ガルヴォルスFang 第11話「狙われた牙」
力と感情を暴走させたハル。彼を呼び止めようとしたサクラだが、攻撃されて突き飛ばされた。
遠くに飛ばされたサクラだが、その先の壁に叩きつけられただけで、大きな負傷はしていなかった。
「ハルの力・・前にあの姿を見せたときよりもすごくなってた・・」
ハルの暴走に対してサクラが不安を募らせていく。
「もしかしたら見境なしに・・可能性が高い・・・」
体を震わせながら、サクラが携帯電話を取り出した。
「もしもし・・ナツさん・・・」
“もしもし、サクラちゃん!?・・ハル、見つかった・・!?”
声を振り絞るサクラに、ナツが問いかけてきた。
「うん・・見つかったよ・・でもハル、暴走してた・・・」
“えっ・・!?”
サクラが告げた言葉に、ナツが驚きの声を返してきた。
「ハルに声をかけたけど、逆に攻撃されて、遠くに吹き飛ばされちゃった・・ハルも見失っちゃって・・・」
“それで、ハルはどこに・・?”
「分かんない・・今はハルを感じない・・」
ナツに答えていって、サクラが困惑を膨らませていく。
「あたし、またハルを探してみる・・ハルをほっとくなんてできない・・」
“それだったらオレも・・”
「ううん・・ナツさんはアキちゃんを励ましてあげて・・」
“アキちゃん・・?”
呼びかけるサクラに、ナツが疑問を返す。
「アキちゃん、ハルがガルヴォルスだってこと、気づいちゃったみたい・・ハルくんのこと、すごく怖がってた・・」
“アキちゃん・・オレがアキちゃんを励ませる自信はないんだけどなぁ・・”
サクラの耳にナツのため息が聞こえてくる。
“いいよ。マキちゃんと一緒にアキちゃんに会ってくる・・サクラちゃんも気を付けて・・”
「うん・・ありがとう、ナツさん・・」
ナツに感謝を言って、サクラは携帯電話をポケットにしまった。
(あたしがハルを連れ戻さないと・・アキちゃんに悪いもん・・!)
サクラは自分に言い聞かせて、ハルを探しに走り出していった。
ガルヴォルスが引き起こしてきた数々の事件に、警察は頭を悩ませるばかりとなっていた。
「ホントにおかしな事件が続くッスね・・犯人はどんなおかしなヤツなんスかね・・?」
「分からん。だが人並みの賢さはありそうだな。動物の仕業にしちゃ明らかに計画的すぎる・・」
刑事が投げかけた疑問に、警部が憮然とした態度で自分の考えを口にする。
「このまま犯人のいいようにさせてたまるか。必ず犯人を捕まえて・・」
「その必要はありません。」
決心を強めていた警部に、1人の男が声をかけてきた。長身と整った顔立ちと黒髪をした男である。
「あ、あなたは・・!」
警部が慌ただしく男に敬礼を送る。
阿久津タカシ。短期間で警視正まで上り詰めて、様々な事件の対応を行ってきている。
「阿久津警視正、必要がないというのは、どういうことですか?・・まさか、捜査を打ち切れと・・!?」
「その通りです。君たちが行ってきた今回の捜査は、引き継ぐ形で我々が請け負うことになりました。」
息をのむ警部に、タカシが淡々と答えていく。
「全て我々に任せていただきましょう。あなたたちのこの事件に関する着手を一切禁止します。」
「そんな!・・自分も事件解決に尽力するッス!」
呼びかけるタカシに刑事が声を上げる。するとタカシが刑事の眼前に指を突き出してきた。
「関わることは禁止と言っています。これは命令です。破れば厳罰を被ることになるのですよ。」
タカシに睨まれて、刑事が言葉を返せなくなる。
「しばらくおとなしくしててください。近いうちに別の捜査を担当することになるでしょう。」
タカシは警部と刑事に言いかけると、2人の前から去っていった。
「警部、このままでいいんスか!?・・このままじゃオレたち・・!」
