ガルヴォルスFang 第10話「別離」

 

 

 ガルヴォルスの姿をアキに見られてしまったハル。恐怖を見せているアキに、ハルは愕然となっていた。

「アキちゃん・・・これは・・その・・・」

 ハルが何とかしてアキに説明しようとする。

「怪物・・ハルくんが、怪物・・・!?

 しかしアキはハルを怖がって遠ざかっていく。

「ハルくんも、私を襲った怪物と同じ・・・!

「違うんだ・・僕はあんなのとは・・・!」

 ハルがたまらず手を伸ばそうとするが、アキが立ち上がって離れていく。

「来ないで!近づかないで!」

 アキが悲鳴を上げて、ハルから逃げていってしまった。

「待って、アキちゃん!行かないで!」

 ハルが呼び止めるが、アキは彼の前からいなくなってしまった。

「アキちゃんが・・僕から離れていってしまった・・僕がガルヴォルスだから・・怪物だから・・・!」

 ハルがアキを追いかけることができなくなり、膝をついて絶望に襲われる。

「僕はどうしたらいいんだ・・僕は・・・!」

 絶望感を募らせて、ハルが絶叫を上げた。

 

 ガルヴォルスであるハルに恐怖して、アキは逃げ出した。殺されるかもしれない恐怖を拭えず、彼女は震えたままだった。

(ハルくんが怪物!?・・私、このままハルくんと一緒にいたら、殺されていたかもしれないの・・!?

 アキが心の中で、ハルに対する疑心暗鬼が膨らんでいく。

(もうハルくんに会えない・・ハルくんと一緒にいたら、殺されてしまうかもしれない・・・)

 ハルを拒絶するようになっていくアキ。彼女はまた逃げるように走り出していった。

 

 ハルが家を出てしばらくしてから、ナツがマキと一緒に家に戻ってきた。しかし家にハルの姿はなかった。

「ハル、どこに出かけたんだ・・探しに行ったほうがいいのかな・・・」

「私、ここで待ってるからナツはハルくんを探しに行ってもいいよ。」

 右往左往するナツにマキが呼びかける。

「そうかな・・オレ、ちょっと見てくるから、もしも帰ってきたら・・」

 ナツがマキに言いかけて、家を出ようとした。

「あっ!ハルくん!」

 マキが声を上げて、ナツが振り返る。ハルが力なく家に向かって歩いてきていた。

「ハル!」

 ナツが駆け寄ってハルが声をかける。するとハルが前のめりに倒れて、ナツに支えられる。

「ハル、大丈夫!?ハル!」

 ナツが呼びかけるが、ハルは答えず反応も見せない。

「とりあえず部屋に運ぼう!落ち着かせないと・・!」

「うん!手伝うよ、ナツ!」

 ナツの呼びかけにマキが答える。

「ハル・・!?

 そこへサクラがやってきて、ハルを見て緊張を膨らませる。

「ナツさん・・ハルに何があったの・・!?

「サクラちゃん・・オレもよくは分かんない・・ハルが戻ってきたと思ったらいきなり倒れて・・・」

 声を上げるサクラに答えてから、ナツはマキと一緒にハルを連れて家の中に入った。

(ハル・・もしかして、またあの姿に・・・!?

 サクラがハルが刺々しい姿になって暴走したものだと思って、不安を募らせた。

 

 ハルは自分の部屋のベッドで眠っていた。ナツがサクラにハルのことを聞いていた。

「この前、ハルに異変が起きたって言ってたけど・・今回も・・・?」

「ううん・・今日はここに来るまでハルに会ってなかった・・あたしも何があったのかって・・・」

 ナツの問いかけにサクラが首を横に振った。

「やっぱり病院で診てもらったほうがいいんじゃないかな?・・ハルくんに何かあったら・・」

「目が覚めるまで待ってみよう・・ハルから話を聞いてみたほうがいいと、オレは思う・・」

 意見を口にしていくマキとナツ。マキもサクラもナツの意見を聞き入れて、ハルの様子を見ることにした。

 それからサクラがハルの部屋を訪れた。ハルはベッドで眠り続けていた。

(ハル・・何があったの!?・・ものすごい心の傷をつけられたみたい・・あたしがハルを傷つけたときみたいに、とても深い・・・)

 ハルへの心配を募らせていくサクラ。彼女はここでもう1つの不安を覚えた。

(もしかして、アキちゃんと何かあったんじゃ・・・!?

