ガルヴォルスFang 第15話「包囲網」

 

 

 ハルが振りかざした爪が、ついに兵士の1人を切り裂いた。彼はガルヴォルスでない人間を手にかけることになった。

「や・・やりやがった・・ついにやりやがった・・・!」

 他の兵士たちがハルのこの行為に確信と危機感を覚える。

「これで殺人犯となったことは、今この瞬間に明らかとなった!」

「拘束が不可能とするなら、この場で射殺することはできる!」

「いや、やるのだ!やらなければならない!」

 兵士たちが勝ち誇って、ハルに銃口を向ける。

「こんなことになっても、お前たちはオレをどうにかしようというのか・・!?

 ハルが兵士たちに対して憤りを募らせる。

「許してはおかない・・力ずくでも分からせて・・!」

「待って、ハルくん!」

 兵士たちを攻撃しようとしたハルに、アキが声を振り絞って呼び止めてきた。ハルがアキの声を耳にして手を止めた。

「落ち着いて、ハルくん・・こんなこと、ハルくんが望んでいたなの・・・!?

「アキちゃん・・・でも、コイツらはオレたちを・・アキちゃんを・・!」

「分かってる・・でもハルくんが、とても辛そうに見えて・・・!」

 歯がゆさを見せるハルを、アキがさらに呼び止める。彼女の言葉でハルは激情を抑えようとしていた。

「撃て!」

 その感情の緩和をさえぎるように、兵士たちが発砲してきた。その銃声と弾丸が、ハルが抑えかけていた感情を再び爆発させた。

「理解力がないのか、お前たちは!」

 ハルが弾丸を弾き飛ばして、兵士たちに飛びかかる。彼が振りかざした爪が、次々に兵士たちを切りつけていった。

「ハルくん、やめて!」

 アキが悲痛の叫びを上げると、ハルがまた手を止めた。だが既に兵士たちは事切れて、残りは危機感を募らせて引き下がっていた。

「アキちゃん・・オレは・・・僕は・・・」

 困惑するハルが人間の姿に戻っていく。

「だって・・この人たちが・・アキちゃんを・・僕たちを・・・!」

「でも、これじゃハルくんが・・・!」

 声と体を震わせるハルに、アキも悲痛さを込めて言いかける。彼の手にかかって、兵士たちが命を失ってしまった。

 

 ハルに敵わず引き下がることになった兵士たち。タカシに報告した隊長が頭を下げた。

「ここまで徹底しても倒れず、逆にこちらに死傷者が出るとは・・」

 タカシが現状を確かめて憤りを覚える。だが彼はすぐに笑みを取り戻した。

「ですが同時に愚かでもあります。お前たち自身の行動が、自らの首を絞める結果を招いているのです。」

 ハルたちを追い詰めていると確信しているタカシが、隊長に命令を下す。

「伊沢ハル、牧野サクラ、三島アキ、3人を最優先にして拘束しなさい。不可能と判断した場合、射殺しても構いません。」

「了解。」

 タカシの命令を受けて、隊長が行動を再開した。

(次の一手で、お前たちは完全に追い詰められるのです。)

 ハルたちを掌握しようと、タカシは策を講じていた。

 

 ハル、アキ、サクラの心配をして、彼らの帰りを待っていたナツとマキ。ナツが気が気でなくなって右往左往する。

「ちょっと落ち着いたほうがいいんじゃないかな、ナツ・・それじゃハルくんが戻ってくる前に、ナツが疲れて倒れちゃうって・・」

「分かってる・・分かってるけど・・ハルのことを気にしたら、とてもじっとなんて・・・」

 マキが注意をするが、ナツは足を止めない。彼の様子を見て、マキがため息をついた。

「とりあえずTVでも見て、気分転換・・」

 マキが気持ちを切り替えようとして、TVを付けた。TVにニュースが映し出された。

“7名の警官を殺害、十数名を負傷させたとして、警視庁は伊沢ハル容疑者を殺害の容疑で指名手配しました。”

「何っ!?

