ガルヴォルスFang 第12話「たったひとつの希望」
ガルヴォルス討伐のために行動を開始したタカシ。彼は自分が指揮している部隊の前に現れた。
「発見した2体のガルヴォルスはどうしました?」
「申し訳ありません、阿久津警視正・・2体とも取り逃がしました・・」
タカシの問いかけに、兵士の1人が緊張を浮かべながら答えた。
「徹底して捜索しなさい。何度も取り逃がすようなことがあってはなりませんよ・・!」
「り・・了解しました・・・!」
タカシに注意されて、兵士が緊張を募らせて答える。
「他のガルヴォルスを発見しましたら、同様の処置を行ってください。1体も生き残らせてはいけませんよ」
「はっ!」
タカシの命令を受けて、兵士たちが再び行動を起こした。
「ガルヴォルスは人の姿を保つことができます。見た目だけで判断すると命はありません。」
兵士たちを見送ってから、タカシが呟きかける。
「ですが、ガルヴォルスと判明した人物は、必ずマークします。人の姿になっていても、決して逃がしませんよ。」
ガルヴォルス打倒を誓って、タカシも行動を開始した。
ハルを受け入れられず、サクラの言葉も聞き入れることができなくなっていたアキ。彼女はハルを避けようと学校の近くに来ていた。
(私・・ハルくんに対してどうしたらいいの・・・?)
心の中で問いかけるアキだが、答えを見出すことができない。
(本当に怖い・・あのハルくんが、襲い掛かってくるのが・・・)
「アキちゃん!」
ハルに怯えて震えていたところで、アキが声をかけられた。ナツとマキがやってきて、彼女の前にやってきた。
「アキちゃん・・やっと見つかったよ・・・」
「ナツさん・・・」
安堵の笑みを見せるナツに、アキが動揺を浮かべる。
「アキちゃん・・ハルに会ってあげて・・今、ハルはすごく不安定になってるんだ・・」
「ハルくん・・・ダメです・・ハルくんには会えません・・・」
呼びかけるナツだが、アキはハルに会うことを躊躇する。
「今のハルを励ましてあげられるのは、もうアキちゃんしかいないんだよ・・お願い・・ハルに会って・・」
「ダメです・・・ハルくんが・・怖い・・・!」
ハルに対してすっかり怯えてしまっているアキを見て、ナツが抱えていた不安を確信に変えた。
(もう間違いない・・アキちゃんが、ハルの怪物の姿を見たんだ・・・!)
ガルヴォルスの話をマキの前でするわけにいかないと、ナツは判断した。
「マキちゃん、ゴメン・・先にオレの家に戻ってて・・アキちゃんとは、僕だけで話をするから・・」
「ナツ・・このままアキちゃんを放って帰るなんて・・・!」
ナツがかけた言葉を、マキは聞き入れようとしない。
「お願い、マキちゃん・・もしかしたら、ハルが帰ってきたかもしれないし・・・」
「ナツ・・・」
「マキちゃん・・頼む・・・」
懇願するナツに、マキは渋々言うことを聞くことにした。
「分かったよ、ナツ・・でも後でケーキおごってよね!」
ナツに言ってから、マキは家に戻っていった。彼女の姿が見えなくなったところで、ナツが話を切り出した。
「オレと君だけだからこのことを話すよ・・アキちゃんも、ハルのことを知ったんだね・・・?」
ナツに問いかけられて、アキが動揺をあらわにした。
「ナツさんも、知っていたんですか・・ハルくんのこと・・・!?」
「うん・・オレも分かんないことばっかりなんだけど・・」
「もしかして・・ナツさんも怪物・・!?」
「違う!違うって!それだけの力があるなら、自力でハルを探せそうな気がするって!」
さらに不安を覚えるアキに、ナツが慌てて弁解を入れる。
「確かにハルは怪物になってしまった・・だけどなりたくてなったわけじゃないし、その自分に悩み続けてる・・そしてハルは今、心まで怪物になってしまいそうになってる・・・!」
「ハルくんが・・・!?」
ナツの言葉を聞いて、アキが困惑を募らせていく。
「ハルを勇気づけられるのはアキちゃんだけなんだ・・お願い・・せめてもう1度会うだけでも・・・!」