 アキのことも心配になり、サクラが慌ただしくハルの部屋を飛び出した。

「ナツさん、ハルをお願いします!」

「えっ!?サクラちゃん、どこへ・・!?

 外に出たサクラにナツが驚きの声を上げる。一瞬サクラを追おうとしたナツだが、マキのことを気にして足を止めた。

「マキちゃん・・オレは、どうしたらいいんだろう・・すぐに決められないオレは、やっぱり情けないかな・・」

「そんなことないって・・考えなしじゃないだけいいよ・・」

 気まずさを浮かべるナツに、マキが微笑んで励ましてきた。

「今はハルが心配だ・・サクラちゃんには悪いけど・・・ここの電話番号は知ってるから、何かあればかけてくる・・」

「それならいいんだけど・・・」

 ナツの言葉にマキは小さく頷いていた。

 

 アキを探しに街を駆け回っていくサクラ。しかし人込みに入り込んでしまい、サクラはアキを探すのに手間取っていた。

(アキちゃん・・この中からアキちゃんを見つけるなんてムチャクチャじゃないの〜・・)

 心の中で不満を膨らませていくサクラ。彼女は1度人込みから抜けて、集中させて感覚を研ぎ澄ませていく。

 サクラはガルヴォルスとしての高い身体能力を駆使して、アキの居場所を探ろうとしていた。

(アキちゃん、どこ!?・・アキちゃん・・・!)

 アキへの思いを強めて、サクラがさらに感覚を研ぎ澄ませていく。

「いた・・アキちゃん・・・!」

 ついにアキの居場所をつかんだサクラ。彼女はその場所に向かって走り出していった。

 アキがいたのは公園のブランコ。サクラと初めて話をして打ち解けあったブランコに、アキは揺られていた。

「アキちゃん!」

 サクラが声をかけてアキに駆け寄った。するとアキがブランコから降りて、サクラに目を向けた。

「サクラさん・・・」

「アキちゃん・・・大変なの・・ハルが、いきなり倒れて、今、家で寝込んでるんだよ・・・!」

 戸惑いを見せるアキに、サクラが呼吸を整えながら話をする。するとアキが悲しい表情を浮かべてきた。

「サクラさん・・信じられないことかもしれないんだけど・・ハルくん、実は怪物だったの・・・」

 アキが口にした言葉を聞いて、サクラは彼女がハルのことに気付いたと悟った。

「ハルくんと一緒にいたら、私・・私・・・」

「それは違うって!ハルはハルだよ、どんなことがあったって!」

 震えだすアキに、サクラが感情を込めて呼びかける。彼女に強く言われて、アキがさらに動揺する。

「ハルはアキちゃんに心を許してきたじゃない!それなのにアキちゃんに何かするなんてことないよ!そんなことしたら、それこそハルがハルじゃなくなる・・!」

「サクラさん・・あなたも、ハルくんのことを知っていたの・・・!?

 サクラの言葉を聞いて、アキがさらに緊張を膨らませていく。

「サクラさんは平気なの!?・・サクラさんは前にハルくんを怒らせて、嫌われたって言っていたよね・・殺されるかもしれないって分かっていて、それでもハルくんと一緒にいるんですか・・・!?