「オレたちの上司だ。逆らっただけでクビだけじゃ済まなくなるぞ。」
声を荒げる刑事に、警部が忠告を投げかける。
「オレたちのこの事件の捜査はここまでってことだ。次の命令があるまで休暇だ。」
「へぇ〜・・オレ、まだ仕事モードなのに・・」
警部に言われて、刑事は大きく肩を落とした。2人はガルヴォルスが引き起こしている事件の捜査の打ち切りを言い渡された。
警部たちを捜査から退かせて、タカシは独自のチームを編成してガルヴォルス対策に乗り出そうとしていた。
「全員、これから行う任務はおそらく、今まで行ってきた任務を上回る過酷さがあります。捜査に当たる際には細心の注意を肝に銘じてください。」
「はっ!」
タカシの言葉を受けて、彼の前にいた刑事たちが敬礼を送る。
「犯人は人間離れした手口と力を使ってきています。出会い頭に襲い掛かってきたなら、一瞬の躊躇でも命取りになります。犯人と断定したならすぐに発砲を。これ以上の犯行や攻撃をさせぬよう徹底してください。」
「はっ!」
タカシの言葉に刑事たちが答えていく。
「では捜査を開始してください。細大漏らさぬ情報収集を行ってください。」
「はっ!」
タカシのチームの刑事たちがガルヴォルスの事件の捜査に赴いていった。
(ガルヴォルス。人間の進化であると同時に異端。我々はあなたたちガルヴォルスの存在を認めません。)
心の中で意思を強めていくタカシ。彼はガルヴォルスの存在を知っていた。
(発見次第始末します。最後は1人残らず排除します。)
ガルヴォルスの一掃を企み、タカシは本格的な行動に乗り出そうとしていた。
ガルヴォルスの力に振り回されていくハル。アキにも頼ることができず、彼は完全に途方に暮れていた。
「もう僕には何もない・・こんな僕にした何もかも、僕は許せない・・・」
強まっていくハルの虚無感が、自分を追い込んだものへの憎悪へと変わっていく。
静寂な空気が張りつめた小道を歩いていくハル。そこへ通りがかった男たちに、彼は肩をぶつけた。
「いってぇな・・」
男が不満の声を上げるが、ハルは歩き続ける。
「おい、ぶつかっといて無視する気か!?」
男が怒鳴ってハルにつかみかかってきた。その行為に対しても、ハルは感情を揺さぶられる。
「悪いことしたら謝んのが常識だろうが!」
「しっかりわび入れろや、コラ!」
「痛いよ・・やめてよ・・放してよ・・・」
怒鳴ってくる男たちに、ハルが不満を口にする。
「コイツ、調子に乗ってきて・・!」
男たちが激高してハルに殴りかかる。押し寄せる痛みと苦しさで、ハルの感情が爆発する。
「放してって言ってるのが分かんないの!?」
ハルが男の1人の顔をつかんできた。男がハルの腕をつかみ返してひねろうとするが、ハルは強引に男を引き倒して押し付ける。
ハルが倒れている男に対して目を見開く。男はハルの目には殺気しかこもっていないことを痛感する。
ハルが殺気の赴くままに男の頭を踏みつけていく。頭に激痛を与えられて、男が昏倒していく。
「やめろ!殺すつもりか!?」
もう1人の男が銃を取り出すが、ハルに睨まれて発砲を躊躇させられる。
「どこまでもふざけやがって!」
いきり立った男の頬に紋様が走る。彼の姿がゴリラに似た怪物へと変わった。
「ガルヴォルス・・・!」
ゴリラガルヴォルスの出現に緊張を覚え、ハルが踏みつけていた男から足を離す。男は頭から血を流して動かなくなっていた。
「何のつもりか知らねぇが、オレの仲間を痛めつけて、ただで帰れると思うな!」
「ガルヴォルス・・だったらもっと容赦しなくていいよね・・・!?」
怒鳴ってくるゴリラガルヴォルスに鋭く言いかけるハルの頬にも紋様が走る。彼もファングガルヴォルスとなって、ゴリラガルヴォルスに敵意と殺気を向ける。