「ナツさん・・・やっぱりムリです・・私、どうしても怖い・・・」
懇願するナツだが、アキはハルに会うことを拒絶してしまう。
「ごめんなさい・・・もうハルくんと一緒にいられない・・」
アキが謝って、ナツからも逃げ出してしまう。
「アキちゃん・・・!」
悲痛さに包まれている彼女を、ナツは追いかけることができなかった。
「ハルを助けられるのはアキちゃんだけ・・だけどそのアキちゃんを助けられるのは、ハルしかいない・・・」
ハルとアキに対して、ナツは皮肉を感じてしまっていた。
心のよりどころにしていたアキから敬遠され、突然知らない兵士たちに追われて、ハルは疑心暗鬼を強めていた。
(もう僕には、すがれるものが何もない・・何で僕がこんな思いをしなくちゃならないんだ・・・)
絶望を膨らませながら、ハルがゆっくりと道を歩いていく。彼はふらふらしていて、足取りもおぼつかなくなっていた。
「キャアッ!」
そのハルの耳に女性の悲鳴が入ってきた。放っておきたいと思ったハルだが、納得できなくなって彼は声のしたほうに向かった。
彼がたどり着いた広場には、たくさんのガラスの像が置かれていた。
「もしかして・・・!?」
ハルが一気に緊張を膨らませる。ここのガラスの像が元は人であったことに、彼は気づいていた。
「やめて!お願い、助けて!イヤアッ!」
広場に再び悲鳴が上がった。気を背にした少女が、ガラスの体をした怪物、グラスガルヴォルスの体から放たれる光を浴びて、ガラスに変えられていく。
「体が・・うごか・・な・・・い・・・」
恐怖を浮かべたまま、少女はガラスに体を包まれて動かなくなった。彼女もグラスガルヴォルスの力でガラスに変えられてしまった。
「やっぱり・・あの怪物・・・!?」
ハルが後ずさりすると、グラスガルヴォルスが彼に振り返ってきた。
「私のこの姿を見て、無事に帰れると思わないことね・・せめてきれいになれるんだから、逆に喜ばしいことだけどね・・」
グラスガルヴォルスがハルにゆっくりと近づいてくる。彼女の体からガラス化の光が放たれようとしていた。
「放っておいてくれたらよかったのに・・・!」
不満と激情に駆り立てられるハルの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がファングガルヴォルスへと変わった。
「あなたもガルヴォルスだったの・・でもきれいなガラスになることに変わりはないわ・・」
グラスガルヴォルスがハルに向かって光を放つ。ハルは大きく飛び上がって、光をかわした。
「速いわね・・でも最後まで逃げられるわけではないのよ・・」
グラスガルヴォルスが余裕を消さずに、さらに体から光を放つ。ハルは体を回転させて、光が向かう空から離れた。
「そんなにオレを怒らせたいのか・・放っておけばどちらもイヤな思いをしなくて済むのが分からないのか!?」
激高したハルが全身に力を込める。彼の体が刺々しくなり、禍々しいオーラがあふれるようになった。
「力を上げてきている・・でも、どんなに力を上げてきても、私があなたをきれいにするだけ・・」
グラスガルヴォルスがハルに向かってガラス化の光を放つ。殺気に駆り立てられたハルは、よけようとせずに真正面から向かっていく。
「よけずに向かってくるとはね・・そんなにきれいになりたいなら・・!」
グラスガルヴォルスがさらに光を強めた。だがハルの体から出ているオーラが、ガラス化の光を弾き返していた。
「そんな・・私の力をそんな簡単に・・・!?」
ハルの発揮する力に驚愕して、グラスガルヴォルスが気圧される。
「悪いのはそっちだ・・仕掛けてきたのはそっちなのだから・・・!」
ハルが声を振り絞って、体から刃を引き抜いて手にする。
「ムダよ・・私の体は防弾ガラスを上回る硬さ・・・!」
グラスガルヴォルスが言いかけるが、ハルの刃が彼女の体を貫いた。