「もっちろん!だってあたし、ハルは好きな人まで傷つけたりしないし、それがあたしの罪滅ぼしでもあるから・・」

 問い詰めるアキに、サクラがさらに気持ちを込めて言いかける。ハルを思う彼女が表情を曇らせていく。

「あたし、バカだから・・ハルにだったら殺されても構わないかなって思っちゃうんだよね・・・」

「サクラさん・・そんな・・・」

「アキちゃんは、怪物だったってだけで嫌いになっちゃうほど、ハルをそこまで好きになってなかったってこと・・?」

「それは・・・でも・・・」

 サクラに励まされても、アキはハルを信じることができなくなっていた。

「ゴメン、サクラさん・・・私は・・私は・・!」

 アキは悲痛さを見せて、サクラの前から走り出していった。

「アキちゃん!」

 サクラが慌ててアキを追って公園を飛び出していった。その途中、サクラの持っていた携帯電話が振動した。

「もしもし!?

 サクラが慌てて携帯電話を取り出す。アキを追いかけていたため、彼女は相手を確かめずに電話に出た。

“サクラちゃん、大変だ!ハルがいなくなった!”

「えっ!?

 電話の相手、ナツの言葉を聞いてサクラが思わず足を止めた。ハルが家から姿を消したことを聞いて、彼女はさらなる不安を感じていた。

 

 目を覚ましたハルは、消えていない絶望感を抱えたまま外に飛び出した。彼は何にすがったらいいのか分からず、途方に暮れていた。

(僕はどうしたらいいんだ・・僕の怪物の姿を見て、アキちゃんもいなくなってしまった・・僕にはもう、何もない・・何も・・・)

 心の中で呟きながら、ハルは歩き続けていく。

「ずいぶん元気がないね。」

 そこへ声をかけられたが、ハルは足を止めない。その彼の前に現れたのはシンジだった。

「無視するなんて感じ悪いよ・・それとも、まさか聞こえなかったってわけじゃないよね・・・!?

