ガルヴォルスFang 第16話「破滅への道」
兵士の1部隊がハルに全滅させられたことを耳に入れたタカシ。ハルたちを拘束も処分もできないでいることに、タカシは苛立ちを感じていた。
「何の成果も得られないのでしたら、いても邪魔なだけです。あのような無能な連中のように邪険にされたくなければ、成果を出してください。」
“はっ!今度こそ確実にガルヴォルスを始末いたします!”
冷徹に言うタカシに、兵士が慌ただしく答えて通信を終えた。
「使えない者を持たされるのは、どれだけ位を上げても付きまとうものなのでしょうか。」
兵士たちの失態にタカシがため息をつく。
「ですが伊沢ハルたちを追い詰めていることも確かです。葬り去るのも時間の問題でしょう。」
タカシは笑みを取り戻して席を立つ。彼もついに外に出ようとしていた。
兵士たちを手にかけることになったハル。人殺しを繰り返していく彼を、アキとサクラは気にせずにいられなかった。
「もうすぐ警視庁に着くけど・・ハル、大丈夫・・・?」
サクラが呼びかけるが、ハルは笑みを見せない。
「大丈夫のわけないじゃない・・こうして有無を言わさずに追い詰めてきて、僕にイヤなものを押し付けてきて・・それなのにいい気分になれるほうがどうかしてるよ・・」
「それは・・あたしだって、ううん、みんなだってイヤな気しかしないよ・・」
不満を口にするハルに、サクラも当惑しながら頷く。
「もう許しちゃおかない・・絶対に今の僕が感じているイヤな思いを、アイツらに味わわせてやる・・・」
「ハルくん・・ハルくんが傷つくのも、ハルくんが誰かを傷つけるのも、私、見るのが辛くなってきたよ・・ハルくん自身のためにも・・」
兵士たちに苛立ちを感じていくハルに、アキが悲しい顔を見せる。それでもハルの激情は治まらない。
「だって我慢できないよ・・自分たちだけいい思いして、思い通りにして、安全なところにいるばかり・・そんな勝手、認めていいわけないじゃないか・・」
「ハルくん・・・」
「もう僕は我慢しない・・僕を苦しめるものは、全部、この手で・・・!」
アキが困惑する中、ハルの敵意は頑なになっていた。
「ねぇ・・わざと捕まって乗り込むっていうのは・・・」
サクラが提案を持ちかけるが、ハルに睨みつけられてしまう。
「ハルは、イヤだよね・・アハハ・・」
サクラはただただ苦笑いを浮かべるだけだった。
「絶対に捕まらない・・捕まらないで、敵を叩きのめしてやる・・・」
「ハル・・もう気分で動くしかなくなってるみたいね・・」
自分の気持ちを口にするハルを見て、サクラがため息をついた。
「こうなったら、あたしもどこまでもついていっちゃうからね♪旅は道連れってね。」
サクラが明るくハルとアキに声をかけた。それでもハルは気分を楽にできず、アキも不安を抱えたままだった。
タカシからガルヴォルスの事件の捜査の中止を言い渡されて、警部と刑事は途方に暮れることになった。
「ハァ、やっぱ納得いかないッスよ・・今からでも捜査を再開したほうがいいんじゃないッスか?」
「ダメだ。あの捜査は上が行ってる。オレらが首突っ込んだら、クビにされるだけじゃすまねぇんだぞ・・」
問いかける刑事に警部が釘を刺す。すると刑事が肩を落としてため息をついた。
「オレたち、警察なんスよね?・・市民を守って悪モンしょっ引いて・・それが警察の仕事じゃないんスか・・?」
「けどオレたちは組織の人間なんだよ。上の連中には逆らえねぇんだよ・・」
「そんなもんなんスか?・・やる気がなくなってくるッスね・・」
「このことにはやる気を出すな。出したら逆にお陀仏だ・・」
警部にとがめられて、刑事はすっかり気落ちしてしまった。
「それにしても、今でも信じられないッスよね・・伊沢ハルのこと・・」