「固い相手なら、前にも倒したことがある・・・」
ハルが目つきを鋭くして、グラスガルヴォルスから刃を引き抜いた。グラスガルヴォルスが鮮血をまき散らしながら、力なく倒れていった。
「もっと・・もっときれいに・・みんなを、きれいに・・・」
ガラスにしてきれいにしたい欲情を抱えたまま、グラスガルヴォルスは崩壊を起こして消滅していった。
「オレを襲ってこなければ、こんな思いをしなくて済んだのに・・・!」
ハルが不満を口にして、歯がゆさを噛みしめていた。
「いたぞ!」
そのとき、兵士たちが広場に駆けつけてきて、ハルを取り囲んできた。
「またお前たち・・オレが怪物だからという理由で・・・!」
「撃て!すぐに撃て!」
憤るハルに向けて、兵士たちが銃を撃ってくる。ハルは素早く動いて射撃をかわす。
「絶対に逃がすな!撃ち続ければ必ず当たる!」
兵士がさらに執拗に発砲していく。その弾丸の1つがハルの左肩に命中した。
「ぐっ!」
痛みを感じたハルが顔を歪める。着地した彼は、撃たれた左肩を押さえてうずくまりそうになる。
「よし!とどめだ!」
「いい加減にしろ、お前たち!」
さらに発砲しようとする兵士たちの前で、ハルが右手を地面に叩きつける。彼を中心に爆発が起こり、兵士たちが怯む。
「小賢しいマネを!」
「このぐらいで逃げられると!」
兵士が焦りを見せながら銃を連射する。しかし煙が吹き飛んだその先にハルの姿はなかった。
「逃げ足の速いヤツだ・・!」
「すぐに探せ!遠くへは行っていないはずだ!」
兵士たちがハルを追って散開していった。兵士たちがいなくなったところで、ガラスにされていた人たちが元に戻った。
兵士たちに追われて、ハルは呼吸を乱していた。彼は体力だけでなく、心も不安定になっていた。
「何で僕ばかりあんなことをされるんだよ・・僕が怪物だからってだけじゃない・・」
人間の姿に戻ったハルが体を震わせていく。彼の心の中に不安が大きく膨らんでいく。
「僕の話を聞かずに、一方的に撃ってくるって感じだった・・一方的にしてもいいっていうのが、あの人たちの考え方なの・・・!?」
ハルの中にあった絶望は、兵士たちに対する憎悪に変わりつつあった。
「ハル!」
そこへサクラがやってきて、ハルに声をかけてきた。ハルが緊張を募らせて、サクラから遠ざかろうとする。
「待って、ハル!せめてアキちゃんに会うだけでも・・!」
「ダメだよ・・アキちゃんは僕を嫌っている・・こんな僕なんて・・」
「それ、アキちゃんから直接聞いたの?・・アキちゃんがハルを嫌ってるって、本気で信じてるの・・・!?」
「信じたくない・・信じたくないよ・・でも会ったら、今度こそ僕はアキちゃんを信じられなくなる・・・」
「そんなことないって・・だってアキちゃん、すっごく優しいじゃない・・・!」
不安を募らせるハルに、サクラがさらに呼びかける。
「ハルはアキちゃんにひかれて、アキちゃんもハルに心を許した・・そのアンタたちが、こんなことで、ううん、どんなことがあったって嫌いになるわけがないって・・・!」
「ホントに・・アキちゃんは僕を受け入れてくれるの?・・僕のことを、無条件で受け入れられるっていうのか・・・!?」
サクラにアキとの気持ちを呼びかけられて、ハルは彼女に問い詰める。彼はアキへの思いに向かって、心が揺れ動きつつあった。
「受け入れてくれるよ・・だってハルがアキちゃんを受け入れたんだから・・・」
サクラがハルに微笑みかける。彼女はハルとアキが絆を断ち切ることはないと確信していた。
そのとき、サクラの携帯電話が鳴りだして、彼女が出た。相手はナツからだった。
「ナツさん・・アキちゃんは・・・!?」
“ゴメン・・オレでも、アキちゃんを励ますことができなかったよ・・・”
サクラが問いかけると、ナツが歯がゆさを込めて答えてきた。
「今、ここにハルがいるんだけど・・」
“ハルが!?・・今、そっちに行くから、どっかに行かないようにして・・!”