 このニュースを耳にして、ナツとマキが驚愕を覚える。

「ハルが、指名手配!?ありえないだろう!」

「ハルは未成年だし、写真とか公表できないって!でたらめ通り越して嘘八百じゃない!」

 このニュースにナツとマキが抗議の声を上げる。

「とにかくハルに連絡するんだ!アキちゃんでもサクラちゃんでもいい!」

 ナツが慌ただしくハルたちへの連絡をする。しかしハルの携帯電話につながらない。

「ハル・・マジで大丈夫なのか・・・!?

 不安を膨らませながら、ナツは続けて連絡を試みた。

 

 タカシの策略によって、ハルは指名手配をされることになった。明らかに偽装された容疑であるが、タカシがその偽装をも簡単にもみ消していた。

「何だよ、コレ・・ムチャクチャにもほどがあるよ・・・」

「あたしもそう思うよ・・絶対に異議を唱えちゃうんだから!」

 憤りを募らせていくハルと、不満を膨らませていくサクラ。アキはハルの追い詰められている心境を察して、困惑を感じていた。

「そんなに僕を悪者にしたいの!?・・悪いのは、そんなことをしてくるお前たちのほうじゃないか・・・!」

「そうだよ・・こんな馬鹿げたことをしてる黒幕がどっかにいるんだよ・・そいつを見つけて、濡れ衣を消さないと・・!」

 体を震わせているハルに、サクラが呼びかけていく。しかしハルは不安と恐怖を和らげるどころか、膨らませるばかりだった。

「どこにいるんだよ・・しらみつぶしに叩いていけばすぐに出てくるものなの?・・そうすることも、向こうの思い通りになるとしたら・・・」

「そうさせないのがハルらしいとこじゃない・・難しく考えることないって、ハル・・あたしがハルとアキちゃんを、体を張って守るから・・・」

 ハルを励まそうとするサクラ。そしてアキもハルに寄り添ってきた。

「ハルくん・・私も、そばにいたほうがいいのかな・・・?」

「アキちゃん・・・」

 アキが投げかけた言葉に、ハルが戸惑いを覚える。

「私には何もできないことは分かっているけど・それでもハルくんを放っておけない・・わがままなのは分かっているけど・・・」

「そんなことないよ、アキちゃん・・何もできないのは、僕のほうだから・・・」

 頼み込んでくるアキに、ハルが首を横に振る。

「イヤなものにはどこまでも逆らっていく・・イヤなものには絶対に従わない・・それがハルくん・・その気持ちがあるだけでも、何もできないなんて言えないよ・・」

「アキちゃん・・・どこまでも逆らっていく・・・」

 アキに励まされて、ハルは心を揺るがせていく。彼は自分自身のことを思い返していた。

 イヤなもの、許せないものに絶対に従わない。どんな手段に訴えてでも逆らっていく。これを悪いこととは絶対に言わせない。

 ハルは今までそうしてきた。そしてそれは頑なで、変わることはない。

「僕にばかり責任を押し付けないでよね・・・」

「そんなことしない・・ハルを追い詰めるようなことはしないよ・・・」

 注意を促すハルに、アキは優しく微笑んだ。

「あ〜あ、あたしの出る幕はなしか〜・・」

 2人のやり取りを見て、サクラが苦笑いを浮かべていた。

「それじゃ、濡れ衣を着せた黒幕、警視庁にでも乗り込むとしましょうか。」

 サクラが気持ちを切り替えて、ハルとアキに呼びかけた。

「警視庁・・何でそこへ・・・?」

「そんなデマを流す元を、まず警察と思うのが普通じゃないかな・・」

 ハルの疑問にサクラが答えて頷いていく。

「あたしは忍び込んでいこうって思ってるんだけど、ハルは・・?」

「僕も行く・・こんなこと、認めたくない・・認めるわけにいくか・・・!