「正直オレも驚いたな。だがこれも上の見解だ。余計な口出しはしねぇほうがいい・・」
「凶悪犯罪をしたとしても、アイツは未成年ッスよ。やっちゃいけないことなんじゃ・・」
「言ってやめてくれるなら、最初からやらねぇって・・」
刑事が投げかける言葉を警部は一蹴していく。
「大変だ!伊沢ハルが侵入したぞ!」
そのとき、警視庁にて声が響いた。警官たちが慌ただしく警視庁の中を駆け回っていた。
「アイツ、ここに来たってことッスか!?」
「・・どさくさに紛れて、あの小僧に会えるかもしれねぇな・・」
同じく慌ただしくなる刑事の隣で、警部はハルとの邂逅を図っていた。
警官たちが駆けつけて銃を構える。彼らの前にハルだけが立ちはだかっていた。アキとサクラはそばの物陰に身を潜めていた。
「大人しくしろ!動くな!」
「ここに乗り込んでくるとは、どういうつもりだ!?」
警官たちが呼びかけるが、ハルは聞こうとせずに冷たい視線を送る。
「僕のことを何も分かってないくせに、勝手に決めつけて・・・!」
憤りを感じていくハルの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼の異変に警官たちが緊迫する。
「そういうことをするんだったら、ちゃんと確かめること確かめてからにしろ!」
叫ぶハルがファングガルヴォルスとなる。畏怖した警官たちがたまらず彼に向けて発砲する。
しかしハルに弾丸が命中しても、彼の体に傷もつかない。
「人の話を聞けないのか!?勝手に決めつけるな!」
ハルが激高して怒鳴りかかる。彼の怒号に気圧されて警官たちが動けなくなる。
「言いなりになるのが正義やルールだっていうなら、思い上がってるゴミクズと同じだ・・敵として叩きのめすぞ・・・!」
ハルが警官たちに向けて憎悪を傾ける。
「オレたちを陥れたヤツは誰だ!?・・どこにいるんだ!?」
ハルが警官たちに問い詰める。誰も答えようとせず、ハルが警官の1人につかみかかる。
「教えろ!本当に知らないなら、知っていそうなヤツでもいい!」
「知らない!知っていても教えられない!」
「ゴミクズの味方をするのか・・!?」
「ダメだ、教えられない!・・言えば処罰される・・どちらを選んでも無事で済まないなら・・!」
「そのゴミクズにか!?・・オレはそいつを叩きのめすためにここまで来たんだ・・アンタたちが処罰されるはずがないだろう・・!」
抗議の声を上げる警官に、ハルが鋭く言いかけていく。
「教えろ・・全く意味のないことで死にたいなんて、バカなことを考えているんじゃないだろうな・・!?」
「そ、そんなバカなこと、考えるわけないだろう!」
「だったら教えろ・・知っているヤツでもいい・・・!」
声を荒げる警官にハルが問い詰める。
「わ、分かった!言う!言うから放し・・!」
警官が観念してハルに答えようとしたときだった。突然警官が頭を撃たれて動かなくなった。
物陰に潜んでいた兵士の1人が、自白しようとした警官を狙撃したのである。他の警官たちは気づかなかったが、ハルには気づいていた。
「出てこい!オレをお前たちのボスに会わせろ!」
ハルが叫ぶが、兵士たちは姿を現さない。いら立ったハルが素早く駆け出して、兵士の1人をつかみかかった。
「コソコソやって・・それがゴミクズのやり方か・・・!?」
「貴様・・我々を愚弄するつもりか・・!?」
「愚弄?・・お前たちのほうが散々オレたちを愚弄しているじゃないか!」
睨んでくる兵士をハルが憤って締め上げる。
「お前たちのボスのいるところに案内しろ!さもないと容赦しない!」
「ふざけるな!・・ガルヴォルスに助力するぐらいなら、ムダな抵抗をしたほうがマシだ!」
脅しをかけるハルだが、兵士は頑なに拒否する。