 苛立ちと一緒に異様な紋様を浮かべるシンジ。彼がシャークガルヴォルスとなって、ハルに迫る。

「この前の屈辱、倍にして返してやるよ・・すぐにガルヴォルスになっておいたほうがいいんじゃないの・・?」

 シンジがあざ笑って、ハルに向けて右手を突き出す。命中しなかったが、ハルは横に力なく倒れる。

「ガルヴォルスになってきても、僕に叩きのめされることは変わらないけど・・」

 目を見開いたシンジが、右足でハルを踏みつけた。その衝撃で砂煙が舞い上がった。

 晴れていく砂煙の中にいたハルは、無意識にファングガルヴォルスになっていた。だが彼はシンジの右足を振り払うことができない。

「その気になったって思っていいかい・・?」

「オレはアキちゃんを失った・・アキちゃんはオレを嫌った・・怪物であるオレを嫌った・・・」

 あざ笑ってくるシンジに、ハルが声と力を振り絞る。彼の体が徐々に浮き上がっていく。

「オレにはもう・・すがれるものはないんだ・・・!」

 シンジの足を振り払って、ハルが転がってから立ち上がる。

「別に何もすがることなんてないよ・・どうしてもすがりたいっていうなら、天国にいる天使にでもすがってみたら?」

 シンジがさらにハルをあざ笑っていく。シンジが飛びかかって、ハルに向けて爪を突き出す。

「ぐっ!」

 ハルは回避が間に合わず、シンジの爪を体に突き立てられる。

「このままあの世に送ってやるから、僕に感謝するんだね・・」

「オレには何もない・・でも、死にたくもない・・・!」

 シンジが左手でシンジの右手をつかんで、右の拳を繰り出す。シンジが殴り飛ばされて、激しく突き飛ばされる。

「何だよ・・まだそんな元気があるんじゃないか・・」

 起き上がったシンジが笑みをこぼす。彼はスピードを上げて、爪でハルの体を切りつけていく。

「ぐあっ!」

 体に傷をつけられて、ハルが苦痛を覚える。顔を歪めていく彼に対して、シンジが勝ち誇っていく。

「だんだん楽しくなってきた・・だけど僕がお前から受けた屈辱は、そんな程度じゃないよ!」

 シンジが言い放って、ハルに突進を叩き込む。

「もっともっと僕が受けた不満を味わわせてやるよ!僕の屈辱を完璧に受け止めるまで死なせない!生き地獄を体感するんだね!」

「死にたくないって言っているだろうが・・・」

 押し付けてきているシンジの肩を、ハルがつかみかかってきた。

「コイツ・・往生際悪く・・・!」

 シンジがハルの手を払おうとするが、力強く握られていて払うことができない。

「また・・力が上がっているのか・・・!」

「オレにはもう何もない・・だからオレは、オレの力のままに・・・!」

 毒づくシンジの前で、ハルの体が変貌を遂げていく。刺々しい体、禍々しいオーラを放つ姿に。

「その姿・・本気になってきたか・・」

 シンジは緊張を感じながらも、笑みを浮かべてきた。

「だけどね、たとえその姿になってもね・・お前は僕の前で突っ伏すことになるんだからね!」

 シンジが目を見開いて、ハルに素早く飛びかかる。だが彼の視界から突然ハルの姿が消えた。

「何っ!?

 目を疑うシンジが、ハルを追って周りを見回す。しかしハルの姿を捉えることができない。

「もしかして逃げた?・・バカにしているよね・・こんな小賢しいことで僕から逃げられるって思うなんてね・・」

 シンジがハルをあざ笑おうとしたときだった。突然彼の体から鮮血が飛び出した。

「なっ!?

 あまりの突然な瞬間にシンジが目を見開く。彼の体に傷がつけられて、血をあふれさせていた。

「何で・・僕がこんな・・・!?

 声を荒げるシンジの前に、ハルが再び姿を現した。

「やっぱりお前の仕業か・・また僕に屈辱を与えたいのか・・・!?

 苛立ちを募らせて、シンジがハルに飛びかかる。だがハルが出してきた右手に、シンジが顔をつかまれる。

 シンジがその勢いのまま、ハルに頭を事件に叩きつけられる。

「オレは、オレを苦しめるヤツを許さない・・・!」

 ハルが鋭く言いかけて、左手を握りしめる。彼の右手がかすかに離れた一瞬に、シンジがとっさに横に転がって、ハルの左の拳をかわした。

 ハルがシンジを追って拳を振りかざす。シンジもスピードを駆使して反撃しようとするが、逆にハルに殴りかかられて弾き飛ばされる。

「コ、コイツ・・どんどん力が上がっている・・・!」

 ハルの高まっていく力にシンジが焦りを感じていく。ハルは自分自身の力と狂気の赴くままに攻撃を仕掛けていた。

「また僕が・・尻尾を巻いて逃げるなんて・・・!」

「ハル!」

 シンジが後ずさりしていたところで、サクラが現れてハルに声をかけてきた。しかしハルは彼女の声に反応しない。

「ハル・・これって・・・!?

 ハルの刺々しく禍々しくなった姿を目の当たりにして、サクラが緊迫を覚える。その一瞬で、シンジがハルから逃げ出していった。

「待って、ハル!」

 サクラが呼び止めようとするが、ハルはシンジを追いかけようとする。

「落ち着いて、ハル!ナツさんが心配してたよ!」

 サクラがさらに呼びかけると、ハルはようやく足を止めた。しかし振り向いた彼は狂気を見せたままである。

「ハル・・・!?

 まだハルらしさが戻っていないことに、サクラは緊迫を募らせていく。

「オレは・・許せないヤツを叩き潰す・・・お前も・・許しておけない・・・!」

 ハルが低く告げると、サクラに向かって飛びかかってきた。

「ハル!キャッ!」

 とっさにキャットガルヴォルスに変身したサクラだが、ハルの拳を受けて突き飛ばされてしまう。

「オレには何もない・・だから、もう絶望することもない・・・」

 不気味な笑みを浮かべて、ハルが夢遊病者のように歩き出していった。彼は無意識に涙を浮かべていた。

 

 

次回

第11話「狙われた牙」

 

「これがガルヴォルスというヤツか。」

「何なんだ、お前たち・・・!?

「我々は国の平和のために行動している。」

「いつでも発砲できるようにしろ!相手はガルヴォルスだ!」

 

 

作品集

 

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