 サクラに問いかけられて、ハルが警察や兵士たちに対する憤りを募らせる。

「私も、ハルくんと一緒に行く・・ハルくんを見届けたい・・・」

 アキもハルと一緒に行くことを決めていた。

「絶対に・・絶対に危ないことにならないで・・もう、アキちゃんと離れ離れになるなんてイヤだから・・・」

「ハルくん・・ありがとう、ハルくん・・・」

 自分の決意をハルに受け入れてもらえて、アキは喜びのあまり、目に涙を浮かべていた。

「僕は行くよ・・ここまで僕を追い詰めて、何もされないなんて、僕は認めないから・・・!」

 歩き出すハルが、自分を追い詰める敵への憎悪を募らせていった。

 

 ハルの指名手配は、シンジの耳にも届いていた。彼はそのニュースに笑い声をあげていた。

「コイツは傑作だよ。まさか警察に追われることになるなんてね。」

 追い込まれているハルをあざ笑うシンジだが、すぐに笑みを消した。

「でも警察、ガルヴォルス全員を標的にしてるみたいだ。束になってかかってきても僕には勝てないけど、数が多いのは面倒だ。」

 シンジは呟いて、ビルの屋上から街の様子を見下ろしていく。

「アイツがもっと苦しむのを見届けさせてもらおうか。」

 ハルが苦しむ姿に期待して、シンジは警察に見つからないように身を潜めることにした。彼はビルから降りて、街の雑踏に姿を消した。

 

 警視庁に向かうことになったハル、アキ、サクラ。だが人目を避けなければならない事態が、ハルの心を圧迫していた。

「どうして・・どうして僕がこんな・・・!?

「ハルくん・・あまり深く気にしないほうが・・さっきより辛くなっているような・・」

 体を震わせているハルに、アキが困惑しながら声をかける。

「そもそもそんなコソコソしていることなんてないよ・・何も悪いことしてないんだから・・」

「それはそうだけど・・騒ぎになったら、それこそハルくんが辛くなることに・・・」

 不安を募らせるハルを励ましていくアキ。どうしたらいいのか分からず、ハルは困惑するばかりになっていた。

「そろそろ動こう・・警視庁まであとちょっとだよ・・」

 サクラが声をかけると、ハルは気持ちを落ち着けようとしながら小さく頷く。3人は警視庁に向かって動き出そうとした。

「ア、アイツ・・!」

 そのとき、1人の男がハルたちを見て震えだした。

「あ、あの・・あたしたち、別に怪しくは・・・」

 サクラが苦笑いを浮かべてごまかそうとする。

「い、いた・・いたぞ!殺人犯だ!」

 男がハルを指さして悲鳴を上げた。

「違う!僕は悪くない!ホントの悪いヤツの陰謀なんだ!」

「凶悪犯だ!警察に知らせろ!」

 ハルが呼びかけるが、男たちが声を上げて、街の人たちが騒ぎ出した。

「ハル、アキちゃん、逃げよう!」

 サクラが呼びかけて、ハルとアキも走り出す。

(何で・・何で聞こうともしないんだ・・そんなにあの連中の味方をしたいのか・・・!?

 ハルの心の中で、世間に対する疑心暗鬼が膨らんでいった。

 

「伊沢ハルがこの近くで見つかりましたか。」

 通報を耳にして、タカシが不敵な笑みを浮かべる。

「逮捕次第こちらに引き渡すように伝えてください。ガルヴォルスであるアイツらは我々が処分します。」

 電話越しに指示を送ると、タカシは席を立って動き出した。

(私に逆らうことは誰にも許されません。ガルヴォルスはもちろん、ガルヴォルスに味方する者も処罰されるのです。)

 ガルヴォルスを滅ぼすことを野心として、タカシは笑みを強めていた。

 

 タカシの企みで指名手配されたことに、ハルの精神的圧迫は深まるばかりとなっていた。

(何で・・何で僕がこんな思いをしなくちゃならないんだ!?・・僕は何も悪いことしてないじゃないか・・・!)

