゴメン・・・」
ナツが息をのむと、ハルは悲しい顔を浮かべて謝る。するとナツがひとつ吐息をついた。
「弟が自分の力で巣立っていくって、安心するとこなのか・・止めたほうがいいのか・・・」
「兄さん・・・」
「そんなに行きたいなら思った通りにすればいい。だけどこれだけは言っておくぞ。」
戸惑いを募らせるハルに、ナツが言いかけてきた。
「お前がこれからどうしようと、ここがお前の家だってことは変わらないからな。アニキであるオレがお前やアキちゃんの味方だってこともな。」
「兄さん・・ありがとう・・ホントにありがとう・・・」
励ましてきたナツに、ハルが微笑んで感謝した。
「私もハルを支えていきます・・私にしか、ハルを支えることができないから・・・」
アキも自分の考えをナツとマキに伝えた。ハルもアキも決意が揺るがなくなっていた。
「今日ゆっくり休んで、明日の朝に出ていくよ・・それなら兄さんたちも心配しないよね・・・」
「心配しないって・・そんな悲しいこと、思わないわけないじゃないか・・・」
考えを伝えてきたハルにナツが悲しい顔を浮かべる。
「だけど・・すぐに出ていくなんてムチャを言われないだけマシかな・・・」
「そういわれても、皮肉にしか聞こえない・・・でも兄さん・・ありがとう・・・」
互いに物悲しい笑みを見せ合うナツとハル。2人は兄弟の絆を絶やさないようにしながらも、別れを受け入れるのだった。
ハルに左目を切りつけられて、シンジは憤りを膨らませるばかりとなっていた。
「アイツ・・このまま野放しにしてたまるものか・・僕が受けたのと同じでは全然足りない・・・!」
ハルに対する怒りと苛立ちを噛みしめるシンジ。傷をつけられた彼の左目は眼帯で隠されていた。
「今度こそ切り刻んでやるよ・・・!」
シンジが右目を見開いて哄笑を上げていく。
「本物の地獄が地獄に思えないくらいに・・・」
シンジはハルを狙って行動を起こした。彼はハルを八つ裂きにする以外に憤りを抑えることができなくなっていた。
ハルとアキが家に戻ってから一夜が過ぎた。2人はナツに見送られて家を出ようとしていた。
「ホントに気を付けて、2人とも・・オレも無事を信じてるからな・・」
「兄さん・・今までありがとう・・・僕たちは行くよ・・」
呼びかけるナツにハルが微笑んで答える。そこへマキが走りこんできて、ハルたちに目を向けた。
「ハァ・・ハァ・・よかった・・間に合ったよ・・・」
「マキちゃん・・わざわざ来てくれたの・・・?」
呼吸を整えるマキに、ハルが当惑を見せる。
「だってきっと、しばらくハルくんとアキちゃんに会えなくなっちゃうから、どうしても見送りしたいなって思って・・ずっと会えないわけじゃないって分かってるのにね・・」
「マキさん・・ありがとうございます・・私たちのために・・」
笑顔を見せてくるマキに、アキが感謝をする。
「兄さん・・マキちゃん・・僕たちは行くよ・・僕たちの生き方を・・・」
「また帰ってくるって、信じてるから・・2人とも、待ってるよ・・いつまでも・・」
言いかけるハルにナツが呼びかける。彼の言葉にハルとアキが頷いた。
「行こう、アキ・・・」
「うん、ハル・・・」
ハルとアキは頷き合ってから、家から歩き出していった。
(ハル・・アキちゃん・・・)
戸惑いを感じながら、ナツはハルとアキを見送った。彼は2人を引き留めることができなかった。
今まで暮らしてきた家を出たハル。彼はアキと一緒に人気のない道を歩いていく。
「帰るなら、今のうちだよ・・ハル・・」
「帰ろうと思えばいつでも帰れるよ・・でも今の僕には、やらないといけないことがある・・」
「それは、あの人に何かすること・・?」
「それもあるけど・・それだけじゃない・・・」
アキが投げかける疑問に、ハルが真剣な面持ちで答える。
「この前の指名手配・・身勝手なことをしておきながら、自分たちは責められるところにいないで平然としている・・そんなのが、この前ので全員だとは思えない・・」
「ハル・・・」
「もう法律や決まり事なんて関係ない・・僕たちを追い詰めるものには、もう容赦しない・・徹底的に逆らってやる・・・!」
戸惑いを見せるアキに、あるが感情を込めて考えを口にする。
「僕にも逆らうっていうのかな、それは?」
そこへ声をかけられて、ハルとアキが振り返る。その先にはシンジの姿があった。
「久しぶりだね・・探したのになかなか見つからないものだから、イライラを抑えるのに精一杯になっていたよ・・」
「お前・・また・・・」
不敵な笑みを見せてくるシンジに、ハルが戦意を覚える。するとシンジが笑みを消して、苛立ちを浮かべてきた。
「僕の顔に傷をつけて・・お前は絶対に切り刻んでやらないと、僕の気が治まらない・・・!」
ハルへの憎悪をむき出しにするシンジの頬に紋様が走る。シャークガルヴォルスとなった彼だが、左目には傷が残っていた。
「簡単には殺さないよ・・地獄以上の苦しみを感じるほどに、ズタズタに切り刻んでやるよ!」
「そうまでして、僕たちを苦しめたいのか・・・アキ、離れてて・・・」
怒号を放つシンジに対して不快を感じると、ハルがアキに呼びかけた。
「フン。ホントに情けないことだね。他の人に甘えて浮かれて・・虫唾が走るね・・!」
「お前には、甘える人はいないの・・・?」
苛立ちを募らせるシンジに、ハルが深刻な面持ちを浮かべて問いかける。
「は?何を言っているの?そんなの僕は必要ないね。」
するとシンジがハルをあざ笑ってくる。
「他のヤツを信じたところで何にもならない・・僕は僕自身の力があればそれでいいんだよ・・・!」
「そうなのか・・お前は独りよがりってことか・・・」
シンジの答えを聞いたハルの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。ファングガルヴォルスとなった彼が、シンジに鋭い視線を向ける。
「オレはお前とは違う・・オレはもう1人じゃない・・」
今の自分の気持ちを口にしていくハル。
「これからもずっとアキと一緒・・オレたちはもう絶対に、離れ離れになったりしない!」
「ハル・・・」
ハルの思いを聞いて、アキが戸惑いを感じた。
「どこまでも甘いことを・・そういうのが、僕をイライラさせるんだよ!」
いきり立ったシンジがハルに向かって飛びかかる。彼はハルに刻まれた屈辱を晴らそうとしていた。
次回
「刻み付けてやる!僕の痛みと不愉快を!」
「オレとアキを苦しめようとするものは、どんなものでも許さない・・・!」
「これがオレたちが見出した答え・・」
「僕たちはどんなことだってやってやるさ・・・」