「てめぇもガルヴォルスだったか・・だがガルヴォルスだろうと何だろうと、許せねぇヤツは許せねぇんだよ!」
ゴリラガルヴォルスがハルに飛びかかって、拳を振りかざしてきた。ハルは素早く動いて刃の生えた腕を振りかざす。
「うおっ!」
体に傷をつけられて、ゴリラガルヴォルスが膝をつく。
「速い・・しかも切れ味もある・・・!」
ゴリラガルヴォルスがうめきながら、ハルに振り返る。ハルは殺気のこもった冷たい視線を彼に向けてきていた。
「オレを追い詰めるものは許さない・・何もかも叩き潰す・・・!」
「だがな、このままやられっぱなしってわけにはいかねぇんだよ!」
低く告げてくるハルに、ゴリラガルヴォルスがいきり立って飛びかかる。だが彼が振りかざした拳はハルではなく、その眼前の地面にぶつかった。
殴られた地面から砂煙が舞い上がり、ハルが視界をさえぎられた。
動きが鈍ったハルに向かって、ゴリラガルヴォルスが煙を突き抜けて飛びかかってきた。彼が繰り出した拳がハルの体に叩き込まれた。
自分の攻撃の直撃を受けて、無事でいられる者はまずいない。ゴリラガルヴォルスはそう確信していた。
「これ以上、オレを苦しめるな・・・!」
ハルが声と力を振り絞って、ゴリラガルヴォルスの顔面をつかんできた。ゴリラガルヴォルスが抵抗できないまま、ハルに地面に叩きつけられる。
(何だと!?確かに当たった!ガルヴォルスでも何ともねぇなんてことはねぇ!)
ゴリラガルヴォルスが心の中で驚愕する。彼から手を放して、ハルが鋭く見下ろしてきていた。
「そこまでだ!」
そのとき、ハルとゴリラガルヴォルスの周りを武装した兵士たちが取り囲んできた。
「撃て!ヤツらに何もさせるな!」
兵士たちがハルとゴリラガルヴォルスに向けて銃を構える。
「何なんだ、お前たち・・・!?」
ハルが声を上げるが、兵士は答えずに発砲してきた。ハルはジャンプして放たれた弾丸をかいくぐっていった。
「逃げたぞ!街に入らせたら厄介だ!」
「いつでも発砲できるようにしろ!相手はガルヴォルスだ!」
兵士たちがハルを追って走り出していった。彼らがハルに注意を向けていたため、ゴリラガルヴォルスは仲間の男を連れて逃げ出していた。
兵士たちがファングガルヴォルスとなっているハルを発見したことは、タカシの耳に入っていた。
「分かりました。引き続きそのガルヴォルスを追いなさい。目撃者は口外させないよう徹底してください。」
“はっ!”
タカシの言葉に、連絡を受けている兵士が答える。彼との連絡を終えて、タカシが腰を下ろしていた椅子から立ち上がった。
(ガルヴォルスは1人たりとも野放しにはしませんよ。全員我々が断罪します。)
ガルヴォルス打倒を心に誓っているタカシ。
(我々は国の平和のために行動している。それを脅かすガルヴォルスは、一掃されて然りなのです。)
意思を強めてタカシは歩いていく。自らガルヴォルスの処罰を下すために。
サクラに頼まれて、ナツはマキと一緒にアキを探していた。ハルの混乱にアキが関係しているのではないかと、ナツは思い始めていた。
「ナツ、ハルくんのことで、アキちゃんが関係あるの・・?」
「まだハッキリとは分かんない・・でも、ハルを心配してたサクラちゃんにあそこまで強く言われたんじゃ、信じないとハルに悪いからね・・」
疑問を投げかけるマキに、ナツが落ち着きながら答える。
「今のハルのためにも、アキちゃんに会わせてあげないと・・このままハルが辛い思いをしたままなのは、オレもイヤになる・・」
マキに話をしながら、ナツは1つの不安を感じていた。
(アキちゃんがハルがガルヴォルスだって知って、それでハルがアキちゃんに嫌われたとしたら・・・!)