「どうして物分かりが悪いんだ!?・・そんなに自分たちの思い通りにならないと気が済まないのか!?」
ハルが激高して兵士を殴りつける。激しく壁に叩きつけられた兵士は、血を流して動かなくなった。
「こっちはこうして出てきているんだぞ!自分たちだけ安全なところで好き勝手なことして!それが負けになっていることに気付かないのか!?」
感情のままに叫ぶハル。激高を強める一方の彼に、警官も兵士もどう出たらいいのか分からなくなっていた。
「誰が負けなのですか?」
そこへ声がかかって、ハルが振り返る。彼の前にタカシが姿を現した。
「お前がコイツらのボスか・・・!?」
「ボス・・そういうことになりますね。奥でじっくり話をしましょうか。」
睨みつけてくるハルに、タカシが淡々と声をかけて手招きをしてくる。
「そうやってオレを陥れようとしてもそうはいかない・・話ならここでもできるだろう・・」
「いいのですか?いつまでもそこにいれば、殺人鬼として見られる危険が強まりますよ。」
「そう陥れたのはお前たちだろうが!放っておいてくれれば、オレたちもお前たちも苦しむこともなかった!」
「私たちは陥れてなどいません。正義を執行し、悪をあるべき現実に引き戻すことが私たちの使命なのです。」
怒りをあらわにするハルに、タカシは態度を変えずに言いかける。
「どこまでも勝手なことを・・怒りをぶつけられないと分からないのか!?」
「私たちの正義に怒りや反発をすること自体過ちなのです。正義を脅かす悪としてのね。」
「勝手に決めつけるな!こんなことをするお前たちのほうが悪いに決まっているんじゃないか!」
「勝手も決めつけもしていません。これがこの国の、いえ、世界のあるべき秩序というものです。」
悠然と言いかけるだけのタカシに、ハルがいきり立って飛びかかる。するとタカシは勝気な笑みを浮かべたまま、後ろに下がっていった。
「やっぱりコソコソとやるんだな!だがそれもムリだ!」
タカシを追っていくハル。彼が飛び込んだのは大きな会議場だった。
「出てこい!都合が悪くなれば逃げるだけの腰抜けが!」
ハルが会議場を見回して、タカシに向けて怒鳴る。
「私は逃げていたわけでも腰抜けでもありませんよ。」
彼の前にタカシが姿を見せてきた。
「お前が・・お前がオレたちを・・・!」
ハルが再びタカシに鋭い視線を向ける。
「すぐにこんなバカなことをやめろ・・オレたちを放っておいてくれ・・・!」
「そうはいきませんよ。あなたたちガルヴォルスは世界の敵なのですから。」
問い詰めてくるハルだが、タカシは態度を変えず、考えも変えない。
「世界の敵!?オレたちが世界に何をしたっていうんだ!?」
「何も。ただ存在するだけでも危険なのですよ、お前たちガルヴォルスは。」
声を張り上げるハルに言葉を返すタカシが、顔から笑みを消した。
「あなたたちを滅ぼすことが世界の全員の願い。」
タカシがスーツの内側から拳銃を取り出して、銃口をハルに向ける。
「そのためならどんなことを許されるのですよ。」
「どこまで勝手なことを・・・!」
自己中心的なタカシの言動に、ハルが殺気と狂気をむき出しにする。
「お前たちに思い知らせてやる・・オレたちが味わった不条理の苦しみを!」
「お前たちのことなど共感するつもりは毛頭ありませんし、もうありえません。」
ハルがタカシに飛びかかろうとしたときだった。兵士たちがアキを捕まえて会議場に入ってきた。
「アキちゃん!」
「おとなしくしていてください。さもないと彼女の命はありませんよ。」
声を荒げるハルにタカシが忠告を送る。アキの顔に兵士が出したナイフが向けられる。
「もう1人のガルヴォルスは、お前と違って人殺しをしようとしなかったようだがな・・」
「何にしてもガルヴォルス。我々が処分を下すことに変わりはないがな。」