「分かってる・・アキちゃんと会うまでは、もうハルを見逃さない・・・」
ナツに自分の決心を伝えて、サクラは携帯電話をしまった。
「お兄さんから・・・!?」
ハルが声をかけると、サクラが小さく頷いた。
「みんな、ハルのことを心配してる・・ハルとすれ違いになりかかってる、アキちゃんのこともね・・・」
「でも・・僕は・・僕は・・・」
励ましの言葉を投げかけるサクラだが、ハルは信じることへの迷いを振り切ることができないでいた。
「こればっかりは、ハルとアキちゃんが自分自身で確かめるしかない・・」
「僕が確かめるしか・・・」
「ホントはこういうときに無理やりにでも連れてったほうがいいところなんだけど・・そのほうがハルのためにならないから・・」
戸惑いを浮かべているハルを気遣うサクラ。
「せめてそばにいさせて・・アキちゃんを見つけるまで・・」
「サクラ・・・やっぱりムリだ・・アキちゃんに嫌われてるって思い知らされたら、今度こそ僕は・・・」
消極的になってしまい、ハルは再び歩き出していく。
「ハル、待って!」
サクラがたまらずハルを後ろから抱きしめて、止めようとする。
「放せ!そうやってサクラは僕を!」
ハルはサクラを振り払って歩き出していった。しりもちをついたサクラが、すぐに立ち上がる。
「ハル、くん・・・」
そこへアキが姿を現して、ハルとサクラに戸惑いを見せた。
「アキちゃん・・・」
「ハルくん・・私・・・」
困惑するハルに、アキが戸惑いを浮かべる。
「僕は・・アキちゃんのそばにいないほうが・・・」
アキと向き合うことができず、ハルが走り出していく。アキも困惑してしまい、ハルを追いかけることができなかった。
「ハルくん・・・」
「ハルもアキちゃんと同じで、真っ直ぐに向き合おうって気持ちを簡単に出せないんだよ・・・」
サクラがアキに向けて声をかけてきた。アキが体を震わせながら、サクラに振り返る。
「ハルは心を許せるものにしか心を開かない・・ハルがここまで心を寄せてきたってことは、アキちゃんはハルにとって1番の大切なんだよ・・」
「私が、ハルくんの大切な・・・」
サクラの言葉を聞いて、アキが頬を赤らめる。
「ハルを追い込んでしまったのは、あたし・・・」
「サクラさん・・・」
「あたしのせいでハルがどんな気分になったか・・」
戸惑いを募らせるアキに、サクラが話を打ち明けようとしていた。
「ハルをこれから支えていくためにも、アキちゃんにも話しておいたほうがいいと思った・・・」
「サクラさん・・・ハルくんと、何が・・・?」
アキがサクラの話に真剣に耳を傾ける。彼女はハルと今まで以上に向き合おうとしていた。
「ありがとう・・話を聞いてくれて・・・」
アキに感謝して、サクラは笑顔を見せた。
次回
「あたしの誘いを断るなんて100年早いのよ!」
「そんなに僕を苦しめたいのか、お前は!?」
「何をやっても許されると思い込んでるなら・・!」
「どんなことになっても文句は言わないよね!?」