最悪の事態を想像してしまうナツ。急いでアキを探しに行きたい気持ちを、彼は何とか抑えていた。
アキを探して歩き回るナツとマキ。2人はハルから聞いた彼女の家にたどり着いた。
「ここにいるのかな・・・?」
ナツが緊張を感じたまま、家のインターホンを押した。
「はい・・」
すると玄関のドアが開いて、アキの母親が出てきた。
「こんにちは・・アキさんと同じ学校の、伊沢ナツっていいます・・」
ナツが母親に笑みを見せて挨拶をする。
「あぁ、いつもアキがお世話になってます・・アキは出かけていて帰ってきていないんだけど・・」
「そうですか・・もし帰ってきましたら知らせてもらえますか?僕でも、弟のハルでもいいので・・」
「分かりました・・アキにそう伝えておきますね・・」
ナツは伝言を頼むと、アキを探しに再び歩き出していった。
「アキちゃん、ホントにどこに行っちゃったのかな・・ハルくんも・・・」
「そうだね・・だけど、このまま2人をほっとくわけにいかない・・・」
マキが声をかけると、ナツは深刻さを込めて答えた。
(ハル・・アキちゃんに必ず会わせるからな・・・!)
ハルとアキのために、ナツも自分ができることを精一杯やろうと考えていた。
突然兵士たちに襲われて、ハルは銃撃から脱出していた。これ以上兵士に追われたくないと、自分を取り戻しつつあった彼は人間の姿に戻った。
(何で・・何で僕が追われることになったんだ・・・!?)
兵士たちが狙ってきたことの理由が分からず、ハルは困惑するばかりだった。
(僕は悪いことはしていない・・まして、一方的に撃たれるなんて・・・!)
攻撃されたことに納得していないハル。
(もしかして、僕が怪物だから狙ってきたんじゃ・・!?)
「ハル!」
不安を募らせていたハルに声がかかった。彼の前にサクラが駆け込んできて、荒くなっていた呼吸を整えてきた。
「サクラ・・・」
「ハル・・よかった・・いつものハルに戻ってるみたい・・・」
困惑を見せているハルを見て、サクラが安堵の笑みをこぼした。
「ハル、何があったの?・・何かなきゃ、ハルがここまで辛くなってるってことないよ・・・」
「アキちゃんに・・アキちゃんに、僕のことを・・・」
話を聞こうとするサクラに、ハルが震えながら答える。この言葉でサクラは、アキがハルがガルヴォルスであることを知ったと確信した。
「もう僕には何もない・・だからもう自分を出し切ってもいいんだ・・」
「ハル、違うって!ハルはまだアキちゃんを失ってないよ!」
自暴自棄になっているハルに、サクラが声を振り絞って呼びかける。
「1回アキちゃんと話をしてみて・・アキちゃん、いきなりのことだったからビックリしちゃっただけだよ・・!」
「そんなことないよ・・アキちゃん、僕を完璧に嫌ってた・・」
「確かめもしないでそう決めちゃうのはよくないって!とにかくアキちゃんにもう1度会って・・!」
「やめろって!」
サクラが伸ばしてきた手をハルが振り払う。
「そうやってまた僕を振り回そうっていうのか!?お前はまだ僕がイヤだっていうのが分かんないの!?」
「ハル・・そんなんじゃないよ・・あたしはハルとアキちゃんが、このまま仲が悪くなってほしくないだけだよ・・・!」
「お前はいつだってそうだ・・自分が正しいと思い込んで、自分を押し通すためなら相手の気持ちを全く考えない・・そういうお前は、全く反省しないヤツらは、みんな死んじゃえばいいんだよ!」
激高したハルがサクラを突き飛ばして走り出してしまった。
「ハル!」
サクラが慌ててハルを追いかけていく。心が荒んでいたハルは、疑心暗鬼に駆り立てられていた。
次回
「もうハルくんと一緒にいられない・・」
「僕のことを、無条件で受け入れられるっていうのか・・・!?」
「あたしのせいでハルがどんな気分になったか・・」
「アキちゃんにも話しておいたほうがいいと思った・・・」