兵士たちが不敵な笑みを浮かべて、ハルに言いかける。サクラは警官たちに行く手を阻まれ、その隙を兵士たちに突かれてアキをさらわれてしまったのである。
「大人しくしていれば彼女は無事です。あなたが我々が与える処罰を受ければいいのです。」
タカシはハルに向けて淡々と言いかける。
「分かったのでしたらすぐに人の姿に・・」
「言うことを聞けば助けてくれると?・・今まで問答無用で殺そうとしてきて、信じられるわけないだろうが!」
忠告してくるタカシの言葉を、ハルははねつけて憤慨をあらわにする。
「アキちゃんを放せ・・もしもアキちゃんに何かしたら、ここにいる全員を殺す・・・!」
「あなたは状況が分かっていないのですか?人質を取っているのは私たち。忠告しているのはこちらなのですよ。」
「分かっていないのはお前たちだろうが・・オレの考えや気持ちを分かろうともしないから、状況が分からないんだ・・・!」
「ハァ・・やはりガルヴォルス。言っても分からない愚か者でしかない。」
ハルの怒号にタカシがため息をつく。すると兵士たちもハルに対して銃を構えてきた。
「3人とも射殺しなさい。私たちの意に背く者も全員残らず。」
「お前たち・・お前たちは!」
タカシと兵士たちが一斉に銃を発射する。その瞬間、ハルが全身から衝撃波を放って、弾丸を全て弾き飛ばした。
「どこまでも往生際の悪い・・ですが私たちは人間。人殺しという罪を、お前は重ねていくというのですか?」
タカシがハルをあざ笑ってきたときだった。会議場にいた兵士たちが次々に切り裂かれて、鮮血をまき散らして倒れていく。そしてハルは、兵士たちからアキを取り戻した。
「アキちゃん・・大丈夫・・・!?」
「ハルくん・・うん・・・ハルくん、なんだよね・・・?」
互いに心配の声を掛け合うハルとアキ。ハルはガルヴォルスの力と激情に振り回されておらず、自分を見失っていなかった。
「アキちゃん・・隠れていて・・弾とか飛んでくると危ないから・・」
「ハルくん・・・うん・・・」
ハルに言われて、アキがそばの物陰に身を潜めた。ハルがタカシに振り返って、鋭い視線を送る。
「もう逃がさない・・お前を絶対にここで殺す・・・!」
「つくづく愚かなことですね。どうあっても人殺しは正当化され・・」
タカシがハルをあざ笑ったときだった。タカシの銃を持っていた右腕が切り裂かれた。
「ぐ、ぐああっ!」
血をあふれさせる右腕を押さえて、タカシが絶叫を上げる。ハルが爪で彼の腕を切りつけたのである。
「き、貴様!このようなことをしてただで済むと思っているのか!?お前はこの国から迫害されるだけでなく、世界の果てまでも追い込まれることになるぞ!」
「そうさせたのはお前たちだ・・自業自得でこんなことになっているのに、まだ勝手なことを・・!」
声を張り上げるタカシに、ハルが憎悪を傾ける。
「我々は人間で、お前たちはバケモノ!バケモノを排除することは、人として当然の使命なのだぞ!」
「言いたいことはそれだけか・・・!?」
怒鳴るタカシにハルが冷徹に告げる。
「お前は、人間でもバケモノでもない・・・!」
ハルは体から刃を引き抜いて、タカシに切っ先を向ける。
「世界にあったらいけないゴミクズなんだよ!」
ハルが刃をタカシの体に突き立てた。激しく鮮血をまき散らして、タカシは力尽きて動かなくなった。
「ゴミは殺しても罪にならない・・お前たちがそれを決めたんだから・・お前たちのやり方や考え方が・・・!」
憎悪を抱えたまま、ハルは自分に言い聞かして人の姿に戻った。
次回
「もう僕は、何を信じたらいいのか分かんないよ・・・」
「僕は、僕を陥れようとするものを許さない・・・」
「お願い・・これからもハルを支えてあげて・・・」
「ここにもいた・・苦しみを抱えている人が・・・」