 冷静さと自制心を保てなくなっていくハルに、アキは心配でたまらなくなっていた。

「ハル、もう何も考えないで・・考えれば考えるほどに、ハルはイヤなことを思い浮かべて・・」

「分かっている・・分かっているけど、勝手に僕の頭の中で膨らんでくるんだ・・考えるなって、自分に言い聞かせても・・」

 呼びかけるアキだが、ハルは不安を拭えないでいた。

「もう、周りのことは気にしなくていいのかな・・気にしていたら、僕はどうかなってしまいそうだ・・・」

「落ち着いて、ハルくん・・罪を犯すことは・・・」

「罪って何?・・何が罪なの?・・僕たちをこんなムチャクチャなことにしているほうが、全然罪じゃないか・・」

 アキの励ましも通じず、ハルは疑心暗鬼を膨らませていく。

「いたぞ!伊沢ハルたちだ!」

 そのとき、兵士たちが駆け込んできてハルたちを取り囲んできた。

「しまった!見つかっちゃった!」

 声を荒げるサクラと、不安を膨らませるアキ。ハルは銃を構えてくる兵士たちの前で、体を震わせていた。

「どこまでもしつこくして・・そんなに僕が気分を悪くするのが楽しいのか・・・!?

 怒りと憎悪を膨らませるハルの頬に紋様が走る。ファングガルヴォルスとなった彼に、兵士たちだけでなくアキとサクラも緊張を覚える。

「ハル、落ち着いてって!今戦ったって、状況が悪くなるだけだよ!」

 サクラが呼び止めるが、ハルは聞こうとせずに兵士たちに敵意を見せる。

「何かする前に発砲だ!」

「すぐに射殺だ!撃て!」

 兵士たちがハルに向けて発砲する。するとハルが全身から衝撃波を放って、弾丸を弾き飛ばした。

「そうやって僕を殺そうとするなら、自分も殺されることも覚悟しているんだよな・・・!?

 ハルが兵士たちに鋭く言いかける。彼は怒りのあまり、両手を強く握りしめていた。

「コイツ、調子に乗りやがって!」

「構わん!3人全員始末しろ!」

 兵士たちがいきり立って、ハルに向けて発砲する。

「理解力がないのか、お前たちは・・・!?

 さらに刺々しい姿へと変わったハル。感情に任せるあまりに暴走しているのではと、サクラは緊迫を感じていた。

「ガルヴォルスは間違った存在だ!この世界で正しくあるのは、常に純粋な人間なのだ!」

 兵士が言い放って、また銃を構えた。次の瞬間、その銃の先が突然切り落とされた。

「なっ・・!?

 射撃がさえぎられて兵士が驚愕の声を上げる。

「もう、この事態にも気分にも、ガルヴォルスも人間も関係ない・・」

 ハルが兵士たちに対して、殺気と狂気を膨らませた。彼の体から紅いオーラがあふれ出していく。

「ダメ、ハルくん!」

「お前たちは、オレの敵だ!」

 アキが呼び止めるのも聞かず、ハルが怒号を上げて兵士たちに飛びかかる。目にもとまらぬ速さの彼が、次々に兵士たちを切りつけていく。

「やめて、ハルくん!もうやめて!」

 アキの悲痛の叫びが街にこだました。その叫びでもハルは止まることなく、この場にいた兵士たちを全滅させていた。

「ハル・・くん・・・」

 愕然となっているアキが、呼吸を乱しているハルに恐る恐る近づいていく。彼女に振り向いたハルが、困惑を浮かべたまま人の姿に戻った。

「アキちゃん・・もう僕は・・心から信じられるものしか、信じられないよ・・・」

 ハルがアキに向けて弱々しく声をかける。彼は無意識に目から涙を流していた。

「ハル・・・もう、1秒でも早く、警視庁に行こうよ・・ハルを追い込むヤツを見つけ出そう・・・」

 サクラが胸を締め付けられるような気持ちを抑えて、ハルに呼びかけてきた。

「もちろんだよ・・絶対に見つけてやる・・・」

 ハルが涙を拭って憤りを見せていた。

「苦しめられることがどういうことか、必ず思い知らせてやる・・・!」

 

 

次回

第16話「破滅への道」

 

「お前が・・お前がオレたちを・・・!」

「あなたたちを滅ぼすことが世界の全員の願い。」

「そのためならどんなことを許されるのですよ。」

「どこまで勝手なことを・・・!」

「お前は、人間でもバケモノでもない・・・!」

 

 

作品集

 

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